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Trash Land
becomes the tragedy V
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ベッドに横たわりながら、リケットは「声」を聞いた。それが誰の「声」かはすぐに解った。
だが、それを聞いても今の自分には何も出来ない――いや、したくない。
何故なら「脳が疲れる」から。
だがその「声」は途切れることなくリケットの脳に直接響き続けている。
その「声」は、『助けて』と言っている。
「……今の俺は、自分の身体すら動かすことが出来ない。エネルギー不足だ、他をあたれ」
遂に彼は口を開いた。だが其処から放たれた言葉は冷たく、無慈悲なものだった。
それでもその「声」はリケットに語り掛ける。
『解っている、解っているの。でも、助けて欲しいの。今の私は、なにも出来ない……自分を護ることも、身体を動かすことも出来ない……時間が欲しいの……でも、その時間がないの……』
「其処には医者がいるだろう。そっちに頼め」
身動き一つせず、リケットは呟いた。その首には高カロリー輸液が施されてあり、それが終了しても暫くは動けないだろう。
理由は単純に、エネルギー不足。
『ねぇ……貴方はもう覚えていないでしょうけど、私達って恋人同士だったよね? でも五年前のあの事故で、貴方は全てを無くしてしまった……その身体に宿る強力な〝能力〟も……私の所為だよね……でも……』
泣いているのか、その声が震えている。だがそれを聞いても、なにも思えない、なにも感じない。彼は、〝サイバー〟だから。
『My thing――Don't forget me...』
震える声で、そう呟いた。
その「声」は、切なく、哀しい、彼女の想いそのもの。
『Don't think that it is not needed...』
だがそれらの言葉が嘘だということは、リケットにも解った。
『Don't have to love... Only by remembering...』
そしてそれが一番良く解っているのは、他ならぬ彼女自身なのだろう。
『Herefore...』
それでもそう言うその心は、引き裂かれるほど辛いだろう。
『Don't think you don't need me...』
その言葉を最後に、その「声」は消えた。
それが意味するところ、それは彼女自身が今、最も死に近付いているという事実。
溜息を吐き、リケットは首に施されてある高カロリー輸液のラインを引き千切った。
そして上半身裸の身体を起こし、首を振る。その容貌には生気がない。
「エネルギー回復率34%……戦闘可能所要時間6分18秒……」
口元に笑みを貼り付かせ、立ち上がると病室を後にした。
「Danger when it moves」
自然に口から言葉が零れる。それは〝サイバー〟が自身に言い聞かせるためのものだ。そして彼の場合、脳が言わせている訳ではない。
「Limiter two off...Energy full charge」
呟き、そして眼を閉じた。その瞬間、リケットの体細胞が生気を取り戻し、そして傷付いた身体が復元する。
「……私に助けを求めるか……それも良いだろう。同郷の誼で助けてやる……ジェシカ・V」
邪悪に笑い、リケットは疾風の如く〝RAR・ラボ〟病棟へと走る。途中で何人かのナースとすれ違い、なにかを言われたが無視した。
そして〝RAR・ラボ〟病棟の前に着き、其処から抜け出して来た精神体を見下ろす。
その精神体はリケットを見上げて驚愕の表情を浮かべ、だがそのまま飛び去った。
リケットは飛び去る精神体を無視して、躊躇せずに病棟へと歩を進める。
其処には〝RAR・ラボ〟五基と、その中でも一際精密なものの前に立ち、帯電している男がいた。
彼は無言でその男へと鞭を放ち、その首に巻き付ける。
突然の出来事に驚いた男は、
「な、な、な、なんだよぉ、お前、誰だぁ?」
訊くが、リケットが答える筈がない。彼は無言で男の目の前に踏み込み、左の拳を腹に叩き付ける。
まともに受けたら一発で内臓が破裂するほどの衝撃を受けた男は、だがその場に蹲って嘔吐しただけだった。
「お、お、お、俺になななななんの恨みがあるんだよぉ?」
口元を拭い、涙目で男が訊く。だがリケットは無言で首に巻きつけてある鞭を締め上げた。
「お、お、お? お前、〝サイバー〟だなぁ? さささ〝サイバー〟は、ででで電気に弱いんだよねぇ」
言うなり、男は電撃を放つ。それは鞭を伝わり、リケットを直撃した。ベスを一撃で気絶させた電流がリケットを包む。
〝サイバー〟はその身体に埋め込まれている機械があるために、電撃や水に弱い。
そのために絶縁処理や防水加工されている者もいるが、そうするとどうしても質が低下してしまう。
その分の重量と質量で、埋め込まれる機械に限界があるから。
だから優秀な〝サイバー〟はその様な処置はされていないことが多い。
そしてリケットもその例に漏れず、その様な処置はしていない。
だが――
「……この程度か?」
平然と言い、鞭を一気に引いて男を空中へと放り投げ、そして床に叩き付けた。
「え、え、え? どどどどうして電撃がききき効かないんだよぉ?」
混乱してる男に何も言わず、そして、
「Good die」
空気が白色に輝いた。
それは高圧電流により空気がプラズマ化した証拠。
それによって天井の照明が破裂し、病棟にあるモニターや機器が弾け飛ぶ。
その衝撃と電圧は、男やベスが放ったものなど比べ物にならない。
鞭を巻き取り、リケットは床に転がる黒焦げの死体を見下ろし、そして傍にある〝RAR・ラボ〟を見上げた。
其処にはジェシカの脳と脳幹が羊水の中に浮いている。
それが絶縁処理されているということは知っていた。だから何の躊躇もせずに電撃を使ったのだ。
そして〝RAR・ラボ〟に破損している箇所は見当たらない。
よって、それは問題なく再稼働できる筈だった。
「凄いのねぇ、あのベッジを黒焦げにするなんて」
しかし、その〝RAR・ラボ〟の上に、漆黒の艶やかな黒髪の、妖艶な肌も露な女性が坐っていた。
彼女は口元に悪戯っぽい笑みを浮かべてはいるのだが、その紫闇の瞳は何故か寂しげであった。
「あの子はね、あたしやバグナスが目に掛けていたほどの〝PSI〟だったのよ。主な〝能力〟は、もう解っていると思うけど、〝エレクトロキネシス〟」
愛しげにジェシカの入っている〝RAR・ラボ〟を撫で、無言で自分を見上げるリケットに微笑む。だがその眼だけは、やはり寂しげであった。
「でも死んでしまったものは仕方ないわね、まあ良いわ。あたしの用だけど、バグナスにお願いされてね、このジェシカって子を再生不能にするために来たの。……あら、そっちのドクターの娘も目を覚ましたのね」
動き出しているベスを一瞥して、その女性は言う。
ベスは頭を振りつつなんとか起き上がり、部屋の惨状を見て絶句した。
それを他所に、その女性は更に続ける。
「ゴメンね、あたしは個人的に恨みは無いんだけどね……。それに、もう終わったわ。残念だけど、この娘はもう二度と人間には戻らない。ゴメンね、本当にゴメンね」
その女性は泣き出しそうな表情になり、そしてその姿が薄れ、やがて完全に消えた。
「……精神体……それに、今の〝能力〟は〝ナイトメア〟。ま、まさか!?」
リケットの横を擦り抜け、ベスはジェシカの入っている〝RAR・ラボ〟のパネルに触れ、画面に表示されたデータを見てその場に愕然と崩れ落ちる。
そして丁度そのとき、過電圧で動かなくなった自動扉を擦り抜けて、ファウル・ウェザーが現れた。
だが、それを聞いても今の自分には何も出来ない――いや、したくない。
何故なら「脳が疲れる」から。
だがその「声」は途切れることなくリケットの脳に直接響き続けている。
その「声」は、『助けて』と言っている。
「……今の俺は、自分の身体すら動かすことが出来ない。エネルギー不足だ、他をあたれ」
遂に彼は口を開いた。だが其処から放たれた言葉は冷たく、無慈悲なものだった。
それでもその「声」はリケットに語り掛ける。
『解っている、解っているの。でも、助けて欲しいの。今の私は、なにも出来ない……自分を護ることも、身体を動かすことも出来ない……時間が欲しいの……でも、その時間がないの……』
「其処には医者がいるだろう。そっちに頼め」
身動き一つせず、リケットは呟いた。その首には高カロリー輸液が施されてあり、それが終了しても暫くは動けないだろう。
理由は単純に、エネルギー不足。
『ねぇ……貴方はもう覚えていないでしょうけど、私達って恋人同士だったよね? でも五年前のあの事故で、貴方は全てを無くしてしまった……その身体に宿る強力な〝能力〟も……私の所為だよね……でも……』
泣いているのか、その声が震えている。だがそれを聞いても、なにも思えない、なにも感じない。彼は、〝サイバー〟だから。
『My thing――Don't forget me...』
震える声で、そう呟いた。
その「声」は、切なく、哀しい、彼女の想いそのもの。
『Don't think that it is not needed...』
だがそれらの言葉が嘘だということは、リケットにも解った。
『Don't have to love... Only by remembering...』
そしてそれが一番良く解っているのは、他ならぬ彼女自身なのだろう。
『Herefore...』
それでもそう言うその心は、引き裂かれるほど辛いだろう。
『Don't think you don't need me...』
その言葉を最後に、その「声」は消えた。
それが意味するところ、それは彼女自身が今、最も死に近付いているという事実。
溜息を吐き、リケットは首に施されてある高カロリー輸液のラインを引き千切った。
そして上半身裸の身体を起こし、首を振る。その容貌には生気がない。
「エネルギー回復率34%……戦闘可能所要時間6分18秒……」
口元に笑みを貼り付かせ、立ち上がると病室を後にした。
「Danger when it moves」
自然に口から言葉が零れる。それは〝サイバー〟が自身に言い聞かせるためのものだ。そして彼の場合、脳が言わせている訳ではない。
「Limiter two off...Energy full charge」
呟き、そして眼を閉じた。その瞬間、リケットの体細胞が生気を取り戻し、そして傷付いた身体が復元する。
「……私に助けを求めるか……それも良いだろう。同郷の誼で助けてやる……ジェシカ・V」
邪悪に笑い、リケットは疾風の如く〝RAR・ラボ〟病棟へと走る。途中で何人かのナースとすれ違い、なにかを言われたが無視した。
そして〝RAR・ラボ〟病棟の前に着き、其処から抜け出して来た精神体を見下ろす。
その精神体はリケットを見上げて驚愕の表情を浮かべ、だがそのまま飛び去った。
リケットは飛び去る精神体を無視して、躊躇せずに病棟へと歩を進める。
其処には〝RAR・ラボ〟五基と、その中でも一際精密なものの前に立ち、帯電している男がいた。
彼は無言でその男へと鞭を放ち、その首に巻き付ける。
突然の出来事に驚いた男は、
「な、な、な、なんだよぉ、お前、誰だぁ?」
訊くが、リケットが答える筈がない。彼は無言で男の目の前に踏み込み、左の拳を腹に叩き付ける。
まともに受けたら一発で内臓が破裂するほどの衝撃を受けた男は、だがその場に蹲って嘔吐しただけだった。
「お、お、お、俺になななななんの恨みがあるんだよぉ?」
口元を拭い、涙目で男が訊く。だがリケットは無言で首に巻きつけてある鞭を締め上げた。
「お、お、お? お前、〝サイバー〟だなぁ? さささ〝サイバー〟は、ででで電気に弱いんだよねぇ」
言うなり、男は電撃を放つ。それは鞭を伝わり、リケットを直撃した。ベスを一撃で気絶させた電流がリケットを包む。
〝サイバー〟はその身体に埋め込まれている機械があるために、電撃や水に弱い。
そのために絶縁処理や防水加工されている者もいるが、そうするとどうしても質が低下してしまう。
その分の重量と質量で、埋め込まれる機械に限界があるから。
だから優秀な〝サイバー〟はその様な処置はされていないことが多い。
そしてリケットもその例に漏れず、その様な処置はしていない。
だが――
「……この程度か?」
平然と言い、鞭を一気に引いて男を空中へと放り投げ、そして床に叩き付けた。
「え、え、え? どどどどうして電撃がききき効かないんだよぉ?」
混乱してる男に何も言わず、そして、
「Good die」
空気が白色に輝いた。
それは高圧電流により空気がプラズマ化した証拠。
それによって天井の照明が破裂し、病棟にあるモニターや機器が弾け飛ぶ。
その衝撃と電圧は、男やベスが放ったものなど比べ物にならない。
鞭を巻き取り、リケットは床に転がる黒焦げの死体を見下ろし、そして傍にある〝RAR・ラボ〟を見上げた。
其処にはジェシカの脳と脳幹が羊水の中に浮いている。
それが絶縁処理されているということは知っていた。だから何の躊躇もせずに電撃を使ったのだ。
そして〝RAR・ラボ〟に破損している箇所は見当たらない。
よって、それは問題なく再稼働できる筈だった。
「凄いのねぇ、あのベッジを黒焦げにするなんて」
しかし、その〝RAR・ラボ〟の上に、漆黒の艶やかな黒髪の、妖艶な肌も露な女性が坐っていた。
彼女は口元に悪戯っぽい笑みを浮かべてはいるのだが、その紫闇の瞳は何故か寂しげであった。
「あの子はね、あたしやバグナスが目に掛けていたほどの〝PSI〟だったのよ。主な〝能力〟は、もう解っていると思うけど、〝エレクトロキネシス〟」
愛しげにジェシカの入っている〝RAR・ラボ〟を撫で、無言で自分を見上げるリケットに微笑む。だがその眼だけは、やはり寂しげであった。
「でも死んでしまったものは仕方ないわね、まあ良いわ。あたしの用だけど、バグナスにお願いされてね、このジェシカって子を再生不能にするために来たの。……あら、そっちのドクターの娘も目を覚ましたのね」
動き出しているベスを一瞥して、その女性は言う。
ベスは頭を振りつつなんとか起き上がり、部屋の惨状を見て絶句した。
それを他所に、その女性は更に続ける。
「ゴメンね、あたしは個人的に恨みは無いんだけどね……。それに、もう終わったわ。残念だけど、この娘はもう二度と人間には戻らない。ゴメンね、本当にゴメンね」
その女性は泣き出しそうな表情になり、そしてその姿が薄れ、やがて完全に消えた。
「……精神体……それに、今の〝能力〟は〝ナイトメア〟。ま、まさか!?」
リケットの横を擦り抜け、ベスはジェシカの入っている〝RAR・ラボ〟のパネルに触れ、画面に表示されたデータを見てその場に愕然と崩れ落ちる。
そして丁度そのとき、過電圧で動かなくなった自動扉を擦り抜けて、ファウル・ウェザーが現れた。
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