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Trash Land
like a demon IV
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バグナスの後方に、漆黒の重力塊が現れている。それが超重力力場であると、ジェシカは瞬時に理解した。
だが、どうすることも出来ない。あれほどの超重力に引き込まれたら、人間の身体など数ミリに満たないほど小さく圧縮されてしまうだろう。
悲鳴を上げているジェシカを尻目に、リケットは着用している戦闘服に仕込まれている〝結界機〟を起動した。
途端に周囲を吸い込む重力の嵐が消え、今度は正常な重力に従い落下を始める。そしてジェシカは、違う意味で悲鳴を上げた。
「しっかり掴まっていろ」
静かに呟き、吸い寄せられている看板やエア・モービルを足場にして屋上へと駆け上る。
そして着地した瞬間再びナイフを投げるが、それはバグナスへの軌道を外れてその後方にあるブラックホールへと吸い込まれた。
「……もう、なにがなんだか解らないよ……でもこれって私の所為になるのかな? イヤよ、マンションを弁償させられるなんて」
「気休め程度だがこれを持っていろ」
ジェシカのわりと真剣な悩みに、リケットはやはり答えない。代わりに直径3センチメートル程度の球体を渡しただけで、後は無言である。
少し寂しくなるジェシカだったが、此処は開き直って話し掛け続けようと思っていた。
「へぇ、〝結界〟持ってたんだ。ま、基本だろうがよ」
再びポケットに両手を突っ込み、バグナスはゆっくりと屋上に降り立った。その様は、隙だらけだ。
そしてそれをリケットが見逃す筈がない。
彼の両足のモーターが唸りを上げ、隣にいるジェシカを置き去り、空気の壁を突き破って突進しバグナスの腹を薙ぎ払った。
それにより発生した凄まじい衝撃波が彼を襲う。
並みの相手だったらそれで両断されるか、衝撃波で圧死してしまうのだが、バグナスは違った。
発生した衝撃波に危機を感じた瞬間、重力力場を発生させてそれを弾く。
だがそれでも衝撃は止まらず、彼の肋骨は嫌な音を立てて折れた。
「てめ……」
呟いたその口から、血液が逆流する。折れた肋骨が肺を傷付けたようだ。
「…………やってくれるじゃねぇか……もうどうなっても知らねぇぞ!」
鋭い双眸が見開かれ、瞳が再び血色に発光した。
逆立っているバグナスの灰色の髪が、更に逆立つ。その瞬間、リケットは弾かれたように後退し、〝結界機〟の範囲外に居たのに何故か超重力に呑まれていなかったジェシカの腰に手を回す。
そして――
「ちょっと、一体どうしたの……え、ウソ? 本気なの?」
状況が目紛しく変動して理解が追い付かないジェシカを抱え、リケットは突然隣のビルへと跳んだ。
そんなとんでもない行為に巻き込まれたために、当たり前の反応としての絶叫が響くが、それは突如発生した轟音で掻き消される。
「……マンションが……」
そう。マンションが、轟音を響かせ崩れ始めていた。
信じられない光景を目の当たりにして呟くジェシカを抱かかえたまま、リケットは隣のビルの屋上に立ち、空中でゆっくりと視線を廻らせているバグナスを静かに見る。
「ウソ、ちょっと待ってよ……これは夢なの? 夢だったら嬉しいんだけど……ううん、それ以前にあそこには全財産があるのよ。……受験票もあの中だったわ……」
「来るぞ」
頭を抱えるジェシカを一瞥し、呟いた。戦闘服に仕込まれた〝結界機〟の警報音が響く。限界は近い。
「何なのよ、あいつは!?」
訳が判らなくなって半狂乱で絶叫するジェシカに、リケットはやはり無感情に、
「〝PSI〟。然も一、二を争うほどの〝能力〟、〝グラビドン〟だ」
先程の独白を繰り返す。
いやそうじゃない。それを訊いたわけじゃないんだけど!
こんなときなのに、思わずジェシカはそう考えた。だが声には出していない。出しても意味がないし。
「さて、〝結界〟が何処まで持つかな?」
呟くと、彼は初めて口元に笑みを浮かべた。それは笑いというより嗤ったと言う方が適当であろう。
だが幸いにも、その表情はジェシカの視界に入らなかった。彼女はじっとリケットの腕の中に抱かれたままである。
「〝結界〟が壊れたら……どうなるの?」
震えながら訊くジェシカへと、頭上を見てから何事もなかったかのように、
「上にあるあの重力塊によって、瞬間的に30を超える強烈なGで潰れるだろう。……拙いな」
「今頃!? 拙いなんてモンじゃないわよ!!」
「違う」
しっかりと抱き付いているジェシカの顎に指を掛けて上を向かせ、顎をしゃくる。その方向を見て、混乱して沸騰した頭が一気に冷めた。
超重力に曝されている屋上に一角。その空間が歪み、そしてガスが発生していた。その毒々しい橙色のガスは、見覚えがある。
「あれって……確か……」
嘘であって欲しい。そう思うジェシカの願いは、現実の前では虚しいだけだ。
「〝ドラゴン・アシッド〟。空間が歪み過ぎたか」
既に二人のすぐ傍までその有毒ガスは迫って来ていた。
〝ドラゴン・アシッド〟は地中深くにある「龍気」が変質したもので、そしてその現象は滅多に起こらない。
起こったとしても、他の「龍気」がそれを浄化する筈なのだ。
だが稀に、浄化しきれなかったものが地上に漏れ出る場合がある。
それが〝ドラゴン・アシッド〟と呼ばれるものだ。
だが、どうすることも出来ない。あれほどの超重力に引き込まれたら、人間の身体など数ミリに満たないほど小さく圧縮されてしまうだろう。
悲鳴を上げているジェシカを尻目に、リケットは着用している戦闘服に仕込まれている〝結界機〟を起動した。
途端に周囲を吸い込む重力の嵐が消え、今度は正常な重力に従い落下を始める。そしてジェシカは、違う意味で悲鳴を上げた。
「しっかり掴まっていろ」
静かに呟き、吸い寄せられている看板やエア・モービルを足場にして屋上へと駆け上る。
そして着地した瞬間再びナイフを投げるが、それはバグナスへの軌道を外れてその後方にあるブラックホールへと吸い込まれた。
「……もう、なにがなんだか解らないよ……でもこれって私の所為になるのかな? イヤよ、マンションを弁償させられるなんて」
「気休め程度だがこれを持っていろ」
ジェシカのわりと真剣な悩みに、リケットはやはり答えない。代わりに直径3センチメートル程度の球体を渡しただけで、後は無言である。
少し寂しくなるジェシカだったが、此処は開き直って話し掛け続けようと思っていた。
「へぇ、〝結界〟持ってたんだ。ま、基本だろうがよ」
再びポケットに両手を突っ込み、バグナスはゆっくりと屋上に降り立った。その様は、隙だらけだ。
そしてそれをリケットが見逃す筈がない。
彼の両足のモーターが唸りを上げ、隣にいるジェシカを置き去り、空気の壁を突き破って突進しバグナスの腹を薙ぎ払った。
それにより発生した凄まじい衝撃波が彼を襲う。
並みの相手だったらそれで両断されるか、衝撃波で圧死してしまうのだが、バグナスは違った。
発生した衝撃波に危機を感じた瞬間、重力力場を発生させてそれを弾く。
だがそれでも衝撃は止まらず、彼の肋骨は嫌な音を立てて折れた。
「てめ……」
呟いたその口から、血液が逆流する。折れた肋骨が肺を傷付けたようだ。
「…………やってくれるじゃねぇか……もうどうなっても知らねぇぞ!」
鋭い双眸が見開かれ、瞳が再び血色に発光した。
逆立っているバグナスの灰色の髪が、更に逆立つ。その瞬間、リケットは弾かれたように後退し、〝結界機〟の範囲外に居たのに何故か超重力に呑まれていなかったジェシカの腰に手を回す。
そして――
「ちょっと、一体どうしたの……え、ウソ? 本気なの?」
状況が目紛しく変動して理解が追い付かないジェシカを抱え、リケットは突然隣のビルへと跳んだ。
そんなとんでもない行為に巻き込まれたために、当たり前の反応としての絶叫が響くが、それは突如発生した轟音で掻き消される。
「……マンションが……」
そう。マンションが、轟音を響かせ崩れ始めていた。
信じられない光景を目の当たりにして呟くジェシカを抱かかえたまま、リケットは隣のビルの屋上に立ち、空中でゆっくりと視線を廻らせているバグナスを静かに見る。
「ウソ、ちょっと待ってよ……これは夢なの? 夢だったら嬉しいんだけど……ううん、それ以前にあそこには全財産があるのよ。……受験票もあの中だったわ……」
「来るぞ」
頭を抱えるジェシカを一瞥し、呟いた。戦闘服に仕込まれた〝結界機〟の警報音が響く。限界は近い。
「何なのよ、あいつは!?」
訳が判らなくなって半狂乱で絶叫するジェシカに、リケットはやはり無感情に、
「〝PSI〟。然も一、二を争うほどの〝能力〟、〝グラビドン〟だ」
先程の独白を繰り返す。
いやそうじゃない。それを訊いたわけじゃないんだけど!
こんなときなのに、思わずジェシカはそう考えた。だが声には出していない。出しても意味がないし。
「さて、〝結界〟が何処まで持つかな?」
呟くと、彼は初めて口元に笑みを浮かべた。それは笑いというより嗤ったと言う方が適当であろう。
だが幸いにも、その表情はジェシカの視界に入らなかった。彼女はじっとリケットの腕の中に抱かれたままである。
「〝結界〟が壊れたら……どうなるの?」
震えながら訊くジェシカへと、頭上を見てから何事もなかったかのように、
「上にあるあの重力塊によって、瞬間的に30を超える強烈なGで潰れるだろう。……拙いな」
「今頃!? 拙いなんてモンじゃないわよ!!」
「違う」
しっかりと抱き付いているジェシカの顎に指を掛けて上を向かせ、顎をしゃくる。その方向を見て、混乱して沸騰した頭が一気に冷めた。
超重力に曝されている屋上に一角。その空間が歪み、そしてガスが発生していた。その毒々しい橙色のガスは、見覚えがある。
「あれって……確か……」
嘘であって欲しい。そう思うジェシカの願いは、現実の前では虚しいだけだ。
「〝ドラゴン・アシッド〟。空間が歪み過ぎたか」
既に二人のすぐ傍までその有毒ガスは迫って来ていた。
〝ドラゴン・アシッド〟は地中深くにある「龍気」が変質したもので、そしてその現象は滅多に起こらない。
起こったとしても、他の「龍気」がそれを浄化する筈なのだ。
だが稀に、浄化しきれなかったものが地上に漏れ出る場合がある。
それが〝ドラゴン・アシッド〟と呼ばれるものだ。
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