HEAD.HUNTER

佐々木鴻

文字の大きさ
上 下
16 / 75
Trash Land

 death player VII

しおりを挟む
「此処でじっとしていろ」

 そう言い、窓へゆっくりと近付く。ジェシカにそれを止めることは出来る筈もなく、掴んでいたコートの袖を離した。

 その手が、血で濡れている。

「これって……」

 自分の血ではない。自分の身体には掠り傷一つない。そしてコートを掴んでいた手ばかりがそうなっているという理由は、一つしかない。

「ねえ、怪我しているの?」

 コートの袖を良く見ると、血が滴っている。掠り傷では絶対に出ないほどの出血量だ。

「……私を……護ってくれたの?」
「一般人を護るのが〝ハンター〟の義務だ。気にする必要などない」
「……そう……義務……なの……」

 その返答は、やはり期待していたものとは明らかに違う。そしてそれを聞く度、ジェシカは切なく、哀しくなった。

 だが彼女は知らない。〝ハンター〟に一般人を護るという義務など、一切ないということを。

「おいおいおいおい、おいおいおいおいおいおいおいおい、おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい! いい加減こっちを注目しやがれってんだよ!」

 窓外の空中に立つ、灰色の髪をバカみたいに逆立ててだらしなくスーツを着ている男、バグナスが叫んだ。
 その双眸が赤く発光している。派手に登場したのに注目されず、傍目にはイチャイチャしているように見える二人に嫉妬しているらしい。

「ったくよぉ、こんなときに女の所にシケ込むなんてよぉ。狙われてるってぇ自覚あんのか?」

 鼻で笑い、皺だらけのスラックスのポケットに両手を突っ込んだまま大笑いした。

「俺に何の用だ」

 あくまで冷静に、だが逆に感情を全く感じさせない声で訊く。それを聞き、バグナスは笑うのを止めた。

「莫迦か手前ぇ、さっき狙ってるっつたろうが! 耳ぃ付いてねぇのかこの野郎!!」
「参考までに訊くが、何故俺を狙う?」
「言う必要はねぇなぁ。強いて言えば、手前ぇが気に入らねぇだけだ」

 ポケットに手を突っ込んだ姿そのままで、バグナスは再び大笑いした。無茶苦茶である。

 だが暫くすると、その高笑いは次第に止まり、

「くぉら! 人が大笑いしてるってぇのにノーリアクションかよ! 巫山戯てんじゃねぇぞ、この××××野郎!!」

 やはり無茶苦茶である。そして理不尽でもあった。

 だがそれでも無表情のリケットの後ろで、ボロボロのソファを移動させているジェシカが一瞥し、鼻で笑った。

「そこ!!」

 ポケットから手を出し、突然ジェシカを指差して叫んだ。只でも鋭い双眸が更に鋭さを増し、視線だけでも気の弱い者だったら殺せるくらいの迫力で叫んだ。

「ちょっとくらいツラが良いからって舐めてんじゃねぇぞ! あまりいい気になってっと、仕舞いにゃ×××を××て××××に×××を××××じまうぞ、こんアマ!!」
「………………間に合ってるから、要らない」

 バグナスの下品な悪口雑言にそう言い返し、ソファを見詰めて溜息をついた。

「あーあ……この『まぁぶる』のシングルソファ、気に入っていたのに……然も限定品で、もう手に入らないのになぁ……」

 ミカンのプリントがされているソファを抱き締めて、その肌触りの良さを確認するように頬擦りする。だが残念なことに、それは引き裂かれてしまっていた。縫って修復することも出来なくないだろうが、元通りにするのは困難だろう。

「命があるだけまだ良いだろう」
「そういう問題じゃないわよ。こうなったらなにがなんでも弁償させて! 任せたわよ」
「……」

 それに対して何も答えず――答える気がないのだろうが――、リケットはブラインドを乱暴に外した。そのブラインドにもシングルソファと同じミカンの絵が描かれていたが、彼にとってそんなことはどうでもいい。ジェシカは小さく悲鳴を上げたが。

「おっほぉ、この俺様とるてぇのかよ? 面白ぇ、やってやるぜ!」

 ポケットから両手を出して、バグナスは邪悪に嗤いながら、その〝能力〟を解放した。

 そしてリケットは、蛮刀を抜いて左手で逆手に持ち、首の動きだけで自分の長い髪を後方へと払う。

 そして……。

「You die」

 独白し、窓外へと飛び出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

エンシェントソルジャー ~古の守護者と無属性の少女~

ロクマルJ
SF
百万年の時を越え 地球最強のサイボーグ兵士が目覚めた時 人類の文明は衰退し 地上は、魔法と古代文明が入り混じる ファンタジー世界へと変容していた。 新たなる世界で、兵士は 冒険者を目指す一人の少女と出会い 再び人類の守り手として歩き出す。 そして世界の真実が解き明かされる時 人類の運命の歯車は 再び大きく動き始める... ※書き物初挑戦となります、拙い文章でお見苦しい所も多々あるとは思いますが  もし気に入って頂ける方が良ければ幸しく思います  週1話のペースを目標に更新して参ります  よろしくお願いします ▼表紙絵、挿絵プロジェクト進行中▼ イラストレーター:東雲飛鶴様協力の元、表紙・挿絵を制作中です! 表紙の原案候補その1(2019/2/25)アップしました 後にまた完成版をアップ致します!

処理中です...