HEAD.HUNTER

佐々木鴻

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Trash Land

 darker than darkness IV

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「市街」にある高級ホテルのスウィート・ルーム。其処に〝PSIサイ〟のソリッド・バグナスは白いガウンをだらしなく羽織ってベッドに横になり、シャンパングラスを片手にラッパ飲みをしていた。

 その視線の先にはモニターがあり、更にその向こうには戦闘服を着た男が申し訳なさそうに畏まっている。モニターを睨む双眸はやけに鋭く、更には灰色の髪を逆立てていた。

「失敗した、だと?」

 ベッドサイドテーブルにシャンパンのグラスを叩き付ける様に置き、バグナスは吐き捨てた。

「手前ぇら、なんで俺の兵隊を付けたと思っているだ! 失敗しねぇためだろうがよ! くぉの役立たずどもめ!!」

 そして再びシャンパンをラッパ飲みする。やっぱりグラスは持ったままだ。

 グラス、意味ないじゃないか……そう思ったがなにも言えず、モニターの先の男は申し訳なさそうに額を拭く。
 冷汗が噴出している。それだけこのバグナスという男が恐ろしいのだろう。

『で、でもよぉバグナスの旦那、あいつは強ぇですぜ。なんつってもあの天才生体物理学者ラッセル・Ⅴの最高傑作だ。最強の〝サイバー〟、最強の〝ハンター〟に俺らみたいな、言ったら虚しくなるだけなんだけど、二流の〝サイバー〟風情が敵うわけがねぇよ』
「だ・か・ら、一流の〝サイバー〟と〝PSI〟付けてやったじゃねぇかよ」

 その他は雑魚だが。そう思いつつ、バグナスはやっとグラスにシャンパンを注いでテーブルに置く。そしてモニターの先の男は、それを見て何故か安心した。

『でもよぉ、一流でも敵いっこねぇよ。だって彼奴は「CLV」最高の「MA」だ。其処のところ、ちゃんと解っているのかい旦那?』
「お、おお、解ってるわい!」

 本当か? そう思ったがやっぱり言えず、男は黙り込んだ。

 ちなみに「CLV」とは「サイバー・ドール・レベル」の略で、そのランクは最低の「DD」から最高の「MA」まである。そして「MA」とは「マキシマム・A」のことである。

「だが努力と根性と知恵がありゃあ絶対に勝てる! それに友情のスパイスがプラスアルファで完璧だ!!」
『で、でもよう……』

 それは何処ぞの熱血なんちゃらだろう。男はそう突っ込みたくて仕方ないが、言える筈がない。
 何故ならバグナスは本気で言っているし、機嫌を損ねたら殺されるから。

「デモもストもあるか! 手前ぇの頭ン中ぁスカスカかい!!」
『す、済んません』

 舌打ちをし、シャンパンをラッパ飲みする。グラスに注いだものは忘れているらしい。
 モニターの先の男は、なんだかモヤっとしてしまう。此処で思い切りツッコミを入れることが出来たなら、どれだけ幸せだろう。

 ブツブツ文句を言いつつ、シャンパンを綺麗に空けてテーブルに置く。そして腕組みをして考え込んだ。

 頭を使えと言ったものの、実際問題として彼自身もなんの考えも浮かばなかったりする。
 そういえば、マーヴェリーのヤツがそういう小細工が得意だったな?

 そんなことを考えていると、

『じゃあ旦那、申し訳ないんだけど知恵ぇ貸してくんねぇかな?』
「え?」
『いや、え? じゃなくって、知恵ぇ貸してくんねぇかなぁ。俺らバカだからなぁんにも浮かんでこねぇんだ』
「あ、いや、ちょおっと待てよ、おい」

 暫しの沈黙。それは妙に気まずい空白の時間だった。

『……もしかして、なぁんにも浮かんでこねぇとか……言うんじゃねぇですかい?』
「んなワケあるかい、こんボケ」

 そう言うが、何故かその言葉に以前の迫力も力も籠もっていなかった。

「……」
『……』
「……」
『……』

 そして暫しの沈黙が落ち、やがてモニターの先の男は項垂れ溜息を吐く。

『…………なんだよ旦那。俺らに頭使えって言っといて、実は自分も浮かばないんじゃねぇですかい。それはねぇよ、旦那』

 思わずツッコミを入れてしまった。だが次の瞬間、男の顔に「しまった」という表情が浮かぶ。

 そして……。

「……んだと、この野郎!」

 バグナスの双眸が血の色に輝き、瞬時にして凄まじい重力の嵐がホテルの一室に吹き荒れる。

 ベッドが軋み、テーブルが潰れ、中身の入っているグラスが音もなく潰れた。

 そしてモニターに鋭い罅が走り、バグナスの姿を映し出しているカメラのレンズにも亀裂が走る。

 そればかりでは終らない。

 部屋どころか建物全体が揺れ、ホテルそのものが軋む音がする。
 何処かで警報の音が響き、地下に設置されている発電機がショートし、電源が落ちた。

 宿泊客はなにが起きたのか判らず、混乱して部屋の外に出ようとするが、電源が落ちてオートロックが外れないためにそれすらままならない。

「もう一度言ってみやがれ!!」

 獣の様に絶叫するバグナスに呼応するかのように、揺れはどんどん激しさを増して行く。
 そして遂に屋上にある貯水タンクが重力に耐え切れなくなって潰れ、大量の水がストリートへと滝の様に降り注ぐ。

 ストリートにいる人々も異常に気付き、ホテルを見上げて驚き、混乱した。

『わ、悪かったよ旦那、落ち着いてくれよ!』

 モニター越しに叫ぶが、どうやらその声は届いていないらしい。ホテル全体が凄まじい重力を受けて、全ての窓の硬質ガラスが弾け飛んでストリートへと降り注いだ。

『落ち着いてくれよ、落ち着いてくれって、旦那! ホテルが、潰れちまう!!』

 やっと聞こえたのか、荒い息を吐きつつ歯軋りをしながら点滅するモニターを睨む。息が荒いのは疲労したからではない。興奮しているためだ。
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