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Trash Land
darker than darkness II
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僅かの静寂。そしてそれを複数の足音が破り、彼を包囲して行く。
それでも尚、彼はゆっくりと煙を吐いているだけだった。
そして完全に包囲された時に初めて、彼はゆっくりとそれらの人々を見回した。
ざっと六人。全員が戦闘服に身を包み、強力な重火器を帯びている。
兵器だけを羅列すると、グレネードランチャー、ガドリング、レーザーランチャー、そしてフレイムランチャー――比較的安価で入手可能な兵装だが、一人だけフォノン・メーザーを帯びている者がいた。
彼はゆっくりと煙を吐きながら溜息を吐き、煙草を咥えたまま暗い空を見上げた。
その態度をどうみたのかは知らないが、リーダーらしき男が手を上げた。
それを合図にそれぞれが手に持っている兵器を構える。
正面のリーダーらしき男がガドリング、右前方にはフレイムランチャー、左前方にはグレネードランチャー、右後方にはレーザーランチャー、左後方にもグレネードランチャー――多分これは違う弾丸を込めているのだろう――そして後方にはフォノン・メーザーをそれぞれ構えている。
同士討ちにならないように計算された角度だ。余程訓練されていなければ出来ないフォーメーションである。
彼は煙を吐き、だが自身を囲むそれらには一瞥すら与えない。
そしてそれへの返答は、レーザーだった。
それは彼のサングラスのフレームを焼き切り、その顔に僅かだが傷を残した。
それでもなおその反応は薄く、煙を吐いてサングラスをゆっくりと外し、アスファルトに放り投げただけであった。
彼の鋭い双眸に宿る藍色の瞳が、遥かに離れたドームの明りを受けてはっきりと映し出される。
サングラスがアスファルトに落ち、強風が吹き抜けているにもかかわらず、乾いた音がやけに大きく響く。
それを皮切りに、重火器が一斉に火を噴いた。
暗闇に轟音と炸裂音が響く。眩い光と共に最大出力でレーザーが打ち出され、炎が閃きアスファルトを焼き、象をも瞬時に殺傷する大口径の銃が焼けたそれを粉々にする。そしてそれを、全ての繋がりを絶つ音が塵にした。
だがこの程度では仕留められないということを、彼らは知っている。だから斉射直後であるにもかかわらず、油断なく周囲を見回した。
案の定、包囲の中心に彼の姿は既にない。
いつの間にか空中に跳んでいた。
彼は脇に仕込んである蛮刀を抜き、左手で逆手に持つ。そしてレーザーランチャーを持っている男に目掛けて右腕を突き出した。
手甲から鋼の鞭が打ち出され、レーザーランチャーに絡み付く。それを男が振り解こうとした刹那、高圧電流が流れた。
「テッド!?」
ガドリングを持つ男が叫んだが、既に全身から火花を散らして絶命していた。
どうやら彼は〝サイバー・ドール〟だったらしい。鞭を振り解こうとせずにそれを捨てていれば、死なずに済んだのであろう。
だがそれはあくまで可能性であり、既に結果が出ている以上は後の祭りだ。
それにそうしたところで、即座に別のなんらかの手段が取られて、結局は同じ結果が出ていたであろう。
倒れた男の傍に着地し、左前方にいるグレネードランチャーの男へと一気に踏み込み蛮刀を振る。
避けられないと思ったのか、男は素手でその蛮刀を受け止めた。
鍛えられた金属同士が激しくぶつかる音がする。男の腕は鋼のように硬質化していた。
動きが止まった隙を逃さず、左後方にいる男がグレネードランチャーを撃つ。
だがまたしても彼は消えており、蛮刀を受け止めた男がその弾丸をまともに受けてしまった。
ゲル状の火燃料弾が全身に纏わり付き、一瞬にして数千度の炎に包まれる。
幾ら鋼の皮膚を持っていても、それに耐えられる筈がない。
更にその熱量により、戦闘服にぶら下げている炸裂弾が装填されている弾倉が誘爆し、男は原形を留めないまでに粉々になった。
「『炎の中に神は在り、神在る処に力在り!』」
フォノン・メーザーを持っている者が呪文を唱える。その声は女のものであった。
だがその呪文が効果を発揮するより速く、彼は懐に手を突っ込んで一気に振った。
超振動によって高熱を発するナイフが高速で飛来してその肩を抉り、彼女は激痛に悲鳴を上げて蹲った。
女は〝魔導士〟らしいが、集中が途切れたために何も起きなかった。所詮〝魔導士〟は術の邪魔をされると何も出来ない。
それでもその手にある銃器を離さなかったのは、流石というべきであろう。
「貴様、よくもイザベラを!!」
そう叫び、フレイムランチャーを向ける。だが突如として眼前に黒錆色のその男が現れ、添えるようにそっと右手で頭を掴まれ、一気に捻じ切られた。
瞬時に事切れて首から火花を散らしつつ滅茶苦茶に火炎を放ち続ける男の身体を、更に股間から真っ二つにする。
そして黒錆色の髪を掻き上げ、蛮刀を逆手で左に持ったまま無表情に周囲を見回し、彼はその動きを止めた。右手はポケットに突っ込んだままであった。
その惨状を見回したガドリングガンを持っているリーダーは、アスファルトに唾を吐きかけてそれを捨て、短剣をそれぞれ両手で抜き憎々しげに眼前にいる黒錆色の男を睨む。
そして、
「ダリル、動きを止めろ!」
「イエス・サー!」
ダリルと呼ばれた男は持っているグレネードランチャーを捨て、集中する。その瞬間、彼の身体が衝撃を受けて動かなくなった。
この衝撃は今までに何度となく受けた事がある。だから、特に驚きもしなかった。
一瞬にして最高200km/hの速度を弾き出すリーダーの両脚のモーターが唸りをあげる。
そして5トンもの超重量を支えることが可能な彼の骨格と人口筋肉から繰り出される斬撃は、持っている刃に対象が触れなくともその衝撃波のみで充分な殺傷能力を生み出す。
更に今回は〝PSI〟の能力である〝テレキネシス〟で動きを封じ込めてある。
万が一にも負ける筈がない。
そして、負けられない。
この男に潰された「組織」の仇を討つまでは。
彼は動かない。そしてその黒錆色の髪が顔を覆っているため、その表情を窺い知ることは出来ない。
諦めたのか、それとも絶望しているのか、どちらにせよ、これで終わりだ。
「殺った!!」
勝利を確信したそのとき、僅かなモーター音と、なにかの蓋が開く音が聞こえた。
そして次の瞬間、短剣から伝わって来た感触は肉を絶ち、骨を砕いたものではなかった。
鍛えられた金属同士が激しく打ち合い、そして砕ける音だった。
なんと、彼は200km/hの高速で突進しつつ繰り出された斬撃を左腕の力のみで受け止めた。
更に発生した筈の衝撃波をまともに受けた筈なのに、身体の何処にも傷はなく、ロングコートに至っては風に靡いてすらいない。そしてあろう事か、何事もなかったかのような無表情であった。
気の所為か、彼の全身を茶色の薄い膜が覆っているように見える。
そして蛮刀が微弱に、だが超高速で振動していることに気付いたのはこのときであった。
「貴様……ソニック・ブレードを……」
呟き、再び離れるべく後方へ跳んだが、その足が着地する前に彼は突進した。
アスファルトが摩擦熱で熔けるほど凄まじい踏み込みである。
「Good die」
超振動によって生じた熱を帯びている刃が、リーダーの首をバターの様に熔かしながら切断し、続いて袈裟斬りに両断した。
「そんな……俺の『能力』が……通じない……だと……!」
呆然として呟き、倒れるリーダーを見詰める男に
近付き、彼はその喉元に蛮刀を突き付けた。
「……誰に頼まれた?」
このとき初めて、彼はその黒錆色の男の声を聞いた。
「い、言えねぇ……死んでも言えねぇ……」
生唾を飲み込み、冷汗を垂らしながら彼は呟く。
「言ったら……殺される……」
「そうか」
喉元に突き付けられた蛮刀の切っ先が食い込む。皮膚が焼ける嫌な臭いが立ち込め、男の思考を停止させた。
だがそのとき、人間には絶対に聞こえない音が二人を直撃した。
「イ……ザベ……ラ……な……」
その音が男の体細胞の繋がりを断ち切り、液体となって崩れて行く。
数瞬のうちに、彼はただの液体となってアスファルトを赤く染めた。
「どうして……」
先ほどの〝魔導士〟が、フォノン・メーザーを構えて狂った様に引き金を引いている。
だが、
「どうしてあんたは平気なんだよ!?」
彼はゆっくりと近づき、逆手に持っている蛮刀で無造作にその胴を薙ぎ払った。
それでも尚、彼はゆっくりと煙を吐いているだけだった。
そして完全に包囲された時に初めて、彼はゆっくりとそれらの人々を見回した。
ざっと六人。全員が戦闘服に身を包み、強力な重火器を帯びている。
兵器だけを羅列すると、グレネードランチャー、ガドリング、レーザーランチャー、そしてフレイムランチャー――比較的安価で入手可能な兵装だが、一人だけフォノン・メーザーを帯びている者がいた。
彼はゆっくりと煙を吐きながら溜息を吐き、煙草を咥えたまま暗い空を見上げた。
その態度をどうみたのかは知らないが、リーダーらしき男が手を上げた。
それを合図にそれぞれが手に持っている兵器を構える。
正面のリーダーらしき男がガドリング、右前方にはフレイムランチャー、左前方にはグレネードランチャー、右後方にはレーザーランチャー、左後方にもグレネードランチャー――多分これは違う弾丸を込めているのだろう――そして後方にはフォノン・メーザーをそれぞれ構えている。
同士討ちにならないように計算された角度だ。余程訓練されていなければ出来ないフォーメーションである。
彼は煙を吐き、だが自身を囲むそれらには一瞥すら与えない。
そしてそれへの返答は、レーザーだった。
それは彼のサングラスのフレームを焼き切り、その顔に僅かだが傷を残した。
それでもなおその反応は薄く、煙を吐いてサングラスをゆっくりと外し、アスファルトに放り投げただけであった。
彼の鋭い双眸に宿る藍色の瞳が、遥かに離れたドームの明りを受けてはっきりと映し出される。
サングラスがアスファルトに落ち、強風が吹き抜けているにもかかわらず、乾いた音がやけに大きく響く。
それを皮切りに、重火器が一斉に火を噴いた。
暗闇に轟音と炸裂音が響く。眩い光と共に最大出力でレーザーが打ち出され、炎が閃きアスファルトを焼き、象をも瞬時に殺傷する大口径の銃が焼けたそれを粉々にする。そしてそれを、全ての繋がりを絶つ音が塵にした。
だがこの程度では仕留められないということを、彼らは知っている。だから斉射直後であるにもかかわらず、油断なく周囲を見回した。
案の定、包囲の中心に彼の姿は既にない。
いつの間にか空中に跳んでいた。
彼は脇に仕込んである蛮刀を抜き、左手で逆手に持つ。そしてレーザーランチャーを持っている男に目掛けて右腕を突き出した。
手甲から鋼の鞭が打ち出され、レーザーランチャーに絡み付く。それを男が振り解こうとした刹那、高圧電流が流れた。
「テッド!?」
ガドリングを持つ男が叫んだが、既に全身から火花を散らして絶命していた。
どうやら彼は〝サイバー・ドール〟だったらしい。鞭を振り解こうとせずにそれを捨てていれば、死なずに済んだのであろう。
だがそれはあくまで可能性であり、既に結果が出ている以上は後の祭りだ。
それにそうしたところで、即座に別のなんらかの手段が取られて、結局は同じ結果が出ていたであろう。
倒れた男の傍に着地し、左前方にいるグレネードランチャーの男へと一気に踏み込み蛮刀を振る。
避けられないと思ったのか、男は素手でその蛮刀を受け止めた。
鍛えられた金属同士が激しくぶつかる音がする。男の腕は鋼のように硬質化していた。
動きが止まった隙を逃さず、左後方にいる男がグレネードランチャーを撃つ。
だがまたしても彼は消えており、蛮刀を受け止めた男がその弾丸をまともに受けてしまった。
ゲル状の火燃料弾が全身に纏わり付き、一瞬にして数千度の炎に包まれる。
幾ら鋼の皮膚を持っていても、それに耐えられる筈がない。
更にその熱量により、戦闘服にぶら下げている炸裂弾が装填されている弾倉が誘爆し、男は原形を留めないまでに粉々になった。
「『炎の中に神は在り、神在る処に力在り!』」
フォノン・メーザーを持っている者が呪文を唱える。その声は女のものであった。
だがその呪文が効果を発揮するより速く、彼は懐に手を突っ込んで一気に振った。
超振動によって高熱を発するナイフが高速で飛来してその肩を抉り、彼女は激痛に悲鳴を上げて蹲った。
女は〝魔導士〟らしいが、集中が途切れたために何も起きなかった。所詮〝魔導士〟は術の邪魔をされると何も出来ない。
それでもその手にある銃器を離さなかったのは、流石というべきであろう。
「貴様、よくもイザベラを!!」
そう叫び、フレイムランチャーを向ける。だが突如として眼前に黒錆色のその男が現れ、添えるようにそっと右手で頭を掴まれ、一気に捻じ切られた。
瞬時に事切れて首から火花を散らしつつ滅茶苦茶に火炎を放ち続ける男の身体を、更に股間から真っ二つにする。
そして黒錆色の髪を掻き上げ、蛮刀を逆手で左に持ったまま無表情に周囲を見回し、彼はその動きを止めた。右手はポケットに突っ込んだままであった。
その惨状を見回したガドリングガンを持っているリーダーは、アスファルトに唾を吐きかけてそれを捨て、短剣をそれぞれ両手で抜き憎々しげに眼前にいる黒錆色の男を睨む。
そして、
「ダリル、動きを止めろ!」
「イエス・サー!」
ダリルと呼ばれた男は持っているグレネードランチャーを捨て、集中する。その瞬間、彼の身体が衝撃を受けて動かなくなった。
この衝撃は今までに何度となく受けた事がある。だから、特に驚きもしなかった。
一瞬にして最高200km/hの速度を弾き出すリーダーの両脚のモーターが唸りをあげる。
そして5トンもの超重量を支えることが可能な彼の骨格と人口筋肉から繰り出される斬撃は、持っている刃に対象が触れなくともその衝撃波のみで充分な殺傷能力を生み出す。
更に今回は〝PSI〟の能力である〝テレキネシス〟で動きを封じ込めてある。
万が一にも負ける筈がない。
そして、負けられない。
この男に潰された「組織」の仇を討つまでは。
彼は動かない。そしてその黒錆色の髪が顔を覆っているため、その表情を窺い知ることは出来ない。
諦めたのか、それとも絶望しているのか、どちらにせよ、これで終わりだ。
「殺った!!」
勝利を確信したそのとき、僅かなモーター音と、なにかの蓋が開く音が聞こえた。
そして次の瞬間、短剣から伝わって来た感触は肉を絶ち、骨を砕いたものではなかった。
鍛えられた金属同士が激しく打ち合い、そして砕ける音だった。
なんと、彼は200km/hの高速で突進しつつ繰り出された斬撃を左腕の力のみで受け止めた。
更に発生した筈の衝撃波をまともに受けた筈なのに、身体の何処にも傷はなく、ロングコートに至っては風に靡いてすらいない。そしてあろう事か、何事もなかったかのような無表情であった。
気の所為か、彼の全身を茶色の薄い膜が覆っているように見える。
そして蛮刀が微弱に、だが超高速で振動していることに気付いたのはこのときであった。
「貴様……ソニック・ブレードを……」
呟き、再び離れるべく後方へ跳んだが、その足が着地する前に彼は突進した。
アスファルトが摩擦熱で熔けるほど凄まじい踏み込みである。
「Good die」
超振動によって生じた熱を帯びている刃が、リーダーの首をバターの様に熔かしながら切断し、続いて袈裟斬りに両断した。
「そんな……俺の『能力』が……通じない……だと……!」
呆然として呟き、倒れるリーダーを見詰める男に
近付き、彼はその喉元に蛮刀を突き付けた。
「……誰に頼まれた?」
このとき初めて、彼はその黒錆色の男の声を聞いた。
「い、言えねぇ……死んでも言えねぇ……」
生唾を飲み込み、冷汗を垂らしながら彼は呟く。
「言ったら……殺される……」
「そうか」
喉元に突き付けられた蛮刀の切っ先が食い込む。皮膚が焼ける嫌な臭いが立ち込め、男の思考を停止させた。
だがそのとき、人間には絶対に聞こえない音が二人を直撃した。
「イ……ザベ……ラ……な……」
その音が男の体細胞の繋がりを断ち切り、液体となって崩れて行く。
数瞬のうちに、彼はただの液体となってアスファルトを赤く染めた。
「どうして……」
先ほどの〝魔導士〟が、フォノン・メーザーを構えて狂った様に引き金を引いている。
だが、
「どうしてあんたは平気なんだよ!?」
彼はゆっくりと近づき、逆手に持っている蛮刀で無造作にその胴を薙ぎ払った。
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