転生したら死にそうな孤児だった

佐々木鴻

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学舎と姉妹と

16 姉妹、【貪食曠野】を蹂躙する

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 フロランスが孤軍奮戦する数時間前。ナディとレオノールは溢れるオークの軍勢をガン無視して、氾濫している【オークディザード】に突入していた。

オークディザード】。

【交易都市グレンゴイン】から徒歩で半日ほど北へ行くと森に着く。そのまま森に入り更に東北東に進むと緩やかに下る巨大な洞穴があり、その突き当たりにある石室が、その入り口となっている。

 構造は単純な、何処にでもあるようなありふれた王道の迷宮で、通路も幅3メートル、高さ4メートル程度だ。

 棲息している魔物はもちろんオークであり、そして一度に二匹までしか出現しない。

 何故か。

 理由は単純で、巨体を誇るオークがそれ以上出現しても、通路が狭くて動きを阻害するからだ。たまに五匹以上ポップして、通路に詰まって動けなくなっているのが発見されるが。

 そんな魔物出現数に限りのある【オークディザード】だが、その攻略難易度はかなり高い。

 何故か。

 通路が狭く、魔物がそれを塞ぐように出現するということは、それら全てを倒さなければ先に進めないということだから。

 よって、勢いそのままに突貫したナディとレオノールもその例に漏れず、出現するオークたちを駆逐しなければ奥には進めない。それは相当な労力であ――

「【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・アクセラレーション】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【ソーサリー・リバーブ】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【コントロール・アトモスフィア】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【マップ・クリエイト】【マッピング】【メタスタシス・オンプレイス】【ストレージ】よーし次!」
「【ミラー】『【ライトニング・フォーム】【リ・ホウルソーサリー】【マルチプル】【トラント・ソール】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ソーサリー・プリザーヴ】【チェインバースト・ライトニング】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【ライトニング・バースト】こっちは準備オーケー』」
「うー、レオの【ミラー】羨ましい」
「『ゔい』」
「でもこっちはこっちで出来ることをするわ。【フレイム・フォーム】【リ・ホウルソーサリー】【マルチプル】【トラント・ソール】【ディメンション・サークル】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ソーサリー・プリザーヴ】【フィクスト・ノヴァ】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】【バーン・デストラクション】」

 ――るのだが、例によってそんなの関係ねぇとばかりにアホほど強化魔法を重ね掛けし、解析と鑑定で迷宮の構造を地図化して把握する。
 そしてレオノールが鏡映分身してから全身に雷を纏い、【魔法残響】と【多重詠唱】の効果により無数の立体魔法陣を発動して炸裂する雷に【条件発動】と【効果維持】を重ね掛けし、ナディはそれを炎で同様に展開した。
 結果ナディが炎で、レオノールが雷で大小様々な攻撃魔法を無数に自身の周囲に浮遊させ維持し、

「とっつげきー!」
「『うらー』」

 いつもどおりに突貫した。緊張感など有ったものではない。

 更に構造を地図化しているため迷うことなど一切なく、氾濫しているが故に通路が詰まって身動きが取れないほど出現しているオークを秒で消し飛ばして爆走――いや、飛行する。

 そうして炎と雷が炸裂してオークを消し飛ばし、ドロップ品をいつもどおりに根刮ぎ掻き集める。オマケに背後に湧いても挟まれないように、滅却する炎と雷を置いて後顧の憂いを断つ徹底ぶりだ。

 更に継続強化トグルバフの効果により、二人の周囲を浮遊している炎と雷の炸裂球が途切れることなく生成されている。

 世の魔術師が見たら、その魔力消費の膨大さと技術の高度さに驚愕するだろう。というか、そもそも誰かさんのように【マキシマム・マギ・リカヴァリー】持ちでもなければ、間違いなく魔力が保たないし速攻で枯渇する筈なのだが――ナディもレオノールも外部魔力を利用しているため、自前は一切使っていない。

 ちょうど迷宮氾濫で魔力が溢れまくっているし!

 二人のやる気も溢れまくっているし!

 人々のために、そのささやかな生活を守るために、今まさに戦っているであろうフロランスのために!

 それになにより……美味しいお肉のために!

 二人が頑張る主な動機は、実に単純。

 主に物欲で!

「『そういえばお姉ちゃん』」

 そんな魔法を纏い、溢れまくって迷宮の通路に詰まっているオークを消し飛ばして落ちる魔結晶とお肉を掻き集め、だがそんな戦闘中とは思えないほどノンビリとレオノールがナディに訊く。

「『フロランス姉は絶対に大人しくていない。止めればいいのに街の無能どもを助けようと率先して戦う筈。えっちだけど実はとんでもなく強いフロランス姉でもあの大群は無理』」

 ではなくと評するレオノール。オークはあくまでその程度だとしか思っていないようだ。あとレオノールにとってフロランスの枕詞は、どうあってもであるらしい。

「あー、うん。そだねー。アーチーがフォローしても無理だろうね。でも――」

 通路を高速で飛びどんどん深層へと進みながら、ちょっと心配そうにしているレオノールへ自信満々に言いった。

「大丈夫でしょ。なんといってもガエルくんに援軍頼んだし、ちゃんと呼んだから」
「『お姉ちゃん。それだと間に合わない。えっちなフロランス姉が死んじゃう』」
「そう? 私は一切心配してないよ。だって――」

 編隊飛行よろしく並んで飛びながら楽しそうに、そして何故かちょっと嬉しそうに、

「呼んだの、ヴァルだから」
「『じゃあ大丈夫。お肉集め――もとい迷宮踏破に集中』」

 そう太鼓判を押した。それにレオノールも即納得し、迷宮踏破という体のなにかに集中する。

 ガエル氏が早馬で【交易都市グレンゴイン】を発ったのは夕方前。どう頑張ったとしても王都に着くのは日が昇る数時間前だろう。其処から大急ぎで出立したとしても、現着は早くて日が沈んだ頃だになる。

 それが一般的だ。

 だが、ヴァレリーは全然一般的ではない。移動速度に限っていえば、高速で飛翔するナディよりも確実に上だ。これは断言出来る。

 なにしろ【魔王】だから。

 更にいうなら、ナディから影の魔剣【グルーム・ブリンガー】を受け取ったことでよりなったため、物理法則すら無視した移動が可能になっているのである。

 それが判っているから、いわば既に勝利が約束されたから、レオノールは懸念の一切を考えないことにした。そう誘導したナディは言わずもがな。

 そうして憂いを排除した二人は、異常にポップするオークをまるで掃除でもするかのように次々と消し飛ばし、

「よっしゃー! 大腰筋キターーーーーーーー!」
「『キメが細かく脂身も殆どないあっさりヘルシーお肉をゲット。さすおね』」
「レオだって側頭筋拾ったでしょ。そっちの方がレアだよね」
「『むふぅー。後でタレ付き焼肉しよう』」
「いーねー。フロウも一緒にお疲れパーティしなくちゃねー」
「『賛成。じゃあ気合い入れてお肉を集める。あ。横隔膜拾った』」
「おお、やるね~。あ、大腿二頭筋拾った」
「『深層に行くほどレアドロが多くなる。もっとずっと行くべき』」
「だよねー。じゃあ更に張り切ってこー」
「『おー』」

 そして遂に建前を忘れて本能と食欲全開で突き進む。何か色々間違っているような気がするが、きっとナディは結果が同じなら問題なしと言うだろう。ある意味では真実だが、お題目も必要な時もあるという概念を綺麗に忘れているようである。いや、そもそもそんなものは最初から無いのかも知れない。

 お題目そんなものは食べられないし!

 前世がどうであれ現在の出自や育ちが貧民である所為か、はたまたその弊害か、二人の優先順位は生理的欲求特化であるらしい。

 安全の欲求? 自分らでなんとかする。社会的欲求? 食えるかそんなモン。承認欲求? 自分は自分だし他所は知らん。自己実現の欲求? 求めるまでもなくらしく生きとるわ。

 そんな感じで、何処ぞの心理学者な誰かさんの欲求階層など知ったこっちゃないとばかりに我が道を行く姉妹であった。意外と常識人で博識な某ガチムチギルマスが頭を抱えそうだ。既に諦められているかも知れないが。

 そうして本来の目的を思い出したかのようにノリノリで狩りまくり、ドロップするそれらを根刮ぎ拾いつつ、だがやはりフロランスが気になるのか最速で深層へ向かう二人であった。

 ちなみに【オークディザード】は十層からなるストラクチャから始まり最深層の領域型フィールドへと繋がる特殊迷宮であり、其処には拡がっているのは50ヘクタールにも及ぶ大地だ。
 そして楢の広葉樹林がわずかな隙間を残して密集しており、その数は優に百を超える。
 其処にそれぞれオークの部族が漏れなく棲息してるため、完全攻略には相当な時間が掛かるだろう。
 そしてその部族のどれかにディープ・マスターが存在し、更にその時期で強さや種別が異なるのだ。

 端的にいえば、頻繁に攻略されていればディープ・マスターはそれほど強くはない。ぶっちゃけるとオークがちょっと進化した【ハイ・オーク】がそれの時すらある。

 だが今回のように氾濫するほど放置された場合はどうなるか。

 確実に上位種が生まれる。

 事実、今回の氾濫で溢れ出たオークの大群の中にはいたのだ。組織立って指揮する個体、将軍種ジェネラルが。

 ならば最低でも、領主種ロード王種キングは居るだろう。

 いやこの規模を見るに、最大まで進化している可能性すらある。

 つまり――皇帝種エンペラーが居る。

 そして迷宮氾濫を鎮める条件。それは溢れた魔物を殲滅するか、ディープ・マスターを倒すかのどちらかだ。

 前者は間違いなく不可能。それが出来るだけの兵力が無いし、なにより人々が諦めてしまっている。それに、残っているフロランスやアーチボルトにそれを望むのはいささか酷というものだ。

 ならば、ディープ・マスターを倒すしかない。

 最速で最深層へ行き、そして最速で見付け、最速で倒すしかない。

 なのだが……

「いやー入れ食い入れ食い♪ 根刮ぎ淘汰してお肉をいっぱい集めて王都の人々を潤してやるわ!」
「『良質なお肉を集めて人々に提供して更に経済をも回す冒険者の鏡。さすおね』」

 最速どころかロープレでマップ全制覇しないと気が済まないゲーマよろしく、其処彼処に湧くオークを逐一殲滅しながら進んでいた。初志貫徹がなっちゃいないし、例によってレオノールがそれを褒め称えている。しかもサラウンドで。まぁそれでも充分早くて速いのだろうが。

 そうして二人で和気藹々と駄弁りながら進むこと約三時間――

「着いたー! 深層だー!」
「『着いたー。広いー』」
「そして何故か夜だー。迷宮なのに夜空があるぅ」
「『地下の筈なのに何故か空がある。迷宮はやはり謎空間』」

 最深層の領域型フィールドに到着した。

 早速ディープ・マスターを探して速やかに駆逐するのが常套手段なのだが、まず二人がしたことは――

「よし、まず休憩。軽食とって作戦会議よ」
強化魔法も切れたし丁度良い。最上の結果を出すべく焦らず最終決戦に向けて英気を養う。さすおね」

 休憩だった。実に正しい判断ではあるが、見る人が見たら確実にモヤるだろう。しかし、そもそも氾濫している迷宮に突入し、僅か三時間で十階層を突破して最深層に至っている時点でとんでもない偉業である。本人たちは無自覚だろうが。

 軽食――中がフワフワ外側カリッとバケットに、新鮮お野菜と甘辛ダレ付きスライスお肉を挟んだバケットサンドを食べ、砂糖と塩を適量入れて酸味のある果汁を混ぜた簡易スポドリを呑みながら、攻略方針を相談するナディとレオノール。そうして約三十分。二人はお互いに悪い笑みを浮かべた。

 かくして、再びアホほど強化魔法を重ね掛けした二人は飛翔する。ディープ・マスターを探すべく――

「こんなバカみたいに広い所に一体しかいないヤツを探すのは非効率よ! というわけで――」

 ――訂正。一般的な正攻法はしないらしい。

「『じゃあレオは南から行く』」

【ミラー】で次元干渉分身したレオノールが、サムズアップをしながら言う。それにサムズアップで答えるナディ。

「私は北からね。文句を言うヤツもいないし、手加減なしで作戦通りに殲滅開始よ!」
「『おー』」

 そうして各々別方向へ飛び去る二人だった。

 ほどなく、予定ポイントに着いた二人は、

「【リ・ホウルソーサリー】【マキシマイズ・マギエクステント】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ギガ・ディメンション・サークル】【フレイム・リージョン】【サンカント・ソール】【インセンティリィ・ボム】」
「『【リ・ホウルソーサリー】【マキシマイズ・マギエクステント】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ギガ・ディメンション・サークル】【フレイム・リージョン】【サンカント・ソール】【インセンティリィ・ボム】』」

 何処かで見たがそれよりも広範囲で数も桁違いな魔法を各所で掛けまくり、領域型フィールド階層の上空を埋め尽くした。

 聡い者ならば、二人が何をしようと――いや、仕出かそうとしているかがすぐに理解出来るだろう。

 予定していた魔法を各所に全て配置し終わり、巨大な平面魔法陣が無数に上空を埋め尽くしたその更に上の中央に集まった二人は、

「【アクティベート】」
「『【アクティベート】』」

 強化魔法で効果や範囲、威力が跳ね上がったその魔法を、一斉に起動した。

 そして降り注ぐ、炸裂焼夷弾の雨。

 それは階層全てを覆い尽くすほど無数にあり、そして巨大でもある平面魔法陣全てから降り注いでおり、その効果が及ぼす結果は火を見るよりも明らかである。焼夷弾だけに。

 そう。二人が仕出かしたのは、【カースド・ウッズ】でナディがやらかしたの二番煎じだ。ただし今回は威力も範囲も桁違いだが。

 そうして階層を覆い尽くしたそれは、着弾と同時に激しく燃え上がって全体に延焼し始め、領域型フィールド階層の全てを炎で覆い尽くした。

 それがどういう結果をもたらすか、もう考えなくとも判るだろう。

 燃え上がる炎は点在する樹林全てに延焼し、其処に棲むオークを拠点となっている巣諸共焼き払う。その炎から逃れて樹林を脱出しても、追い撃つように降り注ぎ炸裂して燃え上がるそれから逃れられる筈もなく、あるものは焼かれ、またあるものは煙に巻かれて力尽きる。

 ナディとレオノールは、そうして倒したオークからのドロップ品を【収集】と【収納】の魔法を駆使して集めまくっていた。

 そして――

「うわ、なんか凄いセット入った」

 若干禍々しいような、トゲトゲしくてヒャッハーしているような、絶対にヒト用じゃないようなサイズ感がおかしい防具一揃えと柱のような戦鎚ウォーハンマーが【ストレージ】に入った。オマケにセットの兜に硬い謎の毛なモヒカンが、そりゃあもう立派にそそり立っている。

「なにこの武器防具の揃え。鎧に【耐久強化】が付与されてるよ。あとは籠手に【筋力強化】、脛当と鉄靴が一体化してるけど【敏捷強化】が付与されてるし、戦鎚ウォーハンマーに【攻撃貫通】も付いてて、兜には……常時発動型な【狂化】?」
「『優秀なセットだと思ったら思わぬ落とし穴。この世はやはり甘くない』」
「オマケに全部装備するとセット効果で能力が2倍になるみたいだねぇ。更に【狂化】も2倍」
「『凄く要らない。質流し決定必死』」
「冒険者ギルド経由でオークション行きかなー」

 ちなみに二人は【ストレージシェアリング】で共有化しているため、それがどんな見た目か各々確認出来る。その上での低評価であった。

 そもそも元々武器や防具に興味がない上に必要としないし。

 だが世間一般的には、どう考えてもマイナスにしかならないであろう効果を除けば規格外に優秀であると評されるであろう。
 それに、ナディは気付いていない――というか興味が無いから流していることだが、このセットは一つ装備で効果が1.2倍になり、二つで1.4倍になる仕様であった。つまり、兜以外の四つを装備すると効果が1.8倍になる優良装備なのである。

 鎧の見た目が某世紀末なヒャッハー系だが。

 そのセットは、本来ならばディープ・マスターにも成り得る上位種な王種キングの装備品で、通常の討伐でのドロップは非常にレアだ。そして一体につき超低確率で一つしか出ないのだが、実は確実にドロップする方法がある。それはという、非常に高難度でほぼ不可能な方法なのだ。
 つまり攻撃と判断される前に、もしくはそうと悟らせないように倒すしか方法が無い。

 ……のであるが、二人はその困難である筈の方法を、いとも容易くしかも意図せずクリアしちゃったのである。

 ぶっちゃけてしまえば、何処の世界に迷宮の森林エリアを放火して魔物を倒しまくり、挙句ディープ・マスターすら一酸化炭素中毒もしくは火災に巻き込むことで討伐するヤツがいるかと大多数が言うだろう。

 まぁ、ナディなら「バアアアン!」とかいうエフェクト文字を背負って無駄にイケてるキメ顔で「此処にいるわ!」とか言うだろうが。

 そうして放火をしまくり、一時間後。

【ストレージ】に良質で希少なお肉がトン単位で入り、更に橙色の大剣とゆうおう色の戦鎚ウォーハンマー、そして白色の大斧が入った。

「お。なんかすんごい武器が三種も入った」
「『おお。それはきっとディープ・マスターである皇帝種エンペラーのドロップ品。レアドロをいとも容易く手に入れる。さすおね』」

 ちなみに皇帝種エンペラーのレアドロ方法も王種キングと同じである。そしてドロップも一体につき一つだ。

 ナディもレオノールも気付いていないのだが、今回の氾濫で王種キングが五体、皇帝種エンペラーが三体いたということになる。

 これは明らかに異常だ。何故なら本来は、ディープ・マスタークラスの同格は複数体発生しない。

 ならばそれが可能な状況とは――答えは簡単。

 それ以上の存在【災厄種ディザスター】がいる。

災厄種ディザスター

 それが一体でも発生してしまえば、容易に国が滅びるといわれるほどだ。なにしろその強靭な膂力は元より、物理防御耐性がとんでもないばかりかこのクラスになると魔術耐性すら備えているのが常だ。

 一説によると、千年以上前に存在した【燃え爆ぜる皇帝竜】もそうして発生した個体であったのではないかと、研究者たちは説いている。

 そんな深刻極まる氾濫迷宮の中にいるナディとレオノールは――

「おおう。なんかでっかい魔結晶とすんごい魔力が籠った石が入った」
「『あ。お姉ちゃんそれ【セージ・ストーン】。錬金術の夢で目的な【生命の水エリクサー】の原料の一つ』」
「あー、そういやそうだったね。でもコレってトラブルの元ね……イラネ」
「『その判断は賢明。余計な希望を与えずトラブルを回避して世界に安寧をもたらす。さすおね』」

 全く、完全に、意図せずに、その【災厄種ディザスター】すらもサラッと討伐していた。いくらそんなに膂力があり、物理や魔術に高い耐性があったとしても、呼吸を必要としている以上、一酸化炭素中毒には勝てなかったらしい。

 方法や経過はどうあれ、本来であればそれは偉業であり、英雄と讃えられ諸国から様々な褒賞と恩恵が与えられ、更にとんでもない特権すらも得られるのだが、

「【マキシマイズ・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【センス・オーガニズム】階層全域に反応なし。終わったかなー」

 そんなの知らんし要らんとばかりに、そういう発想にすら至らない二人であった。

「お姉ちゃんお疲れ様。そしてお肉が山ほど手に入った。今日はご馳走」
「レオもお疲れー。よーし、今夜は色々奮発するわよー」
「気立てが良くて料理上手。そして程よいお胸と胸騒ぎがしそうなえっちぃ腰つきでヴァレリー兄様を喜ばせる。さすおね」
「ちょお! 私はそんなつもりでヴァルを呼んだんじゃないわよ! あくまでも最速で来る援軍として最大戦力を――」
「そういうことにしとく。実は嬉しいけど素直にデレられないツンデレお姉ちゃん。もえおね」
「此処で新語を出して来た!?」

 そうして一仕事を終えた二人は、最速で【オークディザード】から脱出するため飛び発った。

 美味しいお肉を食べたいから!
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