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地平線を越えて
8 剣花の天使と不滅竜①
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竜とは、属性や形状によって多少の個体差はあるものの往々にして強力であり、本来であれば個人で倒せる魔物ではない。少なくとも複数名の集団か、それらを集めた軍団で対応し討伐するものなのである。
よって仮に個人で遭っちゃった場合は、お嬢さんお逃げなさいするしかない。逃げられるかどうかは置いておいて、だが。
もっとも竜は知能もそれなりにあるし、実は草食が多いから、48kphで突撃するクマさんから逃げるより確率が高かったりする。
それと余談だが、グランツ王国の辺境都市ストラスクライドの冒険者ギルドのサブマスであるユリアーネ・シュヴァルツは龍人だ。あと百合のヒトでもあり、ナディをちょっと狙っている。
だが遭っちゃったら逃げれば良いが通用するのは野生での話であり、迷宮内ではダンジョンギミックでない限り殺意マシマシで突貫して来る。
そう、現在ナディが直面している事態のように。
胴体に結晶を纏い、そして前足が盾のようになって先から棘が生え、更に全身から溶岩による高熱を発している、三体が融合したらしい竜を前に、取り敢えず距離を取って観察する。
そしてその間に、作っておいた魔力を供給する指輪を稼働させた。指輪に込められた魔力が緩やかに流れ込み、減少したそれを賦活させる。急激な賦活は魔力酔いするし、なによりヒトとは違って手加減出来ないから思わぬ事故に繋がるのだ。
いつぞやにヴァレリーがナディにそれをしたことがあったが、お互いに全く影響がなかったのは謎が残ることではあるものの、気にしたら負けである。
どうにか隙を突いて一撃を喰らわせたいところだが、竜に対して非力なナディのそれなどたかが知れている。
「レオなら魔法でなんとかするよなーきっと。そういえば『【ミラー】を完全に使い熟した。ヴイ』とか言ってたなー凄いなー。多次元干渉魔法なんて、三回目で作ったけど結局使えなかったもんなー。自分が二人いたら、便利だろうなー」
なにかを調整しているのか動かない竜を目前に、やはり圧倒的な熱量で近付けないナディは、取り敢えず展開している【ブレード・ウィング】を飛ばして当ててみた。その刀身は物質的なものではないのだが、竜の全身を包む魔力に阻まれ刺さらない。
「そういえば、なんか『クソガキ』って言ってたわね。もしかしてレオのこと? うわー、レオったらあの溶岩倒したんだ。凄いなー。【ストレージ】に入れてた【クラウ・ソラス】役に立ったのかなー。だと良いなー。てか、それよりコイツ、どうしてくれよう」
やっぱり氷結魔法で叩くか。いや、それが効くならさっきので多少なりともなんらかの反応があった筈。それが無いということは、この竜には氷結系は効果がないのだろう。
「ヤバイなー。どうしようかなー。まぁ方法がないわけじゃないけど……うーん……」
そんな思考を巡らせていると、その竜が咆哮を上げ、そして溶岩で出来た皮膜の翼を広げた。そしてゆっくりと羽ばたき、空を飛び始める。
「うわコイツ、マジかー。この上飛ぶのか手が付けられないな」
そう愚痴を零し、いつもの飛行魔法セットで同じく舞い上がる。
「取り敢えずは、魔力を減らさないとね」
そうしてナディは、効果のあるなしに関わらず、
「【フォーゲットフルネス】【オブリビアン】【リミテーション】【マナ・ディスパージ】【エレクトリー・リージョン】【フレア・リージョン】【アクア・リージョン】【フロスト・リージョン】【エアリアル・リージョン】【グランド・リージョン】【ホロウ・ブレイド】【ピアッシング・ウィンド】【ピアッシング・フレイム】【ピアッシング・ヘイル】【ピアッシング・ロック】【グラベルショット】【エネルギー・ハマー】【ピアッシング・バーストシェル】【ヘリックス・バーストシェル】【インセンティリィ・ボム】【ライトニング・シャワー】【フレア・バインド】【ライトニング・チェイン】【フリーズ・バインド】【フレイム・ヴォルケーノ】【フィクスト・ノヴァ】【フロスト・ノヴァ】【グラベル・ノヴァ】【グラベル・ガイザー】【アトミック・ガイザー】【コンバージェン・レイ】【フローズン・ナイトラジン】【フローズン・オキシジェン】【フローズン・ハイドラジン】【フレイム・ヴォルケーノ】【バーン・デストラクション】【フロスト・デストラクション】【ブレード・ロック】【デストラクション・サークル】【アブソリュート・ゼロ】ついでに更新【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ミラー】【ソーサリー・リバーブ】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】」
弱体化や攻撃補助、攻撃や強化魔法をこれでもかとばかりに撃ちまくる。効果の有る無しは、取り敢えず度外視で。
そして、意外と効果があったのは、
「【エレクトリー・リージョン】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【サンカント・ソール】【ヘリックス・バーストシェル】【レール・カノン】」
電磁空間を形成し、【戦闘魔導士】御用達な魔弾を超高速で撃ち出す複合魔法であった。
「凄い凄い。シンプルが一番効くわ! あとやっぱりシルヴィは最高ね!」
魔弾をばら撒き竜の外皮や鱗を削りながら、
「【インセンティリィ・ボム】」
時々焼夷弾も交えて爆撃するナディであった。そして預かり知らぬところで株が急上昇するシュルヴェステル。本人にしてみれば、自分が使えない魔法で上げられても迷惑なだけだろうが。
そうしてチクチク攻撃するが、それが効果あるかと問われればそうではなく、多少は削られるがそれよりも竜の一撃の方が圧倒的だ。現に攻勢に出られれば、ナディは受けるどころか避ける選択肢しかない。
『小賢しい。貴様はなにがしたいのだ』
周りを飛び回り、魔弾を撃ちながらチクチク攻撃するナディに辟易したのか、両前足と尾を振り回して竜が言った。答える義理がないため、取り敢えず無視するが。
『まあいい。何故か背を集中して狙っていたようだが、その無駄な足掻きを繰り返したところで、貴様に我は倒せない。何故なら我は! 我が魔王の長子だからだ!』
「コイツ、まだ言うか。ん? てか、我が?」
その引っ掛かる言い方にわずかに首を捻り、だがすぐに思考を切り替え振り回される両前足と尾を回避する。余計な考えは命取りだ。それはあとで考えれば済むことだし。
そうしてチクチク魔法で攻撃するのにも、確かに限界がある。そう、遂に、魔力が尽きたのだ。
魔力供給リングの。
「よーし! 長かったー! 誰よこんなとんでも大容量な魔力供給リング作ったのは。はいそれ私! さすが私! さすわた!」
やっと攻勢に出られるためか、若干テンションがおかしくなっているナディである。
それはともかく、容量が空になった指輪を外し、実はしつこく狙っていた背の一点に狙いを付け、そして――
「【マキシマイズ・ブーステッド・フィジカル】【ヘヴィ・グラヴィディ】【クリエイト・メタルクラスタ】【気力拳】! 私の腕一本、持ってけーー!!」
最大強化された身体能力と、金属に包まれ、かつ【気力】により更に強化と硬化されたナディの右の拳が、重力によって最大加重されて竜の背の一点に突き刺さる。
其処は硬い鱗だけではなく、分厚くやはり硬い肉塊にも包まれたところ。そして更に、溶岩竜と融合したことにより摂氏千度を超える超高熱となっている。
そんな危険な場所に、ナディは躊躇なく右腕を突っ込んだ。
その瞬間だけでナディの右腕は炭化し、そのあまりの激痛に数瞬も耐えられず、すぐさま引き抜いて飛び退る。その行動はあまりに突飛過ぎて、思わず呆然とする竜だった。
『は? はは、ははははははは! 貴様が何をしたいのかは知らぬが、無駄だったようだな! その無駄な行動で片手を使えなくするとは、愚かも此処に極まれり――』
「【リバイブ】あっぶなー。危うく腕一本無くすところだったよ。やっぱり【気力】だけじゃなくて金属でも保護してて良かったー。でも、まぁ――」
炭化した右腕を即座に回復させ、具合を確かめて問題ないのを確認し、笑みを浮かべた。凄く良いドヤ顔である。
「初産の痛みと比べたら、百億倍マシだけど」
それはヒト種なのに魔王の子を生んだ アデライドだけである。そしてその痛みは想像を絶するのだが、他所を知らないからみんなそんなモンだと思い込んでいた。
そんな返答に困ることをドヤりながら言われ、だがそんなのは知らんとばかりに皮膜を広げてナディに襲い掛かる。
『だから! どうしたと! いうのだ! 所詮貴様は! 我をどうすることも! 出来ぬのだ!』
「それはアンタも一緒でしょ。ほらほらー、どうしたのぉ? 私をどうにかするんじゃないの? やってみなさいよ、こぉの、中途半端な残りカスが!」
明らかなナディの、格下であり取るに足りない存在な筈の小娘の挑発に、竜は激昂した。
そして竜は、自身の中に宿る融合させた魔結晶の魔力を解放し――
「【リリース】【マキシマイズ・マナ・ディプライヴ】【エクスプロード・マナクリスタル】」
――だがそれが、体内に入り込んだ異物に急速に吸収される。その異物とは、先ほどナディが手を突っ込んだ時に置いて来た、空になった魔力供給リング。そしてナディは、その吸収する魔力が臨界に達したとき、自壊し爆発する条件発動魔法を組み込んでいた。
「な!? ぶわぁかな! 魔力がぁ! 吸われる! おのれ! だが制御すれば――』
「あームリムリ。それそんな生易しいモンじゃないから。アンタの魔力を吸い尽くすか、もしくは魔力量が全開になるまで止まらないよ。まぁ――」
ニヤリと笑い、そして不自然に距離を取った。
「今回は全開になっても止まらないで、臨界させるけどねー。【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】」
ナディが埋め込んだリングは、遂に竜一体分の魔力を吸収し、それでも止まらず更に吸い続ける。その効果は劇的で、盾のようだった前足が萎んで細くヒョロイものになる。そして全身を包んでいた溶岩の熱気も、徐々に薄れて来た。
この時点で、それは臨界する。
竜の背、ちょうど魔結晶の真上でそれは大爆発を起こす。そのため避けることも逃げることも出来ない竜は完全にそれに巻き込まれた。だがその余波は当然ナディにも届き、災害級の強大な魔力爆発であるが故に全反射魔法も絶対魔法障壁も、その効果ごとことごとく砕かれる。展開してある【ブレード・ウィング】で身を包んで盾にしなければ、巻き込まれて最悪死んでいたかも知れない。
それでも、ナディは生き残った。かなり辛うじて、ではあるが、
「あー、ホントしんどー。もう帰ってお風呂入って寝たい――」
が、まだ終わっていなかった。爆風が消え、舞い上がる土煙が晴れ、そして其処に、全身を罅だらけにして血を流す竜がいた。
『驚いた』
そんな満身創痍の竜が静かに言う。
『たかがヒトと侮っておったわ。これは我の油断の結果だと素直に認めよう。まさか我が、不死不滅となった【不滅竜】が此処まで追い詰められるとは! 残念だが我の残された時間は少ない。だが! 貴様ももう動けまい! かくなる上は、我が地上に行きヒトどもを命尽きるまで根絶やしにしてくれよう!』
言い残し、そのまま地面に突き刺さる。それだけで其処は崩れ、見たことのある坑道がその姿を現した。
其処は、その坑道は、正しく【結晶鋼道】。
そして竜は坑道に身を躍らせ、高速で飛び去って行く。
「あーもー。なんなのよ一体。面っ倒臭いわね!」
言い捨て、そのまま竜を追うと決心するナディ。このままだと、絶対に碌なことにならないのが目に見えているから。
それに、其処まで追い込んだ責任が、自分にはある。ならば、きっちり止めを刺すのが追い込んだ者の責務だから。
激戦により疲労が溜まり今にもぶっ倒れそうになる身体に鞭打ち、剣の翼をはためかせ、飛び去る竜を追うために坑道へ身を躍らせた。
よって仮に個人で遭っちゃった場合は、お嬢さんお逃げなさいするしかない。逃げられるかどうかは置いておいて、だが。
もっとも竜は知能もそれなりにあるし、実は草食が多いから、48kphで突撃するクマさんから逃げるより確率が高かったりする。
それと余談だが、グランツ王国の辺境都市ストラスクライドの冒険者ギルドのサブマスであるユリアーネ・シュヴァルツは龍人だ。あと百合のヒトでもあり、ナディをちょっと狙っている。
だが遭っちゃったら逃げれば良いが通用するのは野生での話であり、迷宮内ではダンジョンギミックでない限り殺意マシマシで突貫して来る。
そう、現在ナディが直面している事態のように。
胴体に結晶を纏い、そして前足が盾のようになって先から棘が生え、更に全身から溶岩による高熱を発している、三体が融合したらしい竜を前に、取り敢えず距離を取って観察する。
そしてその間に、作っておいた魔力を供給する指輪を稼働させた。指輪に込められた魔力が緩やかに流れ込み、減少したそれを賦活させる。急激な賦活は魔力酔いするし、なによりヒトとは違って手加減出来ないから思わぬ事故に繋がるのだ。
いつぞやにヴァレリーがナディにそれをしたことがあったが、お互いに全く影響がなかったのは謎が残ることではあるものの、気にしたら負けである。
どうにか隙を突いて一撃を喰らわせたいところだが、竜に対して非力なナディのそれなどたかが知れている。
「レオなら魔法でなんとかするよなーきっと。そういえば『【ミラー】を完全に使い熟した。ヴイ』とか言ってたなー凄いなー。多次元干渉魔法なんて、三回目で作ったけど結局使えなかったもんなー。自分が二人いたら、便利だろうなー」
なにかを調整しているのか動かない竜を目前に、やはり圧倒的な熱量で近付けないナディは、取り敢えず展開している【ブレード・ウィング】を飛ばして当ててみた。その刀身は物質的なものではないのだが、竜の全身を包む魔力に阻まれ刺さらない。
「そういえば、なんか『クソガキ』って言ってたわね。もしかしてレオのこと? うわー、レオったらあの溶岩倒したんだ。凄いなー。【ストレージ】に入れてた【クラウ・ソラス】役に立ったのかなー。だと良いなー。てか、それよりコイツ、どうしてくれよう」
やっぱり氷結魔法で叩くか。いや、それが効くならさっきので多少なりともなんらかの反応があった筈。それが無いということは、この竜には氷結系は効果がないのだろう。
「ヤバイなー。どうしようかなー。まぁ方法がないわけじゃないけど……うーん……」
そんな思考を巡らせていると、その竜が咆哮を上げ、そして溶岩で出来た皮膜の翼を広げた。そしてゆっくりと羽ばたき、空を飛び始める。
「うわコイツ、マジかー。この上飛ぶのか手が付けられないな」
そう愚痴を零し、いつもの飛行魔法セットで同じく舞い上がる。
「取り敢えずは、魔力を減らさないとね」
そうしてナディは、効果のあるなしに関わらず、
「【フォーゲットフルネス】【オブリビアン】【リミテーション】【マナ・ディスパージ】【エレクトリー・リージョン】【フレア・リージョン】【アクア・リージョン】【フロスト・リージョン】【エアリアル・リージョン】【グランド・リージョン】【ホロウ・ブレイド】【ピアッシング・ウィンド】【ピアッシング・フレイム】【ピアッシング・ヘイル】【ピアッシング・ロック】【グラベルショット】【エネルギー・ハマー】【ピアッシング・バーストシェル】【ヘリックス・バーストシェル】【インセンティリィ・ボム】【ライトニング・シャワー】【フレア・バインド】【ライトニング・チェイン】【フリーズ・バインド】【フレイム・ヴォルケーノ】【フィクスト・ノヴァ】【フロスト・ノヴァ】【グラベル・ノヴァ】【グラベル・ガイザー】【アトミック・ガイザー】【コンバージェン・レイ】【フローズン・ナイトラジン】【フローズン・オキシジェン】【フローズン・ハイドラジン】【フレイム・ヴォルケーノ】【バーン・デストラクション】【フロスト・デストラクション】【ブレード・ロック】【デストラクション・サークル】【アブソリュート・ゼロ】ついでに更新【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ミラー】【ソーサリー・リバーブ】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】」
弱体化や攻撃補助、攻撃や強化魔法をこれでもかとばかりに撃ちまくる。効果の有る無しは、取り敢えず度外視で。
そして、意外と効果があったのは、
「【エレクトリー・リージョン】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【サンカント・ソール】【ヘリックス・バーストシェル】【レール・カノン】」
電磁空間を形成し、【戦闘魔導士】御用達な魔弾を超高速で撃ち出す複合魔法であった。
「凄い凄い。シンプルが一番効くわ! あとやっぱりシルヴィは最高ね!」
魔弾をばら撒き竜の外皮や鱗を削りながら、
「【インセンティリィ・ボム】」
時々焼夷弾も交えて爆撃するナディであった。そして預かり知らぬところで株が急上昇するシュルヴェステル。本人にしてみれば、自分が使えない魔法で上げられても迷惑なだけだろうが。
そうしてチクチク攻撃するが、それが効果あるかと問われればそうではなく、多少は削られるがそれよりも竜の一撃の方が圧倒的だ。現に攻勢に出られれば、ナディは受けるどころか避ける選択肢しかない。
『小賢しい。貴様はなにがしたいのだ』
周りを飛び回り、魔弾を撃ちながらチクチク攻撃するナディに辟易したのか、両前足と尾を振り回して竜が言った。答える義理がないため、取り敢えず無視するが。
『まあいい。何故か背を集中して狙っていたようだが、その無駄な足掻きを繰り返したところで、貴様に我は倒せない。何故なら我は! 我が魔王の長子だからだ!』
「コイツ、まだ言うか。ん? てか、我が?」
その引っ掛かる言い方にわずかに首を捻り、だがすぐに思考を切り替え振り回される両前足と尾を回避する。余計な考えは命取りだ。それはあとで考えれば済むことだし。
そうしてチクチク魔法で攻撃するのにも、確かに限界がある。そう、遂に、魔力が尽きたのだ。
魔力供給リングの。
「よーし! 長かったー! 誰よこんなとんでも大容量な魔力供給リング作ったのは。はいそれ私! さすが私! さすわた!」
やっと攻勢に出られるためか、若干テンションがおかしくなっているナディである。
それはともかく、容量が空になった指輪を外し、実はしつこく狙っていた背の一点に狙いを付け、そして――
「【マキシマイズ・ブーステッド・フィジカル】【ヘヴィ・グラヴィディ】【クリエイト・メタルクラスタ】【気力拳】! 私の腕一本、持ってけーー!!」
最大強化された身体能力と、金属に包まれ、かつ【気力】により更に強化と硬化されたナディの右の拳が、重力によって最大加重されて竜の背の一点に突き刺さる。
其処は硬い鱗だけではなく、分厚くやはり硬い肉塊にも包まれたところ。そして更に、溶岩竜と融合したことにより摂氏千度を超える超高熱となっている。
そんな危険な場所に、ナディは躊躇なく右腕を突っ込んだ。
その瞬間だけでナディの右腕は炭化し、そのあまりの激痛に数瞬も耐えられず、すぐさま引き抜いて飛び退る。その行動はあまりに突飛過ぎて、思わず呆然とする竜だった。
『は? はは、ははははははは! 貴様が何をしたいのかは知らぬが、無駄だったようだな! その無駄な行動で片手を使えなくするとは、愚かも此処に極まれり――』
「【リバイブ】あっぶなー。危うく腕一本無くすところだったよ。やっぱり【気力】だけじゃなくて金属でも保護してて良かったー。でも、まぁ――」
炭化した右腕を即座に回復させ、具合を確かめて問題ないのを確認し、笑みを浮かべた。凄く良いドヤ顔である。
「初産の痛みと比べたら、百億倍マシだけど」
それはヒト種なのに魔王の子を生んだ アデライドだけである。そしてその痛みは想像を絶するのだが、他所を知らないからみんなそんなモンだと思い込んでいた。
そんな返答に困ることをドヤりながら言われ、だがそんなのは知らんとばかりに皮膜を広げてナディに襲い掛かる。
『だから! どうしたと! いうのだ! 所詮貴様は! 我をどうすることも! 出来ぬのだ!』
「それはアンタも一緒でしょ。ほらほらー、どうしたのぉ? 私をどうにかするんじゃないの? やってみなさいよ、こぉの、中途半端な残りカスが!」
明らかなナディの、格下であり取るに足りない存在な筈の小娘の挑発に、竜は激昂した。
そして竜は、自身の中に宿る融合させた魔結晶の魔力を解放し――
「【リリース】【マキシマイズ・マナ・ディプライヴ】【エクスプロード・マナクリスタル】」
――だがそれが、体内に入り込んだ異物に急速に吸収される。その異物とは、先ほどナディが手を突っ込んだ時に置いて来た、空になった魔力供給リング。そしてナディは、その吸収する魔力が臨界に達したとき、自壊し爆発する条件発動魔法を組み込んでいた。
「な!? ぶわぁかな! 魔力がぁ! 吸われる! おのれ! だが制御すれば――』
「あームリムリ。それそんな生易しいモンじゃないから。アンタの魔力を吸い尽くすか、もしくは魔力量が全開になるまで止まらないよ。まぁ――」
ニヤリと笑い、そして不自然に距離を取った。
「今回は全開になっても止まらないで、臨界させるけどねー。【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】」
ナディが埋め込んだリングは、遂に竜一体分の魔力を吸収し、それでも止まらず更に吸い続ける。その効果は劇的で、盾のようだった前足が萎んで細くヒョロイものになる。そして全身を包んでいた溶岩の熱気も、徐々に薄れて来た。
この時点で、それは臨界する。
竜の背、ちょうど魔結晶の真上でそれは大爆発を起こす。そのため避けることも逃げることも出来ない竜は完全にそれに巻き込まれた。だがその余波は当然ナディにも届き、災害級の強大な魔力爆発であるが故に全反射魔法も絶対魔法障壁も、その効果ごとことごとく砕かれる。展開してある【ブレード・ウィング】で身を包んで盾にしなければ、巻き込まれて最悪死んでいたかも知れない。
それでも、ナディは生き残った。かなり辛うじて、ではあるが、
「あー、ホントしんどー。もう帰ってお風呂入って寝たい――」
が、まだ終わっていなかった。爆風が消え、舞い上がる土煙が晴れ、そして其処に、全身を罅だらけにして血を流す竜がいた。
『驚いた』
そんな満身創痍の竜が静かに言う。
『たかがヒトと侮っておったわ。これは我の油断の結果だと素直に認めよう。まさか我が、不死不滅となった【不滅竜】が此処まで追い詰められるとは! 残念だが我の残された時間は少ない。だが! 貴様ももう動けまい! かくなる上は、我が地上に行きヒトどもを命尽きるまで根絶やしにしてくれよう!』
言い残し、そのまま地面に突き刺さる。それだけで其処は崩れ、見たことのある坑道がその姿を現した。
其処は、その坑道は、正しく【結晶鋼道】。
そして竜は坑道に身を躍らせ、高速で飛び去って行く。
「あーもー。なんなのよ一体。面っ倒臭いわね!」
言い捨て、そのまま竜を追うと決心するナディ。このままだと、絶対に碌なことにならないのが目に見えているから。
それに、其処まで追い込んだ責任が、自分にはある。ならば、きっちり止めを刺すのが追い込んだ者の責務だから。
激戦により疲労が溜まり今にもぶっ倒れそうになる身体に鞭打ち、剣の翼をはためかせ、飛び去る竜を追うために坑道へ身を躍らせた。
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