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地平線を越えて
卓上の山攻略開始②
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天然の光歪曲迷彩となってなにかを守っているであろう結晶の山は、直径30メートル程度の範囲に渡って聳えている。それでもヒトとしての常識からすれば充分巨大であり、当然それを破壊するのは困難どころか不可能であると結論付けられるだろう。
だがそんな不可能を、ヴァレリーは――
「【落ちる刃】」
数万というゴキ――【クォーツ・ローチ】を無数の影の剣で瞬時に屠り、続けて発動された固有魔法が巨大な影の柱となってそれに降り注ぐ。それは結晶の山に直撃し、なんの抵抗もなく砂礫に変える。そして砂礫と化したそれは、そのまま地面を抜けて遥か下方へと落下した。
――そう、不可能な筈のそれをあっさり遣って退けたのである。
それが魔王であり、それ故に魔王と呼称される理不尽な存在。ヴァレリーにとって、多寡が結晶の山を砂礫に変えることなど雑作もないこと。
そんなヴァレリーが、約五百年前の魔王と重なって見えてしまい、思わず見惚れるナディであった。もちろん、背を向けているヴァレリーはそんなナディに気付かない。気付かれないようにしている、という理由もあるが。気付かれたらまたイロイロされそうだし。
そしてそんな理不尽を引き起こした張本人であるヴァレリーはというと――
「……驚いた。この山が蓋だったんだね。そりゃ見付からないわけだ」
魔法で小間切れになったゴ――【クォーツ・ローチ】を残らず回収しながら呟いた。そしてそれで我に返ったナディが、軽く咳払いをしてからヴァレリーの傍に行き、空いた穴を覗き込む。そんなナディの咳払いがちょっとエロい上に、何故かちょっと頬が紅潮しているため「シュインシュイン」がちょっと強くなった気がするが、それは気にしない方が良いだろう。
空いた大穴は垂直に切り立っており、だが壁に沿って結晶の柱が突き出ているため、伝って降りるのは難しくなさそうだ。
そして更に、この穴からダンジョン特有の濃厚な魔力が漏れ出ている。つまり、三人が出した結論――此処は【結晶鋼道】の四二階層である可能性が高くなった。
「お疲れさま。やっぱヴァルは凄いわ」
そう言い、隣のヴァレリーを肘で軽く突く。するといきなり、抱き締めらた。
「うわ! ちょなにいきなりするのよ止めなさいよ! 意味不明に欲情すんな!!」
「ナディが褒めてくれたのが嬉しくて……」
「えー……」
そんなことでいちいち感激されたら、なんかこっちが気恥ずかしくなる。ちょっと呆れてそう思い、だが素直にそれを表現してくれるのは、言った方としても嬉しいものだ。
どさくさに紛れて色々サワサワしていなければ。
「ちょっと! なんでアンタは良い雰囲気になりそうな時に絶対お尻を触るのよ! あとこういうのは言うべきじゃないとは思うけど、アンタって胸じゃなくて絶対お尻とかもっと際どいところを触るわよね!」
「お尻が好きだから」
魔王様はドスケベだった。
「具体的にはウェストからお尻、フトモモを含めて足首まで」
そして魔王様はソチラの属性持ちでそっちの派閥であった。
「あでもナディ以外には興味ないよ」
だが魔王様は、特定の個人限定の一途なドスケベだった。その特定されちゃった個人にしてみれば、大変迷惑である。
そんな真面目な展開が長続きしないのは置いといて、三人が揃って底が見えない大穴を覗き込む。迷宮特有の濃い魔力が噴き出しているのは前述のとおりだが、何故かそれが三人を避けており、それを利用しての魔法行使は難しそうだ。
「迷宮って特定の個人相手に魔力吸収だったり再利用を拒む機能ってあるの? 今までフツーに外部魔力使ってたからちょっと新鮮」
「迷宮にあるという意志は破壊行為に対しての防御反応が主なもの。よって特定の個人相手への拒絶は聞いたことがない」
「迷宮ってそこまでの意志ってあるのかな。ボクも専門じゃないから判らないな」
それぞれそう意見を言う三人である。ヴァレリーの両の頬に手形がついているが、それは見なかったことにするレオノールであった。
「まぁ、降りるしかないよね」
覗き込むだけで憂鬱になりそうな大穴を前に、初めてクソデカ溜息を吐くナディ。ちょっとだけ某ガチムチギルマスの気持ちが判る――筈もなく、なんならそれの原因が自分であったことすら判っていないから、当たり前にそんな気持ちを理解などしないし出来ないナディである。きっと今頃、奥さんズヘ大量に渡しておいた胃薬を飲んでいるに違いない。
こんなことになるなら、調剤レシピも渡しておけば良かったと思うナディだった。まるで仕事に勤しむお父さんを心配する娘のようである。
「あそうだ。二人に渡すモノがあるわ」
そう言いながら、【ストレージ】からそれぞれ指輪とネックレスを取り出した。
クソデカ溜息を吐いたことで脳裏に特定のガチムチな人物がぼや~っと浮かびそうになったナディだが、そんなのすぐに切り替えて脳内から追い出し、準備を続ける。
「レオには指輪。ヴァルにはネックレスね」
一般的には女子にネックレス、男子に指輪なのだが、そういう一般的なことなど気にしないナディである。まぁしっかり理由はあるが。
「ありがとうお姉ちゃん。でもどうして急にプレゼント?」
え? ボクがネックレス? とばかりにキョトン顔なヴァレリーをよそに、差し出された指輪を受け取って早速着けるレオノール。それは青白い不思議な輝きを帯びていた。
「そう。それは私の【霊力】を込めたものよ。気休め程度だけど、なにかの役に立つでしょ。あと【ストレージ】に『良いモノ』も入れといたから、必要なら使ってね」
そう言って「ムフー」と得意満面に息を吐くナディであった。そしてついでに同じような輝きを放っているネックレスをヴァレリーへ放り投げる。扱いがぞんざい過ぎるが、そうされた当の本人は気にしていないようで、逆にそれを貰ったことで更にテンションアゲアゲだった。
ところで【霊力】とは、【魔力】や【気力】、【理力】と並んでヒトが宿している力である。これらのウチのどれかを覚醒させれば一角の人物になれると言われているし、実際そのとおりだ。
ちなみにレオノールは見て判るとおり【魔力】に覚醒している。というかそれに超特化している。ヴァレリーもどちらかといえば【魔力】寄りではあるが、彼に関しては例外が過ぎるしその程度の範疇には収まらない。
そしてナディはというと、その全てに覚醒していた。五回の生まれ変わりは伊達ではない。なんなら一番覚醒が難しい【霊力】に最初の人生で覚醒していたし、二度目では【魔力】と【気力】に覚醒して、三度目で【理力】に覚醒したことでコンプリートし、脳内で「達成しました!」という謎の声が聞こえたとかいないとか。
そんな状態であったから、四度目では理外な存在でありヒト種では近付くことすら不可能である筈の魔王を圧倒出来たのだ。正しく「強くてニューゲーム」が過ぎる、ある意味では魔王より理不尽な存在である。
だがそれも既に過去の出来事。現在それは関係ない。
――多分。
「そのネックレスにも【霊力】を込めてあるわ。でもヴァルには必要ないわね、きっと」
「いや。これは大切にする。いつでも何処でもどんなときも、なんなら死後は一緒に荼毘に伏して埋めて欲しいいやそうしよう」
「あ、うん、まぁ、そうしたいんなら良いんじゃない? ビタイチ理解出来ないけど」
そんなヴァレリーの超過重な想いに盛大に引くナディである。だが、一度手から離れて譲渡されたモノだから好きにすれば良いと、半ば――いや全面的に諦めてあとは考えないことにした。
「ところでナディ」
「なによ」
受け取ったネックレスを早速着けながら、ヴァレリーはどうあっても気になっていることを聞いた。
「なんでレオが指輪でボクがコレなんだい? 逆じゃないの?」
その素朴な疑問にジト目を向けるナディ。あ、地雷踏んだ。そういう機微に殊の外鈍いヴァレリーではあるが、流石にそれは察したらしい。ジト目でちょっとテンションが上がったのはナイショだが。
「あんた、何回【結婚指輪】無くしたと思ってんのよ。あと手に着ける宝飾は気になって気が散るから遠慮したいって常々言ってたでしょ。なんで覚えてないのよバカなの?」
「え? な無くしてなないよよ。ちゃんととナイトテーブルにお置いてあったたたしし」
「それ、私が都度拾って其処に置いたんだけど?」
「あ、あああれれれ? そそうだったったったっけけ?」
「判り易く動揺してんじゃないわよ、ったく。……まぁそういうところも可愛かったんだけどね」
過去の隠していたやらかしを掘り起こされて、更にそれが完全にバレていた事実に動揺しまくる魔王様である。よってナディが呟いた最後の言葉は、残念ながら聞こえなかった。聞こえていたら更にテンションアゲアゲになり、きっとこれから起こるであろう事態は避けられていたかも知れない。
「それから、その指輪とネックレスは純魔結晶を圧縮して作ってあるよ。魔力が足りなかったら抽出して使ってね。量は充分だと思うから」
「ありがとうお姉ちゃん。サラっと凄いアイテムを作っている。さすおね」
「そうなんだ。助かるよ。使う機会があれば遠慮なく使わせて貰うよ。ちなみに、含有量はどれくらいなんだい?」
レオノールの賛辞に照れ笑いを浮かべ、次いでヴァレリーの素朴な疑問に、
「さぁ? ソレを全部使って爆裂魔法を使えば、大体半径5キロメートルは更地になるんじゃない?」
想像以上に物騒な代物だった。並の常識人なら盛大にドン引きするところだが、この場にはそんな人材は存在しない。
「あと周囲から魔力を吸収する機能もあるから、一定量が減ったら周りから吸収し始めるからね。使いまくって減らしてから相手にぶつけて枯渇させるって汚い手も使えるよ。あ、その機能は任意でオンオフ出来る安全設計だよ。やったね!」
そんなドン引き待ったなしな機能を、遣り切ったとばかりの凄い良い笑顔で言うナディである。レオノールの「さすおね」とヴァレリーの「さすつま」が止まらない!
「お姉ちゃん。レオもこれあげる」
ヴァレリーの胸ぐらを掴んで「誰が妻じゃい巫山戯んな!」と言いつつグワングワン振り回してご褒美をあげているナディに、レオノールはイアリングを差し出した。
「これ。レオの【光子力】を込めた。二回だけ使える」
レオノールはこの三ヶ月で固有能力を創り出していた。元とはいえ、やはり魔王と魔王妃の長子である。ちなみに【光子力】は「魔王特効」。事実上、魔王を消滅させる唯一の能力である。もちろん、その本来の意味では使わない――
「おおーレオ凄い。で、コレであの変態を滅ぼせるんだね、あの変態を」
――と、思う。
「あっはっは。冗談がキツイなーナディはー」
「うふふふふ。冗談違うよなに言ってるのー」
そしてそんな和やかなコミュニケーションをとる元夫婦である。やはりイチャついているようにしか見えない。
「じゃあボクもナディに――」
「そもそもアンタはセクハラが過ぎるのよ。いつもいつでも何度でもそんなこと考……ちょなにまたなにするのよ ……~~~~~~~~」
そして再び「ズキュウウウン!」されるナディである。オマケに今度はなにかを口腔内に押し込まれ、否応なく飲み込まされた。
「ボクの【能力】の一部を渡したよ。これでちょっとだけど使えるようにないひゃいいひゃいほんほひはへへ!」
しかし、いつまでもただやられているナディではなく、遂に逆襲した。差し込まれたベロを噛んだだけだが。
「方法はともかくありがとう! 方法はともかくだけどね!」
「どういひゃひまひて。今度から甘噛みにして本当に痛いから」
「うるさいこの宿六!」
やはり意外と仲が良い。これが夫婦歴二百八十年か。腕を組んで頷いて、妙に納得するレオノールである。
そうしてわちゃわちゃして無駄に時間を過ごし、やっと大穴へ歩を進める三人だった。
「なんか準備に時間が掛かっちゃったね」
先頭を歩くヴァレリーがそう言い、
「アンタが発情するからでしょ」
後方にいるナディがジト目で反論する。頬がちょっと紅潮しているのは、ヴァレリーがいらんことをしたからだろう。
「二人ともステイ。仲が良くてそのうち弟か妹が出来そうだけど今はそれどころじゃない」
そして真ん中にいるレオノールが、客観的な意見を言った。それにより、二人はそれぞれ違う意味で動揺したのだが、探索に関係ないので割愛する。ただヴァレリーのテンションが上がったとだけ述べておく。
垂直に切り立った大穴を、突き出ている結晶に沿って降りて行く。その結晶は小さくて1メートルほど、大きいものだと5メートル幅のものすらある。
この大穴を開けたときに細切れにして落ちて行った結晶が所々に積もっており、だがそれが徐々に気化するように消えていっているのが判る。やはりあの結晶の山は迷宮のギミックだったのだろう。そしてその突き出ている結晶も、何故か薄く発光していた。
そうして降りること丸一日。途中でレオノールの体力が尽きてヴァレリーに背負われたくらいで他はなんの問題もなく、三人は遂に大穴の底に着いた。
其処には――なにも無かった。
予想では迷宮への入り口とか転移門とか、そういった移動に必要な何かがあると考えていた三人は、
「無駄足かい! 巫山戯んな!」
「期待させてから一気に落とす。迷宮主は性格が悪い。居るか知らないけど」
「これはちょっと腹立つなぁ。ねぇ、怒って良いかな?」
三者三様にブチ切れた。
徒労に終わった虚無感に苛まれた三人は、それぞれアイコンタクトをして、
「【マキシマイズ・オブ・エフィック】【エクステンション・オブ・エフィック】【ソーサリー・イクステンシヴ】【ブーステッド・ホウルアビリティ】【デュレーション・ホウルリカヴァリー】【セーフ・コンディション】【リジェネレーション】【デュレーション・キュアディジーズ】【バイタリティ・アクティベーション】【バイタリティ・メインテイン】【ハードアーム】【ソーサリー・ブースト】【アタック・ペネトレイト】【ソーサリー・ペネトレイト】【ソーサリー・リバーブ】【マキシマイズ・プロテクト】【マキシマイズ・ホウルレジスト】【ホウルリフレクション】【ミラー】【ブラー】【ヒドゥン】【サプレッション】【ファスト・ムーヴ】【イレイズ・レジスト】【イレイズ・オブ・オシレーション】【エビエイション】【センス・マナ】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【センス・ライ】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【マップ・クリエイト】【マッピング】【ターム・オブ・ソーサリーアクティベート】【ディレイ・オブ・ソーサリーアクティベート】」
まずナディがいつもどおりの強化魔法を全員に重ね掛けして、
「【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【ディメンション・ウォール】」
次いでレオノールが絶対防御系魔法を重ね掛けする。
そして――
「ヴァル! やっておしまい!」
「【絶望の刻】【魔王の影】!」
全ての光が飲み込まれて闇が覆い、そしてその闇が周囲全てを侵食して消滅させた。
だがそんな不可能を、ヴァレリーは――
「【落ちる刃】」
数万というゴキ――【クォーツ・ローチ】を無数の影の剣で瞬時に屠り、続けて発動された固有魔法が巨大な影の柱となってそれに降り注ぐ。それは結晶の山に直撃し、なんの抵抗もなく砂礫に変える。そして砂礫と化したそれは、そのまま地面を抜けて遥か下方へと落下した。
――そう、不可能な筈のそれをあっさり遣って退けたのである。
それが魔王であり、それ故に魔王と呼称される理不尽な存在。ヴァレリーにとって、多寡が結晶の山を砂礫に変えることなど雑作もないこと。
そんなヴァレリーが、約五百年前の魔王と重なって見えてしまい、思わず見惚れるナディであった。もちろん、背を向けているヴァレリーはそんなナディに気付かない。気付かれないようにしている、という理由もあるが。気付かれたらまたイロイロされそうだし。
そしてそんな理不尽を引き起こした張本人であるヴァレリーはというと――
「……驚いた。この山が蓋だったんだね。そりゃ見付からないわけだ」
魔法で小間切れになったゴ――【クォーツ・ローチ】を残らず回収しながら呟いた。そしてそれで我に返ったナディが、軽く咳払いをしてからヴァレリーの傍に行き、空いた穴を覗き込む。そんなナディの咳払いがちょっとエロい上に、何故かちょっと頬が紅潮しているため「シュインシュイン」がちょっと強くなった気がするが、それは気にしない方が良いだろう。
空いた大穴は垂直に切り立っており、だが壁に沿って結晶の柱が突き出ているため、伝って降りるのは難しくなさそうだ。
そして更に、この穴からダンジョン特有の濃厚な魔力が漏れ出ている。つまり、三人が出した結論――此処は【結晶鋼道】の四二階層である可能性が高くなった。
「お疲れさま。やっぱヴァルは凄いわ」
そう言い、隣のヴァレリーを肘で軽く突く。するといきなり、抱き締めらた。
「うわ! ちょなにいきなりするのよ止めなさいよ! 意味不明に欲情すんな!!」
「ナディが褒めてくれたのが嬉しくて……」
「えー……」
そんなことでいちいち感激されたら、なんかこっちが気恥ずかしくなる。ちょっと呆れてそう思い、だが素直にそれを表現してくれるのは、言った方としても嬉しいものだ。
どさくさに紛れて色々サワサワしていなければ。
「ちょっと! なんでアンタは良い雰囲気になりそうな時に絶対お尻を触るのよ! あとこういうのは言うべきじゃないとは思うけど、アンタって胸じゃなくて絶対お尻とかもっと際どいところを触るわよね!」
「お尻が好きだから」
魔王様はドスケベだった。
「具体的にはウェストからお尻、フトモモを含めて足首まで」
そして魔王様はソチラの属性持ちでそっちの派閥であった。
「あでもナディ以外には興味ないよ」
だが魔王様は、特定の個人限定の一途なドスケベだった。その特定されちゃった個人にしてみれば、大変迷惑である。
そんな真面目な展開が長続きしないのは置いといて、三人が揃って底が見えない大穴を覗き込む。迷宮特有の濃い魔力が噴き出しているのは前述のとおりだが、何故かそれが三人を避けており、それを利用しての魔法行使は難しそうだ。
「迷宮って特定の個人相手に魔力吸収だったり再利用を拒む機能ってあるの? 今までフツーに外部魔力使ってたからちょっと新鮮」
「迷宮にあるという意志は破壊行為に対しての防御反応が主なもの。よって特定の個人相手への拒絶は聞いたことがない」
「迷宮ってそこまでの意志ってあるのかな。ボクも専門じゃないから判らないな」
それぞれそう意見を言う三人である。ヴァレリーの両の頬に手形がついているが、それは見なかったことにするレオノールであった。
「まぁ、降りるしかないよね」
覗き込むだけで憂鬱になりそうな大穴を前に、初めてクソデカ溜息を吐くナディ。ちょっとだけ某ガチムチギルマスの気持ちが判る――筈もなく、なんならそれの原因が自分であったことすら判っていないから、当たり前にそんな気持ちを理解などしないし出来ないナディである。きっと今頃、奥さんズヘ大量に渡しておいた胃薬を飲んでいるに違いない。
こんなことになるなら、調剤レシピも渡しておけば良かったと思うナディだった。まるで仕事に勤しむお父さんを心配する娘のようである。
「あそうだ。二人に渡すモノがあるわ」
そう言いながら、【ストレージ】からそれぞれ指輪とネックレスを取り出した。
クソデカ溜息を吐いたことで脳裏に特定のガチムチな人物がぼや~っと浮かびそうになったナディだが、そんなのすぐに切り替えて脳内から追い出し、準備を続ける。
「レオには指輪。ヴァルにはネックレスね」
一般的には女子にネックレス、男子に指輪なのだが、そういう一般的なことなど気にしないナディである。まぁしっかり理由はあるが。
「ありがとうお姉ちゃん。でもどうして急にプレゼント?」
え? ボクがネックレス? とばかりにキョトン顔なヴァレリーをよそに、差し出された指輪を受け取って早速着けるレオノール。それは青白い不思議な輝きを帯びていた。
「そう。それは私の【霊力】を込めたものよ。気休め程度だけど、なにかの役に立つでしょ。あと【ストレージ】に『良いモノ』も入れといたから、必要なら使ってね」
そう言って「ムフー」と得意満面に息を吐くナディであった。そしてついでに同じような輝きを放っているネックレスをヴァレリーへ放り投げる。扱いがぞんざい過ぎるが、そうされた当の本人は気にしていないようで、逆にそれを貰ったことで更にテンションアゲアゲだった。
ところで【霊力】とは、【魔力】や【気力】、【理力】と並んでヒトが宿している力である。これらのウチのどれかを覚醒させれば一角の人物になれると言われているし、実際そのとおりだ。
ちなみにレオノールは見て判るとおり【魔力】に覚醒している。というかそれに超特化している。ヴァレリーもどちらかといえば【魔力】寄りではあるが、彼に関しては例外が過ぎるしその程度の範疇には収まらない。
そしてナディはというと、その全てに覚醒していた。五回の生まれ変わりは伊達ではない。なんなら一番覚醒が難しい【霊力】に最初の人生で覚醒していたし、二度目では【魔力】と【気力】に覚醒して、三度目で【理力】に覚醒したことでコンプリートし、脳内で「達成しました!」という謎の声が聞こえたとかいないとか。
そんな状態であったから、四度目では理外な存在でありヒト種では近付くことすら不可能である筈の魔王を圧倒出来たのだ。正しく「強くてニューゲーム」が過ぎる、ある意味では魔王より理不尽な存在である。
だがそれも既に過去の出来事。現在それは関係ない。
――多分。
「そのネックレスにも【霊力】を込めてあるわ。でもヴァルには必要ないわね、きっと」
「いや。これは大切にする。いつでも何処でもどんなときも、なんなら死後は一緒に荼毘に伏して埋めて欲しいいやそうしよう」
「あ、うん、まぁ、そうしたいんなら良いんじゃない? ビタイチ理解出来ないけど」
そんなヴァレリーの超過重な想いに盛大に引くナディである。だが、一度手から離れて譲渡されたモノだから好きにすれば良いと、半ば――いや全面的に諦めてあとは考えないことにした。
「ところでナディ」
「なによ」
受け取ったネックレスを早速着けながら、ヴァレリーはどうあっても気になっていることを聞いた。
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その素朴な疑問にジト目を向けるナディ。あ、地雷踏んだ。そういう機微に殊の外鈍いヴァレリーではあるが、流石にそれは察したらしい。ジト目でちょっとテンションが上がったのはナイショだが。
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「あ、あああれれれ? そそうだったったったっけけ?」
「判り易く動揺してんじゃないわよ、ったく。……まぁそういうところも可愛かったんだけどね」
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「それから、その指輪とネックレスは純魔結晶を圧縮して作ってあるよ。魔力が足りなかったら抽出して使ってね。量は充分だと思うから」
「ありがとうお姉ちゃん。サラっと凄いアイテムを作っている。さすおね」
「そうなんだ。助かるよ。使う機会があれば遠慮なく使わせて貰うよ。ちなみに、含有量はどれくらいなんだい?」
レオノールの賛辞に照れ笑いを浮かべ、次いでヴァレリーの素朴な疑問に、
「さぁ? ソレを全部使って爆裂魔法を使えば、大体半径5キロメートルは更地になるんじゃない?」
想像以上に物騒な代物だった。並の常識人なら盛大にドン引きするところだが、この場にはそんな人材は存在しない。
「あと周囲から魔力を吸収する機能もあるから、一定量が減ったら周りから吸収し始めるからね。使いまくって減らしてから相手にぶつけて枯渇させるって汚い手も使えるよ。あ、その機能は任意でオンオフ出来る安全設計だよ。やったね!」
そんなドン引き待ったなしな機能を、遣り切ったとばかりの凄い良い笑顔で言うナディである。レオノールの「さすおね」とヴァレリーの「さすつま」が止まらない!
「お姉ちゃん。レオもこれあげる」
ヴァレリーの胸ぐらを掴んで「誰が妻じゃい巫山戯んな!」と言いつつグワングワン振り回してご褒美をあげているナディに、レオノールはイアリングを差し出した。
「これ。レオの【光子力】を込めた。二回だけ使える」
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――と、思う。
「あっはっは。冗談がキツイなーナディはー」
「うふふふふ。冗談違うよなに言ってるのー」
そしてそんな和やかなコミュニケーションをとる元夫婦である。やはりイチャついているようにしか見えない。
「じゃあボクもナディに――」
「そもそもアンタはセクハラが過ぎるのよ。いつもいつでも何度でもそんなこと考……ちょなにまたなにするのよ ……~~~~~~~~」
そして再び「ズキュウウウン!」されるナディである。オマケに今度はなにかを口腔内に押し込まれ、否応なく飲み込まされた。
「ボクの【能力】の一部を渡したよ。これでちょっとだけど使えるようにないひゃいいひゃいほんほひはへへ!」
しかし、いつまでもただやられているナディではなく、遂に逆襲した。差し込まれたベロを噛んだだけだが。
「方法はともかくありがとう! 方法はともかくだけどね!」
「どういひゃひまひて。今度から甘噛みにして本当に痛いから」
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そうしてわちゃわちゃして無駄に時間を過ごし、やっと大穴へ歩を進める三人だった。
「なんか準備に時間が掛かっちゃったね」
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垂直に切り立った大穴を、突き出ている結晶に沿って降りて行く。その結晶は小さくて1メートルほど、大きいものだと5メートル幅のものすらある。
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そうして降りること丸一日。途中でレオノールの体力が尽きてヴァレリーに背負われたくらいで他はなんの問題もなく、三人は遂に大穴の底に着いた。
其処には――なにも無かった。
予想では迷宮への入り口とか転移門とか、そういった移動に必要な何かがあると考えていた三人は、
「無駄足かい! 巫山戯んな!」
「期待させてから一気に落とす。迷宮主は性格が悪い。居るか知らないけど」
「これはちょっと腹立つなぁ。ねぇ、怒って良いかな?」
三者三様にブチ切れた。
徒労に終わった虚無感に苛まれた三人は、それぞれアイコンタクトをして、
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まずナディがいつもどおりの強化魔法を全員に重ね掛けして、
「【マキシマイズ・ホウルリフレクション】【アブソリュート・ホウルリジェクション】【ディメンション・ウォール】」
次いでレオノールが絶対防御系魔法を重ね掛けする。
そして――
「ヴァル! やっておしまい!」
「【絶望の刻】【魔王の影】!」
全ての光が飲み込まれて闇が覆い、そしてその闇が周囲全てを侵食して消滅させた。
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落ちていく途中で王子っぽいイケメンと目が合ったけれど落ちていく。そして…………
聞いたことのない国の名前に見たこともない草花。そして魔獣化してしまう動物達。
ここは異世界かな? 異世界だと思うけれど……どうやってここにきたのかわからない。
召喚されたわけでもないみたいだし、神様にも会っていない。元の世界で私がどうなっているのかもわからない。
私も異世界モノは好きでいろいろ読んできたから多少の知識はあると思い目立たないように慎重に行動していたつもりなのに……王族やら騎士団長やら関わらない方がよさそうな人達とばかりそうとは知らずに知り合ってしまう。
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※小説家になろうでも投稿しています。
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お知らせ
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注意
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