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地平線を越えて
1 草原に戸惑う姉妹と元魔王①
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――◯◯を抜けると其処は――とかいう冒頭で始まる、客観的に冷静に観れば妻子持ちなのに他所様に恋しちゃうとかバカじゃねーのという感想しか出てこないただのスケベの話は有名だが、ダンジョンの階層を抜けると其処は草原だったとかいう展開は想像の埒外過ぎて、理解が追い付かない三人であった。
その地平線の遥か彼方まで続く草原を目の当たりにして暫し呆然とした三人がまずしたことは、
「取り敢えず、お腹空いたから何か食べよう」
「賛成。【結晶鋼道】で食材は沢山拾ったから困らない」
「わあ、アデリー……じゃないナディの手料理は久し振りだ。楽しみだなぁ」
空腹を満たすことだった。わけの判らない状況に放り出されても、それで取り乱したり慌てるほど繊細な三人ではない。それに物理的な危機がないようであるから、これほどノンビリ出来るのだろう。
というか数々の修羅場を潜って来た、元ではあるが魔王と魔王妃ともあろう者が、こんな状況に放り出された程度で慌てたりする筈がない。
あとはレオノールだが、落ち着き払っている二人を見てまだ慌てる時間じゃないと感じたのか、此方も落ち着いている。ただ空に向けて魔弾を数発打ち上げていたりしていた。そしてヴァレリーは、その魔弾の行方を感慨深げに見詰めて首を傾げたり頷いていたりしている。ナディはというと、
「【クリエイト・ブリック】」
魔法で煉瓦を生成して竈門を作っていた。
「鍋を洗って、水を張って、火に掛けて……あそうだヴァル。【ゴールドトラウト】捌いて。あなた好きでしょ」
魔王妃時代の記憶に残る魔王の嗜好品を勧めてみる。なんだかんだ言いながらもそういう気遣いをするところが、元魔王様のハートを鷲掴んでいるのに気付いていない。よってそんなナディにいつも何度でも「ズキュウウウン!」しちゃう彼は――元魔王様のヴァレリーは満面の笑みを浮かべて無邪気に、
「ああもちろんアデリーが――じゃないナディが大好きで今すぐ食べちゃいたいよ」
「ブッ殺すぞテメー」
変態発言をしてナディをブチ切れさせた。ある意味で特異な才能である。
「もう、冗談だよ。デザートは食後って決まってるよね。それに残念だけど、ボクは武器全般がおろか包丁すら扱えないんだ」
マジモンの殺意を叩き付けられたが、そんなものが有効な筈がない。元魔王なのに別の意味で勇者である。
「私はアンタとそんな関係になるつもりはないし、なりたくもないわよ。何が楽しくてアンタに食べられたり、何が悲しくてアンタの嫁にならなくちゃいけばいのよ気持ち悪い」
「……ああ……相変わらずつれない言葉と態度だねナディ。そんなキミを心から愛しているよ」
「相変わらずTPO全無視な元お父様。そんなんだからお母様がデレられなかったのが判っていない。別の意味でさすまお」
「そんなに褒められると嬉しいじゃないか」
ナディの素気無く吐き捨てる言葉を全く意に介さず、飄々とそんなことを言い盛大にドン引きされるヴァレリーである。
そしてレオノールは、溜息を吐いてから注意らしきことを言って反省を促すが、どうやら理解を得られなかったようだ。ものっそい良い笑顔を浮かべているし。
「それとレオ。ボクのことは『兄』と呼んで構わないよ。魂の色を見る限りどうやらファルギエール家の庶子みたいだし」
「はえ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるナディ。そしてレオノールは、理解が追い付かず呆然とする。
「ボクは五歳のときに【魂の継承】を起こして魔王の能力を覚醒させたんだ。種族としての覚醒は十全ではないけど、能力は概ねヴァレリアの時と同じだよ。だからわかる。レオはボクの現在のクソ親父が他所で作った子だって」
トンデモ発言が雪だるま式に積み上がり、若干理解が追い付かなくなる姉妹である。だがすぐに、
「ああそう。まぁレオの見た目だとそうじゃないかなーとは思ってたわ。でもこれで生まれたてのレオが捨てられた元凶をブン殴る良い口実が出来たわ」
「そんなのどうでも良い。生まれはどうあれレオはお姉ちゃんの妹。血筋よりミスジの方が食べられるから重要」
「そうだよね。レオがボクの妹だというのは喜ばしいけど、大切な元娘で現妹にそんな仕打ちをさせた元凶はブン殴るべきだ。戻ったら兄上たちと共謀して隠匿して頂こう」
ナディが目が笑っていない半笑いを浮かべ、レオノールが血統や血筋より肩甲骨の裏側にある霜降なおいしいお肉に言及し、そしてヴァレリーがより物騒な陰謀を巡らせ始める。三人は結局、夫婦であり親子であった。
そんな結構邪悪な会話をしつつ、武器が扱えないとか知らんとばかりに例の付与マシマシな短刀を包丁代わりにヴァレリーに渡して【ストレージ】から出した立派な【ゴールドトラウト】一尾まるごとを捌いて貰い、そのアラを使ってスープを作る。
身の部分は生で野菜と和えてドレッシングを掛けたり、塩胡椒とバジルを振って焼き上げたりした。ちなみに前者はレオノールが、後者はヴェレリーが作った。
あとヴァレリーに渡した短刀だが、【専用化】が付与されているためナディとレオノール以外は使えない設定になっていたが、何故かヴァレリーも使えるという謎現象が起きていた。
ナディはそれを渡してから気付き、だがなんの問題もなくスパスパ使えて首を傾げ、それよりも「壊れない」と意味不明に感動しているヴァレリーを見てちょっと引いたそうな。
そしてその【専用化】を言及すると、全てを見惚れさせる笑顔で若干熱っぽくノータイムで、
「愛の力だよ」
「煩ぇわ」
そう言い切ってナディにやっぱりノータイムで却下された。
「ヴァルの変態発言はいつものことだからどーでも良いとして、此処って一体何処なんだろうね」
サーモンのムニエルバジルソース掛けを摘みつつ、【ストレージ】から以前泊まった社宅を兼ねた宿の朝食ビュッフェからパク――譲って頂いた白パンを出して二人に配りながらそう言った。実は利便性が高いから結構利用しているし、地味に色々パクって……じゃなくて譲って頂いて来ているため、そのビュッフェのメニューは全て揃っている。しかも【ストレージ】は時間停止設定の選択があるからいつでも出来たてホカホカだ。
そんなガメついおばちゃんがタッパー片手にビュッフェに参加するみたいな行為は真面目な話かなり迷惑だし非常識だから、良い子のみんなは「迷惑なババァだな死ね」と思うだけに留めて真似してはいけない。
「それは謎。上空に魔弾を撃ってみたけどダンジョンだったら【領域型】でも天井があるのに無かった。それに大気中のマナが希薄。お姉ちゃんこのスープちょっとぬるい気がする」
スープを木製のスプーンですくって上品に飲みながら、白パンを受け取ってレオノールが続く。そしてそんなレオノールの感想に首を傾げ、だがヴァレリーにも白パンを渡す。それを恭しく両手で差し出された手ごと包み込みようにして受け取り、
「ああ、ありがとうナディ。愛してる」
「黙れよ」
「そうだね。レオが撃った魔弾は上空500メートルくらいまでに到達していた。【領域】ダンジョンの天井までは高くても100メートル弱しかないんだ。それにレオの言う通り、大気のマナ濃度が低いから、此処はダンジョンではないな。ダンジョンではマナ濃度が外より絶対に高くなるからね。そうだな……濃度は地域によって増減はあるけど、此処は概ねグランツ王国の半分以下かな」
白パンを受け取り愛を語り、やっぱりナディに即時却下されているが意に介さずにそう分析結果を語る。きっとこれは慣れだろう。それとも愛の力であろうか。色々な形があるというし。
「……グランツ王国、か……」
スプーンを片手に僅かに俯き独白し、思案するナディ。そして顔をあげ、二人を見詰めながら意を決したように訊いた。
「何処、それ」
「……お姉ちゃん……」
「……ナディ……まぁ、うん、昔からそういうことは一切気にしなかったから良いんだけどね」
「え? なんで? 生きるのに地名や国名なんて必要?」
流石にそれはナイとばかりにそう言われた。ナディの言い分はある意味では真理であるが、一般的な社会生活を送るためには必要である。
「お姉ちゃん。もしかしてだけど登録した冒険者ギルドの所在地も知らないの」
「うん知らない。何処にも書いてないし」
「お姉ちゃんはやっぱりアデライドお母様だった」
「そうだね。ちっちゃいことは気にしないと言いながら、ワリと大きなことも気にしなかったからね」
二人にそう言われているが、そんなんどうでも良いんじゃね? とばかりに気にしないナディであった。良くも悪くも相当図太い。あと知識の偏りがハンパなく、一般常識がやっぱり薄い。
「そんなちっちゃいことなんて気にしないわよ。ぶっちゃけ生きてて正常に生活するのに、国とかどーでも良いでしょ。気にするのは権力者とか政治屋だけよくっだらない」
魔王妃時代それらに散々嫌ぁな思いをさせて頂いた経験があるからか、ナディはそんなヤツらをそう評価していた。実際はそういうバカとかクズばかりだけではないのだが、多いのもまた事実であるため反論しづらい現在お貴族様なヴァレリーであった。ナディが大好きでなにがあっても全肯定するししているから、反論なんてする気もないけど。
「そんな些末事より、もっと大変なことに気付いたわ」
スープの器を膝の上に置き、真剣な表情で二人に目を向けて言う。それに何を感じたのか、同じく器を置いて次の言葉を待つ二人。
かくして、ナディが言う大変なこととは――
「ちゃんと煮立たせたのにレオの言うとおりスープがぬるい」
言葉を聞いただけだと、ぶっちゃけどーでもいいんじゃね? と言われそうではあるが、それが何を意味するのか、察しの良い二人はすぐに気付いた。
「ふむ……そういえばちょっと呼吸がしづらい気がする。もしかしてだけど、此処って標高が高いのかな」
「お湯の沸点が大体八七度。よってこの場所の標高は4100メートル以上だと思われる」
「おお、即座にそこまで分析出来るのは流石だ。それでこそボクの娘で妹だ。愛しているよレオ」
「迷惑ですお兄様。あと喋らないで下さい」
「照れなくて良いのだよレオ」
愛しているとか言われるのにかなり抵抗のあるレオノールは、取り敢えずナディに習ってそう言う。だがやっぱり効果がある筈もなく、ヴェレリーのメンタルタフネスがとんでもないのが証明されただけであった。
「んー……調べてみるか。アンタちょっとこれ持ってて。口付けたら殺す」
「ああ良いよ。大丈夫だよそんなことはしない。ボクは間接とか変態行為はしないしそれじゃあ満足出来ないから、直接しかしないよ安心して」
「安心出来ねーわバカかよ死ね【エビエイション】」
言い捨て、飛行魔法で垂直に飛ぶ。そして300メートルほど上空に舞い上がり、
「【マキシマイズ・ソーサリー・イクステンシヴ】【ディスタント・ヴィジョン】【ワイド・ヴィジョン】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【アプレイザル】【マップ・クリエイト】【マッピング】」
魔法効果を極大化させ遠見と広角視を付与し、更にありったけの感知系魔法と地図を作成する。そしてほどなく地面に降り立ち、大きく息を吐いてその場に倒れ込んだ。
それを目の当たりにして、レオノールとヴァレリーは判り易く慌てるが、当のナディは心配ないとばかりに手をヒラヒラさせる。
「いやぁ、さっき【神装魔法】使ってたの忘れてたよ。失敗失敗。自分で思っているより消耗しているし負荷がキツかったなー。あと此処って魔力が薄いから内包魔力使うしかないんだよねー。範囲広げ過ぎてちょっと枯渇したわ」
上体を起こしてそんなことを言い、カラカラと笑う。意外と重大事であるのにそうじゃないように言っている。そんなナディの腕を掴み、俯き呟くようにレオノールが、
「お姉ちゃん無理しちゃダメ。ちゃんと慎重に行動して」
珍しくそう注意した。ちょっと泣きそうである。
「あー、心配かけてゴメンね。確かにウッカリしてたよ。次からはちゃんと気をつけるから、そんな顔しないで」
そんなレオノールの頭を撫でながら、自身も反省する。そんな珍しく反省しているナディの顎がクイっと持ち上げられ、
「【トランスファー・マナ】【リヴァイヴ】【セーフ・コンディション】」
ヴァレリーに思いっきり抱き締められてベロチューされた。今度はちょっと長めで、至近距離で見ちゃったレオノールは両手で顔を隠し、だが指の隙間からバッチリ見る。
しっかりと抱き締められているため身動きが取れないナディはちょっとビチビチ動いていたが、やがて何故か脱力した。そして暫しエロいナニかの音がして、やっと離れるヴァレリー。透明なナニかが糸を引いていたが、それはどうでも良いだろう。あとナディが何故か頬を染めてちょっとポーっとしている。
「無理をしちゃダメだよナディージア。既にキミの命はキミだけのものじゃないんだ。それにそんなことをしたら、レオだってボクだって悲しい気持ちになるんだべら!?」
「どさくさに紛れて今度はしっかりねっとりベロチューしてんじゃねーわこのド変態が! そんなに死にてぇんなら今すぐ素っ首落としてやらぁ!」
それっぽい格好良さげな台詞を吐くが、どう考えても犯罪な痴漢行為であるため、ナディに顔面をキレーにぶん殴られた。インパクトの瞬間に拳がグリっと抉り込むように打ち込まれ、流石にぶっ飛ぶヴァレリーである。
「あーもーあーもー信っじられない! ほんっとなんなのこのヘンタイ! しかもレオが見てる前でするとかなに考えてんのよバッカじゃないの!」
ぶっ飛んだヴァレリーに背を向け、プリプリ怒るナディ。だがその程度で済ませているのを、レオノールは怪訝に見詰める。そして、ナディの頬がちょっと赤いのは色々でイロイロだから仕方ないが、まぁ結局はそうなのだろうと結論付けて考えるのを止めた。子供が安心出来る最大の要因は、夫婦仲が良いことだ。つまりは単純にそういうことである。
「もーキツいなーナディは。そんなナディも大好きだよ愛してる――」
「発情してるだけだろうが破廉恥漢が死ね」
「――ボクの気持ちはちゃんと伝わっているみたいだし問題ないから良いとして――」
「ビタイチ伝わってねーし問題しかねーわ息の根止めてろよ死ね」
「――真面目な話、何が見えたんだい?」
「誰かさんの所為で一瞬で忘れたわこの犯罪者」
「うーんそうかー。残念。じゃあもう一回すれば思い出すかなうんそうしよう」
「いや『じゃあ』じゃねーわバカじゃねーの思い出すわけね――待ってって言ってるでしょちょま――~~~~~~~~~~~~……」
ナディが作ったスープの鍋に蓋をしてちょっと密閉して温め直し、
「今日も平和」
レオノールは痴話喧嘩が終わるのを待つことにした。
その地平線の遥か彼方まで続く草原を目の当たりにして暫し呆然とした三人がまずしたことは、
「取り敢えず、お腹空いたから何か食べよう」
「賛成。【結晶鋼道】で食材は沢山拾ったから困らない」
「わあ、アデリー……じゃないナディの手料理は久し振りだ。楽しみだなぁ」
空腹を満たすことだった。わけの判らない状況に放り出されても、それで取り乱したり慌てるほど繊細な三人ではない。それに物理的な危機がないようであるから、これほどノンビリ出来るのだろう。
というか数々の修羅場を潜って来た、元ではあるが魔王と魔王妃ともあろう者が、こんな状況に放り出された程度で慌てたりする筈がない。
あとはレオノールだが、落ち着き払っている二人を見てまだ慌てる時間じゃないと感じたのか、此方も落ち着いている。ただ空に向けて魔弾を数発打ち上げていたりしていた。そしてヴァレリーは、その魔弾の行方を感慨深げに見詰めて首を傾げたり頷いていたりしている。ナディはというと、
「【クリエイト・ブリック】」
魔法で煉瓦を生成して竈門を作っていた。
「鍋を洗って、水を張って、火に掛けて……あそうだヴァル。【ゴールドトラウト】捌いて。あなた好きでしょ」
魔王妃時代の記憶に残る魔王の嗜好品を勧めてみる。なんだかんだ言いながらもそういう気遣いをするところが、元魔王様のハートを鷲掴んでいるのに気付いていない。よってそんなナディにいつも何度でも「ズキュウウウン!」しちゃう彼は――元魔王様のヴァレリーは満面の笑みを浮かべて無邪気に、
「ああもちろんアデリーが――じゃないナディが大好きで今すぐ食べちゃいたいよ」
「ブッ殺すぞテメー」
変態発言をしてナディをブチ切れさせた。ある意味で特異な才能である。
「もう、冗談だよ。デザートは食後って決まってるよね。それに残念だけど、ボクは武器全般がおろか包丁すら扱えないんだ」
マジモンの殺意を叩き付けられたが、そんなものが有効な筈がない。元魔王なのに別の意味で勇者である。
「私はアンタとそんな関係になるつもりはないし、なりたくもないわよ。何が楽しくてアンタに食べられたり、何が悲しくてアンタの嫁にならなくちゃいけばいのよ気持ち悪い」
「……ああ……相変わらずつれない言葉と態度だねナディ。そんなキミを心から愛しているよ」
「相変わらずTPO全無視な元お父様。そんなんだからお母様がデレられなかったのが判っていない。別の意味でさすまお」
「そんなに褒められると嬉しいじゃないか」
ナディの素気無く吐き捨てる言葉を全く意に介さず、飄々とそんなことを言い盛大にドン引きされるヴァレリーである。
そしてレオノールは、溜息を吐いてから注意らしきことを言って反省を促すが、どうやら理解を得られなかったようだ。ものっそい良い笑顔を浮かべているし。
「それとレオ。ボクのことは『兄』と呼んで構わないよ。魂の色を見る限りどうやらファルギエール家の庶子みたいだし」
「はえ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるナディ。そしてレオノールは、理解が追い付かず呆然とする。
「ボクは五歳のときに【魂の継承】を起こして魔王の能力を覚醒させたんだ。種族としての覚醒は十全ではないけど、能力は概ねヴァレリアの時と同じだよ。だからわかる。レオはボクの現在のクソ親父が他所で作った子だって」
トンデモ発言が雪だるま式に積み上がり、若干理解が追い付かなくなる姉妹である。だがすぐに、
「ああそう。まぁレオの見た目だとそうじゃないかなーとは思ってたわ。でもこれで生まれたてのレオが捨てられた元凶をブン殴る良い口実が出来たわ」
「そんなのどうでも良い。生まれはどうあれレオはお姉ちゃんの妹。血筋よりミスジの方が食べられるから重要」
「そうだよね。レオがボクの妹だというのは喜ばしいけど、大切な元娘で現妹にそんな仕打ちをさせた元凶はブン殴るべきだ。戻ったら兄上たちと共謀して隠匿して頂こう」
ナディが目が笑っていない半笑いを浮かべ、レオノールが血統や血筋より肩甲骨の裏側にある霜降なおいしいお肉に言及し、そしてヴァレリーがより物騒な陰謀を巡らせ始める。三人は結局、夫婦であり親子であった。
そんな結構邪悪な会話をしつつ、武器が扱えないとか知らんとばかりに例の付与マシマシな短刀を包丁代わりにヴァレリーに渡して【ストレージ】から出した立派な【ゴールドトラウト】一尾まるごとを捌いて貰い、そのアラを使ってスープを作る。
身の部分は生で野菜と和えてドレッシングを掛けたり、塩胡椒とバジルを振って焼き上げたりした。ちなみに前者はレオノールが、後者はヴェレリーが作った。
あとヴァレリーに渡した短刀だが、【専用化】が付与されているためナディとレオノール以外は使えない設定になっていたが、何故かヴァレリーも使えるという謎現象が起きていた。
ナディはそれを渡してから気付き、だがなんの問題もなくスパスパ使えて首を傾げ、それよりも「壊れない」と意味不明に感動しているヴァレリーを見てちょっと引いたそうな。
そしてその【専用化】を言及すると、全てを見惚れさせる笑顔で若干熱っぽくノータイムで、
「愛の力だよ」
「煩ぇわ」
そう言い切ってナディにやっぱりノータイムで却下された。
「ヴァルの変態発言はいつものことだからどーでも良いとして、此処って一体何処なんだろうね」
サーモンのムニエルバジルソース掛けを摘みつつ、【ストレージ】から以前泊まった社宅を兼ねた宿の朝食ビュッフェからパク――譲って頂いた白パンを出して二人に配りながらそう言った。実は利便性が高いから結構利用しているし、地味に色々パクって……じゃなくて譲って頂いて来ているため、そのビュッフェのメニューは全て揃っている。しかも【ストレージ】は時間停止設定の選択があるからいつでも出来たてホカホカだ。
そんなガメついおばちゃんがタッパー片手にビュッフェに参加するみたいな行為は真面目な話かなり迷惑だし非常識だから、良い子のみんなは「迷惑なババァだな死ね」と思うだけに留めて真似してはいけない。
「それは謎。上空に魔弾を撃ってみたけどダンジョンだったら【領域型】でも天井があるのに無かった。それに大気中のマナが希薄。お姉ちゃんこのスープちょっとぬるい気がする」
スープを木製のスプーンですくって上品に飲みながら、白パンを受け取ってレオノールが続く。そしてそんなレオノールの感想に首を傾げ、だがヴァレリーにも白パンを渡す。それを恭しく両手で差し出された手ごと包み込みようにして受け取り、
「ああ、ありがとうナディ。愛してる」
「黙れよ」
「そうだね。レオが撃った魔弾は上空500メートルくらいまでに到達していた。【領域】ダンジョンの天井までは高くても100メートル弱しかないんだ。それにレオの言う通り、大気のマナ濃度が低いから、此処はダンジョンではないな。ダンジョンではマナ濃度が外より絶対に高くなるからね。そうだな……濃度は地域によって増減はあるけど、此処は概ねグランツ王国の半分以下かな」
白パンを受け取り愛を語り、やっぱりナディに即時却下されているが意に介さずにそう分析結果を語る。きっとこれは慣れだろう。それとも愛の力であろうか。色々な形があるというし。
「……グランツ王国、か……」
スプーンを片手に僅かに俯き独白し、思案するナディ。そして顔をあげ、二人を見詰めながら意を決したように訊いた。
「何処、それ」
「……お姉ちゃん……」
「……ナディ……まぁ、うん、昔からそういうことは一切気にしなかったから良いんだけどね」
「え? なんで? 生きるのに地名や国名なんて必要?」
流石にそれはナイとばかりにそう言われた。ナディの言い分はある意味では真理であるが、一般的な社会生活を送るためには必要である。
「お姉ちゃん。もしかしてだけど登録した冒険者ギルドの所在地も知らないの」
「うん知らない。何処にも書いてないし」
「お姉ちゃんはやっぱりアデライドお母様だった」
「そうだね。ちっちゃいことは気にしないと言いながら、ワリと大きなことも気にしなかったからね」
二人にそう言われているが、そんなんどうでも良いんじゃね? とばかりに気にしないナディであった。良くも悪くも相当図太い。あと知識の偏りがハンパなく、一般常識がやっぱり薄い。
「そんなちっちゃいことなんて気にしないわよ。ぶっちゃけ生きてて正常に生活するのに、国とかどーでも良いでしょ。気にするのは権力者とか政治屋だけよくっだらない」
魔王妃時代それらに散々嫌ぁな思いをさせて頂いた経験があるからか、ナディはそんなヤツらをそう評価していた。実際はそういうバカとかクズばかりだけではないのだが、多いのもまた事実であるため反論しづらい現在お貴族様なヴァレリーであった。ナディが大好きでなにがあっても全肯定するししているから、反論なんてする気もないけど。
「そんな些末事より、もっと大変なことに気付いたわ」
スープの器を膝の上に置き、真剣な表情で二人に目を向けて言う。それに何を感じたのか、同じく器を置いて次の言葉を待つ二人。
かくして、ナディが言う大変なこととは――
「ちゃんと煮立たせたのにレオの言うとおりスープがぬるい」
言葉を聞いただけだと、ぶっちゃけどーでもいいんじゃね? と言われそうではあるが、それが何を意味するのか、察しの良い二人はすぐに気付いた。
「ふむ……そういえばちょっと呼吸がしづらい気がする。もしかしてだけど、此処って標高が高いのかな」
「お湯の沸点が大体八七度。よってこの場所の標高は4100メートル以上だと思われる」
「おお、即座にそこまで分析出来るのは流石だ。それでこそボクの娘で妹だ。愛しているよレオ」
「迷惑ですお兄様。あと喋らないで下さい」
「照れなくて良いのだよレオ」
愛しているとか言われるのにかなり抵抗のあるレオノールは、取り敢えずナディに習ってそう言う。だがやっぱり効果がある筈もなく、ヴェレリーのメンタルタフネスがとんでもないのが証明されただけであった。
「んー……調べてみるか。アンタちょっとこれ持ってて。口付けたら殺す」
「ああ良いよ。大丈夫だよそんなことはしない。ボクは間接とか変態行為はしないしそれじゃあ満足出来ないから、直接しかしないよ安心して」
「安心出来ねーわバカかよ死ね【エビエイション】」
言い捨て、飛行魔法で垂直に飛ぶ。そして300メートルほど上空に舞い上がり、
「【マキシマイズ・ソーサリー・イクステンシヴ】【ディスタント・ヴィジョン】【ワイド・ヴィジョン】【センス・イービル】【センス・ホスリティ】【センス・エネミー】【センス・オーガニズム】【センス・インオーガニック】【サーチ】【ディテクト】【シーク】【アナライズ】【アプレイザル】【マップ・クリエイト】【マッピング】」
魔法効果を極大化させ遠見と広角視を付与し、更にありったけの感知系魔法と地図を作成する。そしてほどなく地面に降り立ち、大きく息を吐いてその場に倒れ込んだ。
それを目の当たりにして、レオノールとヴァレリーは判り易く慌てるが、当のナディは心配ないとばかりに手をヒラヒラさせる。
「いやぁ、さっき【神装魔法】使ってたの忘れてたよ。失敗失敗。自分で思っているより消耗しているし負荷がキツかったなー。あと此処って魔力が薄いから内包魔力使うしかないんだよねー。範囲広げ過ぎてちょっと枯渇したわ」
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「お姉ちゃん無理しちゃダメ。ちゃんと慎重に行動して」
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「あー、心配かけてゴメンね。確かにウッカリしてたよ。次からはちゃんと気をつけるから、そんな顔しないで」
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しっかりと抱き締められているため身動きが取れないナディはちょっとビチビチ動いていたが、やがて何故か脱力した。そして暫しエロいナニかの音がして、やっと離れるヴァレリー。透明なナニかが糸を引いていたが、それはどうでも良いだろう。あとナディが何故か頬を染めてちょっとポーっとしている。
「無理をしちゃダメだよナディージア。既にキミの命はキミだけのものじゃないんだ。それにそんなことをしたら、レオだってボクだって悲しい気持ちになるんだべら!?」
「どさくさに紛れて今度はしっかりねっとりベロチューしてんじゃねーわこのド変態が! そんなに死にてぇんなら今すぐ素っ首落としてやらぁ!」
それっぽい格好良さげな台詞を吐くが、どう考えても犯罪な痴漢行為であるため、ナディに顔面をキレーにぶん殴られた。インパクトの瞬間に拳がグリっと抉り込むように打ち込まれ、流石にぶっ飛ぶヴァレリーである。
「あーもーあーもー信っじられない! ほんっとなんなのこのヘンタイ! しかもレオが見てる前でするとかなに考えてんのよバッカじゃないの!」
ぶっ飛んだヴァレリーに背を向け、プリプリ怒るナディ。だがその程度で済ませているのを、レオノールは怪訝に見詰める。そして、ナディの頬がちょっと赤いのは色々でイロイロだから仕方ないが、まぁ結局はそうなのだろうと結論付けて考えるのを止めた。子供が安心出来る最大の要因は、夫婦仲が良いことだ。つまりは単純にそういうことである。
「もーキツいなーナディは。そんなナディも大好きだよ愛してる――」
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「――ボクの気持ちはちゃんと伝わっているみたいだし問題ないから良いとして――」
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「――真面目な話、何が見えたんだい?」
「誰かさんの所為で一瞬で忘れたわこの犯罪者」
「うーんそうかー。残念。じゃあもう一回すれば思い出すかなうんそうしよう」
「いや『じゃあ』じゃねーわバカじゃねーの思い出すわけね――待ってって言ってるでしょちょま――~~~~~~~~~~~~……」
ナディが作ったスープの鍋に蓋をしてちょっと密閉して温め直し、
「今日も平和」
レオノールは痴話喧嘩が終わるのを待つことにした。
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母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
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クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
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シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
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