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第一章 シャラ
五、ミタマ
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ミタマが戻ってきた時、そこにシャラはいませんでした。
ミタマはため息を吐きました。どこかに移動していることは、予想はしていました。
辺りを見回してから、ミタマは空気の匂いを嗅ぎ始めました。僅かに混ざるシャラの匂いを嗅ぎ分けて、追いかけます。
大きな呉服店にたどり着きました。中を覗くと、大勢の人がいました。誰もミタマが覗いていることに気が付きません。
「ミタマ」
ひとりミタマに気づき、現れたシャラは、濃い紫色の地に色鮮やかな花が散りばめられた着物を着ていました。そして得意げな顔をしています。
「どう? 似合う?」
「……にあう」
「そうでしょうとも! コマダさんに選んでもらったのよ! コマダさん、これは私の僕のミタマよ」
「しもべ?」
ミタマはちらりと、シャラの後ろに立って不思議そうに首を傾げているコマダを見ます。
コマダはその視線を受けて、ミタマににこりと笑いかけました。途端、ミタマの眉間にしわが寄ります。
シャラはそのやり取りに気付かなかったのか、興奮気味のままミタマに詰め寄ります。
「ミタマ、お金持ってる? この着物を買いたいの」
ミタマは懐から、小銭の入った袋を取り出しました。先程泣かせた人から掠め取ったものです。
コマダはそれを受け取ると、中身を確認しました。
「少し余るよ。よかったら彼の着物も買い換える?」
「それはいいわね!」
シャラは目を輝かせました。
コマダは男物の着物を何着か持ってきました。シャラは1着ずつミタマに当てて、似合うかどうか試します。その間、ミタマはずっと仏頂面でした。
「うーん、どれも違うわね……」
ふと、シャラの目に、店の隅にある着物が止まりました。柄も何もない、真っ白な着物です。
シャラはそれを手に取って、ミタマに当てました。そして満足そうに、にんまりと笑います。
「ミタマのはこれね! あなたには白が似合うわ!」
「それ、仏様に着せるものなんだけど……」
「構わないわ。ね、ミタマ」
ミタマはこくりと頷きました。
シャラは手に入れた白装束をミタマに押し付けて、着替えてくるよう言いつけました。
「僕の部屋を使うといいよ」
そう言って、コマダはミタマを案内しました。
「刀、預かっておこうか?」
コマダはそう言って、ミタマの腰のものをちらりと見ました。
瞬間、ミタマは殺気を放ちました。ぞくりと身を震わせたコマダは、降参と言わんばかりに両手をちょっと上げました。
ミタマは腰の刀を口に銜えながら着替えます。コマダはその様子を、じっと眺めていました。
「そんなにその刀、大事? その刀とシャラさんと、どっちか選べって言われたら?」
その問いに、ミタマは怪訝な顔をコマダに向けます。
「ああいやごめんね。僕の癖でさ、男女仲睦まじいのを見てると、恋人同士だって妄想しちゃって。特に身分差のある男女なんていいよね。どこぞのお姫様と家来とか」
コマダは口を緩めながら喋ります。
その間に着替え終わったミタマは、刀を腰に戻しました。そしてコマダの部屋をぐるりと見回し、奥の方にひっそりと置いてある櫃に目を止めました。
それも寸の間のことで、すぐに背を向けて、さっさと部屋を後にしました。
ミタマはため息を吐きました。どこかに移動していることは、予想はしていました。
辺りを見回してから、ミタマは空気の匂いを嗅ぎ始めました。僅かに混ざるシャラの匂いを嗅ぎ分けて、追いかけます。
大きな呉服店にたどり着きました。中を覗くと、大勢の人がいました。誰もミタマが覗いていることに気が付きません。
「ミタマ」
ひとりミタマに気づき、現れたシャラは、濃い紫色の地に色鮮やかな花が散りばめられた着物を着ていました。そして得意げな顔をしています。
「どう? 似合う?」
「……にあう」
「そうでしょうとも! コマダさんに選んでもらったのよ! コマダさん、これは私の僕のミタマよ」
「しもべ?」
ミタマはちらりと、シャラの後ろに立って不思議そうに首を傾げているコマダを見ます。
コマダはその視線を受けて、ミタマににこりと笑いかけました。途端、ミタマの眉間にしわが寄ります。
シャラはそのやり取りに気付かなかったのか、興奮気味のままミタマに詰め寄ります。
「ミタマ、お金持ってる? この着物を買いたいの」
ミタマは懐から、小銭の入った袋を取り出しました。先程泣かせた人から掠め取ったものです。
コマダはそれを受け取ると、中身を確認しました。
「少し余るよ。よかったら彼の着物も買い換える?」
「それはいいわね!」
シャラは目を輝かせました。
コマダは男物の着物を何着か持ってきました。シャラは1着ずつミタマに当てて、似合うかどうか試します。その間、ミタマはずっと仏頂面でした。
「うーん、どれも違うわね……」
ふと、シャラの目に、店の隅にある着物が止まりました。柄も何もない、真っ白な着物です。
シャラはそれを手に取って、ミタマに当てました。そして満足そうに、にんまりと笑います。
「ミタマのはこれね! あなたには白が似合うわ!」
「それ、仏様に着せるものなんだけど……」
「構わないわ。ね、ミタマ」
ミタマはこくりと頷きました。
シャラは手に入れた白装束をミタマに押し付けて、着替えてくるよう言いつけました。
「僕の部屋を使うといいよ」
そう言って、コマダはミタマを案内しました。
「刀、預かっておこうか?」
コマダはそう言って、ミタマの腰のものをちらりと見ました。
瞬間、ミタマは殺気を放ちました。ぞくりと身を震わせたコマダは、降参と言わんばかりに両手をちょっと上げました。
ミタマは腰の刀を口に銜えながら着替えます。コマダはその様子を、じっと眺めていました。
「そんなにその刀、大事? その刀とシャラさんと、どっちか選べって言われたら?」
その問いに、ミタマは怪訝な顔をコマダに向けます。
「ああいやごめんね。僕の癖でさ、男女仲睦まじいのを見てると、恋人同士だって妄想しちゃって。特に身分差のある男女なんていいよね。どこぞのお姫様と家来とか」
コマダは口を緩めながら喋ります。
その間に着替え終わったミタマは、刀を腰に戻しました。そしてコマダの部屋をぐるりと見回し、奥の方にひっそりと置いてある櫃に目を止めました。
それも寸の間のことで、すぐに背を向けて、さっさと部屋を後にしました。
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