コトハジメ

陽紫葵

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コトハジメ

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お正月は実家に帰ることにした。
4月に結婚も決まっていたので、3人で過ごすのも最後になるだろう。
「想定外だったわね」
「いいでしょ?幸せになるんだから」
「まぁ、そうね」
「私、子供の頃、学校から帰るとお母さんがいつもいて、何気に嬉しかったんだと思う。小学校入ったすぐだったかなぁ?帰ると、お母さん居なくて、家中探し回っても居なくて、悲しくて、悲しくて、泣いてた覚えがある」
「あぁ、あの時ね。朝、今日、少し遅くなるからって言ったのに、ちゃんと聞かなかった橙香が悪いのよ」
「だって・・・」
「帰ると、泣きじゃくってたわね。そんなに泣かせてって、お父さんにも怒られた」
「私は、お母さんのように、いつも家にいるお母さんになりたいって、ずっと思ってた」
「だから、仕事辞めるの?」
「依里さんのお琴も手伝いたいし」
「お母さんは、高卒で思う仕事が出来なかったから、橙香には大学出て欲しいって思ったんだけどな」
「でも、就職先でお父さんと出会ったわけでしょ?」
「そうなんだけど。それでもね、大卒と、高卒じゃ、待遇が違った。お父さんには愚痴ってばっかいた」
「お母さんでも?」
「そうよ。お父さんがいなかったら、多分、1か月も続かなかったんじゃないかな?」
「え、そんなにきつかったの?」
「きついってゆうかね、雑用ばっかだったからねぇ」
「そうなんだ?」
「当時は、男女の差もあったし。寿退社の人も多かったけど。1年経った頃に、妊娠して、結婚して、」
「え、デキ婚なの?」
「そうよ。言ってなかったわね」
「うん、聞いてない」
「なんか、あの頃は、意地みたいになってて、辞めなかったけど。流産して、倒れたでしょ?もう、無理って思っちゃったのよね」
「お父さんは何て?」
「守ってやれなくてごめん。でも、もう、無理するな。って。その時、その言葉に救われた」
お母さん自身が、ちゃんと出来なかった事を、私に望んでいるのかもしれない。それは、押しつけがましいとは思わなかった。
「橙香は真っすぐに育ってくれたと思うわ。中学の時、少し反抗期なのかなって思ったけど」
「中学の時って、お琴の時?」
「そうね。家に帰るの遅かったりね。その時に、泰之くんに出会ってたのね?」
「うん。でも、会えないことも多くて」
「ずっと好きだったの?」
「うん。あ、そうだ、お母さんにも話したでしょ?小5の時に、塾帰りの電車で睨まれたって」
「あぁ、中学生くらいのって?」
「その彼が、泰之くんだったの」
「え~!」
かなり驚いていた。
中学になって手帳を拾ってもらったこと、家まで着いていったことなどを話した。
「そんなことがあったのね」
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