コトハジメ

陽紫葵

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コトハジメ

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アパートの前まで送ってもらって、
「ケータイ貸して」
渡すと、先輩のケータイと合わせて、何か操作し出し、
「はい、登録しといたからさ。また連絡するからな」
「うん」
帰りたくない。でも、帰らなきゃ。
「ありがとう」
「うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言って、車から降りた。
部屋に入ってから、何度も思い出しては、にやけが止まらなかった。
でも、好きとも、付き合おうとも言われていない。
私たちの関係は?
ただ、今は彼女がいないって言ったことにほっとしていた。

 2週間後の金曜日、先輩から電話がかかってきて、
「今から行ってもいい?」
と言った。
「今からって、うちに?」
「そうだよ。もう、アパートの前に来てるし」
私は、通話のまま、部屋を出ると、先輩の車が止まっているのが見えた。
先輩も気づき、車から降りてきた。
「ごめんな、急に」
「ううん」
取り敢えず、大丈夫な服装だった事と、部屋が散らかっていなかった事に安堵した。
「割と広いんだな」
「今年引っ越したから」
「そうだったんだ?」
リビングのソファーに並んで座った。
「部屋、決まったよ」
「そうなんだ?」
「俺の顧客で不動産屋してる人がいて、紹介してもらった。ある会社の事務所兼住まいとして使っていた物件なんだけど、その会社も移転して使わなくなったから、希望なら売却するって言われて。まだ築5年くらいだし悪くはないけど、安価で売ってくれるってんで決めたんだ」
「事務所ってことは、ビルみたいな?」
「まぁ、そんな感じかな。1階が事務所で、2階3階が住居だな。20代の男性2人で会社興して、住まいにも使ってたんだけど、事務所も手狭になって、2人とも結婚決まったから越すんだって」
「じゃあ、めでたい話なのね?」
「そうだな。2階はキッチンや、お風呂などがあって、3階は各自の部屋に使っていたようだけど、2階を少し改装して、母さんの部屋を作ろうってなってる。あと、1階は琴弾くとこにする」
「依里さんも気に入ったってことね?」
「あぁ」
「そっか」
「で、な。明日から引っ越しの準備始めるからさ。俺は引っ越し先の方の片付けするし、橙香は前の家で母さんの手伝いしてあげて欲しい」
「うん」
先輩と一緒じゃないんだぁ?と、残念な気もしたが。
「明日、時間ある?」
「うん」
「じゃ、また迎えに来るから」
と言って帰っていった。
この前のキスのことが、無かったかのようで、少し悲しくなった。



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