あの日のこと

陽紫葵

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あの日のこと

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「昇矢くんさぁ、私と初めて会ったときの事、覚えてる?」
「覚えてるよ」
「どう思った?」
「どう、って、可愛かったよな。歌も上手かったしな」
「お世辞じゃなく?」
「お世辞なんかじゃないよ」
「だってさ・・・」
「あの、男の子たちに言われた事?」
「うん」
「ただ、からかいたかったんじゃない?あの年で、TVとかにも出て、凄いことだよ。だからさ、なんか、面白がってたんだよ、きっと。確かに、化粧は濃かったしな」
「う~ん、よくわかんないよ」
「そうだよな、まだ小さかったもんな。里桜は覚えてるの?」
「当時の事は、覚えてる事と覚えてない事があるけど、昇矢くんを見た時の事はよく覚えてるよ」
「へぇ、どんなだった?」
「かっこよくて、優しくて、声も素敵で、なんか、嬉しかった」
「そっか」
昇矢くんは嬉しそうに笑った。
「よく、あの時の名刺取ってあったな?」
「うん。宝箱に入れてあった」
「宝箱かぁ」
「お菓子の空き缶だけどね。昔の思い出の物とか、まとめて段ボール箱に入れてあったの。なんか、懐かしくて見てたら、入ってて、急に昇矢くんの声が聴きたくなったの」
「俺の声って、そんなにいい?」
「うん、今も素敵」
そうゆうと、耳元で、
「ありがと」
と言って、ふっと息を吹きかけ、キュンっとなって、目を閉じると、キスをした。
長~いキスを。
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