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聖女編
幼き日のセリーヌ:0 (投稿ミスにつき1の前の話です)
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セリーヌはエルに説明をしながら、自身の記憶を遡っていた。
セリーヌ・ラムダがこの世界に誕生したのは、今から十六年前のことだ。
セリーヌはラムダ帝国の皇帝の血筋に生まれた。この時点で、セリーヌは帝位継承者の『第二位』 だった。セリーヌには双子の兄がいたからだ。
兄の名前はディナンド。彼が帝位継承者第一位だった。 そう、本来ならば皇帝の座には兄のディナンドがつくはずであって、セリーヌにその役回りが与えられることなどありえなかったはずなのだ。
ディナンドは明るく気さくな性格で、家臣から庭師にいたるまで、城のあらゆる人々に好かれていた。
勉学をやらせればその理解度に教師をおののかせ、武術をやらせれば教師役を負かしてしまう。類を見ない魔力量に巧みな魔力コントロール、そしてそれから放たれる、 難易度の高い魔法の数々。にもかかわらず、そのことを少しも鼻にかけたりしない。
ディナンドが天才と呼ばれるようになるのはごく自然な流れだった。人々は次期皇帝である彼に大きな期待をかけ、さらに彼もその期待を上回るような成果を上げた。
そんなディナンドだったが、彼をよく知る一部の人々は、実は彼に手を焼いていた。
「ディナンド様ー!!」
そんな風に必死でディナンドを呼ぶ声が聞こえてきたのならば、それは彼が城を抜け出した合図だ。
彼の従者はたまったものではないが、それ以外の人々はまたか、と微笑みとも苦笑ともつかないような表情を見せる。
ディナンドはどこでそんなことを思いついたのか、そしてやろうと思ったのか、というような多種多様な方法で城からの脱出を試みた。
ある時は二階の窓から木を伝い、またある時はかぎのついたロープを引っ掻けて塀を乗り越えた。別の日にはどこで手に入れたのかボロボロの服を着て堂々と裏口から出てみたり、極めつけには隠し通路なんてものまでこしらえた。流石にディナンドが一から作ったわけではなく、もともと城にあったものを流用しただけだが。
皇太子という立場のディナンドがそんな様子なので、周囲の人々はたまったものではなかった。
しかも城から抜け出す才能まで彼には与えられていたらしく、ディナンドを止める、ましてや捕まえるなんていうことは不可能に近かった。
そんなディナンドだったが、空間魔法だけは城から抜け出すのに一切使わなかった。彼なりの矜持なのか、はたまた周囲の人々の反応を楽しんでいたのか。それは本人にしか分からない。
ディナンドとセリーヌは特別仲がいいわけではなかったが、 特に肩身の狭い思いをすることもなく、セリーヌは密かに兄のことを自慢に思っていた。
とにかくディナンドは申し分ないほどの才能の持ち主で、誰もが彼が皇帝になると疑わなかった。
セリーヌ・ラムダがこの世界に誕生したのは、今から十六年前のことだ。
セリーヌはラムダ帝国の皇帝の血筋に生まれた。この時点で、セリーヌは帝位継承者の『第二位』 だった。セリーヌには双子の兄がいたからだ。
兄の名前はディナンド。彼が帝位継承者第一位だった。 そう、本来ならば皇帝の座には兄のディナンドがつくはずであって、セリーヌにその役回りが与えられることなどありえなかったはずなのだ。
ディナンドは明るく気さくな性格で、家臣から庭師にいたるまで、城のあらゆる人々に好かれていた。
勉学をやらせればその理解度に教師をおののかせ、武術をやらせれば教師役を負かしてしまう。類を見ない魔力量に巧みな魔力コントロール、そしてそれから放たれる、 難易度の高い魔法の数々。にもかかわらず、そのことを少しも鼻にかけたりしない。
ディナンドが天才と呼ばれるようになるのはごく自然な流れだった。人々は次期皇帝である彼に大きな期待をかけ、さらに彼もその期待を上回るような成果を上げた。
そんなディナンドだったが、彼をよく知る一部の人々は、実は彼に手を焼いていた。
「ディナンド様ー!!」
そんな風に必死でディナンドを呼ぶ声が聞こえてきたのならば、それは彼が城を抜け出した合図だ。
彼の従者はたまったものではないが、それ以外の人々はまたか、と微笑みとも苦笑ともつかないような表情を見せる。
ディナンドはどこでそんなことを思いついたのか、そしてやろうと思ったのか、というような多種多様な方法で城からの脱出を試みた。
ある時は二階の窓から木を伝い、またある時はかぎのついたロープを引っ掻けて塀を乗り越えた。別の日にはどこで手に入れたのかボロボロの服を着て堂々と裏口から出てみたり、極めつけには隠し通路なんてものまでこしらえた。流石にディナンドが一から作ったわけではなく、もともと城にあったものを流用しただけだが。
皇太子という立場のディナンドがそんな様子なので、周囲の人々はたまったものではなかった。
しかも城から抜け出す才能まで彼には与えられていたらしく、ディナンドを止める、ましてや捕まえるなんていうことは不可能に近かった。
そんなディナンドだったが、空間魔法だけは城から抜け出すのに一切使わなかった。彼なりの矜持なのか、はたまた周囲の人々の反応を楽しんでいたのか。それは本人にしか分からない。
ディナンドとセリーヌは特別仲がいいわけではなかったが、 特に肩身の狭い思いをすることもなく、セリーヌは密かに兄のことを自慢に思っていた。
とにかくディナンドは申し分ないほどの才能の持ち主で、誰もが彼が皇帝になると疑わなかった。
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