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1巻

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 3


 王宮での一件から数日後。加護を授かったからといって特に何か変わることもなく、俺は平穏な日常を過ごしていた。いたのだが……

「……これ、どうしようかなあ」

 目の前には積み上がったポーション。
 父様の書斎にあった文献で読んでからずっと作ってみたくて、つい最近材料を手に入れたのだ。というか父様にもらっただけだけど。それで色々試作を繰り返しつつ材料がなくなるまでポーションを作り続けた結果、こうなったと。ポーションのびんを持ち上げると、中に入った水色の液体が揺れる。せっかく作ったんだから捨てるのは勿体もったいないし、どう処分したものか。

「そうだ!」

 そういえば、この世界にはギルドというファンタジーな施設があったんだった。
 ギルドというのは様々な依頼を用意し、発注者や受注者を仲介してくれる施設で、この国の中枢ちゅうすうになっているといっても過言ではない。その内容は多岐たきにわたり、ちょっとした護衛から本格的な魔物討伐、個人でやっている職人の収入源にもなっている。
 変わり種だと猫探しとか、ご年配のチェスの相手とか。なんでもござれといった具合だ。
 そしてそのギルドを利用してお金を稼ぎ生活している者、特に魔物関係の依頼をこなしている人は冒険者と呼ばれているらしい。確かギルドは依頼の受注や発注だけでなく、素材の売買とかもやっていたような。そこでポーションも買い取ってくれるかもしれない。そうでなくても、普通に面白そうだから行ってみたい。冒険者とか憧れでしかない。
 早速支度しようとすると、鏡に今の俺、五歳のエルティードの姿が映った。ギルドは大人ばかりだろうし、子供の見た目では浮くだろう。

「…………」

 そういうときのための魔法を考えていたからこの機会に試してみよう。イメージさえできればこっちのものだ。
 この世界の成人は確か十五歳だったはずだから、それくらいをイメージしてみよう。俺がこのまま成長していく様子を思い浮かべてみる。こう、いい感じに……上手くいけ!
 しばらく目を閉じて集中していると、魔力が消費されるとき特有の、少し脱力するような感じがした。そっと目の前の鏡を覗いてみる。

「……よし!」

 新作魔法は見事に成功し、鏡の中には見慣れない姿の俺がいる。身長が伸びたので、いつもより目線が高くて新鮮だ。うん、我ながらいい出来なんじゃないか?
 スラリと伸びた身長は一七〇……いや、一六〇センチちょっとぐらいだろうか。ちょっと細すぎるのが不満。もうちょっと男らしくなると思っていた顔面はあまり変わらず。年齢は上がったものの、大きめの目や長い睫毛はそのままである。これも不満だが仕方ない。
 全体的に不満が多いが、年齢はちゃんと十五歳前後に見えるしまぁよしとする。
 とりあえずの魔法名は《外見成長》。そのままだけど、今はこれ以外思いつかなかった。
 この間も指摘されたし念のため、帽子を被って髪色を隠した。
 さて、準備は完璧。確かギルドの本部が王都にあったはずだ。ちょうどこの間王宮に行ったばかりだし、その近くなら問題なく想像できる。ギルドまでは歩けばいい。
 最近イメージのコツを掴んだ転移魔法を発動させ、王都の王宮近くへと転移してみる。瞬間、静かだった周りが雑音に溢れた。問題なく転移できたらしい。
 近くにあった地図によると、幸いギルドはここから近いようだ。
 食事処や道具屋、武器屋まで、色とりどりな看板に目を奪われながら歩く。武器屋とか道具屋とか気になりすぎる。帰りに絶対寄ろう。あ、お金ないんだった。ポーションが売れるか分からないし、今日はひとまず見るだけかな。
 よそ見しながらも歩いていると、いつの間にか無事ギルドへと到着していた。石造りの立派な建物で、圧がすごくて少し入りづらい。意を決して中へと入ると、途端に騒がしい音に包まれる。

「おお……!」

 冒険者、って感じだ。武器や防具を身に着けている人もいれば、魔法使いのような杖とマント姿の人もいる。いけない、思わずギルド内を観察してしまっていた。
 俺の目的はポーションを売ることだ。面白そうなことをするのは、それが終わってから。ちなみに今の俺は手ぶらだ。でも心配無用、荷物は魔法で作った疑似空間に放り込んである。ゲームで言うアイテムボックスのような感じだ。イメージには苦労したが、一度コツを掴めば簡単だ。魔法って便利。

「何か御用ですか?」
「あっ、はい!」

 カウンターらしき場所の近くで固まっていたら、職員らしき女性に話しかけられた。完全に意識の外だったので、驚いて勢いよく返事をしてしまう。

「新人さんですよね? 冒険者登録はお済みですか?」
「いえ、まだです」

 家族以外で年上の人と話すことはあまりないので、妙に緊張してしまう。いや、この間陛下と話したな。

「初めまして、受付のアルネットと申します。当ギルドを冒険者として利用し、依頼などを受ける場合は冒険者登録が必要なのですが、どうされますか?」
「じゃあお願いします」
「では銀貨一枚になります」
「えっ」

 思わず声を上げると、目がバッチリ合ってしまった。
 さっきアルネットさんと言っていたっけ、と一瞬どうでもいいことを考える。
 まずい。非常にまずい。今の俺は無一文むいちもん、銀貨どころか貨幣一つ持っていない。アルネットさんはまさか、という顔でこちらを見ている。お金が必要なんて知らなかった。

「……えっと、冒険者登録しなくても、買い取りとかって……」
「依頼の発注と、素材などの査定さてい、買い取りは可能です」

 助かった……! 俺のポーションを買い取ってもらえるかは一旦置いておいて、とりあえず買い取りを利用することはできるようだ。

「あの、買い取りってポーションとかも大丈夫ですか?」
「はい、魔法薬などもこちらで受け付けております」

 ポケットに一つだけ入れていたポーションを取り出して、カウンターの上に置く。とりあえず売れるのかだけ見てもらって、大丈夫そうなら残りも出せばいい。

「じゃあ、これお願いします」
うけたまわりました。買取金額を査定いたしますので、しばらくお待ちくださ、い……⁉」

 俺がカウンターから離れようとした瞬間、アルネットさんは営業スマイルを崩した。ひどく驚いた表情をしている。

「えっと、どうかされましたか……?」

 何かまずかったのだろうか。文献に載っていたとおりに作ったはずだが、失敗したのかもしれない。

「なんですかこれ!」

 アルネットさんはしばらく固まったのち、すごい剣幕でそう言った。なんですかと言われても、俺は一応ポーションのつもりで作ったんですけれども。

「失礼、取り乱しました。少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい」


 待ちぼうけを食わされること数十分。今の俺の状況はおかしなことになっている。
 ポーションの査定をしてもらっていたはずなのに、俺は何故かギルドマスターに呼び出され、ソファに座っている。ちなみに目の前には温かいお茶がある。いや、本当になんでだよ。
 ギルドマスターは意外なことに小柄な女性で、耳が尖っているのが特徴的だ。この世界には人間以外の種族も存在しているのだが、この人はエルフとかその辺りなんだろうか。

「私はギルドマスターのベルザだ。まずは名前を聞かせていただいても?」
「……エルと申します」

 家名を名乗ると貴族であることがバレるので、そこは伏せて答える。ついでに貴族っぽくない短い名前に変えておく。ギルドに貴族はほとんど来ないだろうし、下手に目立つようなことはしないほうがいいだろう。別に嘘をついているわけでもないし。ただの愛称だし。

「ではあのポーションについてだが、あれは君が作ったのか?」
「は、はい」

 さっきから圧がすごい。声のトーンも低いし、無表情なのが余計に……
 俺はポーカーフェイスができない。なので「はい」と正直に答えるしかなかったが、一体なんて答えるのが正解だったんだろうか。

「金貨十枚でどうだ?」
「……え?」
「……分かった。じゃあ金貨百枚出そう。これほどまでに純度が高いポーションは初めて見た。もしよければギルド系列の研究施設へ回させてもらいたい」

 ギルドマスター、ベルザさんは放心している俺をよそに、俺の作ったポーションについて熱く語っている。

「え、金貨?」

 思わずそう口にしてしまったが、ベルザさんは話に夢中になっていて気付いていないようだ。
 使ったことがないのでお金の価値はよく分からないが、金貨っていうんだからそこそこの価値があるのだろう。それを百枚って、どういうことなんだよ。

「あ、すまない。つい話しすぎた……ではこの話、受けてくれるか?」
「は、はい……」

 もう俺は考えることをやめた。お金がいっぱいもらえて嬉しいなってことにした。

「そうだ、できれば君には冒険者登録をしてもらいたいんだが、それはどうだ? 君はとても優秀な人材だし、ぜひギルドに在籍してほしい」

 今度はギルドに在籍するメリットを語られそうになったので、慌てて話をさえぎる。

「あ、えっと、実は僕、お金持ってなくて……ポーションの売却がすぐにできそうならそのお金で払いますけど……」
「それなら、私が払っておく。ただ、簡単な登録試験だけは受けてもらうことになるが」

 ベルザさんからは『俺に登録してほしい』という気持ちが溢れ出ている。まあ登録するだけならなんの問題もなさそうだしな……

「じゃ、じゃあ、お願いします」

 それからはあれよあれよという間に話が進み、俺がうなずいているうちに、一週間後に実施される、統一試験を受けることが決まった。冒険者の昇級試験と登録試験が同時に実施されるらしく、結構な人数が集まるようだ。あまり人が集まるところには行かないので少し不安だが、この間のパーティーで少しは慣れたし大丈夫だと思いたい。
 ギルドには銀行のようなサービスもあるらしく、ポーションの売上金は俺がギルド登録をしたあとに振り込んでくれるそうだ。とにかく俺は冒険者になれる上、お金ももらえるらしい。
 そんな気持ちでわくわくしながら帰宅した。しかし元の姿に戻り満面の笑みだった俺の前に、ある人物が立ちはだかった。

「エル、一体どこへ行っていたんだい?」
「……」

 視線をらしたいけど、逸らせない。絶対に父様、すっっっっごい怒ってる。だって怖いもん。うしろにドス黒いオーラ見えるもん。
 なんか色々なことがありすぎてすっかり忘れてた。最初はすぐに帰るつもりだったんだよ。こんなに時間が経ってしまっては、ちょっと庭に出てました程度じゃ誤魔化ごまかせない。

「あー……えーっとですね……」
「ん?」

 お願いだから圧をかけないでくれ、圧を。普通に怖いから。

「……勝手に出かけてすみませんでした‼」

 詳細を話したり言いわけをすると余計に怒られそうだったので、勢いよく謝ってみる。こういうときは早めに謝るのが吉。

「よろしい。それはそうと、一体どこへ――」
「お……ぼっ僕! 新しい魔法使えるようになったんですよ!」

 家中に響くかと思うぐらい、とびっきり大きな声で叫ぶ。こうすると何が起こるかというと。

「「エル、見せて!」」

 高確率で家族の誰かがやってくる。今回は兄様と姉様だ。とりあえず勢いに任せて、今朝覚えたての魔法で体を成長させた。いきなり大人になりすぎて驚かせるといけないので、今度は十歳くらいまで。
 そうすると褒めまくりからの質問攻めへ。よし、これでなんとか誤魔化せそうだ。別に俺、嘘はついてないし……ついてないし!


     ◇ ◇ ◇


 そして冒険者登録の試験の日がやってきた。
 今度こそ出かけたのが家族にバレないように気を付けなくては。そう思い、俺は対策を練りに練った。
 少し心苦しいけれど昨日から体調が悪いフリをし、部屋にこもった。そして布団の中には丸めたタオルを突っ込み、ちょうどいいふくらみを演出している。寝ている俺を起こそうとはしないだろうし、短時間ならバレないはず。多分。
 念のため鏡をもう一度チェックし、転移魔法でギルドへと飛ぶ。
 試験のためか、ギルドにはこの前よりも沢山人がいる。皆強そうなたたずまいで、少し不安だ。
 登録試験の内容はこの間説明されたけれど、半分、いや三分の一ぐらいしか聞いていなかったのでほとんど分からない。
 ギルド独自の制度『冒険者ランク』の目安を決めるために、登録試験を行うということは覚えている。FランクからSランクまであって、依頼をこなして昇級試験を受けることにより、ランクが上がるらしい。登録試験では初期ランクを決めるんだろう。
 この辺りは初めに説明されたから覚えているけれど、肝心の試験内容が分からないから困った。なんとか記憶を引っぱり出してみるものの、ほとんど何も残っていない。

「えっと、すみません。これどうぞ」
「ありがとうございます」

 近くにいた髪がピンク色の女の子に、紙を渡される。上のほうに大きな字で『登録・昇級試験内容』と書かれている。周りを見渡してみると、皆同じ紙を持っているようだ。
 流石に試験内容が分からないまま受けるのは不安だったし、助かった。ありがとう、これを作ってくれた誰か!


 登録試験内容
 西の森にて魔物の討伐を行う。魔物の等級及び討伐数にて採点。討伐証明ができない場合は数に入れないため、必ず魔物討伐証明箇所を採取し、試験終了後提出すること。
 制限時間は六十分。怪我は減点、不正や他者を攻撃した場合は失格とする。


 思っていたよりもシンプルな内容だな。試験っていうから筆記とかどんな魔法が使えるかとかで、実戦はないかと思っていたけど、バリバリに実戦だった。こんなことならこっそり武器を持ってくればよかった。
 問題は解決したかと思ったが、また新しい問題が出てきてしまった。魔物の討伐証明箇所がさっぱり分からない。これって俺が知らないだけで、皆普通に知っているものなんだろうか。
 ……まあ念のため、まるごとアイテムボックスに入れておけばいいか。魔物の一部が証明箇所なわけだし、きっとそれで大丈夫だろう。王都外れにある西の森付近へと移動すると、もう一度軽く試験内容の説明をされる。思ったよりも親切だな。

「では、始め!」

 開始の合図とともに笛が鳴ると、周りの冒険者は一斉に森へと飛び込んでいった。なるほど、確かに魔物は倒したそばから、すぐに湧いてくるわけじゃないし、早い者勝ちだもんな。

「……出遅れた」

 まあいいだろう。特にランクにこだわりがあるわけではないし、そもそも最初はポーションさえ売ることができればよかったんだ。別にそこまで魔物を倒せなくたって問題ない。
 そう思って俺はのんびりと森の中へと歩いていった。
 周りに注意を払いつつ、森の中を散策する。結構な人数の冒険者がいたのに、全然鉢合はちあわせない。この森は相当広いようだ。それにしても歩いても歩いても、一匹も魔物が見当たらない。
 魔の森には兎っぽいのとかいのししっぽいのとか、熊みたいなのまで、よりどりみどりだったのに。その分最初は怖かったけど。
 やっぱり他の冒険者に狩りつくされてしまったのかもしれない。魔物はしばらくすればまた出現すると聞いた。つまりリスポーンってやつだ。
 その辺の仕組みがどうなってるのかはよく分からないが、魔物のエネルギー源である魔力がリサイクルされるとかそんな感じだった気がする。
 いくらまた出現するとはいえ、流石に数分では復活してくれないだろう。

「きゃあぁああぁぁあ‼」
「……ん?」

 今遠くで誰かの叫び声が聞こえたような……気付かなかったことにしようとしたけど、やっぱり確実に聞こえたな。

「誰かぁああぁ‼」

 ……聞こえていて無視できるほど、俺のスルースキルは高くないしなあ。なんか近付いてきてるような気もするし、すごく嫌だけど行くしかないか。
 武器はないから意味はないかもしれないけれど、念のため身体強化系の魔法をかける。本当は助けを呼びたいところだが、音的にすぐ近くまで来ちゃってるしそんな時間はない。
 攻撃系魔法のバリエーションを振り返りながら、いつでも発動できるよう身構える。数秒後ザザザッという音と一緒に、茂みから紙を渡してくれたピンク髪の女の子が飛び出してきた。それとほぼ同時に、大型の魔物が現れた。

「《アクアバレット》」

 使い勝手がいいのでよく使っている、水属性の魔法を発動させる。俺にネーミングセンスは皆無なので名前はそのままだ。魔物の姿をしっかりとらえないうちに発動させたので、当然ながら命中しなかった。

「グゥ……グルルルル……」

 なんとも形容しがたい見た目だな。色んな動物の特徴が合わさったような。魔の森にはこんなタイプの魔物はいなかったので、少し怖い。いや、足が震えるレベルで怖い。だって見た目からして明らかに強そうなんだもん。

「《ウィンド》」
「ガァ?」

 攻撃範囲が広めのほうが素早そうな魔物には当たると思い、いつものアクアバレットではなく風属性の魔法をだめ押しで発動させてみる。風を切る音がして、見えない刃が魔物へと飛んでいく。
 どうなる? 最低限しか使わないからあまり攻撃魔法のバリエーションはないし、これでだめだったら即席で威力の高い魔法を作らなければいけなくなる。それでも倒せなかったらどうしよう。
 冷や汗をかきながら次の手を考えていると、生温かいものが頬に付着した。
 手でぬぐってみると、赤黒い血がつく。自分の手から正面の魔物に恐る恐る視線を移すと、首から上がなかった。

「……は?」

 いや、どういうこと? 今の魔法で首が落ちたってこと? 俺の風魔法で?
 周りを見渡してみるが、ピンク髪の子以外に人はいない。魔物にひどくおびえていて彼女が魔法を発動させたようには見えないし、俺と同じように驚いた顔をしている。それにうしろから魔法が飛んできたら流石に気付く。
 とりあえずこの魔物は俺が倒したようなので、掴んでアイテムボックスに無理やり押し込んだ。かなり大きかったので苦労したが、なんとか入った。土も一緒に入ってしまったけど、まあ気にしないでおこう。
 ……そういえば、魔物をアイテムボックスに入れるのに苦戦していて、すっかりピンク髪の子のことを忘れていた。あの魔物から逃げていたようだし、もしかしたら怪我をしているかもしれない。

「ありがとうございます!」

 俺がそっちを見た瞬間、声をかけられる。土埃つちぼこりが体のいたるところについているけれど、特に出血はないようだ。無事でよかった。

「い、いえいえ。偶然ですよ! 大丈夫ですか?」
「はい、と言いたいところなんですが、足が……」

 よく見ると、右足がパンパンに膨れ上がっている。相当痛いだろうに、よく普通に会話できるな。
 ていうかこの足じゃ歩けなさそうだし、もちろん戦うこともできないだろう。
 魔物がうろつく……というほどでもないが、この森に放置するわけにはいかない。

「……よかったら森の外まで送っていきましょうか?」
「え、でも……」
「だってその足じゃ歩けないでしょう」

 人に頼りたくないのか、とても悔しそうに一人百面相をしている。回復魔法をかけて治してあげることもできるけれど、いきなりそんなことを言って怖がられるといけないのでやめておいた。

「……お願いします」

 彼女の中で結論は出たらしい。まあその足じゃどう頑張っても歩けないだろうし、どれだけ嫌でも人に頼るしかないよな。それはそうと、どうやって移動しよう。転移魔法はまだ一人でしか使ったことがないし、俺だけ転移してしまうかもしれない。
 そういえば父様は俺みたいな転移魔法ではなく、いつも移動先と空間を繋いでゲートみたいなのを作っていたっけ。教会や王宮へ行くときもそれで移動した。
 少しイメージは難しそうだけど何回か見たことはあるし、きっとできるはず。
 森の外、最初にスタートした位置と空間を繋げるイメージで魔力を込める。

「《転移ゲート》」

 目の前にスタート地点、思い描いたとおりの場所が映った。ものすごく名前がかっこ悪いのはご愛嬌あいきょうということで。

「ちょっと失礼します」

 よいしょっと。思ったより軽いな。人を抱えたことなんてないから想像となんか違う感じになってしまった。ちょっとかっこ悪いけど安定するしこれでいいか。
 魔法が失敗しないかドキドキしながらゲートをくぐる。無事向こう側へと着くことができた。
 側にいたギルドの職員さんが駆け寄ってきたので、ピンク髪の子を慎重に下ろす。

「じゃあ、僕は戻るので! お大事に!」
「え、ちょっと待――」

 ひらきっぱなしになっていたゲートをくぐり、元の場所へと戻る。また魔物を探そうと歩きだしたその瞬間、ちょうど六十分経ったらしく森に笛の音が響いた。


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