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1巻

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  プロローグ


江崎塁えざきるいよ、起きるのじゃ」

 どこか遠くのほうで、少女のような声が俺、江崎塁の名前を呼んでいる。知り合いの中に、こんな声の人はいないはずだ。一体誰だろう。

「江崎塁! 起きろ! 起きろと言っておろう!」

 名前を呼ばれているということは、俺のことを知っている誰かなんだろうが……
 この声には全く聞き覚えがない。声の主はご立腹のようなので起きようとするが、ふわふわとした心地いい微睡まどろみの中から抜け出せない。

「……さっさと起きぬかーッ!」
「痛っ!」

 突如として鋭い痛みを感じ、思わずほほを押さえる。肌が熱を持っているのが分かる。どうやら思いきりぱたかれたらしい。
 目の前には白髪を腰まで伸ばした少女が仁王立ちしていた。長い睫毛まつげ、真っ白な肌、赤い唇。造形がこの世のものとは思えないほどに整っていて、恐ろしいくらいだ。三次元は二次元に勝てないとかいうが、その二次元にすら勝てると思うほど綺麗で可愛い。

「……誰? ていうかどこ?」

 俺と少女の周りには、何もない不思議な空間が広がっている。

「お前は死んだ。分かったか?」
「……はい?」

 お前は死んだ、って、今俺はここにいるじゃないか。どこか知らんけど。
 わけの分からないことの連続で頭が混乱しているのか、目は覚めたはずなのにふわふわした感覚が続いている。まるで夢の中みたいな。

「そうか、夢か」
「違ーう! これを見ろ!」

 少女がヒョイっと指を動かすと、俺の脳裏のうりに映像が流れ込んできた。最初は粗くて何が映っているのか分からなかったが、徐々に映像がはっきりしてくる。

「う、うお゛ぇ……」

 口を押さえ、吐きそうになるのをこらえる。コンクリートの地面には真っ赤な血。トラックの白い車体にも赤い血がべっとりと付着している。その赤の中心で転がっているのは……ぐちゃぐちゃに潰れた俺の姿。

「す、すまん! その場面を見せるつもりはなかったんじゃ……」

 いつも通る交差点で、俺は死んだ。


「あー……疲れた」

 重い体を無理やり動かしてまた一歩進む。時刻は深夜二時すぎ。道は真っ暗で、人はおろか車すらもほとんど通らない。
 ひたすら努力して、やっとの思いで受かった憧れの会社。インターンシップで、社員の人たちが生き生きと働く様子に胸が高鳴り、それが決め手となって面接を受けることにしたのだ。この会社で働きたいと思った。
 でもいざ入社してみたらとんだブラック企業だったなんて。よくある話だけどショックだった。
 残業なんて当たり前、休みなんて月に一度あるかないかだ。
 会社に寝泊まりして携帯用栄養補助食品でカロリーを摂取せっしゅする日々。エナジードリンクなんか飲んでも、疲れも眠気も取れやしない。
 もういっそ退職してやろうか。でも今俺が抜けたら、同じように働いている同僚たちに迷惑をかけてしまう。この案件が終わったら辞める、何回そう思ったことか。
 結局すぐに次の案件に取りかからなければならなくて、辞めることなんてできない。その繰り返しだ。

「……一旦やめ!」

 今日は二か月ぶりに家に帰れるんだ。嫌なことばっかり考えるのはよそう。
 信号が青になったのをしっかりと確認して、横断歩道を渡る。
 その瞬間、静かな夜道にクラクションの大きな音が響いた。視界にまぶしい光が飛び込んできて思わず目をつむる。
 車だ。そう認識すると同時に、全身に激痛が走った。一拍遅れて衝撃。骨がギシギシと悲鳴を上げている。ああ、肋骨ろっこつは完全にいった気がするな。
 ぼんやりとした意識の中で車のドアをける音と、男の焦った声が聞こえる。
 車と歩行者の事故って、車側の過失割合が高くなりやすいんだっけ。俺なんかをいたせいでお気の毒に。
 救急車のサイレンが聞こえるのとほぼ同時に、俺の意識はなくなったんだ。

「そうか。俺、死んだのか」

 不思議とすんなり受け入れられた。
 今こうして話せているせいか、あまり実感はかない。まあ俺がいなくなっても世界はほとんど変わらないだろう。心残りなのは両親より先に死んでしまったことと……あれだな、家のパソコンの履歴やらデータやらを消せなかったことだ。ほとんど使ってなかったから、問題ないと言えば問題ない。気になりはするけど。

「そんなお前に、わしからのプレゼントじゃ」
「いやちょっと待て。まだ質問に答えてもらってない」

 お前は誰で、ここはどこなのか。一番重要なことをまだ教えてもらっていないんだが。

「お前が起きなかったせいで、もう時間がないんじゃ。黙って聞け」
「時間ってなんの時間なんだ……?」
「いいから黙って聞けぇい! 一言で言うと、お前は転生する!」
「……へ?」

 よく漫画とかラノベとかである転生と、同じ意味ってことでオケ?

「そうじゃそうじゃ。それで合っとる」

 今さらっと心を読まれた気がするんだが。本気で何者なんだよ。

「お前が転生するのは地球とは別次元に存在する惑星じゃ。その名はルベル」

 スルーするんじゃない。心読めるなら答えろよ!

「地球と似たような環境なんじゃが、少しずつ違うところがあってな。まあ簡単に言うと、魔法が発展し、科学が発展しなかった地球みたいなもんじゃ。文明レベルは――平均すると地球の中世後期といったところか。魔法がある分、それよりはもう少し上やもしれんな」

 少女はそのまま無視して話し続けるので、もう諦めて黙って聞くことにした。
 どうやら転生するというのは本当みたいだ。具体的に説明されて信憑性しんぴょうせいが出てきた。
 魔法というワードは少し、いやかなり気になるが、文明レベルが低いのはいただけないな。現代っ子の俺としてはあまり気が進まない。

「お前が転生する地域は、地球でいう西洋のような文化を持っているみたいじゃな。さしずめ中世ヨーロッパといったところか」

 驚きすぎて逆に冷静になっていたけど、なんで俺なんだろうか。
 特にひいでた部分があるわけではないし、徳を積んだわけでもない。と自分では思っている。
 待てよ……他人から見たら違う可能性もあるかもしれない……いや、やっぱないな。

「ほれ、魔法ってお前たちの世界の憧れじゃろ? もっと喜ばんか。魔法がある分、魔物なども発生するが……まあそこは危険がないようにしておこう。生まれは安全性と生活レベル、お前の性格を考慮こうりょして、貴族の次男程度かの……」

 どうせ転生するなら、学生時代親友だったあいつとか。優しかったし、顔も頭もよかった。おまけにスタイルまでよかった。懐かしいな、全然顔思い出せないけど。

「これで金銭面で困ることもないな。念のため、いざとなったら自分で生活できる程度の能力を与えておくか……あ、通貨はもちろん日本と同じ単位ではないぞ。一応説明しておくが基本的には、金貨、銀貨、銅貨があって、それぞれ何枚というように数えることが多いな」

 他にもあいつとか、あいつとか――

「お前、わしの話を聞いておったか?」
「……もちろん聞いてましたよ? バッチリです」
「怪しいの~。まあいい、どうせ赤子からやり直すのじゃ。それはそうと、何か希望はあるか?」

 学生時代は楽しかったな。地獄が始まったのは社会人になってからだった。なんでブラック企業なんかに就職してしまったのか。見抜けなかった俺のバカ。

「本当に聞いてるか?」
「聞いてますよ、聞いてます」
「で、何か希望はあるか?」

 いやー、それにしてもよく耐えた俺。
 あの生活で過労死しなかったのは本当にすごいと思う。結局交通事故で死んだけど。

「何か希望はあるか‼」
「え?」
「もういい‼ 適当じゃ!」

 少女が手を振ると、轢かれたときとは違う心地いい光にいきなり包まれた。

「ナニコレ?」

 この子が何か話してたのは知ってたけど、色々思い出してて聞いていなかった。
 いや死んだというショックで変なスイッチが入っただけで、普段は人の話ちゃんと聞いてるよ?
 適当に相槌あいづち打つとか断じてないぞ?

「では行ってこい‼」
「あ、結局あなたは誰で、ここは――」

 最後の言葉は光に呑み込まれて消えていった。


「……行ったな」

 江崎塁の魂が地球の輪廻りんねから外れ、ルベルの輪廻へと移動したのを確認する。

「……お前には少しばかり、頑張ってもらわねばならぬ」

 少女の指先が砂のように崩れ、別の形となった。

「残酷だな、この世界は」


     ◇ ◇ ◇


「あなたはエル。エルティード・レシス・アドストラムよ」

 覚えている限り、最初に聞いた言葉はそれだった。まだ視界はハッキリとしなくて顔は見えなかったけれど、あれは多分母様だろう。ぼんやりと茶色が見えたからだ。母様の髪は緩くウェーブのかかった天然パーマで、深い栗色をしている。

「エルティード、生まれてきてくれてありがとう」

 二番目に聞いた言葉はそれだ。落ち着いた、威厳のある声。こっちは多分父様だ。ぼんやりと金色が見えた気がする。髪が短いからか、母様ほどはっきりと色が見えなかった。

「この子が、エルティード? ぼくの弟?」
「わたしの、おとうと?」

 この声は多分兄様と姉様。姉様はまだ小さかったからか、呂律ろれつが回っていない喋り方だった。

「私の可愛いエルティード、どうか元気に育ってね」

 母様の優しい声が鼓膜こまくに響く。
 これがこの世界での、一番最初の記憶だ。



  1


 真っ白な壁、天井にはシャンデリア。家具はどれも装飾が施されていて、見るからに高そうだ。全く知らないはずなのに、この部屋のことを確かに知っている。

「エル様、どうかされましたか?」

 深いグリーンの瞳と目が合った。亜麻色あまいろの髪をまとめ、黒と白を基調としたメイド服を身に着けている。この女性のことも知らないはずなのに、知っている。
 そういえば、今俺は何を……そうだ、着替えをしていたんだっけ……ん?

「うおわあああぁああ‼」

 何も纏っていない上半身を腕で隠し、勢いよくあとずさる。なんで俺、人に着替えを手伝ってもらってるんだ⁉

「エル様⁉」

 さっきは特に気に留めなかったが、彼女の口から発せられているのは明らかに日本語ではない。でも何故か違和感がなく、まるで母国語のように理解できる。
 容姿も日本人のものではないが、それにも何故か違和感を感じない。

『お前が転生するのは地球とは別次元に存在する惑星じゃ。その名はルベル』
「……?」

 聞き覚えのない言葉が脳裏をよぎる。それと同時に視界がぐにゃりと歪み、映像が走馬灯のように頭へと流れ込んできた。
 あまりの情報量に、視界が一瞬ブラックアウトした。ふらついたところを、彼女に支えられる。

「本当にどうなさったんですか⁉ 大丈夫ですか⁉」

 彼女はひどく心配そうな顔でこちらを覗き込んでいる。

「旦那様をお呼びいたしましょうか?」
「あ、えっと……」

 色々なことが一気に起こりすぎて、頭がパンクしそうだ。ああ、また眩暈めまいが……
 さっきとは反対に視界が白く染まり、意識が遠のいていく。

「エル様――⁉」

 遠くで『僕』を呼ぶ声が聞こえた。

「はっ……!」

 勢いよく起き上がると、かけられていたふかふかの布団が床へと落ちた。さっきまでと同じ部屋だ。あのあと誰かが寝かせてくれたらしい。服もちゃんと着せられていた。
 脳が休まったせいか、一気に流れ込んできた情報でごちゃごちゃになっていた頭の中は、すっきりと片付いている。まあそうなれば嫌でも分かるよな。
 どうやらあの白髪の少女の言うとおり、俺は転生したらしい。自分の手を眺めてみる。小さくてふっくらした子供の手だ。壁にかかっている鏡には、白い髪をした子供が映っていた。キョトンとした顔で、紫色の目がこちらを見返している。そしてコテン、と小さな頭を傾げてみせた。


 幼いながらも比較的整った顔立ちであることが分かる。大きく丸い目、そしてそれをふちどる長い睫毛。ツンと小さく高い鼻に、桜色の薄い唇。
 それらが陶器のように白くなめらかな肌にバランスよく配置されている。

「……うそだろ」

 確かに『俺』は江崎塁で、二十六歳。普通のサラリーマンだった。その『俺』は死んで、あの謎の少女によってこの少年に生まれ変わった、と。それはそうとして。今は俺のこと、つまり前世のことは置いておいて、現在のことを把握するのが先決だ。
 さっき頭に流れ込んできた情報、今までの『僕』の記憶によると、『僕』はエルティード・レシス・アド……えっと、アドストラム。現在三歳。確か辺境伯家の次男だったはずだ。
 それで、さっきの女性はラディア。よく『僕』の世話をしてくれているメイド。
『俺』、江崎塁としての記憶、意識ははっきりある。対して『僕』、エルティードの記憶はどこか曖昧あいまいで、他人事のようだ。一人称が『俺』になっているということは、意識のほとんどは『俺』が占めているのだろう。あくまで人格は『僕』であるエルティードが元となっているが、『俺』江崎塁の記憶の情報量の多さからか、そっちに意識が引っ張られているように感じる。
 もしかしてただ『俺』の自我が強いだけなのか?
 冷静に考えてみると、人を転生させられるとか、あの子は一体何者なんだ?
 やはり神様だろうか。どこか神々しい雰囲気を放っていたような気がしないでもない。いや、やっぱしない。あのときは驚きすぎて、脳が情報をシャットアウトしてたからな。魔法が存在するということと、日本より文明レベルが低いということ。それくらいしか覚えていない……いや、正直に言うと聞いていなかったというほうが正しい。
 それにしても、魔法ってどんなものなんだろう。やっぱり、ファイアボール! とかそんな感じなのか? そんなことをしている場合じゃないと分かっているが、こんなに面白そうなことを試さないわけにはいかない。

「……ファイアボール!」

 部屋に俺の声が響いただけで、特に何も起こらなかった。ものすごく恥ずかしい。しーん、という効果音が聞こえた気がする。どうやらこれでは魔法は発動しないらしい。
 でも俺は諦めない。なんとしてでも魔法を使ってみたい。
『僕』の記憶を辿ってみるが、特に役に立ちそうな情報はなかった。当然魔法を使ったこともないようで、なんの参考にもならない。自分で考えるしかないらしい。
 さっきは何も考えずに魔法名を唱えてみただけだったが、今度はイメージしてみたらどうだろう。
 頭の中に、燃え上がる炎の球を思い浮かべる。今度こそ成功しますように! さもないと恥ずかしいから!

「――ファイアボール!」

 何かが体の中を流れる感覚と同時に、目の前に思い描いたとおりのものが生まれた。手をそっと近付けてみると、当たり前だが確かに熱い。

「よっし‼」

 今度は成功だ! もう一度恥ずかしい思いをせずに済んでよかった。
 一体どういう仕組みで、何もないところから火が生まれるのか。俺の頭では分からないが、とりあえず成功した。全ファンタジー好きの夢を叶えたぞ!
 ……それはそうとして、これ、どうしよう。この炎の塊、どうやって消せばいいんだ。

「……」

 後先考えずにやってみるからこうなるんだよ。俺のバカ!
 本気でどうしよう。水を出せばいいのか? それとも消すイメージで引っ込められるのか?
 このままだと近くのものに引火してしまう。でもこんなに焦っていては、水を出すのも消すのも上手く想像できない。
 俺が頭を抱えていると、タイミングが良いのか悪いのかドアがガチャリとひらく音が聞こえた。

「……これは」

 ラディアは入り口で立ち尽くしたまま、目を見開いている。驚いていないで、これをどうにかしてくれ。

「……! そのまま動かないでくださいね」

 彼女は俺に近付くと、何やらボソボソと唱え始めた。火を見つめたまま言われたとおりじっとしていると、上から水が降ってきた。火は無事鎮火ちんかされたが、頭から水をかぶった俺は、つま先までずぶ濡れになった。助けてくれたのはありがたいけど、寒い。

「お怪我はありませんか⁉ 火傷やけどは⁉」
「お、僕は大丈夫だよ」

 俺と言いかけて、慌てて僕に直す。

「よかった……あ、お風邪を引かれては大変です。今すぐお召し替えを!」
「自分でできます!」

 急いでラディアを部屋の外へと追い出し、びちょびちょの服を着替え終わったところで、ちょうどドアがノックされた。

「エル様、旦那様からのお呼び出しです」

 旦那様……ということは、俺、いや『僕』の父親か。『僕』は父様と呼んでいた。
 確か父様は厳格な人だし、もしかして魔法を使っちゃったことを怒られるのだろうか。
 そんなことを考えながら長い廊下を歩いているうちに、とうとう書斎しょさいの前に着いてしまった。この中に入るのは気が重いけれど、仕方ない。

「失礼しまーす……」

 部屋に入ると、正面に立っていた金髪の男性と目が合った。父様――父のゼルンドだ。俺の中ではもちろん父様は父親ではないので、違和感がすごい。
 書斎には他に栗色の髪をした女性、『僕』の記憶によると母様のアーネヴィ、金髪の子供と母様と同じく栗色の髪をした子供――兄様のルフェンドと、姉様のセイリンゼがいた。
 そして全員、とてつもない美形だ。作りものかと思うほどに。なんだかキラキラしていて落ち着かない。どうやらここに『僕』の家族が勢ぞろいしているようだ。いよいよ怒られる説、いや厳重注意される説が濃厚になってきた。

「エル、魔法を使ったんだって?」
「えーっと……はい」

 父様が俺に問いかけてくる。
 おそらくラディアが伝えたのだろう。ああ、やっぱり厳重注意されるのか。

「すごいじゃないか!」

 ……ん?

「教えてもいないのに魔法を使うなんて、エルは天才だな!」
「ええ、本当に!」

 父様の言葉に同意しながら抱きついてきた母様に、頭をでまわされる。
 他人に抱きつかれて平気だなんて普通なら考えられないが、やっぱり『僕』の記憶があるからか、全然不快じゃない。むしろ嬉しい。
 それにしても、いいのか? 他の兄姉の前で一人だけ褒めちぎるとか、喧嘩になるんじゃないか? 現に二人、兄様と姉様は黙ったままだし。
 二人の様子を横目でうかがっていると、うっかり目が合ってしまった。これは喧嘩が始まる感じか? そうなんだな?

「エルはすごいね! 流石さすが僕の弟だよ!」

 ……これは大分予想外の反応だ。試しに、記憶の中の兄様を思い出してみる。

『エルは可愛いね~!』
『本当ね、兄様!』

 俺の顔を覗き込み、頬を緩ませながらそう言っている兄様と姉様。
 寝がえりを打っただけでこの褒められようだ。
 ……なるほど、兄様と姉様はかなりのブラコンと。それならこの反応にも納得がいく。いつの記憶を引っぱり出してみても、可愛がられたり褒められたりしている思い出しかない。

「流石私の弟ね!」

 僕は親バカとブラコンの家族に囲まれて、とても愛されていたらしい。全然可愛くないただのサラリーマンの『俺』が中に入ってしまってなんだか申し訳ない。
『僕』の影響か、多少精神年齢が若返っている気がするが、それでも三歳の愛らしさには程遠いだろう。
 この部屋にいる俺を除いた四人は、楽しそうに話している。というか、主に俺のことを褒め称えているだけだけど。

「エル、今からお庭に行かない? 私も魔法を見せてほしいわ」

 母様はそう言って、俺の頭を撫でまわすのをやめた。だがとき既に遅し、俺の髪はぐっちゃぐちゃのボサボサだ。

「はい、もちろん」

 できれば早く一人になりたかったが、これからこの人たちと暮らしていくのだから、そんなことは言っていられない。
 俺は果たして、この世界で暮らしていけるのだろうか。


  
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