魔王なペットの転生ライフ

花歌

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部活仲間

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「――まにあった!!!!」
 タタタタタッと短距離走の如く校門というゴールラインを走り抜け、スマホを確認。
 「ふう」と普段通りの時間に登校できたことに優馬は安堵する。

 遅刻確定であった優馬だったが、ソラが魔法を行使してくれたおかげで、遅刻を回避する事ができたようだ。

 魔法とは言え、強化魔法。
 あくまで自身の力をサポートする魔法に過ぎず、家から学校まで、優馬が自力で走って登校する必要はあったのだが……。
 いきなりのトップギアで走り続けてのゴールインにもかかわらず疲れは全くない。 
(魔法……便利だな)


「わぁーぉ!! ユウマ、早いのです!!!」

 (ソラにおやつでも買ってあげるべきか?)
 と魔法の余韻に浸っていると、背後から呼び掛けられ思わずビクリと肩を揺らす優馬。
 直ぐに呼び掛けられているのだと理解し、慌てて振り向く。

 声の主を見ればどうやら優馬の見知った顔のようだ。
「おはよーなのです」
 薫風にブリュネットのロングヘア―を靡かせ、1人の少女が向日葵のような笑顔を向け更に朝の挨拶を掛けてくる。
 髪と同じく、栗色の瞳で優馬の姿を映す彼女の名はクレア・クラーン。
 アメリカから父親の仕事の関係で、中学2年時に転校してきた、同じクラスの女の子だ。

「――ク、クレア!?
 お、おはよ! ちょっと寝坊して」

 (大丈夫だよね!?)
 と優馬は内心ドギマキしながらも、慌てて言葉を返す。
 変に思われないよう、元々自分が出せる速度では駆けていた。とは言え魔法で常にトップスピードで駆けていたのだから不審に思われていないだろうかと不安が過ったのだ。

 家から学校までの爆走を見られているわけがなく、心配も杞憂なことだと優馬自身分かっているのだが、心配にはなる。
 
クレアの歩幅に合わせ格技場へと歩きだすが、(じぃぃ――――)とクレアに見られているようで視線が痛く感じる始末。


「そ、そう言えば今日は剣道部の日だったね」
思わず話題を変える優馬。

 剣道部の日だったねと言葉を振ったのは、優馬の通う中学は部活のかけもちをすることができるからだ。
 クレアは優馬と同じ剣道部に入部しているが、他に弓道部と茶道部に入部している。
 その中で茶道部は夏休みには活動しないらしいが、弓道部も夏休み中に部活だ。
振り分けとしては、先週の月水木と今週の火金が剣道部であり、今日は火曜日。つまり剣道部の日となる。ちなみに夏休みの後半の部活は逆になる。


「ですです! ユウマと一緒なのです。やったね!」
 両拳を胸元の高さで握りしめ笑顔を咲かせるクレア。意識するあまりか、クレアの笑顔が妙に眩しい。
 思わず視線も泳ぐ。


 暫く右へ左へと視線を泳がせ、
(今朝の登校を見られて意識してしまったのだから仕方がない)
 と優馬が自分自身を慰めていると、救いと言うべきなのだろうか?   


「おっ、優馬にクレア! おはよう、いい朝だな!!」
「ダメですよー、2人の邪魔をしたら。
 全く、メガネ君は無粋ですね」
「うんうん、せっかく後ろから甘酸っぱい青春の1ページを堪能しようと思っていたのにー」

 動揺を隠せないでいた優馬に対して更に見知った声が掛けられ、優馬は情けなくも助かったと安堵する。

 見れば格技場のカギを手に持つメガネ君、中島 一郎なかじま いちろうと爽やかパーマ君こと後藤 春樹ごとう はるき。それにもう一人、爽やかパーマ君の横を歩くミディアムヘアーの小柄な女の子、右京 亜夏利うきょう あかりが優馬達に追いつこうと向かってきていた。
 亜夏利もまた同学年の剣道部員であり、この5人で3年の剣道部員全員だ。
 
 

 因みにメガネ君と爽やかパーマくんは通称であるのだが、爽やかパーマくんが普通に『ハル』と呼ばれているのに対し、黒髪黒縁メガネのいかにも委員長みたいな見た目のメガネ君。
 彼は小学時代から自己紹介の時に必ず『気軽にメガネ君とお呼びください』と自ら要求。本人たっての希望によるあだ名だったりする。
 
 無論。
「アカリ~~~~ン!!!!!」
 こちらに向かう亜夏利を待ちきれなかったのか、クルリとスカートを翻し、クレアが亜夏利に抱き着く。
 クレアは「アカリン」と呼んでいるが優馬達は普通に『アカリ』と呼び、呼び名に関してはメガネ君のみ、ちょっとおバカなだけである。


 じゃれ合う女子2人のやり取りをほほえましく眺める優馬。
 メガネ君とハルが追い付くのを待つと、5人そろったところで格技場へと向かうのだった。



 ◇



「でもその紳士? がいてくれてよかったよね」

 二日酔いのムカムカが若干ぶり返してきているものの無事部活が終わり、格技場の掃除を行いながらメガネ君との話題に優馬は安堵し、言葉を返していた。

 部活の合間の休憩時間に、メガネ君から「昨日の話なのだけれど……」と前置きをされた時は、一瞬 “霧” の話かと内心ドキマキしていたのだが、違ったようで、聞けば同じクラスの学友の話だった。
 どうやら昨日の夜に無事に帰ってきたようだ。
(もしかしたら霧に襲われていたのでは?)
 と優馬の頭を過るが、その心配も杞憂に終わった。


「メガネっち、いるー!?」
 優馬が肩を撫で下ろしていると、某育成ゲームのキャラクターのような名前が格議場内に響く。
 メガネ君を呼んでいるようで、格技場の窓から投げかけられたようだ。
 声の主に視線を向けると、噂をすれば影。家に帰っていなかったという学友前園 梓まえぞの あずさが窓から顔を覗かせていた。

「前園ではないか、災難だったな!
 丁度前園の話をしていたところだったぞ」

「マジか!? 御袋から電話したって聞いたけど、マジでごめんねー! ホンとマジ災難だったわ」

「気にするな!
 優馬にも聞いたりはしたが、無事だったのなら何よりだしな! はっはっは!」

「メガネっち、マジごめーん。
 マジで何か奢るわー、この後マジ時間ある? マジ金ないからマジ安いヤツでマジ勘弁だけど」
「いいのか!? そしたらありがたく奢られたいぞ!」

 言葉は軽いが、心配掛けたことに関して、申し訳ないと感謝する前園。

「マジ奢られて、奢られてー。
 優馬っちもね!」
 と優馬達に対してもマジでマジでと感謝を示す。

 だがやはり中学生が1日以上も連絡無く家に帰っていなかったのだ。それなりの理由があったに違いない。

「マジごめん。マジ奢るからっ——!?」
 笑顔を振りまき話を振る前園だったが、急に言葉を詰まらせた。

 あまりにも唐突に前園が言葉を詰まらせ、口元までも抑えるものだから、
「わぁお! マジ園感涙中なのですか!?」
 と、話に加わっていなかったクレアも何事かと驚く始末だ。

 ただ(その呼び方はやめてあげなさい)と思う優馬ではあったが。

 
「――っ!? ぁ、いや、うん、マジ大丈夫、マジで。
 むしろクレアっちにマジ感涙中だから」
「いや、大丈夫には見えないから!!」
「とりあえずマジでメガネっち達、駅前のバーガー奢るから着替えたらマジ校門前で待ち合わせね! 俺家に電話してくるから!!」

 優馬が思わず突っ込みを入れるが「マジでマジで」と言葉を流す前園。
 明らかに血の気が引いた顔をしているのだが、笑顔を張り付けるとスマホを取りだし、そそくさと格議場を後にする。
 

「……とりあえず、無事で何よりでいいんだよな?」
 前園の後姿を見送る優馬は、なんとも言えない物が渦巻きかけた気がしたが、とりあえず棚上げ。
 心配しても仕方がないと割り切ると、全力で前園の好意に甘えようと決めたのだった。


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