9 / 11
部活仲間
しおりを挟む「――まにあった!!!!」
タタタタタッと短距離走の如く校門というゴールラインを走り抜け、スマホを確認。
「ふう」と普段通りの時間に登校できたことに優馬は安堵する。
遅刻確定であった優馬だったが、ソラが魔法を行使してくれたおかげで、遅刻を回避する事ができたようだ。
魔法とは言え、強化魔法。
あくまで自身の力をサポートする魔法に過ぎず、家から学校まで、優馬が自力で走って登校する必要はあったのだが……。
いきなりのトップギアで走り続けてのゴールインにもかかわらず疲れは全くない。
(魔法……便利だな)
「わぁーぉ!! ユウマ、早いのです!!!」
(ソラにおやつでも買ってあげるべきか?)
と魔法の余韻に浸っていると、背後から呼び掛けられ思わずビクリと肩を揺らす優馬。
直ぐに呼び掛けられているのだと理解し、慌てて振り向く。
声の主を見ればどうやら優馬の見知った顔のようだ。
「おはよーなのです」
薫風にブリュネットのロングヘア―を靡かせ、1人の少女が向日葵のような笑顔を向け更に朝の挨拶を掛けてくる。
髪と同じく、栗色の瞳で優馬の姿を映す彼女の名はクレア・クラーン。
アメリカから父親の仕事の関係で、中学2年時に転校してきた、同じクラスの女の子だ。
「――ク、クレア!?
お、おはよ! ちょっと寝坊して」
(大丈夫だよね!?)
と優馬は内心ドギマキしながらも、慌てて言葉を返す。
変に思われないよう、元々自分が出せる速度では駆けていた。とは言え魔法で常にトップスピードで駆けていたのだから不審に思われていないだろうかと不安が過ったのだ。
家から学校までの爆走を見られているわけがなく、心配も杞憂なことだと優馬自身分かっているのだが、心配にはなる。
クレアの歩幅に合わせ格技場へと歩きだすが、(じぃぃ――――)とクレアに見られているようで視線が痛く感じる始末。
「そ、そう言えば今日は剣道部の日だったね」
思わず話題を変える優馬。
剣道部の日だったねと言葉を振ったのは、優馬の通う中学は部活のかけもちをすることができるからだ。
クレアは優馬と同じ剣道部に入部しているが、他に弓道部と茶道部に入部している。
その中で茶道部は夏休みには活動しないらしいが、弓道部も夏休み中に部活だ。
振り分けとしては、先週の月水木と今週の火金が剣道部であり、今日は火曜日。つまり剣道部の日となる。ちなみに夏休みの後半の部活は逆になる。
「ですです! ユウマと一緒なのです。やったね!」
両拳を胸元の高さで握りしめ笑顔を咲かせるクレア。意識するあまりか、クレアの笑顔が妙に眩しい。
思わず視線も泳ぐ。
暫く右へ左へと視線を泳がせ、
(今朝の登校を見られて意識してしまったのだから仕方がない)
と優馬が自分自身を慰めていると、救いと言うべきなのだろうか?
「おっ、優馬にクレア! おはよう、いい朝だな!!」
「ダメですよー、2人の邪魔をしたら。
全く、メガネ君は無粋ですね」
「うんうん、せっかく後ろから甘酸っぱい青春の1ページを堪能しようと思っていたのにー」
動揺を隠せないでいた優馬に対して更に見知った声が掛けられ、優馬は情けなくも助かったと安堵する。
見れば格技場のカギを手に持つメガネ君、中島 一郎と爽やかパーマ君こと後藤 春樹。それにもう一人、爽やかパーマ君の横を歩くミディアムヘアーの小柄な女の子、右京 亜夏利が優馬達に追いつこうと向かってきていた。
亜夏利もまた同学年の剣道部員であり、この5人で3年の剣道部員全員だ。
因みにメガネ君と爽やかパーマくんは通称であるのだが、爽やかパーマくんが普通に『ハル』と呼ばれているのに対し、黒髪黒縁メガネのいかにも委員長みたいな見た目のメガネ君。
彼は小学時代から自己紹介の時に必ず『気軽にメガネ君とお呼びください』と自ら要求。本人たっての希望によるあだ名だったりする。
無論。
「アカリ~~~~ン!!!!!」
こちらに向かう亜夏利を待ちきれなかったのか、クルリとスカートを翻し、クレアが亜夏利に抱き着く。
クレアは「アカリン」と呼んでいるが優馬達は普通に『アカリ』と呼び、呼び名に関してはメガネ君のみ、ちょっとおバカなだけである。
じゃれ合う女子2人のやり取りをほほえましく眺める優馬。
メガネ君とハルが追い付くのを待つと、5人そろったところで格技場へと向かうのだった。
◇
「でもその紳士? がいてくれてよかったよね」
二日酔いのムカムカが若干ぶり返してきているものの無事部活が終わり、格技場の掃除を行いながらメガネ君との話題に優馬は安堵し、言葉を返していた。
部活の合間の休憩時間に、メガネ君から「昨日の話なのだけれど……」と前置きをされた時は、一瞬 “霧” の話かと内心ドキマキしていたのだが、違ったようで、聞けば同じクラスの学友の話だった。
どうやら昨日の夜に無事に帰ってきたようだ。
(もしかしたら霧に襲われていたのでは?)
と優馬の頭を過るが、その心配も杞憂に終わった。
「メガネっち、いるー!?」
優馬が肩を撫で下ろしていると、某育成ゲームのキャラクターのような名前が格議場内に響く。
メガネ君を呼んでいるようで、格技場の窓から投げかけられたようだ。
声の主に視線を向けると、噂をすれば影。家に帰っていなかったという学友前園 梓が窓から顔を覗かせていた。
「前園ではないか、災難だったな!
丁度前園の話をしていたところだったぞ」
「マジか!? 御袋から電話したって聞いたけど、マジでごめんねー! ホンとマジ災難だったわ」
「気にするな!
優馬にも聞いたりはしたが、無事だったのなら何よりだしな! はっはっは!」
「メガネっち、マジごめーん。
マジで何か奢るわー、この後マジ時間ある? マジ金ないからマジ安いヤツでマジ勘弁だけど」
「いいのか!? そしたらありがたく奢られたいぞ!」
言葉は軽いが、心配掛けたことに関して、申し訳ないと感謝する前園。
「マジ奢られて、奢られてー。
優馬っちもね!」
と優馬達に対してもマジでマジでと感謝を示す。
だがやはり中学生が1日以上も連絡無く家に帰っていなかったのだ。それなりの理由があったに違いない。
「マジごめん。マジ奢るからっ——!?」
笑顔を振りまき話を振る前園だったが、急に言葉を詰まらせた。
あまりにも唐突に前園が言葉を詰まらせ、口元までも抑えるものだから、
「わぁお! マジ園感涙中なのですか!?」
と、話に加わっていなかったクレアも何事かと驚く始末だ。
ただ(その呼び方はやめてあげなさい)と思う優馬ではあったが。
「――っ!? ぁ、いや、うん、マジ大丈夫、マジで。
むしろクレアっちにマジ感涙中だから」
「いや、大丈夫には見えないから!!」
「とりあえずマジでメガネっち達、駅前のバーガー奢るから着替えたらマジ校門前で待ち合わせね! 俺家に電話してくるから!!」
優馬が思わず突っ込みを入れるが「マジでマジで」と言葉を流す前園。
明らかに血の気が引いた顔をしているのだが、笑顔を張り付けるとスマホを取りだし、そそくさと格議場を後にする。
「……とりあえず、無事で何よりでいいんだよな?」
前園の後姿を見送る優馬は、なんとも言えない物が渦巻きかけた気がしたが、とりあえず棚上げ。
心配しても仕方がないと割り切ると、全力で前園の好意に甘えようと決めたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる