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ココナ、魔法少女になる(強制イベント)

今日からココナは憧れの魔法少女だぽこ!(拒否権ナシ)

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「無事に逃げられてよかったぽこね。アイツは悪の組織アクナンジャーの幹部アクトだっぽこん!」


 瀕死のはずだった狸ウサギ、改めまして魔法生物のポコは私の家に上がり込むなり、謎の浮力でふわふわと宙を漂っている。


「いまどき悪の組織なんてダサいことしてるやつがいるなんて信じらんない……」

「何をいうぽこ! 悪の組織アクナンジャーは暗闇に紛れて人々の中で眠っている悪の芽を無理やり芽吹かせているぽこよ!」


 ポコは声に力をこめて悪の組織アクナンジャーの悪行を話してくれたのだが。


「ごめん、意味わかんない」


まったく意味がわからなかった。
この超近代化のすすんでいる日本で、悪の組織なんか立ち上げても需要があるとは思えない。

大人たちは生活を守るために必死で働いている。
ごっこ遊びのようなアクナンジャーに付き合うほど暇な人はいない。


「むむむぅ。まずはアクナンジャーの目的を説明するのだ!」

「はい、どうぞ」


私はテーブルを小さな前足で叩くポコの姿を愛でながら、ポコを促した。


「アクナンジャーは悪の組織で全人類悪魔計画をたくらむ、とっても悪い悪魔集団であ~る。頭領マハラは人の中に潜む悪の芽を見つけて、幹部に悪魔力を注がせているぽん」

「悪魔力を注がれた人はどうなるの?」


つまりあのアクトという男は悪魔の手先で、悪魔力を人に注いでいるということだ。
ポコは首をかしげる私の前に降り立ち、ぐっと息をのんだ。


「悪魔の眷属に闇落ちしてしまうぽこ。早く悪の芽を摘めば人に戻れるかもしれないし、戻れないかもしれないし」


ちょっと待て。かもしれない、というのはやばい展開しか想像できない。
私が言葉に詰まると、ポコはしれっと澄ました顔で私に頬ずりした。


「戻れるかどうかはぶっちゃけ運しだいぽこね。そこでココナの出番ぽこ!」

「なんでいきなり私が登場するのかな、ポコちゃん」


嫌な予感しかしないのだ、嫌な予感しか……私が後ずさりをすると、ポコは私の膝にのって背伸びをした。
ポコの鼻面が私の鼻にチョンと触れた。


「助けてくれたお礼をするっぽん」


ポコのハートマークになっている胸元の毛がぽわぽわと暖かな光を放ちはじめる。
吸いよせられるように、その発光部分に指先で触れるとドクンと大きな脈動が私のなかに伝わってきた。


ポコのハートマークから、先端に赤いクリスタルのついたステッキが出現する。
赤いクリスタルの両サイドには天使の羽がついていた。


(さ わ っ て み た い)


そんな誘惑に心を支配され、私はステッキに手を伸ばした。


「ココナ! ステッキを取るぽこ!」


ポコが叫び、私の手は抗えない力によってステッキをしっかりと掴んでいた。

ぱあっと私の全身が淡く輝いていく。

まぶしくてギュッとまぶたを閉じたが、3秒ほどでまばゆい光は消失した。


ふたたび目を開けると、そこは元の部屋。
いつもの私のくつろぎ空間。


だけど、足元がスース―する……


「う、わぁ……」


我ながら引いてしまう。
私は赤の服を基調とした魔法少女風のコスチューム姿に変わっていたのだ。

スカートも短すぎる。高校の制服でもここまで短いスカート丈にはしたことがない

しかも私、18歳なんですけど。


「魔法少女、爆誕……?」

「今日から魔法少女ココナなのだ!」


恥ずかしくて穴があったら入りたい。これは年齢に不釣り合いなコスプレだ。

ところがポコは満足そうな笑顔。


「パートナーとして精一杯サポートするぽこ」

「……私はなぜ魔法少女にさせられなくてはいけないのでしょうか。これって新手の羞恥プレイですか」

「なんと!? 魔法少女ぽこよ! みんなの憧れ、かっこよくて強くてかわいい魔法少女の力を授かったぽこよ!!」


ポコは心の底から驚きに満ちた声を上げ、魔法少女になれて喜ばない私のほうがおかしいとでも言いたそうな勢いだった。



「魔法少女は戦うのがお約束だよね?」

「当然ぽこ。ココナはこれから魔法少女としてアクナンジャーと戦い、多くの人々を救う使命が待っているのだ!」

「ごめんね、言い忘れてたけど私、受験でとっても忙しいの」

「ガーン!?」

「だからこの力、返すね」

「契約の途中放棄は大きな代償を支払うことになるぽこよ。大事なものを失うぽこ」

 
 私は言葉を失った。可愛い姿をしているくせにポコのやり方は悪魔そのものだ。


「魔法少女の力は人間の規格外。その力を宿す代償に、悪の芽を摘んだときに得られる悪魔力をステッキに与えないと、ココナの寿命が奪われるぽこ」

「なにそれ!?」

「悪魔力を集めればいいだけぽこ。頭領マハラの消滅が魔法少女の終焉になるぽこよ」


困惑する私の頭を撫でながら、ポコは微笑んだ。


「そ れ に」


私は固唾をのんだ。ポコは深く息を吸って、重々しく口を開いた。


「ココナはもう悪魔にマーキングされてるからだいたいの居場所もバレているはずだぽん」

「まったく身に覚えがありません」

「さっき、アクトにほっぺをチュッてされたぽこ」

「あ、ああ……あれね……」


思い出しただけで、あの男の触れた唇の柔らかくて冷たい感触がよみがえってくる。
私は純情なのだ。ミツルのことが好きだけど、なれない経験に心拍があがって動揺してしまうのは許してほしい。


「あれは悪魔のマーキング手段ぽこ。触れた部分に自分の魔力の香りをつけて、居場所を探知することができるぽこね」

「私、めちゃくちゃピンチ?」

「もう諦めるぽこ。闘いをささっと終わらせればいいだけぽこ!」


ポコは私の肩に手をおいた。


「これからよろしくなのだ、てへ☆」


私には拒否権も決定権もないのだと、痛感させられた。
どうやら悪魔に狙われて可哀そうな毛玉を助けたつもりが、まんまと悪魔に憑りつかれてしまっただけのようだ。


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