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30日目.空白
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初めて花火の病室へ行った日から10日が経った。
回復が思いのほか早かった僕は
予定よりもずいぶん早く退院した。
退院してからも花火のところには毎日行った。
花火は夏の花が好きだと言った。
だから僕は、毎週のように夏の花を持って
病室へ行った。
「花火ー、今日はひまわりを持ってきたよ。
ちょっと本数多かったかな?」
たくさん話しかけてあげれば、きっと一言や二言は花火に聞こえているはず。
そう信じて毎日話しかけていた。
桜の花はとうの昔に散ってしまった。
よくドラマとかで
「この、木の葉が落ちたら私は死んでしまうわ…」
みたいなことを言うけれど、そんなことはない。
桜が散ってからも花火はちゃんと生きている。
その日は、からりと晴れた気持ちの良い日だった。
「花火ー、今日はいいお天気だよ。花火が好きそうな日だね。今度一緒に野原に寝っ転がってみようか。」
そんなたわいもない話をしていたときだった。
突然、花火がポロッと目から涙をこぼした。
(目を覚ましたんじゃ…!)
そう思った僕の予想は大きく裏切られた。
「ピーーー……。」
1つの機械が大きな音を出し始めた。
今まで波打っていた線が一直線になる。
心臓が動くのをやめた。
「花火……、花火…!!死ぬな!!戻ってこい! なー!花火!僕の声聞こえてるんだったら返事しろ!まだしたいこといっぱいあるんだぞ!
こんな別れは嫌だよ!」
そう叫びながら、ナースコールを連打した。
すぐに看護師と医者が大勢やって来た。
僕は部屋から出された。
僕は泣いていた。花火の前では泣かないようにしていた僕は、いつの間にか目から大粒の涙をだしていた。
30分後花火の両親が駆けつけた。
1時間後僕は部屋に通された。
「午後5時36分死亡確認です…。」
医者の淡々とした声が病室に響いた。
花火に繋がっていた機械は全て電源が切られていた。
花火の横では花火の両親が泣いていた。
泣いても泣き足りない。
ぶつけるところがないどうしようもない怒り、悲しみをその涙が物語っていた。
シーンと静まり返った病室。
1番初めに言葉を発したのは花火のお父さんだった。
「お母さん、この男の子と2人きりにしてあげよう…。」
花火のお母さんはゆっくり頷いて、医者、看護師と一緒に病室から出て行った。
花火の横に座って
「花火…、お疲れ様…。よく頑張ったね…。」
そう言ってふわふわの柔らかい髪の毛を撫でた。
「ねー、花火に言えてないこといっぱいあったよね。できてないこともいっぱいあったよね。」
涙を必死に堪えて、なるべく明るく喋ったつもりだった。
でも花火にはそう聞こえなかったかもしれない。
「僕の名前も言えてなかったよね。
僕の名前は豊野夏樹
花火と一緒で夏っぽい名前でしょ。
もっともっと花火と一緒に居たかったよ。」
こんなことしか言えなかった。
「あとね…、花火と過ごしたのは数日だけだったけど…、僕は始めて人を好きになったよ…。
その子の名前は糸田川花火。可愛くて明るい子。
そうだよ…。花火…。」
言いたいことが多すぎてまとまらなかった。
「花火またどこかで会おうね。愛してるよ。」
そう言って僕は花火のやわらかいほっぺにキスをした。
病室から出て、花火の両親に一礼して帰った。
「やっぱり奇跡なんて起こらないじゃん…。」
抑えきれなくなった涙を流しながら、病院の廊下を歩いた。
回復が思いのほか早かった僕は
予定よりもずいぶん早く退院した。
退院してからも花火のところには毎日行った。
花火は夏の花が好きだと言った。
だから僕は、毎週のように夏の花を持って
病室へ行った。
「花火ー、今日はひまわりを持ってきたよ。
ちょっと本数多かったかな?」
たくさん話しかけてあげれば、きっと一言や二言は花火に聞こえているはず。
そう信じて毎日話しかけていた。
桜の花はとうの昔に散ってしまった。
よくドラマとかで
「この、木の葉が落ちたら私は死んでしまうわ…」
みたいなことを言うけれど、そんなことはない。
桜が散ってからも花火はちゃんと生きている。
その日は、からりと晴れた気持ちの良い日だった。
「花火ー、今日はいいお天気だよ。花火が好きそうな日だね。今度一緒に野原に寝っ転がってみようか。」
そんなたわいもない話をしていたときだった。
突然、花火がポロッと目から涙をこぼした。
(目を覚ましたんじゃ…!)
そう思った僕の予想は大きく裏切られた。
「ピーーー……。」
1つの機械が大きな音を出し始めた。
今まで波打っていた線が一直線になる。
心臓が動くのをやめた。
「花火……、花火…!!死ぬな!!戻ってこい! なー!花火!僕の声聞こえてるんだったら返事しろ!まだしたいこといっぱいあるんだぞ!
こんな別れは嫌だよ!」
そう叫びながら、ナースコールを連打した。
すぐに看護師と医者が大勢やって来た。
僕は部屋から出された。
僕は泣いていた。花火の前では泣かないようにしていた僕は、いつの間にか目から大粒の涙をだしていた。
30分後花火の両親が駆けつけた。
1時間後僕は部屋に通された。
「午後5時36分死亡確認です…。」
医者の淡々とした声が病室に響いた。
花火に繋がっていた機械は全て電源が切られていた。
花火の横では花火の両親が泣いていた。
泣いても泣き足りない。
ぶつけるところがないどうしようもない怒り、悲しみをその涙が物語っていた。
シーンと静まり返った病室。
1番初めに言葉を発したのは花火のお父さんだった。
「お母さん、この男の子と2人きりにしてあげよう…。」
花火のお母さんはゆっくり頷いて、医者、看護師と一緒に病室から出て行った。
花火の横に座って
「花火…、お疲れ様…。よく頑張ったね…。」
そう言ってふわふわの柔らかい髪の毛を撫でた。
「ねー、花火に言えてないこといっぱいあったよね。できてないこともいっぱいあったよね。」
涙を必死に堪えて、なるべく明るく喋ったつもりだった。
でも花火にはそう聞こえなかったかもしれない。
「僕の名前も言えてなかったよね。
僕の名前は豊野夏樹
花火と一緒で夏っぽい名前でしょ。
もっともっと花火と一緒に居たかったよ。」
こんなことしか言えなかった。
「あとね…、花火と過ごしたのは数日だけだったけど…、僕は始めて人を好きになったよ…。
その子の名前は糸田川花火。可愛くて明るい子。
そうだよ…。花火…。」
言いたいことが多すぎてまとまらなかった。
「花火またどこかで会おうね。愛してるよ。」
そう言って僕は花火のやわらかいほっぺにキスをした。
病室から出て、花火の両親に一礼して帰った。
「やっぱり奇跡なんて起こらないじゃん…。」
抑えきれなくなった涙を流しながら、病院の廊下を歩いた。
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