1 / 32
第一章
00 終わりの始まり
しおりを挟む
濃い瘴気の中を、僕らはただただ歩き続けていた。
この山に住んでいるという悪魔の討伐。麓にある村を訪れた時に村人たちに依頼され、引き受けた。
教会で勇者に選ばれてからずっと魔族や魔物と戦ってきた。
そのほとんどは、人魔大戦の戦場であるエルドルヴ島だったが、他にも点在はしていた。その中でも、こんな山奥にずっと住んでいるというのは初めてだ。
今までと違う。だからこそ警戒は絶対に怠らない。
ここで僕たちが失敗したら、また村が悪魔の被害を被り続けることになってしまう。それだけはなんとしても許してはいけない。
「……やはりこの先ですね。黒い、禍々しい魔力の気配に近づいてます」
後ろを歩く僧侶のセリーヌがみんなに言った。
僕も魔術を使うおかげで、魔力をはっきり認識できるからわかる。この先に、とてつもなく強い悪魔がいる。
それに、ずっと山を包み込んでいた瘴気を、もう少しで抜けようとしていることもわかる。
常に周りを警戒しながら歩き続けると、瘴気の霧をようやく抜けて、視界が明るくなる。
ちょうど山の頂上がはげたように、その場所だけ木が生えておらず、大きな岩がゴロゴロと転がっているだけの殺風景。その中央に、小さな小屋があった。
カーンと、薪を割る音が響いている。
「あそこにいるはずだ。とりあえず、見える場所まで移動しよう」
そう言って、風上を避けつつ移動する。
見えたのは、ただ黙々と薪を割り続ける、人間の若者のような姿をした何か。魔族や悪魔にあるはずの角がない。
いや、公爵級以上の悪魔は角を隠すことができるらしい。騙されるわけにはいかない。それに、魔力の質と量は、大魔族や悪魔のそれと全く同じだ。
魔術士のリシアの方を見る。いつも自身に溢れた目をしているのに、今は違った。明らかに怯えた表情をしている。
「リシア、大丈夫か」
「大丈夫なわけがないでしょ……竜と同じ、いやそれ以上かも。とにかく、一撃で仕留めて」
竜と同等かそれ以上。おそらく魔力のことを言っているんだろうが、本当にそれほどの魔力量を持っているなら、一撃で仕留めなくてはならない。
それに、リシアの言っていることが間違っていないのは簡単にわかる。肌を刺すようなプレッシャーが、それから放たれているからだ。
「わかった。僕とガルドで突っ込む。二人はその援護をお願い」
「正気かカイル……いや、了解だ。それで行こう」
一撃で仕留める時は、いつも僕とガイルで突撃して、ガイルの作った傷に僕の攻撃を入れて仕留めている。
今回もそれで行く。失敗はしないはずだ。
僕が前の岩陰まで移動してしゃがむと、後ろから一人ずつ同じようについてくる。
そして少し近づいて気が付いたことが一つある。気が付いたというよりは、最初からあった違和感が、少し強まったという感じではある。
何かに見られているような、そんな感覚がより一層強まった。
それでも、まだその悪魔には気づかれていないはずだ。相変わらず、薪を割る音を響かせている。
「合図したらすぐに出る。いつも通りだ。必ずいい報告をしよう」
全員が頷くのを確認して、隙を伺う。
悪魔が斧を振り下ろして、薪が割れた瞬間、持っている剣の鞘を弾いて、剣を抜く。
それに合わせるように、ガルドが岩陰から出て、一瞬で間合いを詰める。
僕も、踏み込んで間合いをつめにかかる。
後ろでは、セリーヌとリシアが魔術を発動させようとしていた。
ガルドが槍を悪魔の胸に向かって突き刺そうとするが、ギリギリで逸らされて、肩に傷をつけるにとどまる。
少しの傷とはいえ、切り込むとっかかりとしては十分だ。
ガルドが飛び退き、斬りかかろうとした時、さっきから感じていた違和感の正体に気がついた。
最初から見られていた。視線の主と目が合ったことで、それをはっきりと感じられた。その時には、僕はすでに攻撃体勢を崩していた。
引き返せ。そうみんなに言おうとしたが、声が出なかった。
みんながなぜか逆さまに見える。ゆっくりと上に向かっていく。
違う、僕が逆さまになったんだ。僕の頭が地面に向かって落ちているんだ。視界の端には、何よりも大事にしていた剣を落としている僕の体があった。
「やはり山賊はマナーがなっていないな」
消えていく意識の中で、僕はそう聞いた気がした。
この山に住んでいるという悪魔の討伐。麓にある村を訪れた時に村人たちに依頼され、引き受けた。
教会で勇者に選ばれてからずっと魔族や魔物と戦ってきた。
そのほとんどは、人魔大戦の戦場であるエルドルヴ島だったが、他にも点在はしていた。その中でも、こんな山奥にずっと住んでいるというのは初めてだ。
今までと違う。だからこそ警戒は絶対に怠らない。
ここで僕たちが失敗したら、また村が悪魔の被害を被り続けることになってしまう。それだけはなんとしても許してはいけない。
「……やはりこの先ですね。黒い、禍々しい魔力の気配に近づいてます」
後ろを歩く僧侶のセリーヌがみんなに言った。
僕も魔術を使うおかげで、魔力をはっきり認識できるからわかる。この先に、とてつもなく強い悪魔がいる。
それに、ずっと山を包み込んでいた瘴気を、もう少しで抜けようとしていることもわかる。
常に周りを警戒しながら歩き続けると、瘴気の霧をようやく抜けて、視界が明るくなる。
ちょうど山の頂上がはげたように、その場所だけ木が生えておらず、大きな岩がゴロゴロと転がっているだけの殺風景。その中央に、小さな小屋があった。
カーンと、薪を割る音が響いている。
「あそこにいるはずだ。とりあえず、見える場所まで移動しよう」
そう言って、風上を避けつつ移動する。
見えたのは、ただ黙々と薪を割り続ける、人間の若者のような姿をした何か。魔族や悪魔にあるはずの角がない。
いや、公爵級以上の悪魔は角を隠すことができるらしい。騙されるわけにはいかない。それに、魔力の質と量は、大魔族や悪魔のそれと全く同じだ。
魔術士のリシアの方を見る。いつも自身に溢れた目をしているのに、今は違った。明らかに怯えた表情をしている。
「リシア、大丈夫か」
「大丈夫なわけがないでしょ……竜と同じ、いやそれ以上かも。とにかく、一撃で仕留めて」
竜と同等かそれ以上。おそらく魔力のことを言っているんだろうが、本当にそれほどの魔力量を持っているなら、一撃で仕留めなくてはならない。
それに、リシアの言っていることが間違っていないのは簡単にわかる。肌を刺すようなプレッシャーが、それから放たれているからだ。
「わかった。僕とガルドで突っ込む。二人はその援護をお願い」
「正気かカイル……いや、了解だ。それで行こう」
一撃で仕留める時は、いつも僕とガイルで突撃して、ガイルの作った傷に僕の攻撃を入れて仕留めている。
今回もそれで行く。失敗はしないはずだ。
僕が前の岩陰まで移動してしゃがむと、後ろから一人ずつ同じようについてくる。
そして少し近づいて気が付いたことが一つある。気が付いたというよりは、最初からあった違和感が、少し強まったという感じではある。
何かに見られているような、そんな感覚がより一層強まった。
それでも、まだその悪魔には気づかれていないはずだ。相変わらず、薪を割る音を響かせている。
「合図したらすぐに出る。いつも通りだ。必ずいい報告をしよう」
全員が頷くのを確認して、隙を伺う。
悪魔が斧を振り下ろして、薪が割れた瞬間、持っている剣の鞘を弾いて、剣を抜く。
それに合わせるように、ガルドが岩陰から出て、一瞬で間合いを詰める。
僕も、踏み込んで間合いをつめにかかる。
後ろでは、セリーヌとリシアが魔術を発動させようとしていた。
ガルドが槍を悪魔の胸に向かって突き刺そうとするが、ギリギリで逸らされて、肩に傷をつけるにとどまる。
少しの傷とはいえ、切り込むとっかかりとしては十分だ。
ガルドが飛び退き、斬りかかろうとした時、さっきから感じていた違和感の正体に気がついた。
最初から見られていた。視線の主と目が合ったことで、それをはっきりと感じられた。その時には、僕はすでに攻撃体勢を崩していた。
引き返せ。そうみんなに言おうとしたが、声が出なかった。
みんながなぜか逆さまに見える。ゆっくりと上に向かっていく。
違う、僕が逆さまになったんだ。僕の頭が地面に向かって落ちているんだ。視界の端には、何よりも大事にしていた剣を落としている僕の体があった。
「やはり山賊はマナーがなっていないな」
消えていく意識の中で、僕はそう聞いた気がした。
29
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。


【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

『伯爵令嬢 爆死する』
三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。
その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。
カクヨムでも公開しています。

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

突然伯爵令嬢になってお姉様が出来ました!え、家の義父もお姉様の婚約者もクズしかいなくない??
シャチ
ファンタジー
母の再婚で伯爵令嬢になってしまったアリアは、とっても素敵なお姉様が出来たのに、実の母も含めて、家族がクズ過ぎるし、素敵なお姉様の婚約者すらとんでもない人物。
何とかお姉様を救わなくては!
日曜学校で文字書き計算を習っていたアリアは、お仕事を手伝いながらお姉様を何とか手助けする!
小説家になろうで日間総合1位を取れました~
転載防止のためにこちらでも投稿します。

学園長からのお話です
ラララキヲ
ファンタジー
学園長の声が学園に響く。
『昨日、平民の女生徒の食べていたお菓子を高位貴族の令息5人が取り囲んで奪うという事がありました』
昨日ピンク髪の女生徒からクッキーを貰った自覚のある王太子とその側近4人は項垂れながらその声を聴いていた。
学園長の話はまだまだ続く……
◇テンプレ乙女ゲームになりそうな登場人物(しかし出てこない)
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意
月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。
剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作?
だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。
典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。
従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる