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第二章 マナのポーション
第13話 目利きしてもらって良いですか?
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「……悪いね、買い物に付き合わせちゃって」
「いえ! お母さんのためですから」
マナのポーションの原料を買うため、マツモトは『嗤うヒツジ亭』から薬屋へ向かった。
お手伝いします、と少女はマツモトの後を追い、断っても頑として聞かない。
「……お母さんのためって?」
疲労回復のポーションと違い、今回は原料となる結晶が2種、それらの『繋ぎ』となる薬草が2種必要になる。
マツモトはマニュアルと棚の品名を見比べながら、原料をカゴの中に放り込んでいく。
「あ……」
「ああ、ごめん。言いにくいことなら、言わなくていいよ」
「い、いいえ。大丈夫です……」
マツモトとカゴに入れた商品を見比べながら、少女は語り始めた。
少女の母親は『マナ欠乏症』と呼ばれる病気にかかっているらしい。生まれつき体内にマナを取り入れる力が弱く、その名の通り身体のマナが不足している状態である。
通常、人が有するマナには個人差があり、体内に取り入れる力もまた同様だ。肉体が放出するマナ量は、取り入れる量と拮抗するようになっているため、大多数の人はそれ自体が問題になることはない。
ただし肉体側に重大な変化──大きな病気であったり、出産であったり。そのような変化によって放出と吸収のバランスが取れなくなると、取り込む力が弱い者はマナ欠乏症にかかる可能性があるそうだ。反対に取り込む力が強すぎても、マナ過剰症となって肉体に負荷がかかる。
少女の母親も2度の出産で身体に異変が起こり、マナ欠乏症となってしまったという。
「マナ欠乏症は、時間が経てば自然に良くなるそうなんです。だからポーションなんか要らないって、お母さんは言うんですけど。お母さん苦しそうで、誕生日には何かしてあげたくて……」
「そうか。お母さんの誕生日はもうすぐ?」
「明日です」
明日か。今から10時間、作業が終わるのは早くても深夜になる。
失敗は出来ても1回だろう。だが、最初から失敗するつもりで挑んでは上手く行くはずがない。
ミシュアに言われたように、マツモトはプロとして、何としてでも少女の期待に応えるつもりだった。
「誕生日プレゼント、絶対に用意しないとな。おじさんに任せておけ」
「はいっ! ……あ、あの」
意気揚々とレジに向かうマツモトを、少女は躊躇いがちに呼び止めた。
言おうかどうしようかと悩んでいる様子だったが、一呼吸おいてから口を開く。
「……その結晶、こっちの方が良いと思うんですけど……」
奥の方にあった結晶を差し出され、マツモトは目を白黒させた。
カゴに入っている結晶と、少女の持っている結晶。見比べても、全く違いが分からない。
「……えーと、どうして?」
「ご、ごめんなさいっ! 私なにも知らないのに、余計なこと言っちゃって」
「いや」
マツモトは首を横に振った。プロとして振舞うことと、知っているフリをすることは違う。
まだまだポーション精製において、マツモトは素人なのだ。相手が少女であっても、教えを乞うべきだろう。
少女に目線を合わせ、「教えてくれ」と頼む。
「……結晶が含んでるマナの質です。こっちの方がマナが若くて……」
「…………」
「え、えっと、マナが若いっていうのは、新しいというか、風通しが良い? というか……」
気を悪くしたと思ったのか、少女はあたふたしている。
改めて、結晶を見比べる。やはりマツモトには違いが分からない。少女には、マツモトには知覚できない何かが分かっている……
マツモトは、少女の両肩に手を置いた。
「ひゃっ……!?」
「そのマナってものが、お嬢ちゃんには見えてるのか?」
「み、見えるというよりは……分かるんです。食材が新鮮かどうか、見極めるのと同じように……」
「よし」
少女は確信を持って話している。それだけ分かれば十分だった。
カゴの中の結晶を元の棚に戻し、マツモトは少女から結晶を受け取った。
「原料選びは、お嬢ちゃんに任せるよ。頼りにしてるからな、嬢ちゃん」
「……シュカです。シュカ・ヴィルミエールって言います」
「そうか。俺のことはマツモトと呼んでくれ。これからよろしく、シュカちゃん」
差し出された手を、少女──シュカは固く握る。
その顔はやや緊張がほぐれ、嬉しさが滲み出ているように感じた。
もうすぐ午後2時がさしかかる。
マツモトとシュカの『マナのポーション』精製が、いよいよ始まろうとしていた。
「いえ! お母さんのためですから」
マナのポーションの原料を買うため、マツモトは『嗤うヒツジ亭』から薬屋へ向かった。
お手伝いします、と少女はマツモトの後を追い、断っても頑として聞かない。
「……お母さんのためって?」
疲労回復のポーションと違い、今回は原料となる結晶が2種、それらの『繋ぎ』となる薬草が2種必要になる。
マツモトはマニュアルと棚の品名を見比べながら、原料をカゴの中に放り込んでいく。
「あ……」
「ああ、ごめん。言いにくいことなら、言わなくていいよ」
「い、いいえ。大丈夫です……」
マツモトとカゴに入れた商品を見比べながら、少女は語り始めた。
少女の母親は『マナ欠乏症』と呼ばれる病気にかかっているらしい。生まれつき体内にマナを取り入れる力が弱く、その名の通り身体のマナが不足している状態である。
通常、人が有するマナには個人差があり、体内に取り入れる力もまた同様だ。肉体が放出するマナ量は、取り入れる量と拮抗するようになっているため、大多数の人はそれ自体が問題になることはない。
ただし肉体側に重大な変化──大きな病気であったり、出産であったり。そのような変化によって放出と吸収のバランスが取れなくなると、取り込む力が弱い者はマナ欠乏症にかかる可能性があるそうだ。反対に取り込む力が強すぎても、マナ過剰症となって肉体に負荷がかかる。
少女の母親も2度の出産で身体に異変が起こり、マナ欠乏症となってしまったという。
「マナ欠乏症は、時間が経てば自然に良くなるそうなんです。だからポーションなんか要らないって、お母さんは言うんですけど。お母さん苦しそうで、誕生日には何かしてあげたくて……」
「そうか。お母さんの誕生日はもうすぐ?」
「明日です」
明日か。今から10時間、作業が終わるのは早くても深夜になる。
失敗は出来ても1回だろう。だが、最初から失敗するつもりで挑んでは上手く行くはずがない。
ミシュアに言われたように、マツモトはプロとして、何としてでも少女の期待に応えるつもりだった。
「誕生日プレゼント、絶対に用意しないとな。おじさんに任せておけ」
「はいっ! ……あ、あの」
意気揚々とレジに向かうマツモトを、少女は躊躇いがちに呼び止めた。
言おうかどうしようかと悩んでいる様子だったが、一呼吸おいてから口を開く。
「……その結晶、こっちの方が良いと思うんですけど……」
奥の方にあった結晶を差し出され、マツモトは目を白黒させた。
カゴに入っている結晶と、少女の持っている結晶。見比べても、全く違いが分からない。
「……えーと、どうして?」
「ご、ごめんなさいっ! 私なにも知らないのに、余計なこと言っちゃって」
「いや」
マツモトは首を横に振った。プロとして振舞うことと、知っているフリをすることは違う。
まだまだポーション精製において、マツモトは素人なのだ。相手が少女であっても、教えを乞うべきだろう。
少女に目線を合わせ、「教えてくれ」と頼む。
「……結晶が含んでるマナの質です。こっちの方がマナが若くて……」
「…………」
「え、えっと、マナが若いっていうのは、新しいというか、風通しが良い? というか……」
気を悪くしたと思ったのか、少女はあたふたしている。
改めて、結晶を見比べる。やはりマツモトには違いが分からない。少女には、マツモトには知覚できない何かが分かっている……
マツモトは、少女の両肩に手を置いた。
「ひゃっ……!?」
「そのマナってものが、お嬢ちゃんには見えてるのか?」
「み、見えるというよりは……分かるんです。食材が新鮮かどうか、見極めるのと同じように……」
「よし」
少女は確信を持って話している。それだけ分かれば十分だった。
カゴの中の結晶を元の棚に戻し、マツモトは少女から結晶を受け取った。
「原料選びは、お嬢ちゃんに任せるよ。頼りにしてるからな、嬢ちゃん」
「……シュカです。シュカ・ヴィルミエールって言います」
「そうか。俺のことはマツモトと呼んでくれ。これからよろしく、シュカちゃん」
差し出された手を、少女──シュカは固く握る。
その顔はやや緊張がほぐれ、嬉しさが滲み出ているように感じた。
もうすぐ午後2時がさしかかる。
マツモトとシュカの『マナのポーション』精製が、いよいよ始まろうとしていた。
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