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第一章 疲労回復のポーション

第7話 貸付してもらって良いですか?

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Q5:酒場を飛び出し、マツモトがしたこととは何か?


薬学。手がかりひとつなかったところに、ようやく見つけた道標。
しかし、薬学一本に絞って進む道を決定するほどには、マツモトは短絡ではなかった。
まだ今は、薬学を開始点にして得られるものがあればという程度。故にマツモトが、一番最初に向かった先は……

書店であった。

マツモトが入店してから、既に3時間が経過。
店側もマツモトの存在に気づき、どう対処しようかと検討をしていた。
──当の本人は、ずっとひとつの棚に張り付いて、片っ端から薬学のマニュアル本を読み漁っていた。


Q5:酒場を飛び出し、マツモトがしたこととは何か?
A5:書店で立ち読み。


日本の本屋のように、シュリンクがかかっているわけではない。中身を確認してから購入する客も勿論いる。
しかしこれほどまでに長時間立ち読みされては、店側もたまったものではない。
間もなくして、マツモトは屈強な店員に肩を叩かれ、店から摘まみ出されてしまった。

「いかんいかん、つい長居してしまった……」
元々購入する予定だったのだが、想定以上にマニュアル本の数が多く、どれを買うかで悩んだ結果こうなったというわけ。

しかし成果はあった。
冒険用のポーション粉末を精製するために必要な原料は、大きく2種類に分けられる。
1つはポーションの薬効成分を抽出するための素材。
そしてもう1つは、抽出した液体を粉末化するための、いわゆる添加剤である。
この添加剤はどのポーションであっても、基本的に同じものが使用される。

要するに。
『作業するためのアトリエの使用料』と『ポーションの添加剤』は、どのポーションを精製する場合でも価格がほぼ固定。
ここに『各ポーションの薬効成分原料』の原材料費を加えた費用が原価となる。
『薬効成分原料費』と『ポーションの卸値』を比較すれば、発生する利益が読めるということだ。


その後マツモトは薬屋で材料等の価格を確認し、またアトリエの使用料がどの程度なのかも調べて回った。



昼食後、マツモトは日本人共済へと足を運ぶ。昨日と同じ男性が受付に立っていた。

「マツモトさんですね。余裕があったのか、身分証はすぐに用意してもらえましたよ。どうぞ」
「どうも」
紙製の、少しよれた身分証を受け取る。心もとないが、これがこっちの世界で通用する唯一の身分証なのだ。
マツモトはスーツの内ポケットにそれをしまい込んだ。

「それで、こちらでの生活は何とかなりそうですか?」
「一応、仕事の種になりそうなものはね。ただ困ったことに……」

元手が相当かかりそうです、と溜息を吐く。
アトリエを1日借りたとして、使用料が大体1万レナス前後。最長1ヶ月まで纏めて借りることが可能で、その場合値引きがあって最安値20万レナス。
ポーションの添加剤は45,000レナスで、1つ買えば大体3,000本分のポーションを粉末化出来る。
あとは薬効成分原料だが、これは作るポーションによる。マニュアルを買っていないため分からないが、安い物でも添加剤よりかかりそうだ。

対して、今マツモトの手元にあるのが5万弱。添加剤だけで軽く吹っ飛んでしまう。
せっかく見つけた手がかりだが、別の道を探すしかなさそうだ。

「ふむ。マツモトさんが望むなら、日本人共済から資金貸付を受けることが出来ますよ」
「貸付ですか?」
「金利は年10%。何分異世界ですから、少し高めなのは目を瞑ってください。それに貴方はこちらに来たばかりなので、限度額も最低の50万レナスです。それでも良ければ、ですが」
「良いも悪いも、是非お願いします!」

願ってもない話だ。50万レナスあれば、すぐにでもポーション精製に取り掛かれる。
薬学以外にも道はあると、最初はそう思っていた。しかし調べるにつれて、マツモトの中にひとつの感情が芽生えていたのだ。
ポーションの精製をやってみたい。楽しそう、という感情。
薬学に何となく惹かれていたのも、運命だったのではないかと思えるほどに。

「それでは、こちらの書類にサインを」

マツモトは金額の欄に、躊躇いなく『50万』と記入した。


アトリエの使用料は1日単位で発生する。
今日はもう午後になってしまったため、やるなら明日の方が良さそうだ。
マツモトはそう考えて、今日はマニュアル本を購入するに留めた。

──当然、書店の店員は良い顔をしなかったが。


#異世界人『マツモト』
2日目・収支……
+500,000レナス (貸付金)
-1,360レナス (食費)
-6,300レナス (薬学初級マニュアル)
残金 541,600レナス
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