1 / 3
第1話 魔女の学園
しおりを挟む
「この光明院しぐれに楯突いたこと、末代まで後悔させて差し上げますわ」
……光明院さんの指が、『私』の顔に突きつけられる。
その声は心なしか震えていて、私に対する怒りのような……ううん、少し違う。
プライドとか、背負っているものの大きさとか、そういうのを感じさせる声色だった。
「……相変わらずの余裕顔ですわね。覚悟は出来ていて? 露木楓華ッ!!」
感情が少し変わった気がする。今のは明らかに、私に対する怒りだ。
本当は困っているのだけど、余裕ぶってるように見えてしまったのだろうか。
そんなつもりじゃないんだけれど……
隣に立っている”白”(私のクラスメイト。)が、怯えたように私の腕にしがみついた。
「ふ、楓華さまぁ……」
白の不安そうな顔を見ていると、私ももう泣きたくなってくる。
『私』露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だった。
少なくともこんな風に、校庭で向かい合って、光明院さんに睨まれているような、そんな人間じゃなかった。
光明院さんの取り巻きの人達が、私達をぐるりと囲むように立っている。
皆、固唾を呑んで見守っている。これから始まる、私と光明院さんの……『決闘』を。
……露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だったのに。
*
生徒数、約6000人。
初等部から大学部、更には教師に至るまで、その全てが女性。それがこの『法紅陵学園』である。
これだけの規模にもかかわらず、日本の僻地に所在するのは、まるで人目を避けているようにも思える。
実際は避ける必要もないのだが、まあ都心に構えるのも都合が悪いということなのか、ともかくこの学園は社会から隔絶していた。
チャイムの音が鳴った。それと同時に、教師は板書する手を止める。
「では、今日の授業はここまで。課題を出しておくので、明日までにやってくるように」
そう言った後、だらだらと教科書を片付ける生徒達を見て、思い出したように付け加えた。
「……皆、分かってるだろうけど次は自主練の時間よ。さっさと着替えてグラウンドに移動しなさい」
途端、一部の生徒からブーイングが起こる。週5日、5限目は必ず『自主練』のコマなので、毎日のことではあるのだが。
「うえぇ、またこの時間が来たぁ……」
「自主練、退屈すぎて嫌いなんだけどなあ……」
はいはい、と呆れたように、教師は手を叩く。
「ブツブツ言わない。学生の本分は勉学と魔法、でしょ」
法紅陵学園は、魔女による魔女のための学校である。
魔女社会の存在が公になっては困るため、魔女以外の人間には、この学園は知覚できないようになっている。
存在を知る者は魔女だけ。数百年の歴史の中、あるいは存在に気づいた者がいたかもしれないが、それは巧妙に『処理』されてきた。
『学生の本分は勉学と魔法』。
法紅陵学園の校訓が示す通り、魔法の技量は魔女にとって、社会的ステータスとなる重要なものだ。
魔女社会の上下関係は、ほぼ魔力の量や質で決まると言っていい。
それが分かっているから、学生達も文句こそ言うものの、魔法の自主練に全力で取り組むのである。
「……あれ。露木さん、またいなくなってる」
一人の生徒が呟いた。向けられた視線の先は、教室の隅の空席。
「自主練の時間、いっつもいないよね?」
「皆と合同で練習するのが合わないんでしょ」
あんまり人と会話もしないし、と別の生徒が事も無げに言う。
「えぇーっ。今日こそ、露木さんの魔法が見られると思ったのにぃ……」
「人を気に掛ける余裕があるなら、あんたはまず基礎から復習ね」
「はいはーい。あーあ、さすが編入生のエリート様は、私らとは違うよねぇ……」
露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だった。
少なくとも、授業を受けたくないからといって、教室をこっそり抜け出して屋上でぼんやりするような、そんな人間ではなかった。
「はぁ……」
独り溜息を吐く。こんな不良学生のような真似をしているなど、母が知ったらどんな顔をするだろうか。
どうしようもない。皆と一緒に魔法の自主練なんて、参加できるはずもない。
露木楓華は、魔法など使えるわけもない、どこにでもいるような普通の高校生だったのだから。
……光明院さんの指が、『私』の顔に突きつけられる。
その声は心なしか震えていて、私に対する怒りのような……ううん、少し違う。
プライドとか、背負っているものの大きさとか、そういうのを感じさせる声色だった。
「……相変わらずの余裕顔ですわね。覚悟は出来ていて? 露木楓華ッ!!」
感情が少し変わった気がする。今のは明らかに、私に対する怒りだ。
本当は困っているのだけど、余裕ぶってるように見えてしまったのだろうか。
そんなつもりじゃないんだけれど……
隣に立っている”白”(私のクラスメイト。)が、怯えたように私の腕にしがみついた。
「ふ、楓華さまぁ……」
白の不安そうな顔を見ていると、私ももう泣きたくなってくる。
『私』露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だった。
少なくともこんな風に、校庭で向かい合って、光明院さんに睨まれているような、そんな人間じゃなかった。
光明院さんの取り巻きの人達が、私達をぐるりと囲むように立っている。
皆、固唾を呑んで見守っている。これから始まる、私と光明院さんの……『決闘』を。
……露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だったのに。
*
生徒数、約6000人。
初等部から大学部、更には教師に至るまで、その全てが女性。それがこの『法紅陵学園』である。
これだけの規模にもかかわらず、日本の僻地に所在するのは、まるで人目を避けているようにも思える。
実際は避ける必要もないのだが、まあ都心に構えるのも都合が悪いということなのか、ともかくこの学園は社会から隔絶していた。
チャイムの音が鳴った。それと同時に、教師は板書する手を止める。
「では、今日の授業はここまで。課題を出しておくので、明日までにやってくるように」
そう言った後、だらだらと教科書を片付ける生徒達を見て、思い出したように付け加えた。
「……皆、分かってるだろうけど次は自主練の時間よ。さっさと着替えてグラウンドに移動しなさい」
途端、一部の生徒からブーイングが起こる。週5日、5限目は必ず『自主練』のコマなので、毎日のことではあるのだが。
「うえぇ、またこの時間が来たぁ……」
「自主練、退屈すぎて嫌いなんだけどなあ……」
はいはい、と呆れたように、教師は手を叩く。
「ブツブツ言わない。学生の本分は勉学と魔法、でしょ」
法紅陵学園は、魔女による魔女のための学校である。
魔女社会の存在が公になっては困るため、魔女以外の人間には、この学園は知覚できないようになっている。
存在を知る者は魔女だけ。数百年の歴史の中、あるいは存在に気づいた者がいたかもしれないが、それは巧妙に『処理』されてきた。
『学生の本分は勉学と魔法』。
法紅陵学園の校訓が示す通り、魔法の技量は魔女にとって、社会的ステータスとなる重要なものだ。
魔女社会の上下関係は、ほぼ魔力の量や質で決まると言っていい。
それが分かっているから、学生達も文句こそ言うものの、魔法の自主練に全力で取り組むのである。
「……あれ。露木さん、またいなくなってる」
一人の生徒が呟いた。向けられた視線の先は、教室の隅の空席。
「自主練の時間、いっつもいないよね?」
「皆と合同で練習するのが合わないんでしょ」
あんまり人と会話もしないし、と別の生徒が事も無げに言う。
「えぇーっ。今日こそ、露木さんの魔法が見られると思ったのにぃ……」
「人を気に掛ける余裕があるなら、あんたはまず基礎から復習ね」
「はいはーい。あーあ、さすが編入生のエリート様は、私らとは違うよねぇ……」
露木楓華は、どこにでもいるような普通の高校生だった。
少なくとも、授業を受けたくないからといって、教室をこっそり抜け出して屋上でぼんやりするような、そんな人間ではなかった。
「はぁ……」
独り溜息を吐く。こんな不良学生のような真似をしているなど、母が知ったらどんな顔をするだろうか。
どうしようもない。皆と一緒に魔法の自主練なんて、参加できるはずもない。
露木楓華は、魔法など使えるわけもない、どこにでもいるような普通の高校生だったのだから。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。
「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」
「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」
「・・・?は、はい」
いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・
その夜。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
大好きな母と縁を切りました。
むう子
ファンタジー
7歳までは家族円満愛情たっぷりの幸せな家庭で育ったナーシャ。
領地争いで父が戦死。
それを聞いたお母様は寝込み支えてくれたカルノス・シャンドラに親子共々心を開き再婚。
けれど妹が生まれて義父からの虐待を受けることに。
毎日母を想い部屋に閉じこもるナーシャに2年後の政略結婚が決定した。
けれどこの婚約はとても酷いものだった。
そんな時、ナーシャの生まれる前に亡くなった父方のおばあさまと契約していた精霊と出会う。
そこで今までずっと近くに居てくれたメイドの裏切りを知り……
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる