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なぜ私が!?
しおりを挟む「有難うございました。またの来店をお待ちしております」
「はぁ……神幹さん……また、おねがいしますね」
「まだ余韻が抜けていないかもしれません。足元気を付けて帰ってください」
とあるマッサージ店から女性が出ていく。それを見送る男性。
ここは街のメインストリートからは少し外れた場所にあるマッサージ店 <プレジャータイム>
施されるマッサージはリラックスするためや治療のためのマッサージではない。女性が"性的"に気持ち良くなることを主眼としたマッサージ店だ。
開店してまだ数か月。しかし店長であり施術者である神幹 修義の腕が良く口コミで広まり繁盛している。
神幹は30代後半でがっしりした体型。元々は柔道をしていて整体師を目指していたそうだが、女性の体を触ると無意識に性感帯ばかりをピンポイントで探り当ててしまう。これでは施術にならないと一時は悩んだが、天から与えられた才能だと割り切ってからは性感マッサージ師として大活躍だ。そんな神幹が独立して自分の店プレジャータイムをオープンさせた。
「店長、郵便物ここに置いていますので」
<プレジャータイム>に最近、スタッフとして雇われた本島 英吏。英吏は20代後半で日中はOLをしているが、副業を探していたところ、週に何回か夜の数時間だけで良くて簡単な受付業務や軽作業で時給がいいからと求人を見て応募した。
普通のマッサージ店だと思っていたが、面接中にふと目に入ったマッサージメニューを見て性感マッサージだと気づいた。しかし時給の良さや店長の「僕一人じゃあもう店が回らなくて。助けてほしい」とお願いされて「頑張って働きます」と返事をしてしまったのだ。
実は英吏以外にも応募者は多かった。なので性感マッサージに対して嫌そうな顔をした英吏に無理に働いてもらう必要はなかった。しかし、英吏は真面目で従順そう。
そして何より英吏の外見が性感マッサージ店に合っていたのだ。受付で客と顔を合わせるスタッフがもし派手めで若い女性だとお客が気後れすることもある。
その点で英吏は20代後半でお客の平均年齢よりは若い方だが、見た目が地味な感じ。豊満な胸や美しい肌の持ち主ではあるが、いかんせん服が野暮ったく地味。
お客が不快にならない、そして印象にも残らない丁度良い雰囲気。それが気に入り、神幹はぜひあなたに働いてほしいと懇願した。
神幹は郵便物を確認しながら英吏に指示を出す。
「本島さん、さっきのお客さんの後片付けしておいて」
「はいっ」
ここで働き始めたばかりのときに教わった「後片付け」は、色々な液体(マッサージオイルだけでは無さそうだ)を拭き、甘ったるい湿気た空気を入れ替え、ベッドメイクするという仕事。作業量は大したことはない。しかし色々想像してしまうことが英吏の悩みだ。
「片付けが終わったらうちで働きたいっていってる人が来るから紹介するよ」
「新しい人ですか」
英吏は私を雇ったばかりなのにまた新しい人?と首をひねる。
「受付スタッフじゃなくてマッサージのほう。予約枠がほぼリピーターさんで埋まってるからね。新規さん獲得のためにも施術できる人を採りたい」
神幹は腕もいいし、見た目もいい。そんな神幹の施術を受けようとリピーターは増えるばかりで新規客が受け入れにくくなった。そのため新たに施術できる人間を増やすのだ。
「そうなんですね。良い人だといいですね」
「そうだね」
神幹は人の良さそうな笑顔を英吏に向ける。
(君にとっても……ね)
「初めまして、飛虎 健といいます!よろしくお願いします!」
「はい、よろしく」
「宜しくお願いします」
元気な声が響く。神幹は慣れたように、そして英吏は大きな声に驚きつつ挨拶を返す。
マッサージ師志望という男はまだ20代になりたて。飛虎だなんていかつい苗字だが、見た目は可愛らしい感じの顔。年上のお姉さま方に好かれそうな顔だ。愛くるしい顔だが高身長。神幹に比べれば筋肉は無いが、スタイリッシュで清潔感のある男だ。
飛虎はマッサージ師養成の専門学校に通っているが、在学中に色んな経験を積みたいからと<プレジャータイム>に応募した。
「飛虎くん、改めて聞くけどここは性感マッサージの店だよ。分かってるんだよね」
「……はいっ」
飛虎は性感マッサージという言葉にピクリとしたが元気のいい返事。
「専門学校でマッサージのことは学んでるだろうけど、性感マッサージはまた違うからね。悪いけどいきなり君を採用するわけにはいかない。お客さんにオーガズムに達してもらえるかが重要だ。セックスでいかせるんじゃない。手技だけで絶頂を味わってもらうんだ」
英吏は普段の生活では聞かない言葉が目の前で言われ顔を赤らめる。
(オーガズムとかそんな恥ずかしい言葉……//)
英吏は恥ずかしくて俯く。しかし神幹の18禁ワード連発の説明は続く。
「……ということで、研修を受けてもらうよ」
「分かりました!」
やっとまともな会話になったと英吏が顔を上げる。
「研修後に修了課題をしてもらってそれが合格なら雇う。不合格なら悪いけど雇えない。修了課題は……」
これまで会話の外にいた英吏の肩を神幹がポンとたたく。
「修了課題は本島さんをイかせること。本島さん、練習台になってあげてね」
普段は物静かな英吏の、驚嘆の声が部屋に響いたのであった。
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