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15.昇格
しおりを挟む適当なところで仕事を切り上げ着替える。先輩はキリの良いところまでやってから上がるからと、休憩室で待っているよう言われた。
コーヒーでも飲んで待っていよう。窓の外を見るとすっかり暗い。
「あれ、温子さん?」
「え?」
その声は。
「お疲れ様です。もう仕事終わったんですよね?休憩室で何してるんですか?」
水川だ。久しぶりに会い、その声が心地よい。
「うん、終わったけど。水川君もどうしたの?」
「出先から直帰するつもりだったんですけど、会社に忘れ物してて」
「そうなんだ」
この後の言葉は出てこず、黙ったまま、次に何を言おうか頭を巡らす。
この前の混浴のこと話したい?また混浴行きたい?いや、それよりも、このままの関係は少し…。
「ねぇ、温子さん。これからご飯食べに行きませんか?色々と話したいし」
私も話したい…と言いかけて先約があることを思い出す。
「ごめん。この後、先輩と温泉行くから」
◆◆◆◆
水川は僅かに体を震わせる。
「駄目です!」
いきなりの大きい声に驚く。
「びっくりした。急にどうしたの?」
「急にどうしたのじゃないです。僕とじゃなくてそのどっかの先輩と混浴するんですか!?」
「どっかの先輩って…開発室の先輩だよ」
水川の脳裏に、貴音の言葉が蘇る。
(今は混浴フレンドは水川君だけかもしれないけど、これからは分からないよ)
「僕のことどう思ってますか?ただの混浴フレンド?僕が予定合わなかったら、じゃあ次の混浴フレンドと楽しく温泉行くってことですか?」
「何言って!ちょっと静かに!」
人がいつ来てもおかしくない休憩室で、大声で言うことではない。
「いえ、やめません!僕のこともう嫌いじゃないって言ってくれたから安心してたけど、それだけじゃ足りないっ」
水川はこちらにズンズンと歩いてくる。休憩室のソファに座っている私から見上げると、不機嫌そうな水川がより大きく見える。鋭い視線が痛くて、目をそらす。
すると、水川は腰を屈め、私の肩を両手で掴む。
近いっ
目を瞑り、離してと訴えるが力は緩まない。
水川は息を大きく吐き、それまでの大きな声から一転、優しい声で言う。
「………僕のこと見てくれますか?」
「う、うん」
恐る恐る目を開く。するとこちらを見つめる真っ直ぐな黒い瞳。引き込まれる瞳だ。
そして
「僕、温子さんのこと好きなんです」
え、いま何て?
「え?」
「温子さんのこと、好きなんです。次からは恋人として混浴楽しみたいんです。温子さんと混浴するのは僕だけにして欲しいです」
口元に手をやり、口が驚きからパクパクすること、そして嬉しさから口角が上がることを隠す。
水川の顔はほのかに赤く、こちらの返事を伺っている。
「私、嫌だったの」
「嫌?もしかして、今までの混浴で色々その、したからですか?」
水川が不安そうな顔を向ける。
「ううん、そうじゃなくて。このまま混浴フレンドのままが嫌だったの。もっと、水川君のこと知りたい…
私も、、、好き…だから」
「本当に?」
「うん」
「~~っ、やった!」
水川は立ち上がり、ガッツポーズをする。何を大袈裟にと思うが、私も飛び跳ねたい気持ち。
「じゃあ次はデートで温泉行きましょうね」
「うん」
「でもまずは夕飯デートで」
足取り軽く、2人は嬉し恥ずかしの初デートに向かう。
後日、開発室の先輩に「この前何も言わず先に帰ってすみませんでした!」と謝り倒す温子の姿が有ったとか無かったとか。
end.
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