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13.精算
しおりを挟む翌朝
目が覚めいつもと違う天井に、ん?と思う。
そういや昨日から旅館に来てるんだ。
んーーーっと、布団の中で伸びをして、横を向く。すると、少し離れた場所に敷かれた布団に水川がいる。まだ寝ているようだ。
水川との昨日の記憶は…寝てもしっかり残っている。同じ部屋で一晩明かした(別に何もなかったが)ことも、こそばゆい。布団の中で意味もなく悶えてしまう。
早く気分を切り替えたい。
物音を立てないように布団から出て、洗面台へと向かう。
服を着替える時、胸に散らばる赤い痕を見つけ、誰も見ていないのに咄嗟に隠した。
◆◆◆◆
「おはようございます」
支度を済ませたところで、水川が起きてきた。
「あ、水川くん、おはよ」
「早いですね」
「もっと早く起きて朝風呂を頂きたかったんだけどね、もうそろそろ朝ご飯の時間だから諦めるよ」
「昨日の夜、充分温泉入ったから良いんじゃないですか」
昨日の夜。
できるだけ昨日のことは思い出さないようにしていたが、鮮明に思い出し顔が紅くなる。
なんかもう、色々とありえないことをした。いや、今回は私だけが悪いわけじゃない。水川だってノリノリで……だめ、思い出したら余計に紅くなる!
水川も思い出したのか「いや、まぁえぇ、色々とご面倒かけたと思います。すみません……」
気になっていたことを確認する。
「ねぇ、記憶は…あるの?」
「一応、はい」
「そっか。ぜ、ぜんぶ?」
「多分全部…です。」
うう、そうか酔って全く覚えてませんじゃないのか。
お互い気まづさはあり、そこからはありきたりな世間話だけをする。
朝食やチェックアウトを済ませ、昨日行けなかった足湯巡りをし、完全に酒気が取れたところで、水川の運転で帰路についた。
◆◆◆◆
月曜日。
「…くこ、………温子ってば」
「……へ?何?」
「何じゃないよ、湯のみ持ったまま何ぼーっとしてんのよ」
いつも通り、貴音と昼ごはんを食べながら上の空になっていた。
貴音に今考えていることを相談したいけど、でも同じ社内だし…
「絶対何かあったでしょ。それも研究のこととは違うわね」
「別に何も…」
何で研究のことじゃないと分かるんだ?
「だって研究のことなら、もっと楽しそうにしてるじゃない。なんでこうなるの?温泉って不思議っ!そこが良い!とかなんとか言ってさ」
うう、心が読まれてる…こわ
「大丈夫、別に大したことじゃないから」
「そ、分かったわ」
貴音が怖い顔をしているが、そのまま昼休みは終わり、これ幸いにと「じゃあ!」と開発室へ戻る。
そりゃあ貴音に相談したい。嫌いだった水川と混浴に行っていること、実はとてもいい奴だと分かったこと、混浴フレンドとして温泉巡りできて休日が充実していること
そして、今の関係のままは少し嫌なこと。
だけど同じ会社の貴音に言えば、水川に悪い。別に貴音が誰かに言いふらすことは無いが、それでも。
◆◆◆◆
貴音は親友の温子の様子が気がかりなまま、それでも仕事をしなければと、午後からまた伝票のチェックをする。
オッケー、これもオッケー
次が営業部水川ね、これはオッケー、ん?この伝票金額間違ってる。ああもう!ただでさえいつも提出してくるの遅いのに。
メールで連絡しても良いが、すぐに修正してほしいから、営業部へ行って水川にその場で直させよう。
「水川君、お疲れ」
「お疲れ様です。あ……」
「あ、じゃないわよ、これ直して。ほら、ここ」
水川は伝票を手に取り、あぁまたやっちゃったと言いながら修正をした。
「すみませんいつも」
「まぁ今回は提出期限を一応は、ギリギリ、守ってたから許すけど。気をつけてね」
「はい、お手数かけました……あっ、良ければこれ貰ってください。先週末行った温泉のお土産です」
水川はすぐ近くに置いていた箱を持ってきて、大きな箱に数個残っている煎餅を1つ貴音に渡した。
「え?別にそこまで気にしなくて良いのに。でもまぁ、せっかくだから貰うわ」
「どうぞ、いつもご面倒かけてますんで」
「これ、B県の温泉のお土産なんだね」
「はい、特産の煎餅買ってきたんです。営業の人たちにも好評で」
貴音はふと思う。この温泉の名前、最近見た。あれ、どこで見たかな。
……あ、温子だ。温子が使ってるハンドクリームだ。
「それ、良い香りだね」「うん、温泉行ったんだけど自分へのお土産で買ったんだ」ってニコニコしながら言ってた。
ん?温子と水川君、同じ温泉地行ってたの?日が違う?偶然?それとも…
感の鋭い貴音は、声を少し抑えて水川にだけ聞こえるように言う。
「水川君、温子と一緒に行ったの?」
「……何で知ってっ!」
やっぱり。
「なるほどね。温子が様子変なの、水川君が関係してるんだ」
「……え?様子変なんですか?何か聞いてますか?」
「私からも色々質問あるから、今日時間とってよ」
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