上 下
13 / 16

13.精算

しおりを挟む

翌朝



目が覚めいつもと違う天井に、ん?と思う。
そういや昨日から旅館に来てるんだ。


んーーーっと、布団の中で伸びをして、横を向く。すると、少し離れた場所に敷かれた布団に水川がいる。まだ寝ているようだ。

水川との昨日の記憶は…寝てもしっかり残っている。同じ部屋で一晩明かした(別に何もなかったが)ことも、こそばゆい。布団の中で意味もなく悶えてしまう。

早く気分を切り替えたい。

物音を立てないように布団から出て、洗面台へと向かう。

服を着替える時、胸に散らばる赤い痕を見つけ、誰も見ていないのに咄嗟に隠した。



◆◆◆◆



「おはようございます」

支度を済ませたところで、水川が起きてきた。
「あ、水川くん、おはよ」

「早いですね」

「もっと早く起きて朝風呂を頂きたかったんだけどね、もうそろそろ朝ご飯の時間だから諦めるよ」

「昨日の夜、充分温泉入ったから良いんじゃないですか」

昨日の夜。
できるだけ昨日のことは思い出さないようにしていたが、鮮明に思い出し顔が紅くなる。

なんかもう、色々とありえないことをした。いや、今回は私だけが悪いわけじゃない。水川だってノリノリで……だめ、思い出したら余計に紅くなる!

水川も思い出したのか「いや、まぁえぇ、色々とご面倒かけたと思います。すみません……」



気になっていたことを確認する。


「ねぇ、記憶は…あるの?」

「一応、はい」

「そっか。ぜ、ぜんぶ?」

「多分全部…です。」


うう、そうか酔って全く覚えてませんじゃないのか。


お互い気まづさはあり、そこからはありきたりな世間話だけをする。
朝食やチェックアウトを済ませ、昨日行けなかった足湯巡りをし、完全に酒気が取れたところで、水川の運転で帰路についた。



◆◆◆◆



月曜日。


「…くこ、………温子ってば」

「……へ?何?」

「何じゃないよ、湯のみ持ったまま何ぼーっとしてんのよ」


いつも通り、貴音と昼ごはんを食べながら上の空になっていた。

貴音に今考えていることを相談したいけど、でも同じ社内だし…

「絶対何かあったでしょ。それも研究のこととは違うわね」

「別に何も…」
何で研究のことじゃないと分かるんだ?

「だって研究のことなら、もっと楽しそうにしてるじゃない。なんでこうなるの?温泉って不思議っ!そこが良い!とかなんとか言ってさ」

うう、心が読まれてる…こわ
「大丈夫、別に大したことじゃないから」

「そ、分かったわ」

貴音が怖い顔をしているが、そのまま昼休みは終わり、これ幸いにと「じゃあ!」と開発室へ戻る。

そりゃあ貴音に相談したい。嫌いだった水川と混浴に行っていること、実はとてもいい奴だと分かったこと、混浴フレンドとして温泉巡りできて休日が充実していること
そして、今の関係のままは少し嫌なこと。

だけど同じ会社の貴音に言えば、水川に悪い。別に貴音が誰かに言いふらすことは無いが、それでも。



◆◆◆◆



貴音は親友の温子の様子が気がかりなまま、それでも仕事をしなければと、午後からまた伝票のチェックをする。

オッケー、これもオッケー
次が営業部水川ね、これはオッケー、ん?この伝票金額間違ってる。ああもう!ただでさえいつも提出してくるの遅いのに。
メールで連絡しても良いが、すぐに修正してほしいから、営業部へ行って水川にその場で直させよう。




「水川君、お疲れ」

「お疲れ様です。あ……」

「あ、じゃないわよ、これ直して。ほら、ここ」

水川は伝票を手に取り、あぁまたやっちゃったと言いながら修正をした。

「すみませんいつも」

「まぁ今回は提出期限を一応は、ギリギリ、守ってたから許すけど。気をつけてね」

「はい、お手数かけました……あっ、良ければこれ貰ってください。先週末行った温泉のお土産です」

水川はすぐ近くに置いていた箱を持ってきて、大きな箱に数個残っている煎餅を1つ貴音に渡した。

「え?別にそこまで気にしなくて良いのに。でもまぁ、せっかくだから貰うわ」

「どうぞ、いつもご面倒かけてますんで」

「これ、B県の温泉のお土産なんだね」

「はい、特産の煎餅買ってきたんです。営業の人たちにも好評で」


貴音はふと思う。この温泉の名前、最近見た。あれ、どこで見たかな。

……あ、温子だ。温子が使ってるハンドクリームだ。
「それ、良い香りだね」「うん、温泉行ったんだけど自分へのお土産で買ったんだ」ってニコニコしながら言ってた。  
  


ん?温子と水川君、同じ温泉地行ってたの?日が違う?偶然?それとも…

感の鋭い貴音は、声を少し抑えて水川にだけ聞こえるように言う。

「水川君、温子と一緒に行ったの?」

「……何で知ってっ!」

やっぱり。
「なるほどね。温子が様子変なの、水川君が関係してるんだ」

「……え?様子変なんですか?何か聞いてますか?」

「私からも色々質問あるから、今日時間とってよ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

冷徹上司の、甘い秘密。

青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。 「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」 「別に誰も気にしませんよ?」 「いや俺が気にする」 ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。 ※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。

フォンダンショコラな恋人

如月 そら
恋愛
「これでは、法廷で争えません」 「先生はどちらの味方なんです?!」 保険会社で仕事をする宝条翠咲の天敵は顧問弁護士の倉橋陽平だ。 「吹いたら折れそう」 「それは悪口ですか?」 ──あなたのそういうところが嫌いなのよ! なのにどんどん距離を詰められて……。 この人何を考えているの? 無表情な弁護士倉橋に惑わされる翠咲は……? ※途中に登場する高槻結衣ちゃんのお話は『あなたの声を聴かせて』をご参照頂けると、嬉しいです。<(_ _)> ※表紙イラストは、らむね様にお願い致しました。 https://skima.jp/profile?id=45820 イメージぴったり!可愛いー!!❀.(*´▽`*)❀. ありがとうございました!! ※イラストの使用・無断転載は禁止です。

処理中です...