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8.お得意様
しおりを挟むあの電池切れの後、何と返事をすれぼ良いのか考えに考え、それこそ今開発している入浴剤のことよりも頭を使ったのでは!?というほど考え
最終的に
「予約完了しました。以下、ご確認下さい。なおキャンセルの際は………」
と、予約サイトからの案内通知を転送した。
いい歳にもなって、気まずいからとこんなコミュニケーションしかできないなんてっ。私のバーカ、バーカ、バーカ。
有湖流温泉に行く景気づけ、ということで、貰い物のお酒をキッチンの奥から出して飲み、夢の中へと落ちていった。
◆◆◆
残りの平日はお互い特に話す機会もなく、待ち合わせ時間などの事務的な連絡だけを取り、土曜日を迎えた。
今日は私が運転することにした。いつも何だかんだと水川にしてもらったから。
水川と合流し、助手席の扉を開ける。
「温子さん、おはようございます」
「おはよう」
「荷物少しあるので、後ろの席に置かせて貰いますよ」
今までは全て日帰りだったが今回は初めて泊まりの旅行。だからいつもより荷物がある。しかも予約した部屋数は1つ。
自分で旅館の手配もしているのだから、何を今更だが、今日は一緒にお酒を飲み混浴し、その後は一緒の部屋で一晩明かす。
これってけっこう……
「温子さん?どうしました?」
「え?あ、ごめん、ぼーっとして」
エンジンを掛け、アクセルを踏む。
◆◆◆
車内は気まづい雰囲気になるかと思っていたが、有湖流温泉の効能について盛り上がった。
「色々とあの辺りの火山とか地層のこと調べたんだけど、なんでアルコールの回りが緩やかになるのか分からないんだよね」
「本当に不思議ですね。まだ湧いて間もないから入浴した人も少ないから、その人たちがたまたまそうだったってことも有り得ますね」
「ねー。成分表見ても一般的な温泉とそう変わりはないし」
「お酒持ち込み可の温泉だから、ここは良いお酒飲んでどう酔うのか調べたいです」
「うん、そうしよう。お互い強い方だし、ビールとか酎ハイじゃあ検証できない。っていうか、風情がない。日本酒じゃないと」
「地酒いきましょう。あぁ楽しみです」
まだ到着までは距離があるが、楽しみだ。
思い出せば、今まで温泉やスーパー銭湯に行くのは基本的に一人きりだった。別にそれでも自分の好きなことだし問題なかったが、こうして一緒に行ける人がいるともっと楽しいのだと気づいた。
「温子さんは酔うとどうなるんですか?吐いちゃいます?」
水川が介抱するの嫌だなぁと笑っている。
「吐かないわよ。私は酔うと眠くなる」
「普通みんなそうでしょう」
「まぁそうかもしれないけど。でも別に酔っても記憶あるし、絡んだりもしないから」
「へぇ。確かに会社の忘年会とかでも誰かの介抱してるイメージ」
「水川くんは、あーーー、そうそう忘年会のときネクタイ頭に巻いてたね」
「……忘れてください」
「そりゃあれだけ先輩たちに飲まされりゃね。可愛がられちゃって」
「温子さんも僕のこと可愛がってください」
「馬鹿ね」
◆◆◆
少し渋滞だったが、予約の時間までに到着した。
長時間の運転で体が固まっている。
まぁ温泉入るからすぐにほぐれるけど!
旅館の駐車場に停めて、受付へ。
「こんにちは、予約した伊角です」
「いらっしゃいませ。予約簿を確認いたしますね…はい、一泊二日でご予約の伊角様と水川様ですね。遠いところ有難うございます」
ご飯の時間や、明日のチェックアウトについて一通り説明を受けた。
「では、こちらがお部屋の鍵です。温泉の方のご説明も致しますね」
「はいお願いします」
「当旅館の温泉は2種類ございます。1つは男女別で、もう1つは最近近くから湧き出た温泉でそちらは混浴となっております。混浴の方は湯浴み着がありますので、お使いください」
「あ、湯浴み着あるんですね」
「お部屋の方にご用意おります。もしサイズが合わなければその際はご連絡下さいませ」
湯浴み着があるのは嬉しいな。
「混浴の方では、お酒もお飲みいただけます。ミネラルウォーターのご用意もしていますので、お水も取りながらお楽しみ下さい」
「そうそれなんですけど、どうしてこちらの温泉は酔いの回りが遅かったり、体調も悪くならないとかって効能があるんでしょうか?色々と考えたんですが、◯◯時代の地層の成分が影響しているんでしょうか!?」
「温子さんっ、恥ずかしいです!ほら、困ってるじゃ無いですか!」
「だって」
「だってじゃないでしょ」
旅館の人は笑っている。
「仲が宜しいんですね、どうぞまずは温泉に浸かっていただき、体感していただければと存じます」
「はい……」
なんだか恥ずかしくなり、部屋へ行こうとすると水川がまだ聞くことがあるようだ。
「あの、貸切の予約ができると聞いたのですが」
ん?特にホームページにそんな案内は無かったけど。
「あら、よくご存知ですね。大っぴらには案内していないのですがお得意様にはご利用いただいておりますよ」
「実はよくここに来る僕の友人に、予約できることを聞いてまして」
「そうだったのですね。はい、ご紹介があったということで予約承ります。本日なら夜11時から1時間ご利用できますが……予約されますか?」
それはラッキーだ。温泉を貸切できるなんて贅沢な!
「「お願いします!」」
「ふふ、仲が本当に宜しいですね」
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