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7.日帰りでは足りない

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先日の温泉旅行からしばらく経った頃、水川から「有湖流温泉に行きませんか?」と提案のメッセージが来た。


ん?何て読むんだ?初めて聞く温泉だ。

夕ご飯を済ませ家でのんびりしていた私は、パソコンでその温泉名を検索する。

「お酒好きにオススメ~有湖流あるこる温泉」というページに飛んだ。

へー、こんな温泉があるんだ。私としたことがノーチェックの温泉があるなんて。
詳しい情報を調べると、数ヶ月前に突然湧き出た温泉らしい。水川ってばよく知ってるわね。

なになに、普通の温泉でお酒を飲むとすぐに酔いが回ったり体が不調になりがちだが、ここの温泉だとお酒を飲んでも酔いの回りが穏やかで、気持ちいい酔い加減を楽しめる。

え、なにこれ凄い温泉!絶対入りたい。


すぐに返信をする。
「面白い温泉だね。次はここにしよう」

するとすぐさま返事がきた
「いま電話してもいいですか?」

もうこのまま日程とか詰めるってことかな。テキストメッセージは送らず、そのまま私から水川に電話をした。




◆◆◆




3コールもせずに水川は電話に出た。

「もしもし」

「もしもし、伊角です」

「あぁ温子さん、ごめんなさい掛けさせちゃって」

「ううん、さっそくだけどさ、有湖流温泉ってすごく面白そう。早く成分調べたい」

「温子さんならそう言うと思ってましたよ、温泉でお酒飲んでも回りが遅いってどういう仕組みなんでしょうかね」

「ねー!うわー早く入ってみたい。ねえ今週末行こうよ!」

「そんなに興奮しないでくださいってば」



水川は笑いながら、でもですねーと続ける。




「でも何?」

「いつも僕たち日帰りにしてるじゃないですか」

「うんそうだね。……あ、そっか、この温泉でお酒飲みたいから日帰りだと危ないか」

「そうなんですよ。どうしますか?」

「ちょっと今検索するね」

有湖流温泉の情報を更に調べる。

「どれどれ……近くに旅館があるじゃない。しかも源泉からこの旅館にもお湯引いてる!この旅館に泊まれば一石二鳥だよ」

「いや僕の心配は泊まるところがあるかじゃなくて……」

「え?あぁ日程の心配?予定詰まってる?」

「予定は大丈夫ですけど、だから、泊まりの旅行に抵抗無いのか聞いてるんです」

「日帰りと別にそんなに変わらないでしょ、宿を取る手間がかかるだけで。むしろ朝の入浴もできるから良いし」

「はぁ…温子さんが問題ないなら、良いですけど」

「心配しなくても予約とかは全部私がするし、何なら先輩として宿代も全部出す!なんだ水川君ってば給料日前だからその心配してたんだ!」

「違います違います!」

「へ?そうなの?うちの会社ってそんなに給料良くないし、てっきり宿代が心配なのかと」

「違います!!お陰様で営業のインセンティブもありますから!!」

「ごめんごめん、そうだったね。ご活躍は存じ上げています」

「はぁー温子さんってば。もっとこうですね、自覚をもってですね」

電話口で水川がぶつぶつ言っているが、これ以上何か言うとお説教されそうな雰囲気。っていうか私が先輩なんだけどさ。



◆◆◆



「いま予約のサイト開いているから、私の方で予約しちゃうよ。今週の土日でいい?」

「はい、大丈夫です。この前温泉行ったばかりなのに、やっぱり温子さん温泉好きなんですね」

「そりゃあねー。ちょっと待ってねー今空いてるか調べてるから」

予約サイトを開き、2部屋空いているか調べる。あぁやっぱり日が近すぎてけっこう部屋が埋まっているなぁ。

「水川くん、ここの旅館もうあと一室しか空きがない」

「そうですか、残念ですね。他の旅館を探すか、日を改めましょう」

「うーーん、他の旅館もあんまり空いてないなぁ」

「しょうがないですね、今週は諦めて来週……あ、すみません僕、来週と再来週だめなんです」

「そうなの?私は来週再来週は行けるんだけど、確か来月は。ちょっと待ってね手帳はどこだ」

「どうですか?」

「あーやっぱり駄目だ。じゃあ行けるのは来月後半ってこと?」

「そうなりますね」

「早く行ってみたいのに………………ねぇ、今週、空いてる一部屋で一緒に泊まれば問題ないんじゃない?2名様いける部屋だし」



沈黙。水川が返事しない。



「もしもし?聞こえてる?」

「…聞こえてますけど。あーそのですね、確認ですが温子さんと僕って、付き合ってないですよね」

「へっっ急に何言ってんのよ!」

「付き合ってない人と泊まりで温泉旅行行ったり、一緒の部屋で一晩過ごすことは、温子さんにとってはいつものことなんですか?」


電話だから水川の表情が見えない。どういう意味で聞いきているのか分からない。

「いつものことなんかじゃ」

「じゃあ僕のことは特別っていうことですか?」

「そ、そりゃあもちろん。こんなことお願いできるの水川くんしかいない……し」

「混浴フレンドとして?それとも」







ぷつっ







急に声が途切れた。

何事かと思うと、手元のスマホの画面が真っ暗に。


あーーーーーっ、電池切れてる!




早く充電しなきゃ!水川は真剣な雰囲気だったのに!
わーーん、もうだいぶこのスマホ使ってるからすぐに充電切れちゃうんだよ

コードを挿してと。早く早く、電源ついて!





やっと電源がついて通知を見ると、いくつもの着信履歴。そして1通のテキストメッセージ。



恐る恐るテキストを開ける。









「では今週末の宿の予約お願いします。







p.s.大事なことは直接言えってことですね」

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