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6.距離
しおりを挟むしまった、なんで言ってしまったんだ。
水川がニヤニヤと「温子さんー?」と顔を覗いてくる。
一度離れた手は、今度はお腹に回され、ぐっと引き寄せられた。
「僕と離れたくないですか?」
「っ…近いってば。くっついてとは言ってない」
「ひどいなぁ。意味変わんないじゃないですか」
「お腹出てるから触らないでってば」
「そうですか?あぁお腹もすべすべしていて気持ちいいです」
ぷにっと下腹をつままれる感覚に、卒倒しそうだ。鍛えられた水川の硬い腹筋を背中で感じている分、締まりなく柔らかさしかない自分のお腹が恥ずかしい。
「僕は好きです。ずっと触っていたいです」
「何言ってっ、趣味が悪いんじゃない!?」
「そういうこと言う人にはこうですよ」
ぷにぷにぷにぷに
脇腹を攻められる。
「ちょっ駄目っ!」
「声が大きいです」
「…っ!」
声が出るのを我慢しながら水川からの攻撃に耐えていると、長風呂になったせいか、恥ずかしさからか顔の赤みが増していた。
それに気づいた水川は手を止める。
「ごめんなさい、僕より長く入っているからそろそろ逆上せちゃいますね。そろそろ上がりましょう。充分温泉楽しめたでしょう?僕も色々楽しめました」
こいつっと思い頭を叩いてやろうと腕を上げたら、ほら、胸が見えるからと逆に窘められた。
ううううう、早く上がろう。水川は良い奴だけど意地悪だと確信した。
◆◆◆
ふーーっ、冷たい水が喉を潤す。
温泉から上がり着替えも済ませ、しばらく涼んでいると顔の赤みも取れた。先程まで水川に中途半端に高められた体の熱もようやく収まった。
ロビーで水川と合流し、土産物を物色する。
「何かお土産買うの?」
「はい。最近営業部の人たちから色々お土産貰うんですけど、僕は旅行行かなかったからお返ししてなくて」
「あぁうちの開発室もそう。この前の連休で遊びに行ったみたいだね」
「温子さんは買います?」
「どうしよう。あーー、水川くんが買うなら止めとく」
「どうしてです?」
「だってさ、2人ともが同じ温泉地のお土産を持って行ったら何か言われそうじゃない」
「……僕は別にそれでも良いですけど」
「えー、恥ずかしいでしょそれ。水川くんはお土産買いなよ。特産の煎餅が良さそうだよ。私は自分用のハンドクリーム買おうかな」
「はぁ」
ここの温泉成分が入ったハンドクリームというのは期待大だ。いくつか香りを試してレジに持っていった。水川も購入を済ませたようで、さて、帰りましょうと駐車場へ向かった。
◆◆◆
あぁそういえば、前回の温泉の帰り道の車内って気まづかったなと思い出す。
あの時は破廉恥な姿を見せてしまい情けなくて楽しく会話できる気持ちでは無かった。
今日は別にそんな恥ずかしいことは……そりゃあお互い何も身に纏っていない状態で……
抱きしめられたり
密着したり
お湯の中で手を繋いだり
う、やっぱり今回も恥ずかしいっ。
水川の顔を見ると余計に思い出しそうで、窓の外を眺める。
「一応確認しておきたいんですが」
水川が運転しながら尋ねてくる。
「なに?」
「会社の人と温泉旅行行くことあるんですか?」
「あるよ」
「えっ!?」
水川が驚いた様子でこっちを見る。
「ちょっと危ない、ちゃんと前向いて」
「ごめんなさい。え?誰と来てるんです?開発室の人ですか?」
「一緒に行くのは貴音。経理部の佳津よ、知ってるでしょ?」
「あぁ佳津さんか。はい、いつも経費精算のときに出すのが遅いって怒られちゃいます。佳津さんは温子さんと同期で仲良いんですよね」
「うん。貴音は知らない人と同じ湯船に入るのは嫌みたいだけど、個室の露天風呂がある旅館とかなら一緒に来てくれるよ」
「へぇそうなんですか。他に行く人います?」
「ううん、会社だと貴音くらい」
「開発室の人と研究のためとかって、例えば室長と混浴に行ったりしてないですか?」
「してないしてない」
何を気にしているのか知らないが、熱心に質問してくる水川が可愛い。室長と混浴温泉だなんて、面白い。
「私の温泉巡りに付き合ってくれるような温泉好きは水川くんぐらいよ」
「なら良いんです」
そう、水川くらいだ。こんなに楽しく温泉のことを話せる相手は。最初に遭遇したスーパー銭湯だって、その後の混浴温泉だって、色々とトラブルはあるものの最終的には楽しかった。
というか情けない姿になるのは私だけで、水川は特にカッコ悪い状況にならない。余裕綽々という感じ。なんか不公平だ。
私が釈然としない気持ちとは反対に
機嫌の良さそうな声になった水川が、次は何処にしましょうか~、温子さんがリストアップしてたあそことか~と提案してくる。
「今まで結局私の希望の温泉に行ってるからさ、次は水川くんの好きなところ行こうよ」
「別に今までも行きたかったところですけど、そうですね、考えておきます」
できれば私ばっかりじゃなくて水川くんも恥ずかしい思いをするような温泉が良いと言うのは、喉のところまできて我慢した。
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