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3.乳白色の下は ❤︎

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当日。



水川の運転でお目当ての温泉に辿り着いた。人気の温泉街ではあるものの、今日は人はまばらだ。おそらく先週の連休は賑わっていたと思うが、その反動で少ないのだろう。


さっそく旅館の受付で説明を受ける。

「当館の温泉は混浴になっております。更衣室は男女別になっていまして、更衣室を出ましたらすぐにお湯に入れる造りになっております。」

念のために聞いてみる

「タオル巻くのはダメですよね?」

「はい、申し訳ございませんがご遠慮頂いています。お湯は白く濁っていますので、お湯に入ればそれほど気にならないかと存じます」

「分かりました」

「更衣室を出てお湯に入るところまでは衝立もありますので、大丈夫ですよ。ただ、くれぐれも衝立の付近でお連れ様を待つようなことはご遠慮下さい」

なるほど衝立もあるのか。良かった良かった。

水川が、そういえばと
「あの貸切の予約枠って空いていますか?」

「申し訳ないですが、埋まってしまいました」

「そうですか」

貸切利用ができなくても入るつもりだったので、料金を払いお互い更衣室に向かった。



◆◆◆



女子更衣室には誰も居なかったが、何人かの着替えが置いてある。服の感じから、私よりも若い人かも。

もし変な男がいた場合のために、水川には私より先に温泉に入って待っているようお願いしているが…。

居酒屋で話したように、水川が女子大生を見てたら…なんか嫌だな。水川は若く、カッコ良い部類の男だ。可愛い女の子たちに囲まれているかも?
勝手に作り上げた妄想の中で、女の子たちと楽しく会話している水川にムッとする。

早く私も入ろう。

15分は待ってから温泉に入る約束だったが、5分もしないうちに更衣室を出た。



タオルを巻いて出たが、温泉に入る前に取る決まりだ。

陽の光のもと、タオルを外す。

何も体を隠すものがない状態。
衝立の向こうに他のお客さんがいると思うとドキドキする。

心臓の高鳴りと、肌寒さを同時に感じる。


早く入ろう。
タオルは衝立の側にある棚に置き、お湯の元へ。

「ふわぁ真っ白だ」

美しい白が周りの木々の緑とコントラストになり、目を奪われる。湯気と温泉独特の香り、そして近くに滝があるのか、響く水音。

あぁ、来て良かったぁ。

かけ湯をして、いざ。



◆◆◆



温泉の中央、衝立の無いところまで向かうと他のお客さんが見えた。
若いカップルのような男女や、年配のご夫婦らしき人、男性客が何人かいる。
そんなに混んでなくて良かった。適度な距離感があって良い。

水川いるかな?やっぱり早く来すぎただろうか。

視力があまり良くない私は目を細めながら水川を探す。

あ、あの人かな。背格好が水川に似た人がいるので、近づいて声をかけてみる。

うう、素っ裸で移動すると変な感じ。お湯から体が出すぎないように気を付けて移動する。


「あの…」

「え?」

男が振り向く。あ、水川じゃない。私よりも年上だろうか、30代半ばくらいの人だった。

「あ、ごめんなさい。人違いでした」

「そうですか」

離れようとすると、男性がすっと近づいてきた。
「なにか?」

「いえ、せっかくだからお話しましょう。こうして会ったのも何かの縁だから」


私としては知らない人と無防備な状態で話したいと思わなかったが、
温泉で見知らぬ者同士が世間話をするのは変なことではない。


「そうですね」

「誰と来たんですか?彼氏?」

「いえいえっ、そんな良いものじゃありませんよ。会社の同僚とです」

「同僚と混浴に来るなんて、またまた。きみ面白いね」

面白い?どういう意味だ?
どこから来たとか、混浴温泉が好きなのかとか話しているが、じろじろと検分されるような視線を感じる。
うううう、早く水川来て!

「滝の音がうるさくて声が聞こえにくいよね。もっとそっちに行ってもいいかな?」

男は肩が触れるほど近づいてきた。





「温子さんっ!」




よく知る声と共に、肩をぐっと引き寄せられた。目の前には水川の肩。

ひーーーー!だ、抱きしめられてる!
裸なのに!直にいろんな所が当たってる!

頭がパニックになる中、水川が男と話す。

「失礼。僕の連れが何かご迷惑かけていましたか?」

いつもより低い声だ。なんだか怖い。

「あ、いや。なんだよ、男いるのかよ」

「何がです?」

「別に、この子に声を掛けられたから話していただけで」

すると、きつく抱きしめられていた体勢から剥がされ、今度は顔をぐっと近づけられ目が合う。

「温子さん、そうなんですか?」

「……うん、まぁ」
息がかかるほどの至近距離が居心地悪く俯く。

水川はいかにも怒っている表情で、色々と言いたげに口をパクパクしている。別に私何も悪いことしてないのに!

男は巻き込まれるのはごめんだとばかりに、じゃあなとお湯から上がっていった。



◆◆◆



他のお客さんからの視線が痛い。水川の胸を押して離れようとしたが、背中に回っている腕の力が余計に強まった。

水川は眉間に皺を寄せている。

「もう少し温子さんは遅く来る約束でしたけど、早かったですね」

「あぁーうん、早くお湯に入りたくって」
まさか、水川が女の子達に囲まれてるのを想像していてもたっても居られず早く来たとは言えなかった。

「ふーーん」

「約束破ってごめん」

なんで後輩に怒られている形になっているんだ私は。

「早く入って、カッコいい人いないか探してたんですか?」

「な、違うわよ」

「でも自分から話しかけて、逆ナンみたいなことしたんでしょ。あぁ僕が邪魔しちゃいましたか?」

「逆ナン!?違うってば。水川くんかなと思って声掛けたら人違いだっただけで」

「本当に?」

「本当だよ」

水川は、はぁぁぁぁと大きく溜め息をつくと腕の力を緩めて私を腕の中から解放した。

「急に抱きしめてすいません。せっかくの良いお湯ですから楽しみましょう」


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