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1.とある土曜日の研究棟
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ここはとある地方大学院の研究棟。5階建ての研究棟に、様々な分野の教授が指揮を執る研究室や実験のための設備が備わっている。
「はぁ、なんで私たちが後片付けしなきゃなんないの~」
「仕方ないじゃないですか、ギックリ腰は辛いですよ」
「だからって、研究室違うのにさぁ。だいたい何度目のギックリ腰なの」
大学院で学び始めて2年目の羽屋 麗奈は、愚痴をこぼしながら実験の片付けを行う。一緒に片付けに駆り出されたのは今年から院に入った大宮 創。この二人は同じ研究室で先輩後輩にあたる。
二人が所属するのは、延田 巴美教授の研究室だ。延田は独創的な研究者で世界的にも名の通った教授なのだが、奇人的な言動のせいで研究室に所属するのは現在、麗奈と大宮の二人だけ。
延田教授は奇人ではあってもデキる女性な感じの美人顔。麗奈は可愛いらしい顔立ちに服の上からでも分かる豊かな胸に目がいってしまう体型が密かに人気だ。そして大宮は中学高校の水泳部で鍛えていた体で長身。この研究室は研究内容は怪しいとよく言われても、見目の良い3人は目立つ存在だ。
お隣の研究室の教授がたまたま今日は一人で実験をしていたところギックリ腰になり、土曜も研究を行っている延田研究室にヘルプの内線が鳴ったのだった。延田教授は「めんどくさい」と言い、院生二人にやっかいごとを押し付けて自分は研究に没頭するのだった。
麗奈と大宮は、ギックリ腰でまともに歩けなくなった教授を家の人のお迎えの車に乗せてあげ、1階にある研究用のクリーンルームの後片付けを行っていると、時刻はもう20時を回っていた。
「麗奈さん、お腹減りません?」
「うん、ちょっと減ってきちゃった」
麗奈はお腹あたりを摩っていると、ちょうどよくグゥーっという音。
「ふは、聞こえましたよ」
「大宮くん笑わないでって」
「延田教授もそろそろお腹減ってる頃でしょうし、どこかお店行こうって言いましょうよ。労働したんだから美味しいものでも奢ってほしいですね」
「いいね!そうしよう。でもまだ片付け残っているから、終わらしちゃう?」
クリーンルームは大方片付いたとはいえ、まだ少し片づけが残っている。
「あぁどうしましょうか。先に教授のところ行って呼んできますよ。その間、片付けお願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。あ、そういえばエレベーター、今日メンテナンスだから上まで行くの大変だもんね」
エレベーターはメンテナンスのためにこの土日は動かない。延田研究室は研究棟最上階の5階。そして今いるクリーンルームは1階。
「はぁ、そうなんですよ、でも仕方ないです。階段でいきますから。どうせ延田教授、内線なんて気づかないし」
延田は研究に没頭すると内線電話をいくら鳴らそうが気づかない。そしてこの研究棟は携帯電波の状況がかなり悪くほぼほぼ通じないのだ。
「分かった。じゃあ私は片付けとくから、美味しいご飯奢ってもらえるよう頼んできて」
「はい、じゃあまた」
分厚いドアを一つ開けて、大宮はクリーンルーム用の簡易防塵服を脱ぐ。
クリーンルームは別名、防塵室ともいい、チリやホコリが実験室に入らないようコントロールされた部屋だ。ドアが二重になっていて、一つ目のドアを開けたところで簡易防塵服を脱ぎ着する。
簡易防塵服は普通の服の上から着れるタイプで、不織布で作られた使い捨てタイプだ。大宮は手慣れた手つきで防塵服を処分し出て行った。
一人きりになった麗奈は、さてとと残りの片付けに取り掛かった。
教授も同席とはいえ、麗奈は大宮と夕食を共にできることが嬉しく、軽い足取りで片付けを行う。
◆◆◆◆
シューーーーーーーーーー
シューーーーーーーーーー
異音がしたのは、大宮が階段で3階まで来た時だった。3階フロアの奥の方で何かが漏れるような音がする。フロアの通路の照明は全部オフになっており暗い。しかし最も奥の部屋は明るいようで、その方向から異音がする。
(ん?このフロアってあんまり使われてないはずだけど、誰だろう)
夜の真っ暗な通路を大宮はゆっくりと歩く。慣れ親しんだ研究棟だが今は妙な空気を感じる。奥の部屋まであともう少し。
バン!!!
「うわっ!!!」
急に部屋のドアが勢いよく開き、人が飛び出してきた。その人は大宮が今から呼びに行こうとしていた………
「延田教授!?」
「大宮!?なぜここに!いや、いいから逃げなさい!!!」
白衣を翻しながら通路を走り抜けていく延田。大宮は事態が呑み込めずにただ突っ立ている。すると開いたドアからのそり、のそりと歩く人影が現れた。
(誰だ、というか延田教授あんなに速く走れるんだ……)
こんな時間に誰が……と思って顔を見ると、その顔は真っ青で目のところが窪んだ異様な人間。いや人間なのか分からないような……。
「っ!」
大宮はぞっと鳥肌が立ち、驚きのあまり倒れてしまい床に腰を打つ。すると部屋の奥から更にぞろり、ぞろりと同じような異様なもの達が現れる。
「グオ、グオオオオオオオ」
「ウォォ、ア”ア”ア”ア”ア”」
人のものではないような呻き声を出している。大宮は逃げないとと思うのに、目の前の出来事に足に力が入らない。
「早く!」
通路を走り抜けていた延田教授が振り返り、大宮に大声で呼びかける。
「なんですかこれ……」
「説明している暇はないっ、あと喋ると吸うからっ」
シューーーーーーーーーー
シューーーーーーーーーー
開いたドアから煙のようなものがもくもくと通路に流れ込む。
「火事!?」
「違う!いいからそれを吸うんじゃない、早く立ちなさい!」
煙は部屋の照明に照らされて紫色に光っている。明らかに普通の火事の煙ではない。大宮はこの煙に見覚えがあった。
紫色の煙はどんどん通路に広がっていき、大宮は自分の手で口と鼻をふさぐ。逃げようとやっとのことで立った時、呻き声をあげる異様な者の1人が大宮の脚を掴んだ。
「っ!やめろっ」
掴んだ手は痩せ細って青白いのに力強い。振り払うために足を右へ左へと強引に動かし、やっとのことで離される。しかしその間にも紫の煙は通路中に充満し、先ほどまで見えていた延田教授の姿が見えなくなっていた。
そして声だけが響き渡る。
「どこかの部屋に入って!吸わないようにして!」
そして階段を駆け上がっていく音がする。
(早く、逃げないとっ)
大宮は煙を吸わないようにしながら、逃げ場所を探す。すぐ横の資料室のドアノブを回すと運よく鍵が開かかっておらず部屋に飛び込んだ。そして内鍵をすぐにかけた。
「はぁ、なんで私たちが後片付けしなきゃなんないの~」
「仕方ないじゃないですか、ギックリ腰は辛いですよ」
「だからって、研究室違うのにさぁ。だいたい何度目のギックリ腰なの」
大学院で学び始めて2年目の羽屋 麗奈は、愚痴をこぼしながら実験の片付けを行う。一緒に片付けに駆り出されたのは今年から院に入った大宮 創。この二人は同じ研究室で先輩後輩にあたる。
二人が所属するのは、延田 巴美教授の研究室だ。延田は独創的な研究者で世界的にも名の通った教授なのだが、奇人的な言動のせいで研究室に所属するのは現在、麗奈と大宮の二人だけ。
延田教授は奇人ではあってもデキる女性な感じの美人顔。麗奈は可愛いらしい顔立ちに服の上からでも分かる豊かな胸に目がいってしまう体型が密かに人気だ。そして大宮は中学高校の水泳部で鍛えていた体で長身。この研究室は研究内容は怪しいとよく言われても、見目の良い3人は目立つ存在だ。
お隣の研究室の教授がたまたま今日は一人で実験をしていたところギックリ腰になり、土曜も研究を行っている延田研究室にヘルプの内線が鳴ったのだった。延田教授は「めんどくさい」と言い、院生二人にやっかいごとを押し付けて自分は研究に没頭するのだった。
麗奈と大宮は、ギックリ腰でまともに歩けなくなった教授を家の人のお迎えの車に乗せてあげ、1階にある研究用のクリーンルームの後片付けを行っていると、時刻はもう20時を回っていた。
「麗奈さん、お腹減りません?」
「うん、ちょっと減ってきちゃった」
麗奈はお腹あたりを摩っていると、ちょうどよくグゥーっという音。
「ふは、聞こえましたよ」
「大宮くん笑わないでって」
「延田教授もそろそろお腹減ってる頃でしょうし、どこかお店行こうって言いましょうよ。労働したんだから美味しいものでも奢ってほしいですね」
「いいね!そうしよう。でもまだ片付け残っているから、終わらしちゃう?」
クリーンルームは大方片付いたとはいえ、まだ少し片づけが残っている。
「あぁどうしましょうか。先に教授のところ行って呼んできますよ。その間、片付けお願いしてもいいですか?」
「うん、いいよ。あ、そういえばエレベーター、今日メンテナンスだから上まで行くの大変だもんね」
エレベーターはメンテナンスのためにこの土日は動かない。延田研究室は研究棟最上階の5階。そして今いるクリーンルームは1階。
「はぁ、そうなんですよ、でも仕方ないです。階段でいきますから。どうせ延田教授、内線なんて気づかないし」
延田は研究に没頭すると内線電話をいくら鳴らそうが気づかない。そしてこの研究棟は携帯電波の状況がかなり悪くほぼほぼ通じないのだ。
「分かった。じゃあ私は片付けとくから、美味しいご飯奢ってもらえるよう頼んできて」
「はい、じゃあまた」
分厚いドアを一つ開けて、大宮はクリーンルーム用の簡易防塵服を脱ぐ。
クリーンルームは別名、防塵室ともいい、チリやホコリが実験室に入らないようコントロールされた部屋だ。ドアが二重になっていて、一つ目のドアを開けたところで簡易防塵服を脱ぎ着する。
簡易防塵服は普通の服の上から着れるタイプで、不織布で作られた使い捨てタイプだ。大宮は手慣れた手つきで防塵服を処分し出て行った。
一人きりになった麗奈は、さてとと残りの片付けに取り掛かった。
教授も同席とはいえ、麗奈は大宮と夕食を共にできることが嬉しく、軽い足取りで片付けを行う。
◆◆◆◆
シューーーーーーーーーー
シューーーーーーーーーー
異音がしたのは、大宮が階段で3階まで来た時だった。3階フロアの奥の方で何かが漏れるような音がする。フロアの通路の照明は全部オフになっており暗い。しかし最も奥の部屋は明るいようで、その方向から異音がする。
(ん?このフロアってあんまり使われてないはずだけど、誰だろう)
夜の真っ暗な通路を大宮はゆっくりと歩く。慣れ親しんだ研究棟だが今は妙な空気を感じる。奥の部屋まであともう少し。
バン!!!
「うわっ!!!」
急に部屋のドアが勢いよく開き、人が飛び出してきた。その人は大宮が今から呼びに行こうとしていた………
「延田教授!?」
「大宮!?なぜここに!いや、いいから逃げなさい!!!」
白衣を翻しながら通路を走り抜けていく延田。大宮は事態が呑み込めずにただ突っ立ている。すると開いたドアからのそり、のそりと歩く人影が現れた。
(誰だ、というか延田教授あんなに速く走れるんだ……)
こんな時間に誰が……と思って顔を見ると、その顔は真っ青で目のところが窪んだ異様な人間。いや人間なのか分からないような……。
「っ!」
大宮はぞっと鳥肌が立ち、驚きのあまり倒れてしまい床に腰を打つ。すると部屋の奥から更にぞろり、ぞろりと同じような異様なもの達が現れる。
「グオ、グオオオオオオオ」
「ウォォ、ア”ア”ア”ア”ア”」
人のものではないような呻き声を出している。大宮は逃げないとと思うのに、目の前の出来事に足に力が入らない。
「早く!」
通路を走り抜けていた延田教授が振り返り、大宮に大声で呼びかける。
「なんですかこれ……」
「説明している暇はないっ、あと喋ると吸うからっ」
シューーーーーーーーーー
シューーーーーーーーーー
開いたドアから煙のようなものがもくもくと通路に流れ込む。
「火事!?」
「違う!いいからそれを吸うんじゃない、早く立ちなさい!」
煙は部屋の照明に照らされて紫色に光っている。明らかに普通の火事の煙ではない。大宮はこの煙に見覚えがあった。
紫色の煙はどんどん通路に広がっていき、大宮は自分の手で口と鼻をふさぐ。逃げようとやっとのことで立った時、呻き声をあげる異様な者の1人が大宮の脚を掴んだ。
「っ!やめろっ」
掴んだ手は痩せ細って青白いのに力強い。振り払うために足を右へ左へと強引に動かし、やっとのことで離される。しかしその間にも紫の煙は通路中に充満し、先ほどまで見えていた延田教授の姿が見えなくなっていた。
そして声だけが響き渡る。
「どこかの部屋に入って!吸わないようにして!」
そして階段を駆け上がっていく音がする。
(早く、逃げないとっ)
大宮は煙を吸わないようにしながら、逃げ場所を探す。すぐ横の資料室のドアノブを回すと運よく鍵が開かかっておらず部屋に飛び込んだ。そして内鍵をすぐにかけた。
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