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1日目:採寸
同意書
しおりを挟む簡単な挨拶を終え、尾嵜は桃香をビル内3階のゲストルームに案内した。
今回の2泊3日の間、桃香には個室が与えられて自由時間を過ごしたりや寝泊まりをする。
ホテルのようなベッドもあり、小綺麗な内装の個室だ。
「荷物を置いてしばらく待っていてください。私は他の準備があるので、助手が迎えにきます」
「はい、わかりました」
雑談も一切なく、簡単な部屋の説明だけして尾嵜は立ち去った。
桃香が荷解きをしていると、10分ほどでドアがノックされた。
「寺方さん、宜しいですか?」
「あ、はい、大丈夫です」
素早くドアを開けると、尾嵜が言っていた助手らしき白衣を着た男が立っていた。
「すみません、尾嵜の助手の阪部と申します」
堅い印象の尾嵜とは違い、阪部の爽やかな笑顔での挨拶に桃香は好印象を持った。
阪部は桃香と同じぐらいの年齢かそれとも下かと思われる。阪部の笑顔に桃香の表情も柔らかくなる。
「寺方です。よろしくお願いします」
「宜しくお願いします!」
◆◆◆◆
ゲストルームを出た桃香と助手の阪部は1階に戻って、研究員だけが入れるエリアに来た。
そのエリアの奥まで来ると、「沐浴室」と書かれたドアを阪部が開く。桃香も後について入室する。
阪部は更に奥のドアを開けて中の様子をちらりと確認した。そこから湯気が漏れてきた。
(湯気……?沐浴って……お風呂のこと?。入浴して身体を洗ってこいってことかな)
「では寺方さん、除毛をしますから脱いでください」
「…………え!?」
桃香は阪部の言葉が理解できず聞き返す。
「事前に説明受けてますよね?あのドアの向こうがバスルームなのでそこで首から下の全身除毛させてもらいます。3Dスキャンの前に必要なので』
阪部の説明にポカンとした桃香。
「えっと、もしかして……説明受けてないですか?」
桃香はオンラインの説明会や面接でも、除毛するなんて聞いていないし、しかも、もしかしなくとも阪部が私の除毛をする!?
「き、聞いてないです、そんなこと!」
「でも説明書読んで同意書返送されたんですよね?同意書頂いたので正式に寺方さんをモニター採用したって尾嵜が言ってたんですけど。もしかして同意しなかったのに採用の連絡がいってしまいましたか?」
桃香はハッとする。郵送された説明書をちゃんと読まずに同意書にサインをして返送してしまっている。
「こちらの不備なら大変申し訳ないです」
シュンと体を縮こませて申し訳無さそうにする阪部に、桃香は口をつぐむ。
(ど、どうしよう……!説明書ちゃんと読めば良かった。でもこんなの断りたい)
「あの、すみませんが辞退したくて。ここまで来たのにごめんなさい」
「そうですか……同意書の件は尾嵜の手違いかもしれません。ちょっと尾嵜に電話します」
(いや同意書は送ってるし私が悪いんだけどっ)
「待って!」
「え?」
「あの、もしも私が辞退しても他にもモニターに採用とか応募してる人いますよね?」
「いえ。一人だけ採用なので寺方さんしかいません。募集も締め切りましたし」
「え!じゃあ私が辞退したら……どうなるんですか……?」
「その……言いにくいんですが。モニターを募集からやり直しとなると……もうプロジェクトのスケジュールが到底間に合わないです」
「そんな……。間に合わないとどうなるんですか?」
「おそらくプロジェクト失敗となって……尾嵜や僕ら助手たちが責任を取らされるかもしれません」
「……っ」
(まさかそんな大事なものだったの?どうしようっ)
「ともかくそれはこちらの都合です。寺方さんの採用は手違いだったと尾嵜に伝えますから」
阪部がスマートフォンを取り出し電話をかけようとする。
「……やりますっ!」
「え?」
「その、大丈夫。同意書は出してるので」
「え、でも……本当に?気を遣ってもらわなくても」
「本当です、すみません。その……緊張して変なこと言っちゃって。同意書にサインしてます」
阪部は安堵したように大きく息を吐く。
「良かった。本当に良かった」
「す、すみません」
「いえ、緊張するのは当たり前です。初対面の男の前で脱いだり除毛させたりなんて」
「……っ。その、除毛って私、自分でもできるんですけど」
「専用のクリームを使うんですが扱いが難しくて。危ないので研究員がします」
「あの、女性の研究員っていらっしゃいませんか?」
「すみませんが説明書に書いた通り男の研究員しかいないんです」
「そうですか……」
(ひ~~、ちゃんと説明書読めば良かった!でも、あぁもうっ、仕方ない……)
「寺方さん、この後のスケジュールもあるので始めてもいいですか?」
「……っ、はい……わかり、ました」
「宜しくお願いします!」
阪部の爽やかな声が更衣室内に響く。
「では準備をするので、全部脱いだら奥のバスルームに来てください」
桃香は過去の自分を恨めしく思いながら、小さな声で返事をした。
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