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3.返事は
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「またのお越しをお待ちしておりまーーーすっ」
居酒屋の元気な店員さんに見送られ、私たちは帰路につく。
「また来ましょう、このお店」
「うん。料理も良かったし、お湯加減も良かった」
そして私たちの初めてキスした場所だし。
「じゃあ私こっちだから」
「くれぐれも気をつけて帰ってください」
送りますと何度も提案する水川に、悪いからと遠慮し、じゃあっと言いかけたとき。
「あーー、温子さん、ちょっといいですか。……本当は渡すのやめておこうと思ったんですけど……」
水川がカバンからゴソゴソと何かを取り出す。
それはとあるリゾートホテルの優待券だった。
「どうしたの、これ」
「このホテルにうちの会社の入浴剤を卸してるんですよ。その関係で宿泊無料の優待券を貰いまして」
あぁそういえばこのホテルの経営してる会社にはご贔屓にしてもらってるもんね。
「優待券良かったねー!しかもここ普通に泊まると高いでしょ」
「ええ、そうなんですよ」
水川はいつも真っ直ぐ見つめてくる目を少し下にやり、小さめの声で続ける。
「よければ……ですけど、一緒にいきませんか?」
「へ?あ、うん、一緒に行っていいなら行きたい」
「ちなみに……お二人様一部屋なんですけど」
「え?」
それってもしかしてお泊りのお誘い。
「温子さん、返事はまた今度でいいですから!じゃあ!気をつけて!」
あとに残された私はそれほど酔ってないのに、真っ赤な顔で帰路に着いた。
◆◆◆◆
「温子、私に何か言うことがあるんじゃないの」
うう、きた。くるぞくるぞとは思っていた貴音の尋問が始まる。
いつもの定食屋での昼食ではなく、貴音が今日はちょっと歩いてカフェまで行こうと誘われて行った。
少し奥まった席に通され、尋問部屋かっ!と思った私の勘は当たった。
「はい、ございます」
「言ってごらん」
ええいっ、ここで変に誤魔化したら余計に貴音の機嫌が悪くなるし。そして私だって同じ社内とは言え、恋人ができて嬉しい気持ちを友達の貴音に言いたかった。
「営業部の水川くんと、付き合い始めました」
「そうなんだってねー。私は水川くんから聞かされたの。佳津さんのおかげで温子さんとお付き合いできることになりました。って。」
「その節はお世話になったようで」
「あーあ、せっかくなら温子から聞きたかったのに。まぁ良いわ。これからはちゃんと教えてね」
「は~い」
あんたは私の保護者かって思うけど、お互い気の置けない大事な友達だ。貴音の気持ちはわかる。
「水川くんは率直すぎるところが玉に傷だけどちゃんとしてる人だから良いけどさ。もし嫌な奴、ほら温子が大学のとき付き合ってた奴みたいなのだったら、私としては止めてほしいわけなの。分かってる?私の親御心」
「うう、はい、ごめんなさい」
貴音とはこの会社に入ってからの付き合いだが、仲良くなって根掘り葉掘り尋問され、私の小学校の初恋がタカシ君だとか、初めてバレンタインのチョコレートを作ったら不味くて渡せなかった中学時代や、そして初めて男の人と付き合った大学生の頃の話まで、全て把握されている。
「……で、水川くんはガッツいてきたりしてんじゃないでしょーね」
「大丈夫……。だって」
「だって?」
「だって…まだ、その……してないから」
うう、人が近くにいないとはいえ、昼間のカフェで言う話じゃないけど!
「そうなの?てっきりもう済ませるものは済ませたのかと。なに、嫌なの?やっぱり………思い出す?」
貴音が言う思い出すというのは、大学で付き合った人とのセックスがあまり良いものでは無かったということを言っているんだろう。別に特段酷いこと、例えば暴力的なことをされたわけではもちろん無いが、全く気持ち良いと思わなくて、痛いだけだった。
世の人はなんでこれを気持ちいいって言っているのか分からなかったし、今も分からない。
痛くて痛くて泣くと、それを見かねた彼の「興が削がれた」という言葉がまだ耳に残っている。仕方なくそれからは手や口で彼に奉仕をしていた。
しかしある日些細なことで喧嘩をしてなんだかんだで別れたのだ。
「ううん、思い出してるわけじゃなくて。そういう雰囲気に今までならなかっただけで」
そう、そしてその機会は私がリゾートホテルに一緒に泊まるかの返事次第だ。
「そうなのね。まぁ……水川くんはしたいって思ってるだろうけど、時間かけてるところは偉いわね」
それは貴音がアドバイスという名の釘を刺したこともあるだろう。ちょっと前まで「なんで水川はキスも夜のことも何も誘ってくれないのだろう」と悩んでいたが、もし、付き合って例えばその日のうちにホテルに誘われていたら嫌だった。
ああ、私はワガママなのか?
「実はさ、今度一緒にリゾートホテルに泊まらないかって誘われてて」
「……そう。なんて返事したの?」
「まだ」
「まだねー。早く返事してあげなよ、どっちにしろ」
「うん、そうだね。行くって返事するつもり」
「そう。まぁもし行って何か変なプレイでも強要されたら言いなさいね。今度から水川くんの経費精算は1秒でも遅れたら一切受け付けないことにするから」
「あはは、そのときはよろしく」
昼食後、自分のデスクに戻る前にトイレに行き、スマートフォンを取り出す。
「誘ってくれてありがとう。一緒にホテルに泊まりましょう。来週末はどう?」と入力し、送信っと。
するとすぐに返事がきた。
あぁ来週末が待ち遠しい
居酒屋の元気な店員さんに見送られ、私たちは帰路につく。
「また来ましょう、このお店」
「うん。料理も良かったし、お湯加減も良かった」
そして私たちの初めてキスした場所だし。
「じゃあ私こっちだから」
「くれぐれも気をつけて帰ってください」
送りますと何度も提案する水川に、悪いからと遠慮し、じゃあっと言いかけたとき。
「あーー、温子さん、ちょっといいですか。……本当は渡すのやめておこうと思ったんですけど……」
水川がカバンからゴソゴソと何かを取り出す。
それはとあるリゾートホテルの優待券だった。
「どうしたの、これ」
「このホテルにうちの会社の入浴剤を卸してるんですよ。その関係で宿泊無料の優待券を貰いまして」
あぁそういえばこのホテルの経営してる会社にはご贔屓にしてもらってるもんね。
「優待券良かったねー!しかもここ普通に泊まると高いでしょ」
「ええ、そうなんですよ」
水川はいつも真っ直ぐ見つめてくる目を少し下にやり、小さめの声で続ける。
「よければ……ですけど、一緒にいきませんか?」
「へ?あ、うん、一緒に行っていいなら行きたい」
「ちなみに……お二人様一部屋なんですけど」
「え?」
それってもしかしてお泊りのお誘い。
「温子さん、返事はまた今度でいいですから!じゃあ!気をつけて!」
あとに残された私はそれほど酔ってないのに、真っ赤な顔で帰路に着いた。
◆◆◆◆
「温子、私に何か言うことがあるんじゃないの」
うう、きた。くるぞくるぞとは思っていた貴音の尋問が始まる。
いつもの定食屋での昼食ではなく、貴音が今日はちょっと歩いてカフェまで行こうと誘われて行った。
少し奥まった席に通され、尋問部屋かっ!と思った私の勘は当たった。
「はい、ございます」
「言ってごらん」
ええいっ、ここで変に誤魔化したら余計に貴音の機嫌が悪くなるし。そして私だって同じ社内とは言え、恋人ができて嬉しい気持ちを友達の貴音に言いたかった。
「営業部の水川くんと、付き合い始めました」
「そうなんだってねー。私は水川くんから聞かされたの。佳津さんのおかげで温子さんとお付き合いできることになりました。って。」
「その節はお世話になったようで」
「あーあ、せっかくなら温子から聞きたかったのに。まぁ良いわ。これからはちゃんと教えてね」
「は~い」
あんたは私の保護者かって思うけど、お互い気の置けない大事な友達だ。貴音の気持ちはわかる。
「水川くんは率直すぎるところが玉に傷だけどちゃんとしてる人だから良いけどさ。もし嫌な奴、ほら温子が大学のとき付き合ってた奴みたいなのだったら、私としては止めてほしいわけなの。分かってる?私の親御心」
「うう、はい、ごめんなさい」
貴音とはこの会社に入ってからの付き合いだが、仲良くなって根掘り葉掘り尋問され、私の小学校の初恋がタカシ君だとか、初めてバレンタインのチョコレートを作ったら不味くて渡せなかった中学時代や、そして初めて男の人と付き合った大学生の頃の話まで、全て把握されている。
「……で、水川くんはガッツいてきたりしてんじゃないでしょーね」
「大丈夫……。だって」
「だって?」
「だって…まだ、その……してないから」
うう、人が近くにいないとはいえ、昼間のカフェで言う話じゃないけど!
「そうなの?てっきりもう済ませるものは済ませたのかと。なに、嫌なの?やっぱり………思い出す?」
貴音が言う思い出すというのは、大学で付き合った人とのセックスがあまり良いものでは無かったということを言っているんだろう。別に特段酷いこと、例えば暴力的なことをされたわけではもちろん無いが、全く気持ち良いと思わなくて、痛いだけだった。
世の人はなんでこれを気持ちいいって言っているのか分からなかったし、今も分からない。
痛くて痛くて泣くと、それを見かねた彼の「興が削がれた」という言葉がまだ耳に残っている。仕方なくそれからは手や口で彼に奉仕をしていた。
しかしある日些細なことで喧嘩をしてなんだかんだで別れたのだ。
「ううん、思い出してるわけじゃなくて。そういう雰囲気に今までならなかっただけで」
そう、そしてその機会は私がリゾートホテルに一緒に泊まるかの返事次第だ。
「そうなのね。まぁ……水川くんはしたいって思ってるだろうけど、時間かけてるところは偉いわね」
それは貴音がアドバイスという名の釘を刺したこともあるだろう。ちょっと前まで「なんで水川はキスも夜のことも何も誘ってくれないのだろう」と悩んでいたが、もし、付き合って例えばその日のうちにホテルに誘われていたら嫌だった。
ああ、私はワガママなのか?
「実はさ、今度一緒にリゾートホテルに泊まらないかって誘われてて」
「……そう。なんて返事したの?」
「まだ」
「まだねー。早く返事してあげなよ、どっちにしろ」
「うん、そうだね。行くって返事するつもり」
「そう。まぁもし行って何か変なプレイでも強要されたら言いなさいね。今度から水川くんの経費精算は1秒でも遅れたら一切受け付けないことにするから」
「あはは、そのときはよろしく」
昼食後、自分のデスクに戻る前にトイレに行き、スマートフォンを取り出す。
「誘ってくれてありがとう。一緒にホテルに泊まりましょう。来週末はどう?」と入力し、送信っと。
するとすぐに返事がきた。
あぁ来週末が待ち遠しい
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