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土曜 洗ってください

ドア

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土曜。


温子さんは昨夜はラブホに泊まり、僕は4日ぶりに自宅で寝た。何かあったときに電話がくるかもしれないと、枕元にスマートフォンを置いておいたが、特に鳴ることもなかった。

テキストメッセージで朝の挨拶を送ると、数分後に返事が来て、何事もなかったようで安心した。
今までは出勤時間のことがあるからのんびりできなかったが、今日はチェックアウト時間ぎりぎりまで朝風呂に浸かるという。さすが温子さんだな。

チェックアウトは11時。まだかなり余裕がある。チェックアウト時間に合わせて迎えにいくつもりだが、まだ少し眠い。

ちょっとだけ横になるか……。

ベッドに体を預けると、瞼が重くなった。



◆◆◆◆



ふと目を開けると、窓から差し込む太陽光が眩しい。そして部屋の温度が高く真昼間のような……

バっ

嫌な予感がして飛び起きる。時計を見ると……13時をすこし過ぎている。


あぁ、やってしまった……



スマートフォンを見ると、着信履歴やメッセージ。すぐさま温子さんに電話を掛ける。


プルルル、プルルル

「はい、あ、水川くん」

「すみません!迎えにいくって言ったのに寝ちゃって……」

「ううん、大丈夫。だいたい迎えなんていらないよ、子供じゃあるまいし」

「でもですね……」

危ないとか説教じみたことを言うが、寝てしまっていた手前あまり言えずに温子さんの「それより!」という言葉に遮られる。

「今日も新しい部屋の番号ゲットしたよ」

「そうなんですね。どうしますか?」

「決まってるじゃん、今日も行く行く。水川君も一緒に行こう?」

「もちろんです。ちゃ~んと待ち合わせして二人で行きましょう」
多少昨日のことのからかいも混ぜて言うと、「もうっ」と可愛らしい声が返ってきた。

夕方に待ち合わせることにし、いったん電話をきった。





夕食を一緒に取り、ラブホ街にあるホテル・ホットスプリングまでの道のりを歩く。平日に比べて通りを歩く人が多い。休日の昼間はデートしてあとは……だよな。もし会社の人がいたらかなり気まずいが、暗いしまぁ大丈夫だろう。

ホテルに着き、薄暗い部屋の中に一際明るい光を放つタッチパネルの前に立つ。


「今日の番号は……と」
温子さんが鞄から出したメモを見ながら、1、9、2、1、1、6と入力していく。

ピコン!という正解音のような音が鳴り響き、鍵がガコンっ!と受取口に落ちる。鍵を取るとこれまでとまた異なる部屋番号の書かれた鍵。さぁ6日目の今日はどんな部屋か。

これまでも楽しませてもらっているから期待いっぱいだ。今日の部屋の前に着き鍵を開ける。



ガチャリ、

ドアを開けるとそこには…………


「「ドア!!!?」」



◆◆◆◆



「ドアが……2つ?なにこれ」

部屋に入るとそこにはまたドアが左右に2つ並んでいた。2つのドア以外は何もない。なんと奇妙な。しかもドアにはどちらも

"お一人で入室してください"

と書かれたプレート。

「本当に注文の多いホテルですね」

「ねぇ~。どうしよっか。違う部屋に入っちゃうのかなぁ」

「ラブホで1人ずつって、そんな……」
それは余りにも酷すぎる部屋の造りだ。

「でも仕方ないね、温泉のためだから!」

「……温子さんちょっと嬉しそうじゃありません?僕と一緒に部屋に入りたくないように聞こえるんですけど」

「何言って!そんなことないよ」

「昨日も僕を待たずに一人で行っちゃうし」

「もう!ごめんってば、私だってすごく後悔してるんだよ……?」

「本当に?」

「そうだよ。だって……昨日あのあと……さびしくて……ゴニョゴニョ」
温子さんの顔がなぜかみるみるうちに紅くなっていく。最後の方が聞き取れなかった。

「え?もう一回言ってください」

「っ!……もうこの話終わり終わり!私は右のドアから入るから!」
ガチャリ、バタン!

「ちょっ、まだ話は……」

勢いよく片方のドアを開けて温子さんが入室してしまいドアはすぐに閉まる。何があるか分からないのにと、ホテルの注文に背くが僕も同じドアを開けようとするが……


ガチャガチャ、ガチャガチャ


ドアは鍵がかかったかのように開かない。そして声を掛けても返事はない。

こうなったら仕方がない。もう片方のドアを開けて足を踏み入れた。

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