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月曜 治癒してください

薬草湯 ❤︎

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ベッドの横に設置されているバスタブからは湯気がもくもくと立ち上っている。

そして無臭だったはずなのに、温泉特有の香りが立ち込める。しかも無色透明だった水は、薄らと緑色になっている。



「なにこれ……!」

ふわふわしていた意識が急に冴えて、がくがく震えていた脚に力が入りバスタブに駆け寄る。

「ちょっ、温子さん!」

手を恐る恐るバスタブに入れると冷たかった水がお湯に変わっている。それも入浴に適した温度。

「何これ!すごい!温かい!」

改めてバスタブの周辺を調べるが、水を温めるような装置が付いているわけでもないし、どこかと繋がるホースだって無い。



色んな疑問が駆け巡る。これは調べなければ!



すくっと立ち上がり鞄に入れてきた簡易な試験セットを取り出す。興奮してきた。

まずは温度を測って、次は成分調べて。あぁぁこんなことなら、ただの水だって思ったけど入室直後にもちゃんとデータ取っておくべきだった!


「水川くん!そこの書くもの貸して!…ありがとう!まずは温度が……………で、この香りは……あぁあそこの温泉に似てる、ということは………次はこれで成分おおまかに出して…………あ、やっぱり!よし次はこっちで試すと…………」




ただの水道水がいつの間にか温泉になっていたことに興奮し、数十分経ったところでようやく水川の項垂れた様子に気づくことになる。




◆◆◆◆




「ごめん、ね?」

放っておいてしまった彼のご機嫌を伺う。すると怖いぐらいにニッコリと笑っている。

「いいえ?いいんですよ、もっと調べてもらって。僕はここから無防備な姿を指咥えて見てますから」


無防備な?


改めて自分の姿を確認する。

あぁ!私ってばこんな短いスカートでしゃがんだり、バスタブの周辺を這いつくばったりしていた。急に恥ずかしくなって裾を押さえる。


「それより温泉入らないとダメなんじゃないですか?」

温泉は入浴してこそでしょうと、ニコニコと諭される。


そう、まだ肝心の入浴をしていない。入浴しないなんてありえない。が。

「どっちが先に入る?」

水川なら、一緒に入ろうと言うかもしれないがまずは1人ずつ入浴することを前提に聞いてみる。

「もちろんお先にどうぞ」

あれ?1人ずつなんだ…。こんな場所だしてっきり、、って私は何を期待しているんだ。
「じゃあ先に入らせてもらうね」

「はい、ゆっくり入ってくださいね」



………
…………
……………


すごく見られている。

バスタブの周りに壁はなく、目隠しになるような衝立やカーテンもない。海外のオシャレで高級なホテルでありそうだが、部屋にバスタブがドンと鎮座しているだけ。

だから水川には、私が入浴中はどこか他に目線をやってもらうとか、そこのベッドで横になって待ってもらうかしてほしいのだがその様子はない。

「そんなに見られると…入れないんだけど」

「気にしないでください。ほら、普通じゃない温泉だから、温子さんに何かあったらすぐお湯から引き揚げないといけないので」

それっぽいことを言っているが、さすがに脱衣から入浴までを着衣のままの水川にじっと見られては堪らない。反論するが、言いくるめられてしまい結局私は入浴の準備をした。これだったら一緒に入浴する方が良かったのではないかと大きく息を吐いた。

水川に背を向けナース服をそろりと脱ぐ。ゆっくり脱げばそれだけ羞恥の時間が長くなるだけと、気合を入れて脱ぎ始め後はショーツだけ。ショーツも脱ごうと手を掛けたところで、あそこ、がショーツに張り付いている感覚。

うう、そうか、さっき診察プレイで盛り上がったときに濡れたせいだ。でも脱がなければ入浴できない。水川の視線が先ほどよりも更に感じるが、ショーツも下げた。






「いいお湯~~」


お湯が零れないようにゆっくりと体を沈めると、体から力が抜けて瞬時にリラックスモードとなった。お湯に身を委ねる。ほぉと天井を仰ぐ。先ほどまで羞恥があり強張っていたが、水川の目線も気にならなくなり腕をバスタブの淵に掛ける。

「普通の温泉っていう感じですか?」

「すごく気持ちいいけど、特に変わったところは無いかな」

読んだ記事にはホテルの部屋によって温泉の効能が違うと書いてあったが、この部屋の温泉はどうなんだろう。

効能はすぐに分かるものでもないか…


しばらく温泉を楽しみ、すべすべになっている足を撫でていると…違和感。

あれ………確かここ、靴擦れでかさぶたになっていたのに……それがきれいさっぱり無い!!

「治ってる!!!」

「え?何がです?」

事情を説明すると、水川は不思議そうに自然治癒しただけではと訝しむ。けれどそんなに早く治るものではない。もしかしてこの温泉の効能なのではないか。

「うーん、そうなのかなぁ。じゃあさ、水川くんは傷とかないの?」

「別に無いんですよね。傷ではないですけどあえて言うなら今朝、寝違えちゃって首がまだ変な感じですけど」

「じゃあ温泉入って治るか試してみようよ」

バスタオルを取ってきてもらいお風呂から上がり次は水川に入浴してもらう。水川の着替え中はちゃんと目線を他にやった。私ってばマナーあるもんね。

「ふぅ、気持ちいい」

水川はしばらく温泉の温もりに身を委ねて、寝違えた首にも湯をかける。私はその間にホテル備付けのナイトシャツに着替える。



着替え終わったころ、水川が「あれ」と声を出した。

「どうしたの?」

あまりまじまじと体は見ないように湯につかる水川の方を見る。

「治ったかもしれません」
首をぐいっと右や左に曲げたり、ぐるりと回しても違和感がないという。

「ほんと!?」

「温泉の効果かは、治りかけでもあったので確かなことは言えませんけど。でも不思議です」

ここまで即効性のある温泉は知らないから、もし私たちの傷や首の痛みが温泉にしばらく浸かっただけで治ったとしたら凄いことだ。都市伝説は本当かもしれない。

不思議だ、即効性がありすぎる、成分を詳細に調べたいけど研究室じゃないとできないなぁと話していると、水川が急に「冷た!」とバスタブからざぱっと上がった。

「どうしたの?」

「急にお湯が冷たくなって!」

「え!?…うわっ本当だ」

手を入れると、先ほどまで温かったのに、今は冷たくなっている。






水川も体を手早く拭きナイトシャツに着替えた。
ただの水に変わってしまったためこれ以上調べることもできず、「もう寝ましょうか。明日も仕事ですから」という水川の言葉に頷く。時計を見るともう日付が変わっている。

病院風の白いベッドに二人で横たわる。温泉に入ったことで心身ともにリラックスしたせいか二人ともすぐに眠りに落ちた。
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