11 / 14
11.沈黙の車内
しおりを挟む「ん、、」
「温子さん?」
「みず、かわくん?」
「気づきましたか?良かったぁ。気分はどうですか?」
目を開けると、私はバスタオルに包まれ、大きな岩に上半身を預けて横たわっていた。
あれ?私温泉に入ってたのに
あれ?温泉に入ってどうした
あれ?変な気分になってどうした
あれ?水川になんて言っ……
—みずかわぁ、いっぱいさわってぇぇ—
—あんっそれがいいっ……!きもちいい……っ—
急に記憶が蘇った。
あぁぁ私は何てことをっ!
以前、溺れかけてとっさに抱きついたことや転んで素っ裸になったのとは訳が違う。
転ぶとかのハプニングではなく、会社の後輩に抱きついて、無理やり触らせて、そして触って……ハラスメントもたいがいである。
なぜ今日急におかしな気分になったのかは分からないが、そんなことは関係ない。
そもそもスーパー銭湯の時だって、A県の温泉のときだって水川に対して「触って欲しいな」とか「筋肉質な体だな」とか考えていた。それが今日溢れでてしまったに違いない。
なんてことをしてしまったのかと自己嫌悪の嵐が襲う。
私はどうしたら良いのか。
なんて謝ったら許してくれるんだろう。
いや、謝ったって許してもらえないよ。
◆◆◆◆
「温子さん?」
「…………気分は大丈夫」
「体は痛いところないですか?」
「ない。……寒いから車に帰ろう」
「え、はい……」
体をバスタオルで拭き、タオルで隠しながら水着を脱いで着替えに腕を通す。
…そういえば、私のビキニのトップスは、
——さわってぇぇ——
とかなんとか言って、自分で紐を解いて露出したはずなのに、少し緩めだが元どおり結ばれていた。
水川が私を介抱してくれたときに結んでくれたんだろう。
そこまでしてくれる水川に合わせる顔が無い。
泣きたいっ
必死に涙が出ないように堪えた。
◆◆◆◆
車への戻り道は、日が完全に沈んでしまって暗い。
水川はスマートフォンで二人の足元を照らして、「そっちは危ないです」などと気遣ってくれる。
その気遣いが今は痛い。
「水川くん、自分の足元だけ照らせば良いよ。私も自分ので照らすから」
「…はい」
車に戻り、帰路につく。
運転はしたかったが、水川に止められた。確かにこんなに頭が混乱しているんだ、事故を起こしかねないので運転を頼んだ。
行きは楽しい会話がなされた車中は、今はエンジン音だけがブゥゥゥンと響く。
カチッカチッカチッ
ナビ通りに運転していたのに、曲がる予定のないところで急にウインカーを出す水川。
「ルート、違うけど…」
「良いんです。ちょっとコンビニ行きましょう」
「う、うん」
幹線道路に面したそのコンビニは、大型のトラックが何台も停まれるような広い駐車場があった。
店の入り口の近くに停めれば良いのに、なぜか離れた場所に停めた。
水川はコンビニに行こうとしない。
重い空気の車中から出たくて
「何か買ってくるけど、欲しいものある?」と尋ねながらドアに手をかけた。
ガコン
鈍い音が響く。
水川が運転席にあるロック装置を押し、全てのドアに鍵がかかった。
びっくりして振り返る。
目が合いじっと睨まれている感覚。
水川の唇が動いた。
「ボディガード役、辞めます」
意思の強いはっきりした声で宣言された。
私は何て返事したら良いのか分からず、うつむく。
図々しくも、嫌だ!と心が叫ぶ。
嫌いな水川と一緒にお風呂なんて最初はありえないと思っていた。なのに二人で計画を立てたり、温泉について語り合っているうちに、これからも一緒にいたいと願うようになった。
水川も私に対して慕ってくれているような態度で、私たちは気が合うんだと無邪気に喜んだ自分が今は恥ずかしい。
水川は淡々と話し続ける。
「僕の正直なところが好きだと前に言ってくれたのを覚えていますか?」
「え、あ、うん。言ったと思う」
「このまま隠すのは嫌なので、正直に言います」
何を言われるのか怖いが、聞くしかない
「うん、お願い。言って」
「僕、今日の温泉の効能のこと知ってました」
「………へ??」
てっきり「貴女のような痴女と、今後一切、会社でも話したくありません」とか言われると思っていたが、え、温泉の効能の話なの?
0
お気に入りに追加
38
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
冷徹上司の、甘い秘密。
青花美来
恋愛
うちの冷徹上司は、何故か私にだけ甘い。
「頼む。……この事は誰にも言わないでくれ」
「別に誰も気にしませんよ?」
「いや俺が気にする」
ひょんなことから、課長の秘密を知ってしまいました。
※同作品の全年齢対象のものを他サイト様にて公開、完結しております。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。
イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。
きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。
そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……?
※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。
※他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる