9 / 14
9.先客 ❤︎
しおりを挟む一時は、気まずいことになったし混浴温泉にまた行けることはないだろうと思ったが、水川はまた連いてきてくれるという。
なんて良い後輩なんだ。
これって水川にとって業務にあたるなら、私は彼の休日出勤を先輩として申請してあげないといけないのか?
そんなことを水川に言ったら
「完全にプライベートなんですから、申請なんてしないで下さい。だいたい申請理由は何て書くんですか。伊角氏が混浴温泉に入りたいというが一人では危険なため同行。ですか?そんなの人事部に知られたくありません」
たしかに、申請なんてできない……
「それより次はどこに行きますか?」
「えっとね、ここか、遠出でも良いならこっちか…それかね……」
◆◆◆◆
相談の結果、今週の土曜日に「むらむら渓谷」にある温泉に行くことにした。
渓谷に自然にできた窪みから湧き出ている温泉があり、知る人ぞ知る名湯である。
男女別はなく、一つしかない温泉は混浴となっている。
成分表は入手していて、それを分析する限り普通の温泉と何ら変わりない。
変わりないはずなのに不思議なクチコミがある。
なんでも「恋人同士で行くことをオススメします。特に女性は良い気持ちになれます」
「女性はこれまでにない悦びを味わえます」とかいう感想が寄せられているのだ。
なぜ女性だけ?良い気持ちって、温泉入れば良い気持ちになるでしょ。これまでにない悦びって本当??言い過ぎじゃないの??
と疑問がいっぱいの温泉だ。これは行くしかないでしょ!
実は水川はこの温泉に行くことをあまり賛成はしなかった。けれど私がどうしても行きたいと言うと、「温子さんが本当に後悔しないなら一緒に行っても良い」という。
意味が分からず、「温泉入って後悔するなんてありえない」と答えたら、大きな溜め息をつきながら了承してくれた。
(クチコミを読めばどんな効能なのかは分かる。…僕がしっかりしていれば何も問題はないか…はぁぁぁ…がんばれ僕)
◆◆◆◆
むらむら渓谷は山奥にあり、温泉に入りに来る人は少ない。
他の入湯者とバッティングすることはできるだけ避けたく、クチコミを読んだ結果、人がいなさそうな夕方に行くことにした。
なのに……
「いま入ってる人いるよね?」
「そうみたいですね。上がるまで待ってましょうか」
「そうだね~」
車を停め、10分ほど山の中を進むと温泉の湯気と人影が見えた。温泉には先客がいた。
木々があるからどんな人かまでは見えないが、小さく聞こえてくる声から、男性と女性の二人のようだ。
会話の内容からカップルかも。
夕日が木々を照らし、良い雰囲気だ。カップルたちはとても楽しんでいることが声の感じから分かる。
「車に戻って待ちましょう」
「うん」
車に引き返そうとすると……
(あんんっっ)
甲高い声が聞こえた。
えっ?と思い温泉の方を見る。
すると甲高い声は引っ切り無しに聞こえてくる。
(あんんっ……
気持ち…いいっ……)
この声って!?
(あんっ……
やだ、まだぁっっ……
あんっ……
き、ちゃう………
あっん………)
鈍い私も気がついた。
水川をちらっと見ると目があい
「あーーーーーお楽しみ中みたいですね」
「う、うん//」
車に戻るつもりが、足が動かなくなってしまった。
まだまだ響いてくる声
女性の喘ぎ声はどんどん音量を増し、聞いてるこっちの気分がおかしくなってくる。
ひーーーー、はやく終わってよーー!
そんな願いが通じたのか、しばらくすると一際高い声が聞こえた後、ピタッと静かになった。
「おわった…かな?」
「そうみたいですね」
なんだか水川の顔が恥ずかしくて見れない。
「あっちの方角から帰っていきましたよ」
「良かった。こっちに来たら気まづかった~」
「温子さん、どうします?入るのやめておきますか?」
「え、なんで?早く私たちも準備して入ろう。日が暮れちゃうよ」
温子はずんずん温泉へと進んでいった。
「あのカップルをみても効能に気づかないのかな?」
水川の声は誰の鼓膜にも届くことなく、森の木々に吸収された。
1
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。


体育座りでスカートを汚してしまったあの日々
yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。
でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。
けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。
同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。
そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる