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3.遭遇 ❤︎
しおりを挟む思いがけず露出度が高くなってしまった水着を着て、ハンガリー温泉のコーナーに続く扉を開けた。
長い通路だ。
うう、寒いよ。
歩くたびに胸が無防備に揺れて、腿をさらけ出している状態は居心地が悪い。腕で胸の揺れを押さえるのも何だか余計に恥ずかしく、上半身を不自然に屈ませて通路を進む。
はやくお湯に入りたい~
通路を曲がると、明るい開けた場所に出た。
わぁっ、すごい!!
本当に湖みたい!!
まさかこんな広いなんて。
多くのお客さんたちが、浮き輪につかまりながら、ぷかぷかと浮かんでいる。
よくニュースで見る夏の人気海水浴場のような芋洗い状態ではなく、適度な距離感を保てている。
はやく入ろう!
男性客もいる中、胸が自由に揺れていることなどもう気にならず早足で向かった。
温泉の深さはまちまちで、座れるところと、足がつかないぐらいの深さのところとある。
浮き輪をつけて、深いところまで行ってぷかーーっと浮かんでみた。
「うーーーん、最高っ」
思わず声に出してしまった。
お湯はぬる目なので、気がすむまで浮かんでいよう。
すっと目を閉じ、お湯の流れに身を任せた。
「……あれ?……もしかして……温子さんですか?」
……ん?
こんな場所で聞こえないはずのアイツの声が聞こえる。嫌だな、幻聴まで聞こえるほど意識してるなんて。
するとはっきりとした声で
「温子さんですよね?僕ですよ、水川です」
恐々目をゆっくり開けると…
視力の悪い私でもはっきり見える距離にまで近づいてきたこの人は、確かにあの水川誠二だった。
頭がパニックで今の状況についていかない。
「え、なんで?いや、温泉に。うわ、え、え、なんで?わ、うわっ」
「ちょっと落ち着いてくださいよ」
「やだ、なんでこんなところに!しかも水川くん、、は、は、は、はだか!?」
「裸じゃありませんよ、下はちゃんと水着履いてますから」
「う、うわ、わたしも水着だ。え、え、なんで!?」
「ほらもう落ち着いてください!」
パニック状態で、バタバタしているうちに浮き輪に掛けていた両腕が抜け、体が沈んだ。
ザブンッッッ
知らない間に私は足の付かない深さのところまで来てしまっていて…
「危ないっ!」
溺れかける私に水川は腕を伸ばした。
とっさにその腕にしがみ付いた。
そして、ぐいっっ
と力任せに水中から体を引き上げられた。
私はバランスを崩して慌てて目の前の’モノ’に抱きついた。
はぁはぁはぁ……
はぁはぁ………
少しずつ息が整ってきた……
少しくぐもった声で
「温子さん、名残惜しいんですが、そろそろ離してもらえます?」
ん?
私より背の高い水川の声が、なぜ下から、そしてこんな近くから聞こえるのか不思議に思いながら声のする方を見た。
すると、なんと、水川の頭を抱えるように私は抱きついていて、胸を水川の顔に押し付けていた。
ぎゃーーーー
声にならない悲鳴をあげた。
◆◆◆◆
「少しは落ち着きましたか?」
水川は私を浮き輪の中に体を入れさせて、両腕をしっかりと浮き輪に掛けさせた。
私は足が底につかないのに、水川はしっかりと両足で立つ余裕がある。
「はい、大変有難うございました。お騒がせしてしまい申し訳ありません。」
「そんな他人行儀な言い方しないでくださいよ、温子さん」
「だから温子さんじゃなくて、ちゃんと伊角っていう苗字で呼びなさいよ」
「そうそう、そのいつもの調子ならもう大丈夫ですね。良かった、溺れるかと思っちゃいました」
「……それは、ごめん。だって驚いたから」
「僕の方こそ驚きました。あの人流されてるけど大丈夫かなぁと思って見たら、知ってる顔で。まさか温子さんだなんて。
まぁ急に声かけて驚かせてしまったのは謝ります」
「…………(ぅぅ間抜けにも溺れかけて、しかも抱きついて、む、む、胸を押し当ててしまうなんて。もういやだもういやだ)」
「まさか温子さんにこんな形で会うとは思ってなかったです」
「………私も。……水川くんはなんで来てるの?」
「新オープンだからどんなのかと気になって。温子さんもですか?」
「うん、まあね」
「お互い仕事も風呂関係で、アフターファイブも風呂なんて、ワーカホリックですね。
……でも今日来てラッキーでした、温子さんの水着姿が見れるなんて」
「な、な、何言ってんの!」
そう、少し頭から飛んでいたが、今の私は水着--それも露出度の高い--しか着ていない。
普段私はシャツに、パンツスーツ、実験用の白衣というお堅い服装だから、こんな肌の出ている姿を見られるなんて。ぷにぷにしている二の腕だって見られたくないのに、二の腕どころの話じゃないほど露出している。
そして自分の胸に目を向けると、浮き輪に両腕をかけているせいで、キャミソールと胸にほんの少し隙間が空いていることに気づいた。
やばい、角度によったら水川や他のお客さんに中を見られちゃいそう。いまは、、気づかれてないよね??だいじょうぶ、、だよね??
これ以上の醜態を晒す前に、とにかく早く足の付くところに行って両腕を自由にしなきゃ。
慌てて「あ、足の付くところまで早く引っ張ってもらえる?」と頼んだ。
水川は優しい声で
「もちろんですよ。そのまま浮いていて下さい」といい、
何が楽しいのか流行曲の鼻唄を歌いながら浮き輪ごと私を引っ張っていった。
彼の鼻唄が私にはドナドナの曲に聞こえながら、連れていかれた。
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