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第五章 終焉の光
第137話 激突、ユーリ・クロイス VS ファルラーダ・イル・クリスフォラス
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ついに始まったユーリ・クロイスとファルラーダ・イル・クリスフォラスの激闘。
千術姫の圧倒的力の差を前に為す術なくこてんぱんにされたユーリだったが、言葉の核を的確に突くことで何とかファルラーダの手から逃れることに成功する。
「…………」
激しく咳き込むユーリへファルラーダは追撃することなく、むしろ驚愕した面持ちで見据えている。
「答えろ、ユーリ・クロイス。貴様は何だって聞いてんだよ!
今、確かに貴様が一瞬御前と重なって見えた。まさか貴様が御前と同等の存在だっていうのかよ!?」
今しがた彼女の口から放たれた御前が誰を指しているかは何となく察しがつく。ナイル・アーネストが言っていたフリーディアを裏から支配している人物のことだろう。
「御前ってあれか? デウス・イクス・マギアとかいう、俺たちの御先祖様のことか?」
「何故!?」
グランドクロスだけが知っている最重要機密事項を一端の名家が知っている事実に動揺を露わにする。
「ナイル・アーネストって知ってるか? そいつが勝手にベラベラ喋ってくれたんだよ。あんたはルーメンについてどこまで知ってるんだ?」
「ナイルだと!? 野郎、ミアリーゼ様だけに留まらず好き勝手やってやがんのかッ」
ユーリは屈辱に顔を歪ませるファルラーダを無視して続ける。
「あいつは普通のフリーディアじゃない。奴は俺にデウス・イクス・マギアを倒せと言ってきた。首都エヴェスティシアに全ての答えが眠っているとな」
人類始まりの地とされる首都エヴェスティシア。恐らくそこに隠された秘密があるのだろう。ファルラーダと邂逅したユーリは限りなく真実へと近付いていた。
「そうか――」
ファルラーダは、明確な怒気を孕ませつつ納得したように頷き。
「冥土の土産に教えてやる。我々人類を統べる御方こそがデウス・イクス・マギアと呼ばれる存在。
我らの祖にして、神。御前はフリーディアをこの世界の絶対種として君臨させようとしておられるのさ」
――デウス・イクス・マギア。
彼の存在こそが、ユーリ・クロイスの倒すべき敵の正体。神、その言葉を聞いた瞬間良い知れぬ悪寒が漂った。
「神――異種族たちが言っていた全知全能不老不死とは別の……」
「あんな得体の知れない似非神と一緒にすんじゃねぇよ。とはいえ御前も元は一つの命を宿した生命体だった。あの御方の御意思に敬意を示すため、神と讃えているにすぎん」
「デウス・イクス・マギアは人類の祖。善悪全てを統べるってことは、みんなを等しく愛するということ」
「そうだ、つまりテロリスト含めた下衆も等しく丁重に子供たちとして定義してるのさ。当然警戒はしているが、私からすれば脇が甘すぎる。
だからミアリーゼ様と共に世直ししようとしてんだよ」
「デウス・イクス・マギアは本当の意味で人類を支配しているわけじゃない。今の世の中にしているのは、人間そのもののエゴってわけか」」
聞くにファルラーダは人類の祖を敬ってはいるが、心酔しているわけではない。その意志には隔たりがあると感じた。きっとミアリーゼ・レーベンフォルンと出会ったことで何か変わる切っ掛けがあったのかもしれない。
ユーリもミアリーゼに影響された口だからファルラーダも同類だと悟ったのだ。
「そういうことだ。私も十年近く迷妄していたが、ミアリーゼ様の御言葉を授かり私は私の意志を貫いてもいいんだと理解した。
知らねぇ誰かが敷いたレールの上を歩かせない。きちんと自分たちで前を向いて正道を創り上げる――それこそが、私たちの望む世界だ!!」
誇り高き想いを懐き語るファルラーダだが、ユーリは何故か賛同できなかった。
ファルラーダがどういう経緯でミアリーゼと共に歩む道を選んだのかは分からないが、一つだけ思ったのは考え方が極端すぎるということ。
邪魔になる者は誰であろうと例外なく殺す。例え泥水に晒されようとも、一切の穢れを孕まない高潔な精神に畏敬の念を感じざるを得ないが、そんな世界は何というか……息が詰まる。
「俺は、光で無理矢理荒療治した世界は絶対に嫌だ。それって、立てない奴は置いていくってことだろ? 強き意志を持つもののための世界……。
それじゃ優生思想と変わらない、人はそんな簡単に割り切れるもんじゃない!」
「言ってくれるじゃねぇか」
ファルラーダは滾る心が抑えられないのか、獰猛な笑みを浮かべ応える。
ダリル・アーキマンのときと同じだ。いや、正確に言うならばナギもクレナ・フォーウッドも――ユーリと相対した者は全員、心が乱され燃え上がらせていった。
それ以外の交流のある者、アリカ・リーズシュタットもオリヴァー・カイエスもダニエル・ゴーンもサラもシオンもミグレットもエレミヤも――そしてミアリーゼ・レーベンフォルンも同様に。
「貴様が異種族共に慕われている理由が分かった。関わる全ての者の心を染め上げる意志の力――それが強さの秘訣ってわけか?」
「あんたは違うのかよ?」
「私にとっての強さとは、すなわち品格だ。ただ力が強ぇだけじゃ意味がねぇ。それを魅せる品位と格式を示さねば、真に強者とは呼べん。
ミアリーゼ様のように強さと美しさを兼ね備える御方にこそ、人は惹かれていくのさ」
これはもう価値観の違いとしか言う他ない。確かにファルラーダの言う通り、ユーリにはミアリーゼのような他を圧倒するほどの品格はない。従者としての付き従うというよりは、共に歩んでいきたいと思わせるそんなタイプだ。
対してファルラーダが求めるのはミアリーゼのような揺るがぬ意志を示す焦がれるような圧倒的な光に導かれること。その光の恩恵を受けて、立ち上がり前を向こうとする者たちの道を切り開く。
「ミアリーゼ様と話をさせろ。あの人は今何処にいる?」
「ミアリーゼ様は指揮官として戦場へ立っておられる。愚物にかまけている時間はねぇんだよ。どの道私を納得させられないんじゃ、あの御方には届かねぇよ。
それともあれか? さっきの攻防で力の差を見せつけられて搦め手で攻めようって腹積もりか? だとしたら片腹痛い! グランドクロス嘗めんじゃねぇぞ!!」
ファルラーダの気が変わり、ミアリーゼを説得できれば、戦わずに戦争を収められる。そんな甘い希望は早々に撃ち破られ、ユーリはどう対処すべきか思考に移る。
ハッキリ言って、ユーリとファルラーダの実力は天地程の開きがある。先の広範囲氷魔法もそうだが、戦場を駆け抜けた際に見た大きな破壊痕は全て彼女の仕業だろう。
加えてフリーディア陣営にチラホラと見受けられた謎の魔術武装と思しき人型の機械もファルラーダの手によるもの。強さの次元が違う。いくら変幻機装でも単騎で種族大連合を突破する力はない。
あまりにも分の悪すぎる勝負、結果は見えているとはいえ千術姫に容赦情けなど期待するのも野暮で。
「今度こそぶち殺してやる! 魔術武装・展開――千術魔閃斬々剣!!」
再び千術姫の手により展開される魔術武装は全長十五メートルはゆうに超える超大型魔術大剣。
「な!?」
その天高々と聳える超大型大剣の柄をあろうことか強引に掴み上げ、ファルラーダは片手で軽々と持ち上げる。
「ぶっ潰れろ!」
ゴゴゴッ、と天を覆う千術魔閃斬々剣の威圧感に圧倒され目を剥くユーリ目掛けて、ファルラーダは斬り潰さんと勢いよく振り下ろした。
威力は言語を絶するほどで、ドゴォォォォオオオオン!! という爆音と共に大地は捲り上がり、衝撃波で辺り一帯を吹き飛ばす。
咄嗟に飛び退いたユーリだったが、千術魔閃斬々剣の前では紙屑同然。容赦なく吹き飛ばされ、岩石や砂塵に塗れながら宙に浮き上がる。
「こんなのッ、対抗しようがないだろうが!!」
たった一撃で地形すら変えてしまう程の破壊力を持つ相手に、人の身でどう対抗すればいいのか?
ナギ相手なら目眩ましで隙を作ることができた。クレナ相手なら魔術武装を再現して何とか対抗できた。
しかしファルラーダにはそのどれも通用しない。視界を奪われても、周囲一帯を吹き飛ばして近付かせなければいい。それに加え、本来一人に一つといわれる魔術武装を次々に展開してくるため、その都度対応に追われる形となってしまう。
「どうしたユーリ・クロイス、打つ手なしか? これで終わりだと思うなよ!
魔術武装・展開――千術魔銃」
「!?」
ファルラーダの周囲に展開される千の魔法陣から一斉に魔弾が火を吹いた。
「換装・重盾鉄鋼!!」
ユーリは即座に最高防御力を誇るダニエルの魔術武装を展開し防いでいく。
「ダニエルと同じ魔術武装……ならばッ」
ファルラーダは空いた手で千術魔閃斬々剣を掴み上げ、今度は横薙ぎに振るう。巨大な刃が大気を切り裂き、空間ごと切り裂いて進む斬撃は、周囲の全てを吹き飛ばしていく。
今、ユーリは千術魔銃による魔弾を防いでいる。そのため、迫りくる超大型大剣に対処するには……
「換装・二重展開!!」
都合二つ目の重盾鉄鋼の展開。一か八かの賭けだが、同種の魔術武装を二つ以上生み出せると分かったのは大きい。
「あがぁぁあああッッ」
しかし無制限に生み出せるわけではない。無茶を通り越して無謀ともいえる魔力行使に身体が悲鳴を上げている。
人工的に再現した神の因子がユーリの遺伝子に刻まれているおかげで、崩壊は留められたが奔る激痛までは防げない。
それもいつ身体が崩壊するかも分からない中での大博打。本来なら使うことすら躊躇われる。唯一の救いはファルラーダの魔力は既に天井に達しており、制限解除を警戒する必要がないこと。
恐ろしきは彼女が生まれ持った特異体質――魔素過変性病態症候群――による無限に等しい魔核から生み出される魔力と力。
最早何でもありの戦術もへったくれもない戦い方にどう対抗すればよいのか?
「ぐぅッ、くっそぉぉぉおおぉぉ!」
ズガガガガッッ、と大地を大きく抉りながらファルラーダが薙ぎ払い、千術魔閃斬々剣の勢いに巻き込まれていくユーリ。全長十五メートルの超大型大剣相手に力で圧し返すなど愚の骨頂。対抗するには同種の力をぶつける他ない。
集中しろ、ユーリはこの世の万物全てを再現することができる。神として生み出された己にできぬことはない。
「換装・千術魔閃斬々剣!!」
「何だと!?」
ユーリの考え抜いた策は単純明快。こっちも戦術を無視して、片っ端からファルラーダの展開する魔術武装を再現して迎撃すればいい。
「常識破り、何でもありはこっちの十八番なんだよ!!」
ユーリは上空に再現した千術魔閃斬々剣を遠隔操作にて思いっきり振り下ろし、対象を叩きつける。
全長十五メートルを超える二つの超大型大剣同士がぶつかり合い、轟音を響かせる。衝撃で地殻変動を引き起こし、大地が無残に捲れ上がる。
千術魔閃斬々剣は、従来の魔術武装の性能を千倍に引き上げた結果、有り得ざる巨大な姿を現すようになった。
このときユーリが失った魔力も当然従来の完全再現の千倍に匹敵し、加速度的に魔力が消耗する。ダリル・アーキマンとの戦闘に加えて、今の一撃で全ての魔力が枯渇してしまう。
「まだだ!!」
ファルラーダと違い、ユーリの魔力は有限。しかしそれを覆す手段を持っている。
「変幻機装――制限解除!!」
魔力を失ったフリーディアに残された最後の手段――諸刃の剣を躊躇なく発動したのは、命を捨てねばファルラーダには勝てないと思ったから。
「制限解除まで発動するとはな。クソガキが、そこまでして戦争を止めたいってのか」
六歳の頃に一度発動したため、扱い方は心得ている。何とか身体が無事なのは遺伝子操作を施された影響だろう。このときユーリの中に流れる神の因子は手に負えない程の覚醒を繰り返していた。
「うおぉぉぉぉぉぉッーーー!!!」
「嘗めんじゃねぇぞ、愚物が!!」
バラバラに砕け散り、地へ降り注ぐ両者の千術魔閃斬々剣の破片を背に駆け出すユーリとファルラーダは一歩も譲らず激闘を繰り広げる。
二人の戦闘の余波は一部の種族連合兵士にも伝わり、本来なら有り得ぬフリーディア同士の激闘に何事だと目を向けていた。
千術姫の圧倒的力の差を前に為す術なくこてんぱんにされたユーリだったが、言葉の核を的確に突くことで何とかファルラーダの手から逃れることに成功する。
「…………」
激しく咳き込むユーリへファルラーダは追撃することなく、むしろ驚愕した面持ちで見据えている。
「答えろ、ユーリ・クロイス。貴様は何だって聞いてんだよ!
今、確かに貴様が一瞬御前と重なって見えた。まさか貴様が御前と同等の存在だっていうのかよ!?」
今しがた彼女の口から放たれた御前が誰を指しているかは何となく察しがつく。ナイル・アーネストが言っていたフリーディアを裏から支配している人物のことだろう。
「御前ってあれか? デウス・イクス・マギアとかいう、俺たちの御先祖様のことか?」
「何故!?」
グランドクロスだけが知っている最重要機密事項を一端の名家が知っている事実に動揺を露わにする。
「ナイル・アーネストって知ってるか? そいつが勝手にベラベラ喋ってくれたんだよ。あんたはルーメンについてどこまで知ってるんだ?」
「ナイルだと!? 野郎、ミアリーゼ様だけに留まらず好き勝手やってやがんのかッ」
ユーリは屈辱に顔を歪ませるファルラーダを無視して続ける。
「あいつは普通のフリーディアじゃない。奴は俺にデウス・イクス・マギアを倒せと言ってきた。首都エヴェスティシアに全ての答えが眠っているとな」
人類始まりの地とされる首都エヴェスティシア。恐らくそこに隠された秘密があるのだろう。ファルラーダと邂逅したユーリは限りなく真実へと近付いていた。
「そうか――」
ファルラーダは、明確な怒気を孕ませつつ納得したように頷き。
「冥土の土産に教えてやる。我々人類を統べる御方こそがデウス・イクス・マギアと呼ばれる存在。
我らの祖にして、神。御前はフリーディアをこの世界の絶対種として君臨させようとしておられるのさ」
――デウス・イクス・マギア。
彼の存在こそが、ユーリ・クロイスの倒すべき敵の正体。神、その言葉を聞いた瞬間良い知れぬ悪寒が漂った。
「神――異種族たちが言っていた全知全能不老不死とは別の……」
「あんな得体の知れない似非神と一緒にすんじゃねぇよ。とはいえ御前も元は一つの命を宿した生命体だった。あの御方の御意思に敬意を示すため、神と讃えているにすぎん」
「デウス・イクス・マギアは人類の祖。善悪全てを統べるってことは、みんなを等しく愛するということ」
「そうだ、つまりテロリスト含めた下衆も等しく丁重に子供たちとして定義してるのさ。当然警戒はしているが、私からすれば脇が甘すぎる。
だからミアリーゼ様と共に世直ししようとしてんだよ」
「デウス・イクス・マギアは本当の意味で人類を支配しているわけじゃない。今の世の中にしているのは、人間そのもののエゴってわけか」」
聞くにファルラーダは人類の祖を敬ってはいるが、心酔しているわけではない。その意志には隔たりがあると感じた。きっとミアリーゼ・レーベンフォルンと出会ったことで何か変わる切っ掛けがあったのかもしれない。
ユーリもミアリーゼに影響された口だからファルラーダも同類だと悟ったのだ。
「そういうことだ。私も十年近く迷妄していたが、ミアリーゼ様の御言葉を授かり私は私の意志を貫いてもいいんだと理解した。
知らねぇ誰かが敷いたレールの上を歩かせない。きちんと自分たちで前を向いて正道を創り上げる――それこそが、私たちの望む世界だ!!」
誇り高き想いを懐き語るファルラーダだが、ユーリは何故か賛同できなかった。
ファルラーダがどういう経緯でミアリーゼと共に歩む道を選んだのかは分からないが、一つだけ思ったのは考え方が極端すぎるということ。
邪魔になる者は誰であろうと例外なく殺す。例え泥水に晒されようとも、一切の穢れを孕まない高潔な精神に畏敬の念を感じざるを得ないが、そんな世界は何というか……息が詰まる。
「俺は、光で無理矢理荒療治した世界は絶対に嫌だ。それって、立てない奴は置いていくってことだろ? 強き意志を持つもののための世界……。
それじゃ優生思想と変わらない、人はそんな簡単に割り切れるもんじゃない!」
「言ってくれるじゃねぇか」
ファルラーダは滾る心が抑えられないのか、獰猛な笑みを浮かべ応える。
ダリル・アーキマンのときと同じだ。いや、正確に言うならばナギもクレナ・フォーウッドも――ユーリと相対した者は全員、心が乱され燃え上がらせていった。
それ以外の交流のある者、アリカ・リーズシュタットもオリヴァー・カイエスもダニエル・ゴーンもサラもシオンもミグレットもエレミヤも――そしてミアリーゼ・レーベンフォルンも同様に。
「貴様が異種族共に慕われている理由が分かった。関わる全ての者の心を染め上げる意志の力――それが強さの秘訣ってわけか?」
「あんたは違うのかよ?」
「私にとっての強さとは、すなわち品格だ。ただ力が強ぇだけじゃ意味がねぇ。それを魅せる品位と格式を示さねば、真に強者とは呼べん。
ミアリーゼ様のように強さと美しさを兼ね備える御方にこそ、人は惹かれていくのさ」
これはもう価値観の違いとしか言う他ない。確かにファルラーダの言う通り、ユーリにはミアリーゼのような他を圧倒するほどの品格はない。従者としての付き従うというよりは、共に歩んでいきたいと思わせるそんなタイプだ。
対してファルラーダが求めるのはミアリーゼのような揺るがぬ意志を示す焦がれるような圧倒的な光に導かれること。その光の恩恵を受けて、立ち上がり前を向こうとする者たちの道を切り開く。
「ミアリーゼ様と話をさせろ。あの人は今何処にいる?」
「ミアリーゼ様は指揮官として戦場へ立っておられる。愚物にかまけている時間はねぇんだよ。どの道私を納得させられないんじゃ、あの御方には届かねぇよ。
それともあれか? さっきの攻防で力の差を見せつけられて搦め手で攻めようって腹積もりか? だとしたら片腹痛い! グランドクロス嘗めんじゃねぇぞ!!」
ファルラーダの気が変わり、ミアリーゼを説得できれば、戦わずに戦争を収められる。そんな甘い希望は早々に撃ち破られ、ユーリはどう対処すべきか思考に移る。
ハッキリ言って、ユーリとファルラーダの実力は天地程の開きがある。先の広範囲氷魔法もそうだが、戦場を駆け抜けた際に見た大きな破壊痕は全て彼女の仕業だろう。
加えてフリーディア陣営にチラホラと見受けられた謎の魔術武装と思しき人型の機械もファルラーダの手によるもの。強さの次元が違う。いくら変幻機装でも単騎で種族大連合を突破する力はない。
あまりにも分の悪すぎる勝負、結果は見えているとはいえ千術姫に容赦情けなど期待するのも野暮で。
「今度こそぶち殺してやる! 魔術武装・展開――千術魔閃斬々剣!!」
再び千術姫の手により展開される魔術武装は全長十五メートルはゆうに超える超大型魔術大剣。
「な!?」
その天高々と聳える超大型大剣の柄をあろうことか強引に掴み上げ、ファルラーダは片手で軽々と持ち上げる。
「ぶっ潰れろ!」
ゴゴゴッ、と天を覆う千術魔閃斬々剣の威圧感に圧倒され目を剥くユーリ目掛けて、ファルラーダは斬り潰さんと勢いよく振り下ろした。
威力は言語を絶するほどで、ドゴォォォォオオオオン!! という爆音と共に大地は捲り上がり、衝撃波で辺り一帯を吹き飛ばす。
咄嗟に飛び退いたユーリだったが、千術魔閃斬々剣の前では紙屑同然。容赦なく吹き飛ばされ、岩石や砂塵に塗れながら宙に浮き上がる。
「こんなのッ、対抗しようがないだろうが!!」
たった一撃で地形すら変えてしまう程の破壊力を持つ相手に、人の身でどう対抗すればいいのか?
ナギ相手なら目眩ましで隙を作ることができた。クレナ相手なら魔術武装を再現して何とか対抗できた。
しかしファルラーダにはそのどれも通用しない。視界を奪われても、周囲一帯を吹き飛ばして近付かせなければいい。それに加え、本来一人に一つといわれる魔術武装を次々に展開してくるため、その都度対応に追われる形となってしまう。
「どうしたユーリ・クロイス、打つ手なしか? これで終わりだと思うなよ!
魔術武装・展開――千術魔銃」
「!?」
ファルラーダの周囲に展開される千の魔法陣から一斉に魔弾が火を吹いた。
「換装・重盾鉄鋼!!」
ユーリは即座に最高防御力を誇るダニエルの魔術武装を展開し防いでいく。
「ダニエルと同じ魔術武装……ならばッ」
ファルラーダは空いた手で千術魔閃斬々剣を掴み上げ、今度は横薙ぎに振るう。巨大な刃が大気を切り裂き、空間ごと切り裂いて進む斬撃は、周囲の全てを吹き飛ばしていく。
今、ユーリは千術魔銃による魔弾を防いでいる。そのため、迫りくる超大型大剣に対処するには……
「換装・二重展開!!」
都合二つ目の重盾鉄鋼の展開。一か八かの賭けだが、同種の魔術武装を二つ以上生み出せると分かったのは大きい。
「あがぁぁあああッッ」
しかし無制限に生み出せるわけではない。無茶を通り越して無謀ともいえる魔力行使に身体が悲鳴を上げている。
人工的に再現した神の因子がユーリの遺伝子に刻まれているおかげで、崩壊は留められたが奔る激痛までは防げない。
それもいつ身体が崩壊するかも分からない中での大博打。本来なら使うことすら躊躇われる。唯一の救いはファルラーダの魔力は既に天井に達しており、制限解除を警戒する必要がないこと。
恐ろしきは彼女が生まれ持った特異体質――魔素過変性病態症候群――による無限に等しい魔核から生み出される魔力と力。
最早何でもありの戦術もへったくれもない戦い方にどう対抗すればよいのか?
「ぐぅッ、くっそぉぉぉおおぉぉ!」
ズガガガガッッ、と大地を大きく抉りながらファルラーダが薙ぎ払い、千術魔閃斬々剣の勢いに巻き込まれていくユーリ。全長十五メートルの超大型大剣相手に力で圧し返すなど愚の骨頂。対抗するには同種の力をぶつける他ない。
集中しろ、ユーリはこの世の万物全てを再現することができる。神として生み出された己にできぬことはない。
「換装・千術魔閃斬々剣!!」
「何だと!?」
ユーリの考え抜いた策は単純明快。こっちも戦術を無視して、片っ端からファルラーダの展開する魔術武装を再現して迎撃すればいい。
「常識破り、何でもありはこっちの十八番なんだよ!!」
ユーリは上空に再現した千術魔閃斬々剣を遠隔操作にて思いっきり振り下ろし、対象を叩きつける。
全長十五メートルを超える二つの超大型大剣同士がぶつかり合い、轟音を響かせる。衝撃で地殻変動を引き起こし、大地が無残に捲れ上がる。
千術魔閃斬々剣は、従来の魔術武装の性能を千倍に引き上げた結果、有り得ざる巨大な姿を現すようになった。
このときユーリが失った魔力も当然従来の完全再現の千倍に匹敵し、加速度的に魔力が消耗する。ダリル・アーキマンとの戦闘に加えて、今の一撃で全ての魔力が枯渇してしまう。
「まだだ!!」
ファルラーダと違い、ユーリの魔力は有限。しかしそれを覆す手段を持っている。
「変幻機装――制限解除!!」
魔力を失ったフリーディアに残された最後の手段――諸刃の剣を躊躇なく発動したのは、命を捨てねばファルラーダには勝てないと思ったから。
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六歳の頃に一度発動したため、扱い方は心得ている。何とか身体が無事なのは遺伝子操作を施された影響だろう。このときユーリの中に流れる神の因子は手に負えない程の覚醒を繰り返していた。
「うおぉぉぉぉぉぉッーーー!!!」
「嘗めんじゃねぇぞ、愚物が!!」
バラバラに砕け散り、地へ降り注ぐ両者の千術魔閃斬々剣の破片を背に駆け出すユーリとファルラーダは一歩も譲らず激闘を繰り広げる。
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