武装魔術戦争

めぐりん

文字の大きさ
上 下
131 / 239
第五章 終焉の光

第131話 戦勝の狼煙

しおりを挟む
「正直、世界に意思があるかなどどうでもいい。シンについては思い当たる節があるが、そんな奴とっくの昔に死んでんだよ」

 デウス・イクス・マギアによって旧時代の記録を拝んだファルラーダはシンが実在したことを知っている。そして自ら死を選んで、自決した事も。

「死んだ神に依存し、それを超えようとする意思を示さない者に、おれは絶対に負けねぇ」

 グランドクロス=ファルラーダ・イル・クリスフォラスの圧倒的力の前に為す術なく敗北したイリス。

 いや、そもそも純粋な力量だけで測るなら両者はほぼ拮抗している。趨勢を分けたのは、意志の強さ。ファルラーダの強い意志にイリスが終始翻弄されたということ。

 心が砕けなければ、奇跡などいくらでも起こせる。ダメだと思った瞬間にもう勝負は付いている。

おれの意志を上回る御方は、御前とミアリーゼ様しかいない。おれごときに絆されるようじゃ、フリーディアには勝てねぇぞ異種族共!!」

 敵に対して発破をかけるファルラーダの気持ちはただ一つ。主であるミアリーゼ・レーベンフォルンの敵がこの程度であっていい筈がない。この大戦の結末如何で、後の世の趨勢が決まるからだ。

 ファルラーダ・イル・クリスフォラスは尋常なる勝負を望む。姑息な手段なぞ用いず正面から堂々と挑む様は敵味方全体にどう映っているのだろうか?


「「「「「う、うおぉぉぉぉぉぉぉッッッーーー!!!」」」」」 
 

 種族連合は、ファルラーダの意思に感化されたのかまだ必死に諦めずに足掻こうとしている。

「そうだ。おれを殺せれば、まだ貴様らにも勝てるチャンスはある。気張って掛かってこいよッ!!」

 生き残った統合軍兵士たちは迅速に撤退しつつある。その間にファルラーダを殺せば、勢いを押し切って種族連合の勝利となる。

 例えイリスが敗れたとしてもまだ可能性は残っている。全身全霊を賭けて種族連合の精鋭たちはファルラーダ目掛けて無数の魔法攻撃を撃ち出した。

「効かねぇよ!! こんなものじゃねぇだろ、貴様らの想いはッッ!!」

 空鱏バトイデアを駆使してファルラーダは再び展開した千術魔弾サウザンドライフルを解き放つ。

「おらぁッッ」
 
 そして再び空鱏バトイデアの砲身から容赦なく放たれる破壊の閃光。それはまさに天地を裂くかの如く降り注ぎ、絶対の力を握る者の裁きを体現していた。

 しかし進軍は止まらない。エルフ兵士たちはまずイリスを救出するために、全霊を賭して戦場を駆け抜ける。

「諦めるな!! 命を賭してでもイリス様を守れ! あの御方は我々エルフの希望! そして、必ず奴を倒せ!! まだ時間はある!!」

 一人のエルフから放たれる発破に奮起したのか、種族連合軍から雄叫びが上がる。彼らは決して逃げず、果敢に立ち向かう。

 イリスのもとへ群がる自律型千術魔装機兵オートメーションヴァスティオンを退け、最優先で救出に向かっていくエルフの精鋭たち。

 その光景を前に、半ば諦めていたイリスは感化され涙を流した。

「皆……」

 皆がまだ諦めていないというのに、イリスは何をやっているというのか。魔力切れを起こした己の不甲斐なさに強く憤激し、ガラクタ同然となった終滅剣エクスディウスを強く握りしめる。

「イリス様、後は我々にお任せください。必ずやグランドクロスを討ち果たしてご覧にいれます!」 

 イリスはすでに戦闘不能。過去最長の神遺秘装アルスマグナの行使による反動が押し寄せてきている。

「申し訳ありません、エレミィ」

 このような無様を晒しては、姫巫女の近衛騎士を名乗る資格もない。イリスは複数のエルフ兵に守られる形で撤退していく。

 その様子を見たファルラーダがさせるか、とイリス目掛けて空鱏バトイデアの超火力を押し付けようとするが。

「「「やらせるかぁぁぁッッーーー!!!」」」

 撤退するイリスたちの背に複数の魔法障壁が形成され追撃を阻止してみせた。

 最早種族連合に撤退の二文字はない。彼らは一願となり、ファルラーダの防衛網を突き抜けようとする。

「流石に一人じゃ手に余るか。いいぞ、そうこなくちゃ張り合いがねぇッ!!」

 いくら自律型千術魔装機兵オートメーションヴァスティオンの性能が優れているといっても数に限りがある現状、ファルラーダ個人の負担は大きい。

 しかしそんなことを微塵も感じさせぬファルラーダの気迫に押され、種族連合は徐々にその数を減らしていく。

「ち、あのエルフどさくさに紛れてどこ行きやがったッッ」

 恐らく敵指揮官であるエレミヤの指示だろう。ファルラーダが種類連合へ意識を向けた隙を突き、地形操作魔法で巧妙に逃走経路を確保してみせたエルフによって戦闘不能に陥ったイリスの姿を見失った。

「視界が悪い、敵の地形操作魔法は苦ではないが一々破壊していたらキリがねぇ。深追いはせず、敵の戦線を崩すことに集中するのが最善か」

 イリスを逃したことは悔やまれるが、今は己が敷いた防衛ラインに敵を近づかせないことが最善。冷静に怒りを保ちつつ、ファルラーダは猛突する種族連合部隊を相手にしていく。

「敵はたったの一人だぞ! 何としてでも墜とせ!!」

 エルフ兵士が焦燥感に駆られながら叫ぶ。種族連合からすれば、悠長なことをしていられる時間はもうない。玉砕覚悟で特攻を仕掛けていくも、フリーディアの技術の粋を集めた戦略破壊兵器たちの前では等しく無に帰す。

「無駄だ! おれを斃したくば、今の千倍の戦力を持ってこい!!」

 種族連合部隊を一人で相手にするファルラーダは未だ無傷。ラゴーン、ナギ、イリスといった強敵相手に連戦したにも関わらず、まるで消耗の色を見せない彼女は強さの次元が違う。

 現実は無情だ。どれだけ信じても神様なんて助けてくれない。世界の意思という奇跡が介在する隙間もない。

「エレミヤ、貴様の敗因はイリスとかいうエルフの力を過信しすぎたことだ。一対一で戦らせるべきではなかったな。今のように連携して戦っていれば、まだ勝算はあっただろうに」

 この短時間で、種族連合の三割を削られた。彼らの表情には深い絶望と諦めの色が灯っており、戦意は失われてしまっている。

『――ファルラーダ、間も無くアルギーラより二十万の兵が到着いたしますわ。
 彼らが到着し次第、後退を。戦線が整い次第、ドワーフ本国へ進行します。それまで好きに暴れなさい!』

 空鱏バトイデアの拡散通信機能により、再びミアリーゼ・レーベンフォルンの力強い声が戦場へと木霊する。

「二十万……? エルヴィスたちが死んだこの状況で増援をおくる余裕なんて……あぁ、ハッタリか」

 ファルラーダも一瞬何のことだ? と思ったがなんてことはない。ミアリーゼの指示が敵に筒抜けな状態で、本当のことをわざわざ言う必要はない。

 時にはブラフを混ぜて、敵の戦意を圧し折ることで、ファルラーダの負担を減らそうと考えたのだろう。

「お気遣い感謝します、ミアリーゼ様」

 姫の命令を聞いた瞬間、退避していたフリーディア兵士たちは勇ましく咆哮を上げる。ミアリーゼのブラフは自軍の士気を高め、効果は絶大となった。

 役目は果たした。ファルラーダは健在、フリーディア陣営の被害も最小限に留めることができた。

『ファルラーダ、本当にご苦労をおかけします。あなたがいなければ西部戦線は全滅していました。
 おかげで敵の戦線も崩れてきましたし、敵も撤退を考えている頃合いでしょう。一度戻って休まれては?』

 そして胸元にある個人用の携帯端末機から、敬愛すべき主から労いの言葉がかけられる。

「勿体無き御言葉。ですがおれはまだ戦えます。敵主力を逃した上に、エレミヤにまで撤退する時間を与えるわけには参りませんので、このまま敵本陣へ切り込みます」

 ファルラーダとしてはイリスを逃したことが痛恨の極みといえる。汚名返上を果たすべく、速やかにエレミヤを殺す必要がある。

『分かりました。ただ、無茶だけはしないようお願いします。あなたの戦闘スタイルに口を挟むことはしませんが、少しだけ危うさを伴っているように感じたのです……』

 ミアリーゼに余計な心労をかけてしまったことを申し訳なく思う。それと同時に本気でファルラーダの身を案じていることが伝わり胸が熱くなる。

「ご心労をおかけして申し訳ありません。ですがいくら異種族とはいえ、彼らにも意思がある。それを無為にすることは、おれの流儀に反します」

『そうですわね。わたくしは彼らの死を受け止めねばなりません。どれだけ恨まれても決して逃げない、意思を貫き通すこと……戦争という悲劇の中で敵に唯一できる手向けです』

「えぇ、奴らを下賤な輩に殺させません。終わらせるために、おれたちが責任を持って命を背負いましょう」

『はい! グランドクロス=ファルラーダ・イル・クリスフォラスに命じます、我らフリーディアに勝利を齎しなさい!!』

「御心のままに!!」

 ミアリーゼとファルラーダ。二人の絆は決して揺らがず、異種族を殲滅するまで足は止まらないだろう。全ては、人類に新たな可能性を示すために。

 統合連盟首脳陣を失った人類フリーディアは未曾有の危機に陥っている。しかしミアリーゼ・レーベンフォルンが矢面に立ち、皆を導くことで新たな世界が築かれることとなる。

「そうだ、おれが貴様らに示してやるよ。人類の可能性を――ミアリーゼ様の歩む覇道をなッ!!」

 これより、千術姫による一方的な蹂躙が始まる。逃げ場など何処にもない。空鱏バトイデアを駆り猛進するファルラーダはもう誰にも止められない。

「――千術収束爆弾サウザンドクラスターボム!!」

 空中を駆け、先攻したファルラーダから投下される千術収束爆弾サウザンドクラスターボムにより、超極大範囲に及ぶ爆発の渦に呑まれていく種族連合。

「まだ終わりじゃねぇぞッ!!」

 エルフの精鋭たちがエレミヤのもとへ行かせまいと必死に抗うも、もはや無駄な抵抗に等しい。

魔術武装マギアウェポン展開エクスメント――千術大破壊飛翔魔砲台サウザンドデストロイランチャー!」

 千術姫の恐ろしさはまだまだこんなものではない。種族連合中央部隊に風穴を開けるすべく展開された魔術武装マギアウェポン――千術大破壊飛翔魔砲台サウザンドデストロイランチャーの厳つい砲台はガコンッと鈍い音を立てながら空鱏バトイデアの下部の砲身に連結ドッキングされる。

「こいつは対魔法戦術用に開発された弾道ミサイルだ。追尾機能は勿論、使用者の負担度外視でカスタマイズされているから破壊力はお墨付きだぜ?」

 異種族たちの信仰心を圧し折り、勝敗は決したにも関わらず尚も攻撃の手を緩めないファルラーダは傍からから見れば悪の大魔王に映っているのかもしれない。

 千術大破壊飛翔魔砲台サウザンドデストロイランチャーの照準を向けられた種族連合の兵士たちの表情が強張る。回避しようにも逃げ場など何処にもない。

「この状況では引くに引けまい。投降は無意味、撤退しようにも後ろはドワーフ国という壁しかない。
 貴様らに残された道は、最後の瞬間まで抗うことだけだ!」

 グランドクロス=ファルラーダ・イル・クリスフォラスから告げられる死の宣告と共に容赦なく放たれた弾道ミサイルは、フリーディアの戦勝を決定づける狼煙となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

拝啓、あなた方が荒らした大地を修復しているのは……僕たちです!

FOX4
ファンタジー
王都は整備局に就職したピートマック・ウィザースプーン(19歳)は、勇者御一行、魔王軍の方々が起こす戦闘で荒れ果てた大地を、上司になじられながらも修復に勤しむ。平地の行き届いた生活を得るために、本日も勤労。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……

Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。 優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。 そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。 しかしこの時は誰も予想していなかった。 この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを…… アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを…… ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

処理中です...