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第四章 種族会談
第91話 目覚めぬ一月
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ドラストリア荒野はカレウム鉱山地帯を抜けた先にある荒々しい自然が息づく場所にある。荒涼な大地には草木と岩石が散りばめられており、一見すると死を連想される外観であるが、その厳しい環境下にも適応した生物たちが棲んでおり、一つの世界として成り立っている。
この荒涼な荒野を超えた先の平野に聳え立つドワーフ本国の城塞は、まるで地形と一体となるかのように存在している。巨大な岩山の裾野を彫り出すように築かれた城壁は、荒野の風雨に耐え抜く頑丈さを備えている。また、城塞全体がドワーフたちの技術力の結晶であり、その堅牢さは最強種族であるエルフですら恐れさせた。
そんなドワーフ国の城塞内は、外見とは裏腹に内部には発展した街並みが広がっており、どこか洗練された建築様式が目立っている。
フリーディアの総本山である首都エヴェスティシアに建ち並ぶビル群に比べれば些か様式美に欠けるが、それでもドワーフ国の街並みには様々な商店や工房がひしめき合っており、活気に満ちている。
鍛冶屋や石工場、宝石点などドワーフの技術力が活かされた場所は多く存在し、他種族からも交易のために訪れるものたちで今日もいっぱいだ。
そして街の中心に位置する、威厳に満ちた豪奢な宮殿はまさに王が住むに相応しい荘厳さを醸し出している。
玉座の間には現在二十名ほどの異種族の男女がいる。一人は玉座に座っているドワーフの現国王――ファガール。老齢な見た目であるが、彼の姿はドワーフの誇りを象徴するかのような威厳で満ちていた。
王の脇には忠実なる王国騎士たちが立ち並び、その中にはエルフの高官らしき人物も控えていた。
その中でも一際異彩を放つ少女が二人存在する。一人は世界の象徴ともいえる神の瞳を宿すエルフの姫巫女――エレミヤ。
そして彼女の隣に控える少女は特徴的な獣耳を生やしたビースト――サラ。
皆一様に緊張しているためか表情が硬い。玉座の間に君臨するドワーフ王ファガールの威厳に気圧されたわけではなく、現在カレウム鉱山地帯でフリーディアと交戦中のドワーフ軍の戦況について。
特に作戦を立案したエレミヤはプレッシャーが押し寄せ今にも泣き出しそうになっている。
彼女の号令で一体何人のドワーフたちが命を落とすことになるのか? エレミヤにとって家族同然であるイリスを敵陣の本隊にぶつけたこと。エルフ最強戦力を持つ彼女が負けるとは思えない、けれどもし万が一があったらと不安に圧し潰されているのだ。
刻々と時間が過ぎる中、王の間の空気は重く、息苦しいものであった。エレミヤの緊張感が周囲の者たちにも伝播しており、口を開く者はほとんどいない。サラはエレミヤに寄り添い、彼女の不安を分かち合おうと小さな手を握りしめていた。
「大丈夫よ、エレミヤ」
「サラ……ごめんなさい」
サラもエレミヤがイリスやドワーフたちを心配する気持ちがよく分かるため、不安に揺れる彼女に対して何も言わない。
むしろ責任を全て押し付ける形となってしまっていることをサラは悔いていた。オリヴァー・カイエスは今頃戦っているのだろうか? 分からない。戦争を終わらせるために戦うという志を共有したが、今のやり方が正しいのか誰にも分からないのだ。
そんな気持ちを懐いたまま待機していると、ドワーフ王国の元帥が入室し、全員の視線が彼に集まった。彼の表情は緊張と期待に満ちており、手には戦況を伝える文書が握られていた。彼は王の前に進み出て、跪きながら報告を始めた。
「陛下、エレミヤ様、サラ様、皆様。カレウム鉱山地帯での戦闘の最新情報が届いております」
王国騎士たちや高官らは息を呑み、エレミヤとサラは目を見開いて報告を待った。ファルガール王もまた、無表情ながら瞳には炯々とした光が宿っている。
元帥は文書を開き、声を震わせながら報告を続けた。
「朗報です! 我がドワーフ軍はフリーディアの撃退に成功いたしました。
被害は最小限に留められ、イリス様も無事帰還なされたとのことです!!」
その言葉に、エレミヤの瞳から涙がこぼれた。イリスが無事であることに胸を撫で下ろし、同時に戦況が優勢であることに安堵の色が浮かんでる。サラもまた、ほっとした表情でエレミヤを見つめていた。
ファガール王も頷き、威厳に満ちた声で元帥を労う。
「報告ご苦労だった。戦況が優勢であるとはいえ油断は禁物だ。兵たちにも浮かれすぎず場の緊張を保つことを心がけるよう伝えなさい」
「は!」
元帥は頭を垂れ、玉座の間を去った。
「エレミヤ殿、そなたの采配のおかげで兵たちの被害は最小限に抑えられた。そなたが持ち帰ったフリーディアの情報がなければ、今頃カレウム鉱山は奴らの手に堕ちていたことだろう」
エレミヤは涙を拭いながらファガール王へ目を向けた。
「いえ、戦況は未だこちらに不利であると考えます。我々の重要なカードの一つである神遺秘装の情報をフリーディアに渡してしまいました。
恐らく次はさらなる増援を伴い侵攻してくるはずです」
「そうだな。しかし、こちらも準備を整える時間を稼げただけでも行幸だ」
エレミヤの言葉にファガール王は同意を示す。
「はい。間もなくエルフ本国からの援軍も到着いたします。それだけではなく、他種族からも支援の声も上がっております。
マジックアイテムの総本山たるドワーフ国は我々にとって無くてはならない非常に重要な国です。
必ずここでフリーディアの侵攻を食い止め戦争を終結に導かねばなりません」
「エレミヤ殿……まさかこのまま指揮官として戦場に立たれるおつもりか?」
「はい。フリーディアの脅威を一番よく知る私が適任だと考えます。先の作戦の結果を見れば、エルフ王も首を縦に振らざるを得ないはず。
私はこのまま前線へと趣き、フリーディアへ会談を要請いたします。そこで和平交渉が成されれば我々の勝ちです」
侵略者たるフリーディアとの和平交渉を提案する。それは無謀な賭けであった。だが、現状はこれ以上ないくらいまでに追い詰められている。だからこそ、ここで起死回生の一手を打たなければならない。
エレミヤの決意を感じ取ったのだろう、ファガール王が厳かな口調で告げる。それは命令ではなく、懇願に近いものだった。
「エレミヤ殿、そしてサラ殿。貴殿らにドワーフ国の命運を背負わせてしまったこと、誠に申し訳ない」
同時に小人族王国騎士たちもエレミヤに忠誠を誓うように頭を垂れる。
「いえ……全ては彼の――ユーリ・クロイスという一人のフリーディアが願う平和を実現したいと考えたまでのこと」
全てはあの日、ユーリからフリーディア統合連盟軍に関する詳細な情報を聞いていなければ、劣等種だと高を括っていたに違いない。
「彼がいたからこそ、我々は勝利した。そのことを努々お忘れなきよう」
「うむ。して、件のフリーディアは今どこにおるのかね? 儂からも直接礼を述べたいのだが……」
エレミヤたちがユーリを引き連れ入国してから一ヶ月。その間一度も王との謁見が叶っていない。
「彼については、その……少々立て込んでいるといいますか。自身のルーツを掘り起こすのに手間取っているといいますか……」
「?」
いまいち要領を得ないエレミヤの言葉にサラ以外の全員が首を傾げる。
「端的に言いますと、ユーリ・クロイスは現在深い眠りについております。ですので王に謁見することは叶わないのです」
この一ヶ月、ユーリ・クロイスは眠ったまま目を覚ましていない。彼の要望に応えたエレミヤ本人も予想外の事態に、困惑するばかりであった。
◇
一月前――ドワーフ国へ到着したユーリたち一行が向かったのは、ミグレットの実家だった。初めて見る異種族の街は活気に満ちており、非常事態でなければ観光して異国の文化を堪能していただろう。
道中簡単にだが、エレミヤたちから説明を受けつつ何事もなくミグレットの実家へ辿り着いた。
「ここが、ミグレットの実家か」
元天才鍛治職人であったゲオルグの娘というだけあって、他の民家と比べてその造形は立派なものだった。
「何年も放置してたので、かなり埃が溜まってるかもですが我慢しやがれですよ、こんちくしょう」
と言いながら扉を開けるミグレットに続き、ユーリ、ナギ、サラ、シオン、エレミヤ、イリスの六名は足を踏み入れた。
「「「「「「――って汚っ!?」」」」」」
当然といえば当然だが中には誰もおらず、ユーリたちの想像の百倍は部屋が散らかっていた。ミグレット含めた鍛治職人は家事が苦手な人が多いらしい。彼女の母親は耐えきれず他に男を作って夜逃げしたらしく、何とも世知辛い理由に言葉がなかった。
それはひとまず置いておくとして、これでは話し合いどころではないため、先ずは家全体の大掃除から始まった。
ナギとサラとシオンのビースト組は流石というか、手際よく効率的に部屋を片付けていくのに対し、掃除とは無縁の生活を送ってきたユーリ、ミグレット、エレミヤ、イリスの四人は部屋のありとあらゆる家具を破壊していき、阿鼻叫喚の地獄へと誘った。要するにこうだ。
「姫巫女たるあなたに掃除などさせられません。私がやりましょう」
と先人を切ったイリスが箒を持ちながら豪快に振りかぶり、埃の溜まった机ごと吹き飛ばし破壊。それを見たエレミヤは、
「何やってんのイリス!? そう言うあなただって掃除なんてしたことないでしょ! もう見てられないわ、私に貸してちょうだいな!」
と箒を取り上げた瞬間、勢いあまって手が滑り、あらぬ方向に吹き飛んでしまい、照明器具に直撃し破壊。
「オメェら何、人ん家破壊してやがるんですかこんちくしょう!!」
とミグレットが雑巾片手に慌てて駆け出すも、すってんころりんと綺麗にずっこけ、古びた椅子にぶつかり破壊。
その惨状を見たユーリが慌てて駆け寄るも、ミグレットが放り出した雑巾に足を滑らせ、棚に激突し盛大に中身をひっくり返して破壊。
ナギたちが駆けつけた頃には大惨事となっており、ユーリたちは揃って掃除禁止令を下された。
そして数時間後、ようやく掃除を終えた一同は綺麗になった広い居間へ集まり、それぞれ席に着く。テーブルにはドワーフ国の名物であろう茶菓子が置かれ、ユーリはミグレットを膝上に乗せてエレミヤと対面している。
ナギ、サラ、シオンは疲れ切った表情を浮かべながら安堵の息を吐き、残ったユーリたちは非常に居た堪れない気持ちとなった。
姫巫女たる立場のエレミヤに残された時間は今日しかない。明日にも王都へ赴き、ドワーフ王に謁見し、戦争の準備をしなければならないというのだから一分一秒でも時間が惜しい。
「ごめんなさいね、バタバタして。本当はゆっくりあなたたちとお話ししたいのだけど、状況が許してくれないの」
話を切り出したエレミヤの謝罪に皆も分かっていると頷く。
「ありがとな、俺たちのために時間を使ってくれて」
エレミヤの立場でいうなら、外様のユーリに構っている時間はない。無理して一日を空けてくれただけで感謝の念が尽きない。
「ユーリと私の仲なんだから、そんなに気を遣わなくて大丈夫よ。私は自分がしたいことをしてるだけ。こうして面と向かって話ができる日がようやく来たんだって思うと感慨深いわ」
これまで素性を隠してユーリと接触してきたエレミヤは、ようやく素面で対面できることに喜んでいた。だがそれも一瞬のことで、すぐに真面目な表情へ切り替えて言う。
「アルギーラを落としたフリーディアはこのままカウレム鉱山地帯へ乗り込んでくるでしょう。そのままドラストリア荒野を抜けてドワーフ本国へ侵攻されたら私たちの負け。目と鼻の先に迫ったフリーディアの勢いを先ずは削がなくちゃいけない」
そうなると、次の戦場はカウレム鉱山地帯ということになる。また、多くの悲しみや命が失われることになる――それをさせないためにユーリはこうしてエレミヤと話をしている。
「もちろん防衛だけに留まらず、占領された領地も奪還する必要もある。ユーリには悪いけれど、私たちがいる以上フリーディアに勝ち目はないとだけ言っておくわ」
自信満々に告げるエレミヤにユーリはダリル・アーキマンの魔の手から救うためにイリスが使用した数々の魔法を思い出す。
「それは……俺を助けてくれた時に使ってた魔法があるからか?」
土法と呼ばれる土属性魔法もそうだが、ユーリたちを一瞬で別の場所に移動させてしまった転移は今思い出しても凄まじい。道中に聞いた説明では事前に準備がいるのと、魔力消耗量が激しい、人数が多ければ多いほど発動までの時間と魔力量が比例するという欠点が存在するらしいが、それを差し引いても瞬時に長距離を移動できる利点の方が強い。
「えぇ、そうよ。魔法だけじゃなく神遺秘装保有者も数多く有してる私たちエルフは常勝無敗の歴史を誇っているの」
「神遺秘装……」
ナギも保有するスキルを超えた奇跡の力。恐らくエレミヤたちの自信の源となっているのは、この神遺秘装の力が大きい。
「ナギが使ってた神遺秘装は身体全身を白い雷で覆っていたけど、エレミヤは眼だったりイリスは剣と物質としても存在しているんだな」
「そうね、私たちはかつて神が保有していた能力や遺物を総じて神遺秘装と呼んでいるの」
「能力……発動条件はあるのか?」
ユーリとミグレットは、シオンを救った際に偶発的に神遺秘装を発動している。エレミヤなら何か知っているかもしれない。
「うーん、殆どの場合は先天的に受け継がれることが多いの。とはいえ資格のない者には、神の恩恵は賜われない。ごく稀に何の縁もない者が突然発動する事例も過去にはあったのだけれど、実は詳しいことは分かっていないの」
神に最も近いとされるエルフですら解明できていない力。そう言ったエレミヤに流石にマズいと思ったのかイリスは諌める。
「エレミィ、あまりこちらの内情は明かさない方が……特に神遺秘装については禁忌に――」
「大丈夫よこれくらい、神もそう言ってるわ。それにナギも神遺秘装を使えるのだから、謂うなれば彼女も同胞よ」
「それは……」
神の名を出されると弱いのか、イリスは渋々引き下がった。
「それに、ユーリには魔術武装について教えてもらわなくちゃいけないし、こっちだけ何も話さないのはどうかと思ったの」
エレミヤにとっては、神遺秘装以上に魔術武装が脅威に映っている。ミグレットの父であるゲオルグが開発した堕天使が齎した被害状況を耳にすれば、警戒せざるを得ないのだろう。
「そうだな。俺も専門家じゃないから詳しいことはよく分からないけれど、知ってることは全部話すつもりだ」
そうしてユーリは、自身の持つ変幻機装含めて、魔法を人工的に扱えるようにした魔術兵器について語る。
エレミヤとイリスは初めこそ驚いていたものの、勝算があるのか大した脅威とはみなしていなかった。
「――なるほど、つまりフリーディアは魔術武装がなければ、異能術を持たない無力な種族ということになるわね」
「えぇ。ユーリの話を聞く限りにおいて、問題なのは敵の数です。ですがこれも、我々ならば容易に対処が可能でしょう」
「「「「………………」」」」
フリーディアの恐ろしさを直にその身に味わったナギたちの表情はあまり芳しいものではない。彼女たちが伴った犠牲や覚悟を踏み躙られたような気がして、ユーリはエレミヤとイリスへ向けて言葉を差し込む。
「ごめん、水を差すようで悪いけど少しいいか?」
空気を切り替え、ユーリは改めてエレミヤとイリスにフリーディア統合連盟軍の恐ろしさを語った。
「エルフは最強の種族だと豪語してるけど、それはフリーディアだって同じだ。俺たちがこの二千年でどれだけの異種族を滅ぼしてきたか知ってるか?」
真剣な声音で問いかけるユーリに思わず息を呑むエレミヤ。
「サイクロプス、ハーピー、メデューサ、ミノタウロス、ドリュアス、マーメイド、ウェアウルフ、サキュバス、ヴァンパイア、デーモン――数え出したらキリがない」
ユーリが学校で教わった異種族という存在はそれこそ星の数ほど存在する。
「フリーディアは東西南北全て均等に部隊を派遣し戦争してる。西部戦線を潰しても代わりなんていくらでもいるし、それこそ全ての軍を集めればゆうに百万は超えるんだ」
エルフがどれだけの戦力を誇っているのかユーリは知り得ない。けれどユーリにはエレミヤたちの根拠のない自信にどうしても納得がいかないのだ。
「千里眼がどこまで見えてるのか知らないが、正面から戦争すればどれだけの被害が出ると思ってる? その自信の根拠はどこからくる?
今は地の利が勝ってるから迂闊に攻めてこれないだけ。均衡状態なんてすぐに崩れるし、こっちにも最強戦力を誇るグランドクロスがいるんだから尚更だ。
俺はそのグランドクロスを二人ばかり知っているが、俺たちじゃ歯が立たない正真正銘の化け物たちなんだ」
極光の英雄グレンファルト・レーベンフォルンと最厄シャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガー。いくらエルフが強いからといって、この二人が負ける姿が想像できないのだ。
それに、状況から考えてグランドクロスは他にも存在することは間違いない。
「「「「……………………」」」」
ユーリの言葉を受けエレミヤ、イリス、ナギ、ミグレットは押し黙ってしまう。
神の代弁者たる瞳を以ってしても、見抜けない真実がそこにはあった。
「俺もあんまし人のこと言えないだろうけど、二人よりは現状を分かってるつもりだ。
千里眼という力に依存して、死んだ神に縋るしかないお前たちがフリーディアに勝てるとは思えない」
「依存……」
エレミヤはどこか甘さを隠せないお人好しのような表情をしていたユーリの雰囲気が一変したことに言葉を失くしていた。
エレミヤも雰囲気を変えることは多々あるが、それは姫巫女として威厳を保つために行っている謂わば仮面を付けているに過ぎない。
だがユーリにはそんな器用なことができる性質には見えない。
本気の本気でエレミヤに想いをぶつけているのだと彼女は察したのだ。
依存………。未だかつてそのような言葉を投げかけられたことはない。誰もが千里眼から通したエレミヤの言葉を信じ、疑うことさえしなかった。
エレミヤの直感はよく当たる。フリーディアに負けるなど微塵も考えていなかったし、どれだけの戦力を誇ろうがイリスには絶対に勝てないと分かっているからだ。
だが、ユーリの言葉を受けもしかしたら己の直感が間違っているのではないかとエレミヤは思ってしまった。
一度懐いた疑念の渦は簡単には止められない。現実を見ていたつもりが、いつの間にか幻想に囚われていたのかもしれないとさえ思えてしまうほどに彼女の心は揺らいでいた。
対するユーリもエレミヤのどこか張り詰めた表情に言い過ぎたと自身の発言を反省する。
けれどこれはユーリが懐いた本音だ。夢想を現実だと勘違いし発言するエレミヤにはどうしても言っておきたかったのだ。
エレミヤがユーリの言葉を受け何を感じているのかは知らない。けど言い返さないということは、それなりに思うところがあったのだろう。
それから数分間沈黙の世界が訪れる。
やがて何を思ったのかエレミヤは、瞳に魔力を集中させ。
「神遺秘装――千里眼」
そんな彼女の開いた瞳には翠玉色の六芒星が彩られていた。
「あれが、千里眼……」
ユーリは初めて目にするエレミヤの瞳に目を奪われる。美しくも儚い、神々しくも禍々しく光る千里眼に魅せられてしまったのだ。
ユーリだけじゃない、ナギ、サラ、シオン、ミグレットも見慣れたはずのイリスでさえも。
誰もがエレミヤが何をしているのか問うことを忘れ、ただひたすらに千里眼を見つめていた。
そして――
「ふぅ……」
再び瞳を閉じ、千里眼を解除したエレミヤには疲労の色が窺える。彼女は千里の先の一体何を見聞きしたのか?
「ユーリ、あなたが教えてくれた情報のおかげで首都エヴェスティシアの光景を少しだけ見ることができたわ。
正直、得体がしれない。文明レベルが違いすぎることもそうだけど、そのさらに地下に形容し難い巨大な何かがある……。
亡き神も過信は禁物だと、そう仰られていたわ」
「「「「「………………」」」」」
深刻な表情で告げるエレミヤに、ゴクリと喉を鳴らす一同。
「ユーリの言った通り、フリーディアとエルフが全力でぶつかれば、世界そのものを破壊しかねない。神の庭であるこの世界を傷つける行いは、教義に反するわ」
「エレミィ……」
「イリス、予定変更よ。我々エルフはフリーディアとの停戦交渉に乗り移るわ。但し、条件はあくまで対等に。
フリーディアに先ずはエルフの恐ろしさを知ってもらわなくちゃいけない。そのために少なくない犠牲を与えることになるけれど、ユーリもそれで納得してくれるかしら?」
「……分かった」
ユーリ自身も一人も犠牲者を出さずに戦争が終わるとは思っていない。エレミヤたちエルフに危機感を感じてもらえただけで、充分すぎる成果だった。
もう同族を失った時のような悲劇は起こしてはいけない。こちらで打てる手は打ったため、残る懸念点を解消しなければならない。
(ダリル・アーキマン……それに、シャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガー)
アルギーラで邂逅したユーリの敵。恐らく彼らは停戦交渉など無視する筈。今のユーリでは正面からやり合っても勝てる保証はない。
生半可な修行じゃ意味がない。短期間で強くなるための方法は頭の片隅に置いてある。だけど、果たしてそれが正解なのかどうか分からない。
「どうかしたの、ユーリ?」
本来なら喜ぶべき事態であるにも関わらず、深刻な表情で葛藤するユーリを見たナギが不安げな面持ちで尋ねてくる。
「ごめん、実はちょっと……俺自身のことについて考えてた」
「ユーリ、自身……?」
「あぁ。イリスも言ってただろ? 俺には何かがあるって。自分のことなのにそれが分からないのが、恐ろしいんだ……。
妙な因子とやらを持つ俺は、一体何者なんだろうって」
入隊したては赤子に等しかったユーリが、短期間でビースト屈指の実力を持つナギを討ち破り、歴戦の強者であるクレナ・フォーウッドに匹敵するまでに至った。
ハッキリ言って異常だ、普通じゃない。その異常さが、シャーレやダリルの興味を引いたとするなら尚のこと知らねばならない。
「エレミヤ」
「ん?」
「聞きたいんだけど、俺と夢で会ったのってその千里眼の力なのか?」
「えぇそうよ。私の千里眼は世界の景色を見通すだけに非らず。過去、現在、未来含めた視るという行為全てが実現可能よ。
それを相手に見せることも、ね。能力の工夫次第で、他者の夢に介入することだってできちゃうんだから!」
えっへん、と胸を張るエレミヤ。もしそれが真実だとするのなら、千里眼は最強に位置する能力だ。けれど――
「いや、未来は嘘だろ。一見万能に聞こえるけど、制約がかなりあるんじゃないか?」
「(ギクッ)」
誇張して語ったことがバレたのか、露骨に動揺を見せるエレミヤにイリスは深い溜め息を吐いた。
「コホンッ、その……ユーリはひょっとして私の千里眼を使って自身の過去を知ろうとしてるってこと?」
「あぁ」
エレミヤは機転が効くし、察しもいいので話が早くて助かる。
「できなくはないと思うけど、何分初めてのことだから、どうなるか分からないわよ?
過去を覚えてないということは、あなたが本音で思い出したくないと思っているからかもしれない。それを無理矢理引っ張り上げたら、今の人格に影響を及ぼす可能性だって――」
「それでもやってほしい。頼む、俺にできることならなんでもする。エレミヤだけが頼りなんだ」
真摯に頭を下げるユーリに、止めようとしていたナギたちも推し黙るしかない。沈黙が空間を支配し、無情に時が過ぎ去っていく。
ユーリは決して頭を上げず、エレミヤは葛藤し悩み続けている。そして――
「……エレミィ」
「え?」
「私のこと、エレミィって呼んでくれたらやってあげる。成功する保証なんてどこにもないけど、将来の夫の頼みを聞くのも立派な妻の役目だわ」
「あぁ! ありがとう、エレミィ!!」
夫、妻云々はスルーして、ユーリはありったけの感謝を込めて礼を言う。
これがユーリと最後の会話になるとは、この時は誰も思ってはいなかった。
この荒涼な荒野を超えた先の平野に聳え立つドワーフ本国の城塞は、まるで地形と一体となるかのように存在している。巨大な岩山の裾野を彫り出すように築かれた城壁は、荒野の風雨に耐え抜く頑丈さを備えている。また、城塞全体がドワーフたちの技術力の結晶であり、その堅牢さは最強種族であるエルフですら恐れさせた。
そんなドワーフ国の城塞内は、外見とは裏腹に内部には発展した街並みが広がっており、どこか洗練された建築様式が目立っている。
フリーディアの総本山である首都エヴェスティシアに建ち並ぶビル群に比べれば些か様式美に欠けるが、それでもドワーフ国の街並みには様々な商店や工房がひしめき合っており、活気に満ちている。
鍛冶屋や石工場、宝石点などドワーフの技術力が活かされた場所は多く存在し、他種族からも交易のために訪れるものたちで今日もいっぱいだ。
そして街の中心に位置する、威厳に満ちた豪奢な宮殿はまさに王が住むに相応しい荘厳さを醸し出している。
玉座の間には現在二十名ほどの異種族の男女がいる。一人は玉座に座っているドワーフの現国王――ファガール。老齢な見た目であるが、彼の姿はドワーフの誇りを象徴するかのような威厳で満ちていた。
王の脇には忠実なる王国騎士たちが立ち並び、その中にはエルフの高官らしき人物も控えていた。
その中でも一際異彩を放つ少女が二人存在する。一人は世界の象徴ともいえる神の瞳を宿すエルフの姫巫女――エレミヤ。
そして彼女の隣に控える少女は特徴的な獣耳を生やしたビースト――サラ。
皆一様に緊張しているためか表情が硬い。玉座の間に君臨するドワーフ王ファガールの威厳に気圧されたわけではなく、現在カレウム鉱山地帯でフリーディアと交戦中のドワーフ軍の戦況について。
特に作戦を立案したエレミヤはプレッシャーが押し寄せ今にも泣き出しそうになっている。
彼女の号令で一体何人のドワーフたちが命を落とすことになるのか? エレミヤにとって家族同然であるイリスを敵陣の本隊にぶつけたこと。エルフ最強戦力を持つ彼女が負けるとは思えない、けれどもし万が一があったらと不安に圧し潰されているのだ。
刻々と時間が過ぎる中、王の間の空気は重く、息苦しいものであった。エレミヤの緊張感が周囲の者たちにも伝播しており、口を開く者はほとんどいない。サラはエレミヤに寄り添い、彼女の不安を分かち合おうと小さな手を握りしめていた。
「大丈夫よ、エレミヤ」
「サラ……ごめんなさい」
サラもエレミヤがイリスやドワーフたちを心配する気持ちがよく分かるため、不安に揺れる彼女に対して何も言わない。
むしろ責任を全て押し付ける形となってしまっていることをサラは悔いていた。オリヴァー・カイエスは今頃戦っているのだろうか? 分からない。戦争を終わらせるために戦うという志を共有したが、今のやり方が正しいのか誰にも分からないのだ。
そんな気持ちを懐いたまま待機していると、ドワーフ王国の元帥が入室し、全員の視線が彼に集まった。彼の表情は緊張と期待に満ちており、手には戦況を伝える文書が握られていた。彼は王の前に進み出て、跪きながら報告を始めた。
「陛下、エレミヤ様、サラ様、皆様。カレウム鉱山地帯での戦闘の最新情報が届いております」
王国騎士たちや高官らは息を呑み、エレミヤとサラは目を見開いて報告を待った。ファルガール王もまた、無表情ながら瞳には炯々とした光が宿っている。
元帥は文書を開き、声を震わせながら報告を続けた。
「朗報です! 我がドワーフ軍はフリーディアの撃退に成功いたしました。
被害は最小限に留められ、イリス様も無事帰還なされたとのことです!!」
その言葉に、エレミヤの瞳から涙がこぼれた。イリスが無事であることに胸を撫で下ろし、同時に戦況が優勢であることに安堵の色が浮かんでる。サラもまた、ほっとした表情でエレミヤを見つめていた。
ファガール王も頷き、威厳に満ちた声で元帥を労う。
「報告ご苦労だった。戦況が優勢であるとはいえ油断は禁物だ。兵たちにも浮かれすぎず場の緊張を保つことを心がけるよう伝えなさい」
「は!」
元帥は頭を垂れ、玉座の間を去った。
「エレミヤ殿、そなたの采配のおかげで兵たちの被害は最小限に抑えられた。そなたが持ち帰ったフリーディアの情報がなければ、今頃カレウム鉱山は奴らの手に堕ちていたことだろう」
エレミヤは涙を拭いながらファガール王へ目を向けた。
「いえ、戦況は未だこちらに不利であると考えます。我々の重要なカードの一つである神遺秘装の情報をフリーディアに渡してしまいました。
恐らく次はさらなる増援を伴い侵攻してくるはずです」
「そうだな。しかし、こちらも準備を整える時間を稼げただけでも行幸だ」
エレミヤの言葉にファガール王は同意を示す。
「はい。間もなくエルフ本国からの援軍も到着いたします。それだけではなく、他種族からも支援の声も上がっております。
マジックアイテムの総本山たるドワーフ国は我々にとって無くてはならない非常に重要な国です。
必ずここでフリーディアの侵攻を食い止め戦争を終結に導かねばなりません」
「エレミヤ殿……まさかこのまま指揮官として戦場に立たれるおつもりか?」
「はい。フリーディアの脅威を一番よく知る私が適任だと考えます。先の作戦の結果を見れば、エルフ王も首を縦に振らざるを得ないはず。
私はこのまま前線へと趣き、フリーディアへ会談を要請いたします。そこで和平交渉が成されれば我々の勝ちです」
侵略者たるフリーディアとの和平交渉を提案する。それは無謀な賭けであった。だが、現状はこれ以上ないくらいまでに追い詰められている。だからこそ、ここで起死回生の一手を打たなければならない。
エレミヤの決意を感じ取ったのだろう、ファガール王が厳かな口調で告げる。それは命令ではなく、懇願に近いものだった。
「エレミヤ殿、そしてサラ殿。貴殿らにドワーフ国の命運を背負わせてしまったこと、誠に申し訳ない」
同時に小人族王国騎士たちもエレミヤに忠誠を誓うように頭を垂れる。
「いえ……全ては彼の――ユーリ・クロイスという一人のフリーディアが願う平和を実現したいと考えたまでのこと」
全てはあの日、ユーリからフリーディア統合連盟軍に関する詳細な情報を聞いていなければ、劣等種だと高を括っていたに違いない。
「彼がいたからこそ、我々は勝利した。そのことを努々お忘れなきよう」
「うむ。して、件のフリーディアは今どこにおるのかね? 儂からも直接礼を述べたいのだが……」
エレミヤたちがユーリを引き連れ入国してから一ヶ月。その間一度も王との謁見が叶っていない。
「彼については、その……少々立て込んでいるといいますか。自身のルーツを掘り起こすのに手間取っているといいますか……」
「?」
いまいち要領を得ないエレミヤの言葉にサラ以外の全員が首を傾げる。
「端的に言いますと、ユーリ・クロイスは現在深い眠りについております。ですので王に謁見することは叶わないのです」
この一ヶ月、ユーリ・クロイスは眠ったまま目を覚ましていない。彼の要望に応えたエレミヤ本人も予想外の事態に、困惑するばかりであった。
◇
一月前――ドワーフ国へ到着したユーリたち一行が向かったのは、ミグレットの実家だった。初めて見る異種族の街は活気に満ちており、非常事態でなければ観光して異国の文化を堪能していただろう。
道中簡単にだが、エレミヤたちから説明を受けつつ何事もなくミグレットの実家へ辿り着いた。
「ここが、ミグレットの実家か」
元天才鍛治職人であったゲオルグの娘というだけあって、他の民家と比べてその造形は立派なものだった。
「何年も放置してたので、かなり埃が溜まってるかもですが我慢しやがれですよ、こんちくしょう」
と言いながら扉を開けるミグレットに続き、ユーリ、ナギ、サラ、シオン、エレミヤ、イリスの六名は足を踏み入れた。
「「「「「「――って汚っ!?」」」」」」
当然といえば当然だが中には誰もおらず、ユーリたちの想像の百倍は部屋が散らかっていた。ミグレット含めた鍛治職人は家事が苦手な人が多いらしい。彼女の母親は耐えきれず他に男を作って夜逃げしたらしく、何とも世知辛い理由に言葉がなかった。
それはひとまず置いておくとして、これでは話し合いどころではないため、先ずは家全体の大掃除から始まった。
ナギとサラとシオンのビースト組は流石というか、手際よく効率的に部屋を片付けていくのに対し、掃除とは無縁の生活を送ってきたユーリ、ミグレット、エレミヤ、イリスの四人は部屋のありとあらゆる家具を破壊していき、阿鼻叫喚の地獄へと誘った。要するにこうだ。
「姫巫女たるあなたに掃除などさせられません。私がやりましょう」
と先人を切ったイリスが箒を持ちながら豪快に振りかぶり、埃の溜まった机ごと吹き飛ばし破壊。それを見たエレミヤは、
「何やってんのイリス!? そう言うあなただって掃除なんてしたことないでしょ! もう見てられないわ、私に貸してちょうだいな!」
と箒を取り上げた瞬間、勢いあまって手が滑り、あらぬ方向に吹き飛んでしまい、照明器具に直撃し破壊。
「オメェら何、人ん家破壊してやがるんですかこんちくしょう!!」
とミグレットが雑巾片手に慌てて駆け出すも、すってんころりんと綺麗にずっこけ、古びた椅子にぶつかり破壊。
その惨状を見たユーリが慌てて駆け寄るも、ミグレットが放り出した雑巾に足を滑らせ、棚に激突し盛大に中身をひっくり返して破壊。
ナギたちが駆けつけた頃には大惨事となっており、ユーリたちは揃って掃除禁止令を下された。
そして数時間後、ようやく掃除を終えた一同は綺麗になった広い居間へ集まり、それぞれ席に着く。テーブルにはドワーフ国の名物であろう茶菓子が置かれ、ユーリはミグレットを膝上に乗せてエレミヤと対面している。
ナギ、サラ、シオンは疲れ切った表情を浮かべながら安堵の息を吐き、残ったユーリたちは非常に居た堪れない気持ちとなった。
姫巫女たる立場のエレミヤに残された時間は今日しかない。明日にも王都へ赴き、ドワーフ王に謁見し、戦争の準備をしなければならないというのだから一分一秒でも時間が惜しい。
「ごめんなさいね、バタバタして。本当はゆっくりあなたたちとお話ししたいのだけど、状況が許してくれないの」
話を切り出したエレミヤの謝罪に皆も分かっていると頷く。
「ありがとな、俺たちのために時間を使ってくれて」
エレミヤの立場でいうなら、外様のユーリに構っている時間はない。無理して一日を空けてくれただけで感謝の念が尽きない。
「ユーリと私の仲なんだから、そんなに気を遣わなくて大丈夫よ。私は自分がしたいことをしてるだけ。こうして面と向かって話ができる日がようやく来たんだって思うと感慨深いわ」
これまで素性を隠してユーリと接触してきたエレミヤは、ようやく素面で対面できることに喜んでいた。だがそれも一瞬のことで、すぐに真面目な表情へ切り替えて言う。
「アルギーラを落としたフリーディアはこのままカウレム鉱山地帯へ乗り込んでくるでしょう。そのままドラストリア荒野を抜けてドワーフ本国へ侵攻されたら私たちの負け。目と鼻の先に迫ったフリーディアの勢いを先ずは削がなくちゃいけない」
そうなると、次の戦場はカウレム鉱山地帯ということになる。また、多くの悲しみや命が失われることになる――それをさせないためにユーリはこうしてエレミヤと話をしている。
「もちろん防衛だけに留まらず、占領された領地も奪還する必要もある。ユーリには悪いけれど、私たちがいる以上フリーディアに勝ち目はないとだけ言っておくわ」
自信満々に告げるエレミヤにユーリはダリル・アーキマンの魔の手から救うためにイリスが使用した数々の魔法を思い出す。
「それは……俺を助けてくれた時に使ってた魔法があるからか?」
土法と呼ばれる土属性魔法もそうだが、ユーリたちを一瞬で別の場所に移動させてしまった転移は今思い出しても凄まじい。道中に聞いた説明では事前に準備がいるのと、魔力消耗量が激しい、人数が多ければ多いほど発動までの時間と魔力量が比例するという欠点が存在するらしいが、それを差し引いても瞬時に長距離を移動できる利点の方が強い。
「えぇ、そうよ。魔法だけじゃなく神遺秘装保有者も数多く有してる私たちエルフは常勝無敗の歴史を誇っているの」
「神遺秘装……」
ナギも保有するスキルを超えた奇跡の力。恐らくエレミヤたちの自信の源となっているのは、この神遺秘装の力が大きい。
「ナギが使ってた神遺秘装は身体全身を白い雷で覆っていたけど、エレミヤは眼だったりイリスは剣と物質としても存在しているんだな」
「そうね、私たちはかつて神が保有していた能力や遺物を総じて神遺秘装と呼んでいるの」
「能力……発動条件はあるのか?」
ユーリとミグレットは、シオンを救った際に偶発的に神遺秘装を発動している。エレミヤなら何か知っているかもしれない。
「うーん、殆どの場合は先天的に受け継がれることが多いの。とはいえ資格のない者には、神の恩恵は賜われない。ごく稀に何の縁もない者が突然発動する事例も過去にはあったのだけれど、実は詳しいことは分かっていないの」
神に最も近いとされるエルフですら解明できていない力。そう言ったエレミヤに流石にマズいと思ったのかイリスは諌める。
「エレミィ、あまりこちらの内情は明かさない方が……特に神遺秘装については禁忌に――」
「大丈夫よこれくらい、神もそう言ってるわ。それにナギも神遺秘装を使えるのだから、謂うなれば彼女も同胞よ」
「それは……」
神の名を出されると弱いのか、イリスは渋々引き下がった。
「それに、ユーリには魔術武装について教えてもらわなくちゃいけないし、こっちだけ何も話さないのはどうかと思ったの」
エレミヤにとっては、神遺秘装以上に魔術武装が脅威に映っている。ミグレットの父であるゲオルグが開発した堕天使が齎した被害状況を耳にすれば、警戒せざるを得ないのだろう。
「そうだな。俺も専門家じゃないから詳しいことはよく分からないけれど、知ってることは全部話すつもりだ」
そうしてユーリは、自身の持つ変幻機装含めて、魔法を人工的に扱えるようにした魔術兵器について語る。
エレミヤとイリスは初めこそ驚いていたものの、勝算があるのか大した脅威とはみなしていなかった。
「――なるほど、つまりフリーディアは魔術武装がなければ、異能術を持たない無力な種族ということになるわね」
「えぇ。ユーリの話を聞く限りにおいて、問題なのは敵の数です。ですがこれも、我々ならば容易に対処が可能でしょう」
「「「「………………」」」」
フリーディアの恐ろしさを直にその身に味わったナギたちの表情はあまり芳しいものではない。彼女たちが伴った犠牲や覚悟を踏み躙られたような気がして、ユーリはエレミヤとイリスへ向けて言葉を差し込む。
「ごめん、水を差すようで悪いけど少しいいか?」
空気を切り替え、ユーリは改めてエレミヤとイリスにフリーディア統合連盟軍の恐ろしさを語った。
「エルフは最強の種族だと豪語してるけど、それはフリーディアだって同じだ。俺たちがこの二千年でどれだけの異種族を滅ぼしてきたか知ってるか?」
真剣な声音で問いかけるユーリに思わず息を呑むエレミヤ。
「サイクロプス、ハーピー、メデューサ、ミノタウロス、ドリュアス、マーメイド、ウェアウルフ、サキュバス、ヴァンパイア、デーモン――数え出したらキリがない」
ユーリが学校で教わった異種族という存在はそれこそ星の数ほど存在する。
「フリーディアは東西南北全て均等に部隊を派遣し戦争してる。西部戦線を潰しても代わりなんていくらでもいるし、それこそ全ての軍を集めればゆうに百万は超えるんだ」
エルフがどれだけの戦力を誇っているのかユーリは知り得ない。けれどユーリにはエレミヤたちの根拠のない自信にどうしても納得がいかないのだ。
「千里眼がどこまで見えてるのか知らないが、正面から戦争すればどれだけの被害が出ると思ってる? その自信の根拠はどこからくる?
今は地の利が勝ってるから迂闊に攻めてこれないだけ。均衡状態なんてすぐに崩れるし、こっちにも最強戦力を誇るグランドクロスがいるんだから尚更だ。
俺はそのグランドクロスを二人ばかり知っているが、俺たちじゃ歯が立たない正真正銘の化け物たちなんだ」
極光の英雄グレンファルト・レーベンフォルンと最厄シャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガー。いくらエルフが強いからといって、この二人が負ける姿が想像できないのだ。
それに、状況から考えてグランドクロスは他にも存在することは間違いない。
「「「「……………………」」」」
ユーリの言葉を受けエレミヤ、イリス、ナギ、ミグレットは押し黙ってしまう。
神の代弁者たる瞳を以ってしても、見抜けない真実がそこにはあった。
「俺もあんまし人のこと言えないだろうけど、二人よりは現状を分かってるつもりだ。
千里眼という力に依存して、死んだ神に縋るしかないお前たちがフリーディアに勝てるとは思えない」
「依存……」
エレミヤはどこか甘さを隠せないお人好しのような表情をしていたユーリの雰囲気が一変したことに言葉を失くしていた。
エレミヤも雰囲気を変えることは多々あるが、それは姫巫女として威厳を保つために行っている謂わば仮面を付けているに過ぎない。
だがユーリにはそんな器用なことができる性質には見えない。
本気の本気でエレミヤに想いをぶつけているのだと彼女は察したのだ。
依存………。未だかつてそのような言葉を投げかけられたことはない。誰もが千里眼から通したエレミヤの言葉を信じ、疑うことさえしなかった。
エレミヤの直感はよく当たる。フリーディアに負けるなど微塵も考えていなかったし、どれだけの戦力を誇ろうがイリスには絶対に勝てないと分かっているからだ。
だが、ユーリの言葉を受けもしかしたら己の直感が間違っているのではないかとエレミヤは思ってしまった。
一度懐いた疑念の渦は簡単には止められない。現実を見ていたつもりが、いつの間にか幻想に囚われていたのかもしれないとさえ思えてしまうほどに彼女の心は揺らいでいた。
対するユーリもエレミヤのどこか張り詰めた表情に言い過ぎたと自身の発言を反省する。
けれどこれはユーリが懐いた本音だ。夢想を現実だと勘違いし発言するエレミヤにはどうしても言っておきたかったのだ。
エレミヤがユーリの言葉を受け何を感じているのかは知らない。けど言い返さないということは、それなりに思うところがあったのだろう。
それから数分間沈黙の世界が訪れる。
やがて何を思ったのかエレミヤは、瞳に魔力を集中させ。
「神遺秘装――千里眼」
そんな彼女の開いた瞳には翠玉色の六芒星が彩られていた。
「あれが、千里眼……」
ユーリは初めて目にするエレミヤの瞳に目を奪われる。美しくも儚い、神々しくも禍々しく光る千里眼に魅せられてしまったのだ。
ユーリだけじゃない、ナギ、サラ、シオン、ミグレットも見慣れたはずのイリスでさえも。
誰もがエレミヤが何をしているのか問うことを忘れ、ただひたすらに千里眼を見つめていた。
そして――
「ふぅ……」
再び瞳を閉じ、千里眼を解除したエレミヤには疲労の色が窺える。彼女は千里の先の一体何を見聞きしたのか?
「ユーリ、あなたが教えてくれた情報のおかげで首都エヴェスティシアの光景を少しだけ見ることができたわ。
正直、得体がしれない。文明レベルが違いすぎることもそうだけど、そのさらに地下に形容し難い巨大な何かがある……。
亡き神も過信は禁物だと、そう仰られていたわ」
「「「「「………………」」」」」
深刻な表情で告げるエレミヤに、ゴクリと喉を鳴らす一同。
「ユーリの言った通り、フリーディアとエルフが全力でぶつかれば、世界そのものを破壊しかねない。神の庭であるこの世界を傷つける行いは、教義に反するわ」
「エレミィ……」
「イリス、予定変更よ。我々エルフはフリーディアとの停戦交渉に乗り移るわ。但し、条件はあくまで対等に。
フリーディアに先ずはエルフの恐ろしさを知ってもらわなくちゃいけない。そのために少なくない犠牲を与えることになるけれど、ユーリもそれで納得してくれるかしら?」
「……分かった」
ユーリ自身も一人も犠牲者を出さずに戦争が終わるとは思っていない。エレミヤたちエルフに危機感を感じてもらえただけで、充分すぎる成果だった。
もう同族を失った時のような悲劇は起こしてはいけない。こちらで打てる手は打ったため、残る懸念点を解消しなければならない。
(ダリル・アーキマン……それに、シャーレ・ファンデ・ヴァイゼンベルガー)
アルギーラで邂逅したユーリの敵。恐らく彼らは停戦交渉など無視する筈。今のユーリでは正面からやり合っても勝てる保証はない。
生半可な修行じゃ意味がない。短期間で強くなるための方法は頭の片隅に置いてある。だけど、果たしてそれが正解なのかどうか分からない。
「どうかしたの、ユーリ?」
本来なら喜ぶべき事態であるにも関わらず、深刻な表情で葛藤するユーリを見たナギが不安げな面持ちで尋ねてくる。
「ごめん、実はちょっと……俺自身のことについて考えてた」
「ユーリ、自身……?」
「あぁ。イリスも言ってただろ? 俺には何かがあるって。自分のことなのにそれが分からないのが、恐ろしいんだ……。
妙な因子とやらを持つ俺は、一体何者なんだろうって」
入隊したては赤子に等しかったユーリが、短期間でビースト屈指の実力を持つナギを討ち破り、歴戦の強者であるクレナ・フォーウッドに匹敵するまでに至った。
ハッキリ言って異常だ、普通じゃない。その異常さが、シャーレやダリルの興味を引いたとするなら尚のこと知らねばならない。
「エレミヤ」
「ん?」
「聞きたいんだけど、俺と夢で会ったのってその千里眼の力なのか?」
「えぇそうよ。私の千里眼は世界の景色を見通すだけに非らず。過去、現在、未来含めた視るという行為全てが実現可能よ。
それを相手に見せることも、ね。能力の工夫次第で、他者の夢に介入することだってできちゃうんだから!」
えっへん、と胸を張るエレミヤ。もしそれが真実だとするのなら、千里眼は最強に位置する能力だ。けれど――
「いや、未来は嘘だろ。一見万能に聞こえるけど、制約がかなりあるんじゃないか?」
「(ギクッ)」
誇張して語ったことがバレたのか、露骨に動揺を見せるエレミヤにイリスは深い溜め息を吐いた。
「コホンッ、その……ユーリはひょっとして私の千里眼を使って自身の過去を知ろうとしてるってこと?」
「あぁ」
エレミヤは機転が効くし、察しもいいので話が早くて助かる。
「できなくはないと思うけど、何分初めてのことだから、どうなるか分からないわよ?
過去を覚えてないということは、あなたが本音で思い出したくないと思っているからかもしれない。それを無理矢理引っ張り上げたら、今の人格に影響を及ぼす可能性だって――」
「それでもやってほしい。頼む、俺にできることならなんでもする。エレミヤだけが頼りなんだ」
真摯に頭を下げるユーリに、止めようとしていたナギたちも推し黙るしかない。沈黙が空間を支配し、無情に時が過ぎ去っていく。
ユーリは決して頭を上げず、エレミヤは葛藤し悩み続けている。そして――
「……エレミィ」
「え?」
「私のこと、エレミィって呼んでくれたらやってあげる。成功する保証なんてどこにもないけど、将来の夫の頼みを聞くのも立派な妻の役目だわ」
「あぁ! ありがとう、エレミィ!!」
夫、妻云々はスルーして、ユーリはありったけの感謝を込めて礼を言う。
これがユーリと最後の会話になるとは、この時は誰も思ってはいなかった。
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