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第四章 種族会談
第83話 姉御
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「で、テメェはいつまで私に付いてくるつもりだ?」
あれから一時間、ずっと後ろを付いてくるダニエルにファルラーダは顰めっ面で問いかける。
「もちろん、姉御が弟子にしてくれるまでだ」
即答するダニエルに、ファルラーダは深い溜め息を吐く。本当に余計なことをしてしまったと後悔している様子だ。
「つか何勝手に姉御呼ばわりしてんだ、ふざけんなよコラ。テメェを弟子にした覚えはねぇぞ」
「だって、姉御が名前教えてくれないから……」
「愚物に名乗る名などない。そもそもテメェとはこの先一生会うこともねぇだろうよ。いい加減諦めて消えろ。私の気が変わらねぇ内にな」
ファルラーダからすればダニエルなど道端に転がる石程度にしか思っていない。しかし、彼は一向に諦める様子を見せない。むしろ「カッケェ」と目をキラキラと輝かせる始末。
ダニエルからすればファルラーダは強くて、格好よくて、綺麗で、何より美しい――まさにヒーローのような存在だった。
父の死、驕り高ぶった挙句仲間を死なせ、生き恥を晒したダニエルだがファルラーダとの出会いによって新たな生きる希望を見出した。
先程の鮮烈すぎた光景。傷の痛みすら忘れひたすら魅入られた。暴力が全てを支配するこの世界で、暴力によって誰かを救う存在がいる。
まだ六歳のダニエルが彼女のようになりたいと夢を見るのはある意味当然といえる結果だ。
「俺は、今まで暴力は人を傷付けるだけのものだと思ってた。けど、あんたに出会って暴力は人を助けるためにも使えるってことを知った!!
俺はあんたみたいに誰かのために暴力を振るえる人間になりたい!! だから、お願いします! 俺をあんたの弟子にしてください!!」
「……その暴力のために、全てを捨てる覚悟はあんのか?」
「もちろんです!」
「………………」
絶対に諦めないというダニエルの気持ちが表情からひしひしと伝わりファルラーダがついに根負けする。
「……ハァ、分かったよ。面倒を見てやる。どうやら私はテメェのことを甘く見ていたようだ」
と、渋々ながら彼女は頷いた。
「見所あるじゃねぇか、クソガキ。私はテメェみたいな人物こそを探していた。その心は大事にしておけ。ただ腕っ節が強いだけじゃ意味がねぇ。内に巣食う心の強さこそが、人間の本当の武器なんだからな」
「ッ、あ、ありがとうございます!!」
誰かに認めてもらえることが、これ程嬉しいことだとは思わなかった。ダニエルは歓喜に震え勢いよく頭を下げる。
こうして、無事にファルラーダとダニエルの師弟関係が結ばれたのだった。
◇
ファルラーダ・イル・クリスフォラスとの出会いはダニエルにとって人生の大きな転機の一つだ。忌まわしき暴力を、誰かを助けるために使う。その信念がダニエルの中で芽生えた瞬間だった。
「それで姉御、今からどこに行こうとしてるんだ?」
「あ? 病院だけど?」
「病院って、姉御どっか怪我でもしたのか!?」
スラム街では到底聞き慣れぬ病院という名だが、父に与えられた知識の中で知っていたためダニエルは素直に驚いた。
「アホか、自分の状態くらい把握しておけ。今歩いてるだけでも不思議なくらいの大怪我だぞ?」
「?」
ダニエルからすればこの程度の怪我は日常茶飯なので特に気にしていなかったが、どうやら彼女の目にはそう映っていないらしい。
「頑丈なのは大したもんだが、何事も限界というものはある。私は限界とは無縁の存在だが、テメェは違うだろ?」
確かに、言われてみれば身体が悲鳴を上げているかのように感じる。ここは無理せず素直にファルラーダの好意に甘えることにした。
とはいえスラム街で病院の存在など聞いたことがない。ファルラーダは何も言わずに、聳え立つ古びた廃墟の中へと入っていく。
薄暗い通路を進み、やがて一つの部屋に辿り着く。何の変哲もないボロ部屋だが、ファルラーダが床に手を当て、ガコンという音と共に地面の一部が開き、地下へと続く階段が現れた。
二人は階段を下りていくと、そこにはさらに空間が広がっており、奥へと続いている。
二人は地下通路を無言で歩き続ける。ファルラーダの背を見て改めて思う。彼女は一体どこから来たのだろう?
スラム街の生まれでないことは確かだ。ドレスなどと目立つ恰好をしていればすぐに噂になる。
やがて通路の出口に辿り着いたが、あまりにも高い位置にある。梯子すら存在せず、どうやってここから出るのか疑問に思ったダニエルだが、グイッとボロボロの服の襟首をファルラーダが掴んだ瞬間全てを察した。
「え? ちょ、うぉあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
何とファルラーダはダニエルの身体をそのまま真上に放り投げたのだ。ダニエルは悲鳴を上げながらも空中で体勢を整え、綺麗に着地する。
次いでファルラーダもその場でジャンプして、地上へと躍り出る。何度見ても驚かされるファルラーダの身体能力に呆然としていると彼女から声がかかる。
「スラム生まれじゃ知らねぇだろうが、この世界には魔術武装って代物があんだよ。そいつを媒介にして私たちは魔力を放出するだけじゃなく、体内に巡らせ身体能力を強化することもできるんだ。
ま、覚えておいて損はない」
「魔術武装……じゃあ姉御があれだけ強いのはその魔術武装ってやつのおかげなのか?」
「いいや、今は魔術武装を持ってねぇ。素面でこれだよ」
「………………」
ダニエルは今度こそ言葉を失う。
「私は生まれつき身体と魔力のリミッターがぶっ壊れてるらしくてな。常に全開状態だから力の加減が難しいんだ――って無駄話はこれくらいにしてさっさと行くぞ」
そう言って再び歩き出すファルラーダの後ろをダニエルは必死に付いていく。そして暫く進むと、彼の目に見たこともない鉄の機械じみた塊が存在し、その横にダークスーツに身を包んだ偉丈夫な男が立っていた。
偉丈夫な男はファルラーダの姿を確認すると、恭しく一礼する。
「お帰りなさいませ、お嬢」
お嬢!? と目を見開くダニエル。
「そちらの御仁は?」
サングラス越しから覗く鋭い視線にダニエルは僅かに緊張の色を見せる。
「待たせたなスクライド。こいつは土産だ。今日から家で面倒をみることにしたから手厚く扱ってやれ。それから見ての通りヒデェ怪我だから帰る前に病院寄ってくれ」
「畏まりました。どうぞお乗りください」
そう言ってスクライドと呼ばれた男性は鉄の塊にある扉を開く。
「安心しろ。別にとって食いやしねぇよ。これは車といって、人間が移動手段に使う乗り物だ」
「すげぇ、こんなもんが世の中に存在すんのか」
初めて見る車にダニエルは興味津々だった。
恐る恐る乗車すると、ファルラーダが隣に座りスクライドに発進するよう指示を出す。車がゆっくりと前進し、ダニエルは窓から見える景色に目を輝かせた。
「外の世界を見るのは初めてか?」
「あぁ。凄ぇ、スラムなんて目じゃないくらい凄ぇ!!」
あっという間に流れていく外の景色、そこから覗くのはどこまでも広がる街並み。そして高速で移動していく対向車。全てが新鮮で、ダニエルの心を踊らせた。
「そういえば、さっきお嬢って言われてたけど、もしかして姉御は貴族なのか?」
ダニエルの問いにファルラーダは首を横に振る。
「貴族なんて古臭ぇ言い方今はしねぇし、違う。
私はどっちかというとその逆。フリーディア統合連盟軍に属さない裏社会の人間さ」
「裏社会……」
「テメェも今日から裏社会の住人の仲間入りだ。私に師事するとはそういうこと。陽の目を浴びる生活には二度と戻れねぇと思え」
脅すような口調だが、ダニエル自身もスラムに戻る気などさらさらなかった。決意に満ちた表情に満足したのかファルラーダは続ける。
「お前には今後、裏社会に関連する仕事に就いてもらう。報酬は弾むぜ? テメェみたいなクソガキが裏社会の人間だなんて誰も思わねぇ。愚鈍なテロリスト共を誘い出すいい餌になる」
「いいのか姉御? 弟子にしてくれただけでも充分なくらいなのに、お金なんて……」
「これは正当な対価だ。金は雇い主と雇い人を繋ぐ信用を形にしたもの。
私が雇い主でテメェはその金の分充分な働きをしてもらう。暴力で誰かを救いたいと願うテメェにピッタリの仕事だ」
「分かった!」
ダニエルには表の世界の常識がない。いきなり放り出されるよりは、裏の世界で暴力を活かして生きていく方がマシだ。
ダニエルの素直な返事に満足げな表情で頷くファルラーダ。
「やはりスラムに足を運んで正解だった。表の人間は根性ってもんがないからいけねぇ。裏社会で生きていくためには暴力の世界で鍛え上げられた根性のある奴が適任だ」
「姉御がスラムにいたのは、ひょっとして裏の社会で使える人材をスカウトするため?」
「まぁな。高学歴で気取った訳の分からん愚物など信用できんし、実際に目で見て確かめた方が手っ取り早い。
糞溜め以下の世界の中で、惑わされず心を保ったまま、真に誰かのために生きようとする人種を私は好んでいる」
「……姉御」
つまりダニエルはファルラーダに気に入られたということ。それが分かると同時に胸が熱くなり、ダニエルは強く拳を握りしめた。
「なぁ、クソガキ。私は近い内に首都エヴェスティシアへ赴く。そこで世界の真実を見定めるつもりだ。
だからテメェが私の弟子でいられる時間はそう無い」
「………………」
突然のファルラーダの宣言にダニエルの表情が曇る。世界についてほとんど何も知らないダニエルだが、彼女が今ある世界の理を見定め、暴力を以って破壊するつもりなのだと悟った。
「安心しろ、私がいる間はみっちりシゴイてやる。テメェは見所もあるし、すぐに戦力になるはずさ」
そうして病院へと辿り着き、ダニエルは手厚い治療を受け、裏社会を支配するクリスフォラス家へと足を踏み入れたのだった。
あれから一時間、ずっと後ろを付いてくるダニエルにファルラーダは顰めっ面で問いかける。
「もちろん、姉御が弟子にしてくれるまでだ」
即答するダニエルに、ファルラーダは深い溜め息を吐く。本当に余計なことをしてしまったと後悔している様子だ。
「つか何勝手に姉御呼ばわりしてんだ、ふざけんなよコラ。テメェを弟子にした覚えはねぇぞ」
「だって、姉御が名前教えてくれないから……」
「愚物に名乗る名などない。そもそもテメェとはこの先一生会うこともねぇだろうよ。いい加減諦めて消えろ。私の気が変わらねぇ内にな」
ファルラーダからすればダニエルなど道端に転がる石程度にしか思っていない。しかし、彼は一向に諦める様子を見せない。むしろ「カッケェ」と目をキラキラと輝かせる始末。
ダニエルからすればファルラーダは強くて、格好よくて、綺麗で、何より美しい――まさにヒーローのような存在だった。
父の死、驕り高ぶった挙句仲間を死なせ、生き恥を晒したダニエルだがファルラーダとの出会いによって新たな生きる希望を見出した。
先程の鮮烈すぎた光景。傷の痛みすら忘れひたすら魅入られた。暴力が全てを支配するこの世界で、暴力によって誰かを救う存在がいる。
まだ六歳のダニエルが彼女のようになりたいと夢を見るのはある意味当然といえる結果だ。
「俺は、今まで暴力は人を傷付けるだけのものだと思ってた。けど、あんたに出会って暴力は人を助けるためにも使えるってことを知った!!
俺はあんたみたいに誰かのために暴力を振るえる人間になりたい!! だから、お願いします! 俺をあんたの弟子にしてください!!」
「……その暴力のために、全てを捨てる覚悟はあんのか?」
「もちろんです!」
「………………」
絶対に諦めないというダニエルの気持ちが表情からひしひしと伝わりファルラーダがついに根負けする。
「……ハァ、分かったよ。面倒を見てやる。どうやら私はテメェのことを甘く見ていたようだ」
と、渋々ながら彼女は頷いた。
「見所あるじゃねぇか、クソガキ。私はテメェみたいな人物こそを探していた。その心は大事にしておけ。ただ腕っ節が強いだけじゃ意味がねぇ。内に巣食う心の強さこそが、人間の本当の武器なんだからな」
「ッ、あ、ありがとうございます!!」
誰かに認めてもらえることが、これ程嬉しいことだとは思わなかった。ダニエルは歓喜に震え勢いよく頭を下げる。
こうして、無事にファルラーダとダニエルの師弟関係が結ばれたのだった。
◇
ファルラーダ・イル・クリスフォラスとの出会いはダニエルにとって人生の大きな転機の一つだ。忌まわしき暴力を、誰かを助けるために使う。その信念がダニエルの中で芽生えた瞬間だった。
「それで姉御、今からどこに行こうとしてるんだ?」
「あ? 病院だけど?」
「病院って、姉御どっか怪我でもしたのか!?」
スラム街では到底聞き慣れぬ病院という名だが、父に与えられた知識の中で知っていたためダニエルは素直に驚いた。
「アホか、自分の状態くらい把握しておけ。今歩いてるだけでも不思議なくらいの大怪我だぞ?」
「?」
ダニエルからすればこの程度の怪我は日常茶飯なので特に気にしていなかったが、どうやら彼女の目にはそう映っていないらしい。
「頑丈なのは大したもんだが、何事も限界というものはある。私は限界とは無縁の存在だが、テメェは違うだろ?」
確かに、言われてみれば身体が悲鳴を上げているかのように感じる。ここは無理せず素直にファルラーダの好意に甘えることにした。
とはいえスラム街で病院の存在など聞いたことがない。ファルラーダは何も言わずに、聳え立つ古びた廃墟の中へと入っていく。
薄暗い通路を進み、やがて一つの部屋に辿り着く。何の変哲もないボロ部屋だが、ファルラーダが床に手を当て、ガコンという音と共に地面の一部が開き、地下へと続く階段が現れた。
二人は階段を下りていくと、そこにはさらに空間が広がっており、奥へと続いている。
二人は地下通路を無言で歩き続ける。ファルラーダの背を見て改めて思う。彼女は一体どこから来たのだろう?
スラム街の生まれでないことは確かだ。ドレスなどと目立つ恰好をしていればすぐに噂になる。
やがて通路の出口に辿り着いたが、あまりにも高い位置にある。梯子すら存在せず、どうやってここから出るのか疑問に思ったダニエルだが、グイッとボロボロの服の襟首をファルラーダが掴んだ瞬間全てを察した。
「え? ちょ、うぉあぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
何とファルラーダはダニエルの身体をそのまま真上に放り投げたのだ。ダニエルは悲鳴を上げながらも空中で体勢を整え、綺麗に着地する。
次いでファルラーダもその場でジャンプして、地上へと躍り出る。何度見ても驚かされるファルラーダの身体能力に呆然としていると彼女から声がかかる。
「スラム生まれじゃ知らねぇだろうが、この世界には魔術武装って代物があんだよ。そいつを媒介にして私たちは魔力を放出するだけじゃなく、体内に巡らせ身体能力を強化することもできるんだ。
ま、覚えておいて損はない」
「魔術武装……じゃあ姉御があれだけ強いのはその魔術武装ってやつのおかげなのか?」
「いいや、今は魔術武装を持ってねぇ。素面でこれだよ」
「………………」
ダニエルは今度こそ言葉を失う。
「私は生まれつき身体と魔力のリミッターがぶっ壊れてるらしくてな。常に全開状態だから力の加減が難しいんだ――って無駄話はこれくらいにしてさっさと行くぞ」
そう言って再び歩き出すファルラーダの後ろをダニエルは必死に付いていく。そして暫く進むと、彼の目に見たこともない鉄の機械じみた塊が存在し、その横にダークスーツに身を包んだ偉丈夫な男が立っていた。
偉丈夫な男はファルラーダの姿を確認すると、恭しく一礼する。
「お帰りなさいませ、お嬢」
お嬢!? と目を見開くダニエル。
「そちらの御仁は?」
サングラス越しから覗く鋭い視線にダニエルは僅かに緊張の色を見せる。
「待たせたなスクライド。こいつは土産だ。今日から家で面倒をみることにしたから手厚く扱ってやれ。それから見ての通りヒデェ怪我だから帰る前に病院寄ってくれ」
「畏まりました。どうぞお乗りください」
そう言ってスクライドと呼ばれた男性は鉄の塊にある扉を開く。
「安心しろ。別にとって食いやしねぇよ。これは車といって、人間が移動手段に使う乗り物だ」
「すげぇ、こんなもんが世の中に存在すんのか」
初めて見る車にダニエルは興味津々だった。
恐る恐る乗車すると、ファルラーダが隣に座りスクライドに発進するよう指示を出す。車がゆっくりと前進し、ダニエルは窓から見える景色に目を輝かせた。
「外の世界を見るのは初めてか?」
「あぁ。凄ぇ、スラムなんて目じゃないくらい凄ぇ!!」
あっという間に流れていく外の景色、そこから覗くのはどこまでも広がる街並み。そして高速で移動していく対向車。全てが新鮮で、ダニエルの心を踊らせた。
「そういえば、さっきお嬢って言われてたけど、もしかして姉御は貴族なのか?」
ダニエルの問いにファルラーダは首を横に振る。
「貴族なんて古臭ぇ言い方今はしねぇし、違う。
私はどっちかというとその逆。フリーディア統合連盟軍に属さない裏社会の人間さ」
「裏社会……」
「テメェも今日から裏社会の住人の仲間入りだ。私に師事するとはそういうこと。陽の目を浴びる生活には二度と戻れねぇと思え」
脅すような口調だが、ダニエル自身もスラムに戻る気などさらさらなかった。決意に満ちた表情に満足したのかファルラーダは続ける。
「お前には今後、裏社会に関連する仕事に就いてもらう。報酬は弾むぜ? テメェみたいなクソガキが裏社会の人間だなんて誰も思わねぇ。愚鈍なテロリスト共を誘い出すいい餌になる」
「いいのか姉御? 弟子にしてくれただけでも充分なくらいなのに、お金なんて……」
「これは正当な対価だ。金は雇い主と雇い人を繋ぐ信用を形にしたもの。
私が雇い主でテメェはその金の分充分な働きをしてもらう。暴力で誰かを救いたいと願うテメェにピッタリの仕事だ」
「分かった!」
ダニエルには表の世界の常識がない。いきなり放り出されるよりは、裏の世界で暴力を活かして生きていく方がマシだ。
ダニエルの素直な返事に満足げな表情で頷くファルラーダ。
「やはりスラムに足を運んで正解だった。表の人間は根性ってもんがないからいけねぇ。裏社会で生きていくためには暴力の世界で鍛え上げられた根性のある奴が適任だ」
「姉御がスラムにいたのは、ひょっとして裏の社会で使える人材をスカウトするため?」
「まぁな。高学歴で気取った訳の分からん愚物など信用できんし、実際に目で見て確かめた方が手っ取り早い。
糞溜め以下の世界の中で、惑わされず心を保ったまま、真に誰かのために生きようとする人種を私は好んでいる」
「……姉御」
つまりダニエルはファルラーダに気に入られたということ。それが分かると同時に胸が熱くなり、ダニエルは強く拳を握りしめた。
「なぁ、クソガキ。私は近い内に首都エヴェスティシアへ赴く。そこで世界の真実を見定めるつもりだ。
だからテメェが私の弟子でいられる時間はそう無い」
「………………」
突然のファルラーダの宣言にダニエルの表情が曇る。世界についてほとんど何も知らないダニエルだが、彼女が今ある世界の理を見定め、暴力を以って破壊するつもりなのだと悟った。
「安心しろ、私がいる間はみっちりシゴイてやる。テメェは見所もあるし、すぐに戦力になるはずさ」
そうして病院へと辿り着き、ダニエルは手厚い治療を受け、裏社会を支配するクリスフォラス家へと足を踏み入れたのだった。
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