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第三章 最厄の饗宴
第54話 神話
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アルギーラへ来て二日目の夜、ユーリとサラはミグレットを連れビーストの住処へと戻っていた。
「おかえりなさい! ユーリ、サラぁぁ…………ぁ?」
帰ってきたユーリたちを笑顔で出迎えるナギがシオンと変わらぬ背丈のミグレットへと視線を向け困惑の表情を漂わせている。
当然だ、ゲオルグに会いに行ったユーリたちがまさかドワーフを連れ帰るなどと想像できるはずもない。
え、何でドワーフ連れてきちゃったの? とナギは視線で語りかけ、ユーリは色々あってこうなったと肩を竦め同じく視線だけで応じる。
ごめん全然意味が分からないんだけど、と再び視線で訴えるナギに対しサラが代わりに応じた。
「ごめんね、ナギ。この子ミグレットっていうんだけどしばらくこっちで預かってもいいかな?」
「えと、それは構わないけど……いいの?」
ナギの言わんとしていることはユーリとサラにも伝わっている。
アルギーラを脱出しようとしているビーストはドワーフと敵対することになるやも知れぬのだ。
このことは万が一にも気取られてはならない。そのことを一番よく分かっているはずの二人が事情もなくドワーフを連れてくるわけがないと信頼してのナギの発言だ。
預かるにしても長くてニ日程度。いざその時が来ればミグレットを見捨てなければならない。
ユーリもサラも理解している。けれどこれは理屈とはかけ離れた種族が懐く共通の感情――二人とも、落ち込んでいる女の子を放っておけなかっただけなのだ。
「迷惑かけるな、ナギ」
「ううん。むしろ連れてきてくれて良かった。もしもその子を見捨ててたらユーリのこと幻滅してただろうから」
ナギの優しい言葉にユーリの心は僅かに軽くなったのを感じた。そよ風が注ぎ込み自分のしたことは間違いじゃなかったんだと思える。
「こんばんは、ミグレット。確か一回だけ会ったことあったよね?」
ナギは落ち込むミグレットへ向け話しかける。
「……自分のこと覚えてたでやがりますかこんちくしょう。ゲオルグ様に見捨てられた自分なんかに優しくしてもそっちにメリットなんてねぇですよ」
力なくどこか諦めを伴った声音でミグレットは俯きナギへ告げる。現時点でミグレットを匿うメリットはビーストにはない。むしろデメリットの方が大きい。
ミグレットはドワーフ。彼女はアルギーラへ匿う代わりにビーストを手足のように使っていることも知ってる。彼女個人はサラと少し交流があるのみだが、ビーストがドワーフに対し、あまり快く思っていないことはよく分かっていた。
「助けるのに、理由なんている?」
だから、返ってきた言葉はミグレットにとって想定外だった。顔を上げるミグレット。そこには一切の悪意を感じさせない純粋な瞳を向けるナギの姿が映った。
「ユーリもサラもただお前が心配だから連れてきただけ。種族がどうだの、そんなの関係ない。でしょ、ユーリ?」
「そうだな。あんなに落ち込んでるお前を放っといてなんて行けないよ」
ナギの問いかけに同意する形で肯定するユーリ。
「オメェ、自分のことザマァみろとか思わねぇでやがりますか?」
「そこまで性格悪くないっての! どっちかと言えばお前に対しては申し訳ないという気持ちの方が強い……」
ミグレットがこうなった要因は間違いなくユーリにある。彼がミグレットのもとへ訪れなければ起こり得なかった出来事だ。
「オメェが気にする必要はねぇです、こんちくしょう。遅いか早いかの違いで何れはこうなってやがりましたから。
自分のヘマで迷惑かけてこっちこそ申し訳ねぇですよ」
爆発の原因は間違いなくユーリの再現したエレメンタルバレットによるものだが、ミグレットはそうは思ってないらしい。素直に謝る彼女に罪悪感を募らせるユーリだった。
「お父さんが自分を見てねぇことくらい分かっていたですよ。
あの人は高みしか見えてねぇんです。神を超えるマジックアイテムを造るのが、あの人の昔からの夢でやがりましたから」
「つまりゲオルグは魔術武装の技術を流用して別の何かを生み出そうとしてるってことか?」
確かゲオルグは去り際にアレがどうのと言っていた。ゲオルグが造り出そうとしている何かは、フリーディアにとって根幹を揺るがすものになるのかもしれない。
言い知れぬ不安を抱えながらユーリはミグレットの言葉に集中する。
「その通りでやがりますよこんちくしょう。昔はあぁじゃなかったんですよ。
多分本人は否定するでしょうけど、あの人が変わったのはエルフと出会ってから。詳しくは分からねぇですけど、マジックアイテム以上の神秘を見たに違いねぇです。
その日以降人が変わったみたいに、豹変して世界全てを犠牲にしてでも高みへ至ろうとしてやがりましたからね」
「エルフ……」
まだ見ぬ新たな異種族の存在。確かドワーフとは同盟関係にあるとゲオルグは言っていた。
一体どんな種族なのか。どれほどの脅威なのかユーリは知っておく必要がある。
「まだ世界に神が現存していた時代に存在していた何か。神に最も近い存在と噂されるエルフたちなら何か知ってるかもしれねぇですよ」
「神に最も近いって急にスケールが大きくなったな。その……エル、フ? ってそんなに凄い種族なのか?」
シオンから聞いた話では神が亡くなり、嘆き悲しんだ世界が新たに誕生させたのが彼女たち異種族ということ。
つまり神はナギたちの祖先にあたる存在。その神に最も近いと謳われる種族について、ユーリは何気なく問いかけるが。
「オメェ何でエルフの発音がカタコトになってるでやがりますか? 学が無いの丸わかりだから一から出直してこいですよこんちくしょう」
ミグレットから返ってきたのは容赦の欠片もない痛烈な罵声だった。
「しょうが無いだろ! エルフなんて言葉、ゲオルグさんから聞いて初めて知ったんだし――むぐッ」
「は?」
「「わーーーーーーーー!!」」
ポカンと口を開け惚けるミグレットへユーリの口を抑えたナギとシオンが取り繕うように声を上げる。
二人の反応を見てユーリも己の失態に気付き猛省した。今の自分はフリーディアではない。ビーストなのだ。異種族の常識を知らないなど本来あってはならないこと。
「わ、私もっとユーリに教えておくべきだった。ユーリがエルフのこと知らないとか聞いてない(ボソッ)」
横でナギも自身の常識がいかにフリーディアたちに通じないのか改めて実感し反省していた。
「……オメェ、信じられねぇくらいのバカだったんでやがりますねこんちくしょう」
どうやらミグレットはユーリを常識のない本物のバカだと判断したらしい。憐れみ深い視線が突き刺さり何ともいえない気持ちになってしまう。
正体を明かせない故のもどかしさにユーリは心の中で学生の時は結構成績良かったんだぞ、と言い訳することで何とか溜飲を下げた。
「そうだミグレット、良かったらユーリに色々教えてあげて? 彼、昔から勉強全くできなくて私たちが教えても全然覚えてくれないの!」
「むぐぐっ」
ユーリを完全にバカ扱いするナギの提案に思わず抗議の声を上げるも無視される。
ナギとサラに未だに口を抑えられているため、ミグレットにはユーリが何を言いたいのか伝わらない。
「え、自分が……でありますか? この淫獣に?」
ミグレットが嫌そうに汚物を見るような視線をユーリへ向け答える。
「いん……じゅう?」
聞き慣れぬ単語にナギが僅かに首を傾げ思案する。
ユーリとしては今すぐ止めてほしいところだが、口を抑えられている状況ゆえに声を出しても届かないため仕方なく諦めることにした。
「とにかく、お願いできない? ご飯もご馳走するよ?」
ナギが言い終えると同時、ぐぅ~と可愛くミグレットのお腹が鳴き出す。
「まぁ、どうせ行くとこもないですし、ご相伴に預かるとするですよこんちくしょう」
どこか恥ずかしそうに呟くミグレットに一同は微笑みを見せるのだった。
◇
その後、ミグレットを他の同族たちに紹介したが、彼らはあっさりと迎い入れてくれた。ナギへの信頼が厚いのだろう。彼女が認めた人物ならば種族関係なく歓迎する方針でいるようだ。
そのことにユーリの胸に暖かさが灯る。
フリーディアにも異種族を認めてほしい。もしかしたら異種族と共存することもできるのでは? と思ってしまう。
叶わぬ夢――というわけではない。小さな範囲だが、ここにはフリーディア、ビースト、ドワーフが同時に存在しているのだから。
あり得るかもしれないもしもを思い描きながら現在ユーリはビーストの子供たちと戯れながらミグレットの到着を待っている。
どうやらサラはミグレットをどうしてもお風呂に入れたかったようで嫌がる彼女を無理矢理引っ張って行ってしまった。
ナギは非戦闘員のビーストと共に料理に励んでいる。何もしないのも良くないと思い手伝いを申し出たのだが、最初は快く受け入れてくれたのに数分もすると、ナギ含めた同胞たちが鬼気迫る表情で「お願いだから余計なことしないで」と言い追い払われてしまったのだ。
どうやら置いてあった調味料を全部鍋に放り込んだのが原因らしい。
ユーリ・クロイスの人生において料理を作るという行為は初めてのことだったので、ぜひ挑戦してみたかったのだが……。
そういえば昔も侍女たちに家事の手伝いを申し出たら、鬼気迫る勢いで断られたなと実家に住んでいた日々を思い出す。
そんなことを考えながら過ごすこと一時間。ようやくサラは皆が食堂としているテントへ顔を出した。
「ごめんね、待たせて」
机にはすでに色とりどりの料理が並べられており、子供たちはよだれを垂らしながらまだか、まだかと待っていた。
申し訳なさそうに謝るサラへ向け気にしなくていいとユーリは述べたがミグレットの姿がないことを疑問に思った。
「あれ? サラ、ミグレットは一緒じゃないのか?」
尋ねるユーリに対しサラは困ったような笑みを浮かべ答える。
「えと、一応テントの外にいるんだけど恥ずかしがって出てこないの」
「は? 何で今更……。もしかして俺たちと食うのが嫌だとか?」
「ううん、本人はむしろ食べたいって言ってる。ただちょっと……そのぉ」
「ったく、何やってるんだアイツは」
もどかしげなサラに対し、ユーリは本当何なんだと立ち上がりミグレットを無理矢理引っ張ろうと思い出しテントの外へ出る。
「おーい、ミグレット。そんな恥ずかしがんなくても今更――――――え?」
刹那、ユーリはあり得ないものを見たかのように硬直した。
「うひゃぁぁぁぁっ!?!? な、何でオメェが出てくるでやがりますかこんちくしょう!!」
「あ、…………え?」
端的に状況を説明するならば、ユーリの目の前に絶世の美少女がいた。
可愛いなどという言葉でしか彼女を表現できないのが惜しい。茶色の癖っ毛と幼さを残す顔立ちが愛嬌を形作っており、パッチリとした二重にプルリと艶のある唇。思わずキスしてしまいそうになるほどのミルク色の肌にユーリ自身は我慢できないとばかりに叫ぶ。
「って、誰ぇぇぇぇぇっーーーー!?!?」
過去最大限の驚愕を前に目の前の美少女は憤慨した様子で言葉を返す。
「オメェ何寝惚けたこといってやがりますですかこんちくしょう!
バカは一時間で人の顔忘れやがるんですね!」
「そ、その生意気で特徴的な言葉遣い……お前まさかミグレットか!?」
「他に誰がいやがるですかこんちくしょう!」
抗議の声を上げるミグレット。
そう、ミグレットだ。先の煤汚れたボサボサの髪と野暮ったい格好をしていたユーリのよく知るミグレット。
「お前何で風呂入っただけでそんなに可愛くなるんだよ!」
と、ユーリは叫ばずにいられなかった。
「か、可愛ッ!? な、何突然発情してやがるんですかこの淫獣が!」
「お前こそ、どんだけ風呂入ってなかったらあんなに汚くなるんだよ! 最後に風呂入ったのいつだよ!?」
「…………い、一ヶ月くらい前」
「それはあぁなるよな! お前そんだけ可愛くなれるなら普段から風呂入った方がいいぞ。
俺が会った女の子の中でお前が断トツでぷりちーで、一番可愛い。正直今すぐにでも抱きしめたい頭撫でたい頬擦りしたい」
「オメェ本当何言ってやがるですか、こんちくしょう!?」
ユーリも自分がとんでもない発言をしているのを理解しているが、ミグレットの可愛さの前に羞恥心も吹き飛んでいた。
これは情欲などという穢らわしい感情ではない。純粋にただただ可愛いのだ。あれ程生意気だと感じた彼女の口調も今となっては可愛らしさを際立たせるための付属品としか思えない。
「――ユーリ、私には可愛いの一言も言ってくれなかったのに、ミグレットには言うんだ……言っちゃうんだ」
「はっ!?」
殺気を感じ振り向くと、そこには頬を膨らませ不機嫌そうな表情をしているナギの姿が。
「違う、違うからなナギ。俺がミグレットに対して言った可愛いはシオンと同じというか、愛くるしい小動物を愛でる気持ちで見ていた……、ん」
「…………ふーん」
ナギの失望したような視線を受けユーリの背筋に冷や汗が伝い、最悪の空気のまま夕食を摂ることになってしまった。
◇
その後、紆余曲折あり何とかナギの機嫌を戻しつつ、食器を片付け約束通りミグレットに異種族の歴史を教わることとなった。
「――って、何でちゃっかり数が増えてやがるんですかこんちくしょう!」
解散となった食堂にはミグレットとその両脇にはナギとサラがそれぞれ座っている。
一方ユーリはミグレットの対面側の椅子に腰を降ろし、その周りを囲うようにシオン含めたビーストの子供たちが集まっていた。
「ミグレットせんせー! シオンもせんせーに歴史をおそわりたいです!!」
ピョンッとユーリの膝の上に乗り元気に手を上げるシオン。
そんなシオンに追随する形で「おれも」「わたしも」と手を上げる子供たちにミグレットは小さく溜め息を吐き。
「まぁ、ご飯も食べさせてもらったわけですし今更何人増えようが構わねぇですよこんちくしょう」
と諦めの籠もった声を上げた。
「で、そこのバカ。一体何が分からねぇでやがりますか?」
「全部です先生!」
素直に告げたユーリだが、ミグレットはドン引きしていた。コイツマジ? と云わんばかりの表情で頬をヒクつかせるミグレットを見てユーリは大いに傷ついた。
これはもう正体を明かした方が早いのではないかと思ったユーリだが、万が一ミグレットが仲間に告げた場合全て台無しとなってしまう。
ゲオルグに追放されたとはいえ、ミグレットはドワーフなのだから。
「えと、それなら神について教えてください!」
「そこから!? その年で神を知らねぇとか本当オメェの頭どうなってるです、こんちくしょう!」
「す、すみません」
子供でも知っている神について何も知らないユーリは、わりと真面目にミグレットに怒られてしまった。
「コホンッ、それじゃまず基本中の基本から説明していくですよ――神は世界が一番最初に生み出した種族。全ての始まりであり、今の世界を形作ったのが神といわれてやがるですこんちくしょう」
ミグレットは語る。
「それは地上であり空であり海であり物資であり、この世のありとあらゆる万物全ての紀元には神が関わっていやがるです。
だから自分たちが今こうして生活できているのは世界と神のおかげなんですよこんちくしょう」
なるほど、とユーリはミグレットの説明に納得する。
ユーリにとっては統合連盟政府――レーベンフォルン家こそが絶対の神と呼ばれる存在だ。彼らがいたからこそ今こうしてユーリは生きていられる。
信仰対象の違いはあれど本質的には異種族と人類にさして違いを感じなかった。
だがミグレットの世界に対する言い方が引っかかるのは何故だろう? シオンの説明のときもそうだ。異種族は世界そのものに意志があるかのように語っている。
疑問に思ったがミグレットがまだ話している最中なので黙って耳を傾けることにした。
「けれど、神の統治による古の時代は永劫には続かなかったでやがります。
世界が神という存在を生み出したが故に悲劇は起こりやがったでやがりますこんちくしょう」
「悲劇? 確かシオンは神が死んだとかなんとか……」
「うん、そーだよー。そこまではシオンも知ってるー!」
シオンの同意にさらなる疑問がユーリの頭に生じた。
「なぁミグレット、話の途中で悪いんだが世界が生み出した神って一人だけか?」
「そう聞いてるです、こんちくしょう」
「他に生きてる奴はいない?」
「古の時代がどんなだったか、そこまで詳しくは知らねぇです。自分たちが知るのはあくまで神の辿った末路についてのみ。
寧ろ古の時代を知ることはエルフの間で禁忌とされてるんです、こんちくしょう」
「じゃあさっき言った悲劇って何なんだ? まさか世界そのものが神を殺したわけじゃないよな? 神が死んで世界は悲しんだとシオンも言ってたし」
神が死して嘆き悲しんだ後に生まれたとされるのが異種族。世界が殺したわけではないのだとしたら神の死因がますます分からなくなる。
「ひょっとして、寿命……とか?」
ユーリの問いにミグレットはゆっくりと首を横に振る。どうやら違うようだ。
「全知全能を司る神に終焉などという言葉は無縁なのですよ。そう、終わりがない。
これが重要なポイントですよ――世界と神では時間の概念が大きく異なってしまっていることに気が付けなかった故に悲劇は訪れましたですこんちくしょう」
「時間の概念……」
「世界そのものがいつから誕生したのかは誰にも分かりませんですよ。それこそ神がいつ生まれたのかも推測の域を出ていない。
どうして世界は神を創ったのか?
諸説ありますが、余計に混乱しかねないので今回は省くのですよ」
どうやら世界が神を創った理由は想像の域を出ていないようだ。
「確実に分かっていることは神が今から三○二三前に死んだということだけ。けれども世界にとっては数千年の時など瞬く間の出来事に過ぎないのです。
ここで一つ尋ねますですがオメェは千年という時を短く感じやがりますか? それとも長いと?」
「当然、長いだ」
そんなの悩むべくもない。ユーリ自身未だ十五年という時しか生きていない。
僅か十五年でこれだけの沢山の想いを懐くようになった。ユーリからしたら千年など途方も無さすぎて想像も付かなかった。
「自分もそうなのですよ。千年という時は途方もなく長い。世界はようやくそのことに気付いたのですよこんちくしょう。
だから後に生まれた全ての種族には寿命という概念を与えられ有限の命を育むことになったのですよ」
「いや、それは分かったけど答えになってないぞ。肝心の神の死因を聞いてない」
世界と神とで時間感覚にズレが存在するのは分かった。だがそれが何だという?
(違うそうじゃない。神が死んだ後に生まれた種族……? 寿命。有限の命――)
神には寿命という概念が存在しなかっということ。無限の命。終わりのない生。そうミグレットは言っていた。
(つまり神は不老不死だった? それでいて時間の感覚が俺たちと変わらないってことは――まさかッ!?)
世界の中に取り残された一人ぼっちの神様。異種族の紀元。悲しい悲しい悲劇のおとぎ話。
つまり、神の死因は。
「どうやら答えに行き着きやがりましたですねこんちくしょう。
そう、全知全能不老不死の存在たる神の死因は――"自殺"なのですよ」
ミグレットが語る異種族の歴史の真実。その衝撃的な史実を前にユーリは言葉を失った。
「おかえりなさい! ユーリ、サラぁぁ…………ぁ?」
帰ってきたユーリたちを笑顔で出迎えるナギがシオンと変わらぬ背丈のミグレットへと視線を向け困惑の表情を漂わせている。
当然だ、ゲオルグに会いに行ったユーリたちがまさかドワーフを連れ帰るなどと想像できるはずもない。
え、何でドワーフ連れてきちゃったの? とナギは視線で語りかけ、ユーリは色々あってこうなったと肩を竦め同じく視線だけで応じる。
ごめん全然意味が分からないんだけど、と再び視線で訴えるナギに対しサラが代わりに応じた。
「ごめんね、ナギ。この子ミグレットっていうんだけどしばらくこっちで預かってもいいかな?」
「えと、それは構わないけど……いいの?」
ナギの言わんとしていることはユーリとサラにも伝わっている。
アルギーラを脱出しようとしているビーストはドワーフと敵対することになるやも知れぬのだ。
このことは万が一にも気取られてはならない。そのことを一番よく分かっているはずの二人が事情もなくドワーフを連れてくるわけがないと信頼してのナギの発言だ。
預かるにしても長くてニ日程度。いざその時が来ればミグレットを見捨てなければならない。
ユーリもサラも理解している。けれどこれは理屈とはかけ離れた種族が懐く共通の感情――二人とも、落ち込んでいる女の子を放っておけなかっただけなのだ。
「迷惑かけるな、ナギ」
「ううん。むしろ連れてきてくれて良かった。もしもその子を見捨ててたらユーリのこと幻滅してただろうから」
ナギの優しい言葉にユーリの心は僅かに軽くなったのを感じた。そよ風が注ぎ込み自分のしたことは間違いじゃなかったんだと思える。
「こんばんは、ミグレット。確か一回だけ会ったことあったよね?」
ナギは落ち込むミグレットへ向け話しかける。
「……自分のこと覚えてたでやがりますかこんちくしょう。ゲオルグ様に見捨てられた自分なんかに優しくしてもそっちにメリットなんてねぇですよ」
力なくどこか諦めを伴った声音でミグレットは俯きナギへ告げる。現時点でミグレットを匿うメリットはビーストにはない。むしろデメリットの方が大きい。
ミグレットはドワーフ。彼女はアルギーラへ匿う代わりにビーストを手足のように使っていることも知ってる。彼女個人はサラと少し交流があるのみだが、ビーストがドワーフに対し、あまり快く思っていないことはよく分かっていた。
「助けるのに、理由なんている?」
だから、返ってきた言葉はミグレットにとって想定外だった。顔を上げるミグレット。そこには一切の悪意を感じさせない純粋な瞳を向けるナギの姿が映った。
「ユーリもサラもただお前が心配だから連れてきただけ。種族がどうだの、そんなの関係ない。でしょ、ユーリ?」
「そうだな。あんなに落ち込んでるお前を放っといてなんて行けないよ」
ナギの問いかけに同意する形で肯定するユーリ。
「オメェ、自分のことザマァみろとか思わねぇでやがりますか?」
「そこまで性格悪くないっての! どっちかと言えばお前に対しては申し訳ないという気持ちの方が強い……」
ミグレットがこうなった要因は間違いなくユーリにある。彼がミグレットのもとへ訪れなければ起こり得なかった出来事だ。
「オメェが気にする必要はねぇです、こんちくしょう。遅いか早いかの違いで何れはこうなってやがりましたから。
自分のヘマで迷惑かけてこっちこそ申し訳ねぇですよ」
爆発の原因は間違いなくユーリの再現したエレメンタルバレットによるものだが、ミグレットはそうは思ってないらしい。素直に謝る彼女に罪悪感を募らせるユーリだった。
「お父さんが自分を見てねぇことくらい分かっていたですよ。
あの人は高みしか見えてねぇんです。神を超えるマジックアイテムを造るのが、あの人の昔からの夢でやがりましたから」
「つまりゲオルグは魔術武装の技術を流用して別の何かを生み出そうとしてるってことか?」
確かゲオルグは去り際にアレがどうのと言っていた。ゲオルグが造り出そうとしている何かは、フリーディアにとって根幹を揺るがすものになるのかもしれない。
言い知れぬ不安を抱えながらユーリはミグレットの言葉に集中する。
「その通りでやがりますよこんちくしょう。昔はあぁじゃなかったんですよ。
多分本人は否定するでしょうけど、あの人が変わったのはエルフと出会ってから。詳しくは分からねぇですけど、マジックアイテム以上の神秘を見たに違いねぇです。
その日以降人が変わったみたいに、豹変して世界全てを犠牲にしてでも高みへ至ろうとしてやがりましたからね」
「エルフ……」
まだ見ぬ新たな異種族の存在。確かドワーフとは同盟関係にあるとゲオルグは言っていた。
一体どんな種族なのか。どれほどの脅威なのかユーリは知っておく必要がある。
「まだ世界に神が現存していた時代に存在していた何か。神に最も近い存在と噂されるエルフたちなら何か知ってるかもしれねぇですよ」
「神に最も近いって急にスケールが大きくなったな。その……エル、フ? ってそんなに凄い種族なのか?」
シオンから聞いた話では神が亡くなり、嘆き悲しんだ世界が新たに誕生させたのが彼女たち異種族ということ。
つまり神はナギたちの祖先にあたる存在。その神に最も近いと謳われる種族について、ユーリは何気なく問いかけるが。
「オメェ何でエルフの発音がカタコトになってるでやがりますか? 学が無いの丸わかりだから一から出直してこいですよこんちくしょう」
ミグレットから返ってきたのは容赦の欠片もない痛烈な罵声だった。
「しょうが無いだろ! エルフなんて言葉、ゲオルグさんから聞いて初めて知ったんだし――むぐッ」
「は?」
「「わーーーーーーーー!!」」
ポカンと口を開け惚けるミグレットへユーリの口を抑えたナギとシオンが取り繕うように声を上げる。
二人の反応を見てユーリも己の失態に気付き猛省した。今の自分はフリーディアではない。ビーストなのだ。異種族の常識を知らないなど本来あってはならないこと。
「わ、私もっとユーリに教えておくべきだった。ユーリがエルフのこと知らないとか聞いてない(ボソッ)」
横でナギも自身の常識がいかにフリーディアたちに通じないのか改めて実感し反省していた。
「……オメェ、信じられねぇくらいのバカだったんでやがりますねこんちくしょう」
どうやらミグレットはユーリを常識のない本物のバカだと判断したらしい。憐れみ深い視線が突き刺さり何ともいえない気持ちになってしまう。
正体を明かせない故のもどかしさにユーリは心の中で学生の時は結構成績良かったんだぞ、と言い訳することで何とか溜飲を下げた。
「そうだミグレット、良かったらユーリに色々教えてあげて? 彼、昔から勉強全くできなくて私たちが教えても全然覚えてくれないの!」
「むぐぐっ」
ユーリを完全にバカ扱いするナギの提案に思わず抗議の声を上げるも無視される。
ナギとサラに未だに口を抑えられているため、ミグレットにはユーリが何を言いたいのか伝わらない。
「え、自分が……でありますか? この淫獣に?」
ミグレットが嫌そうに汚物を見るような視線をユーリへ向け答える。
「いん……じゅう?」
聞き慣れぬ単語にナギが僅かに首を傾げ思案する。
ユーリとしては今すぐ止めてほしいところだが、口を抑えられている状況ゆえに声を出しても届かないため仕方なく諦めることにした。
「とにかく、お願いできない? ご飯もご馳走するよ?」
ナギが言い終えると同時、ぐぅ~と可愛くミグレットのお腹が鳴き出す。
「まぁ、どうせ行くとこもないですし、ご相伴に預かるとするですよこんちくしょう」
どこか恥ずかしそうに呟くミグレットに一同は微笑みを見せるのだった。
◇
その後、ミグレットを他の同族たちに紹介したが、彼らはあっさりと迎い入れてくれた。ナギへの信頼が厚いのだろう。彼女が認めた人物ならば種族関係なく歓迎する方針でいるようだ。
そのことにユーリの胸に暖かさが灯る。
フリーディアにも異種族を認めてほしい。もしかしたら異種族と共存することもできるのでは? と思ってしまう。
叶わぬ夢――というわけではない。小さな範囲だが、ここにはフリーディア、ビースト、ドワーフが同時に存在しているのだから。
あり得るかもしれないもしもを思い描きながら現在ユーリはビーストの子供たちと戯れながらミグレットの到着を待っている。
どうやらサラはミグレットをどうしてもお風呂に入れたかったようで嫌がる彼女を無理矢理引っ張って行ってしまった。
ナギは非戦闘員のビーストと共に料理に励んでいる。何もしないのも良くないと思い手伝いを申し出たのだが、最初は快く受け入れてくれたのに数分もすると、ナギ含めた同胞たちが鬼気迫る表情で「お願いだから余計なことしないで」と言い追い払われてしまったのだ。
どうやら置いてあった調味料を全部鍋に放り込んだのが原因らしい。
ユーリ・クロイスの人生において料理を作るという行為は初めてのことだったので、ぜひ挑戦してみたかったのだが……。
そういえば昔も侍女たちに家事の手伝いを申し出たら、鬼気迫る勢いで断られたなと実家に住んでいた日々を思い出す。
そんなことを考えながら過ごすこと一時間。ようやくサラは皆が食堂としているテントへ顔を出した。
「ごめんね、待たせて」
机にはすでに色とりどりの料理が並べられており、子供たちはよだれを垂らしながらまだか、まだかと待っていた。
申し訳なさそうに謝るサラへ向け気にしなくていいとユーリは述べたがミグレットの姿がないことを疑問に思った。
「あれ? サラ、ミグレットは一緒じゃないのか?」
尋ねるユーリに対しサラは困ったような笑みを浮かべ答える。
「えと、一応テントの外にいるんだけど恥ずかしがって出てこないの」
「は? 何で今更……。もしかして俺たちと食うのが嫌だとか?」
「ううん、本人はむしろ食べたいって言ってる。ただちょっと……そのぉ」
「ったく、何やってるんだアイツは」
もどかしげなサラに対し、ユーリは本当何なんだと立ち上がりミグレットを無理矢理引っ張ろうと思い出しテントの外へ出る。
「おーい、ミグレット。そんな恥ずかしがんなくても今更――――――え?」
刹那、ユーリはあり得ないものを見たかのように硬直した。
「うひゃぁぁぁぁっ!?!? な、何でオメェが出てくるでやがりますかこんちくしょう!!」
「あ、…………え?」
端的に状況を説明するならば、ユーリの目の前に絶世の美少女がいた。
可愛いなどという言葉でしか彼女を表現できないのが惜しい。茶色の癖っ毛と幼さを残す顔立ちが愛嬌を形作っており、パッチリとした二重にプルリと艶のある唇。思わずキスしてしまいそうになるほどのミルク色の肌にユーリ自身は我慢できないとばかりに叫ぶ。
「って、誰ぇぇぇぇぇっーーーー!?!?」
過去最大限の驚愕を前に目の前の美少女は憤慨した様子で言葉を返す。
「オメェ何寝惚けたこといってやがりますですかこんちくしょう!
バカは一時間で人の顔忘れやがるんですね!」
「そ、その生意気で特徴的な言葉遣い……お前まさかミグレットか!?」
「他に誰がいやがるですかこんちくしょう!」
抗議の声を上げるミグレット。
そう、ミグレットだ。先の煤汚れたボサボサの髪と野暮ったい格好をしていたユーリのよく知るミグレット。
「お前何で風呂入っただけでそんなに可愛くなるんだよ!」
と、ユーリは叫ばずにいられなかった。
「か、可愛ッ!? な、何突然発情してやがるんですかこの淫獣が!」
「お前こそ、どんだけ風呂入ってなかったらあんなに汚くなるんだよ! 最後に風呂入ったのいつだよ!?」
「…………い、一ヶ月くらい前」
「それはあぁなるよな! お前そんだけ可愛くなれるなら普段から風呂入った方がいいぞ。
俺が会った女の子の中でお前が断トツでぷりちーで、一番可愛い。正直今すぐにでも抱きしめたい頭撫でたい頬擦りしたい」
「オメェ本当何言ってやがるですか、こんちくしょう!?」
ユーリも自分がとんでもない発言をしているのを理解しているが、ミグレットの可愛さの前に羞恥心も吹き飛んでいた。
これは情欲などという穢らわしい感情ではない。純粋にただただ可愛いのだ。あれ程生意気だと感じた彼女の口調も今となっては可愛らしさを際立たせるための付属品としか思えない。
「――ユーリ、私には可愛いの一言も言ってくれなかったのに、ミグレットには言うんだ……言っちゃうんだ」
「はっ!?」
殺気を感じ振り向くと、そこには頬を膨らませ不機嫌そうな表情をしているナギの姿が。
「違う、違うからなナギ。俺がミグレットに対して言った可愛いはシオンと同じというか、愛くるしい小動物を愛でる気持ちで見ていた……、ん」
「…………ふーん」
ナギの失望したような視線を受けユーリの背筋に冷や汗が伝い、最悪の空気のまま夕食を摂ることになってしまった。
◇
その後、紆余曲折あり何とかナギの機嫌を戻しつつ、食器を片付け約束通りミグレットに異種族の歴史を教わることとなった。
「――って、何でちゃっかり数が増えてやがるんですかこんちくしょう!」
解散となった食堂にはミグレットとその両脇にはナギとサラがそれぞれ座っている。
一方ユーリはミグレットの対面側の椅子に腰を降ろし、その周りを囲うようにシオン含めたビーストの子供たちが集まっていた。
「ミグレットせんせー! シオンもせんせーに歴史をおそわりたいです!!」
ピョンッとユーリの膝の上に乗り元気に手を上げるシオン。
そんなシオンに追随する形で「おれも」「わたしも」と手を上げる子供たちにミグレットは小さく溜め息を吐き。
「まぁ、ご飯も食べさせてもらったわけですし今更何人増えようが構わねぇですよこんちくしょう」
と諦めの籠もった声を上げた。
「で、そこのバカ。一体何が分からねぇでやがりますか?」
「全部です先生!」
素直に告げたユーリだが、ミグレットはドン引きしていた。コイツマジ? と云わんばかりの表情で頬をヒクつかせるミグレットを見てユーリは大いに傷ついた。
これはもう正体を明かした方が早いのではないかと思ったユーリだが、万が一ミグレットが仲間に告げた場合全て台無しとなってしまう。
ゲオルグに追放されたとはいえ、ミグレットはドワーフなのだから。
「えと、それなら神について教えてください!」
「そこから!? その年で神を知らねぇとか本当オメェの頭どうなってるです、こんちくしょう!」
「す、すみません」
子供でも知っている神について何も知らないユーリは、わりと真面目にミグレットに怒られてしまった。
「コホンッ、それじゃまず基本中の基本から説明していくですよ――神は世界が一番最初に生み出した種族。全ての始まりであり、今の世界を形作ったのが神といわれてやがるですこんちくしょう」
ミグレットは語る。
「それは地上であり空であり海であり物資であり、この世のありとあらゆる万物全ての紀元には神が関わっていやがるです。
だから自分たちが今こうして生活できているのは世界と神のおかげなんですよこんちくしょう」
なるほど、とユーリはミグレットの説明に納得する。
ユーリにとっては統合連盟政府――レーベンフォルン家こそが絶対の神と呼ばれる存在だ。彼らがいたからこそ今こうしてユーリは生きていられる。
信仰対象の違いはあれど本質的には異種族と人類にさして違いを感じなかった。
だがミグレットの世界に対する言い方が引っかかるのは何故だろう? シオンの説明のときもそうだ。異種族は世界そのものに意志があるかのように語っている。
疑問に思ったがミグレットがまだ話している最中なので黙って耳を傾けることにした。
「けれど、神の統治による古の時代は永劫には続かなかったでやがります。
世界が神という存在を生み出したが故に悲劇は起こりやがったでやがりますこんちくしょう」
「悲劇? 確かシオンは神が死んだとかなんとか……」
「うん、そーだよー。そこまではシオンも知ってるー!」
シオンの同意にさらなる疑問がユーリの頭に生じた。
「なぁミグレット、話の途中で悪いんだが世界が生み出した神って一人だけか?」
「そう聞いてるです、こんちくしょう」
「他に生きてる奴はいない?」
「古の時代がどんなだったか、そこまで詳しくは知らねぇです。自分たちが知るのはあくまで神の辿った末路についてのみ。
寧ろ古の時代を知ることはエルフの間で禁忌とされてるんです、こんちくしょう」
「じゃあさっき言った悲劇って何なんだ? まさか世界そのものが神を殺したわけじゃないよな? 神が死んで世界は悲しんだとシオンも言ってたし」
神が死して嘆き悲しんだ後に生まれたとされるのが異種族。世界が殺したわけではないのだとしたら神の死因がますます分からなくなる。
「ひょっとして、寿命……とか?」
ユーリの問いにミグレットはゆっくりと首を横に振る。どうやら違うようだ。
「全知全能を司る神に終焉などという言葉は無縁なのですよ。そう、終わりがない。
これが重要なポイントですよ――世界と神では時間の概念が大きく異なってしまっていることに気が付けなかった故に悲劇は訪れましたですこんちくしょう」
「時間の概念……」
「世界そのものがいつから誕生したのかは誰にも分かりませんですよ。それこそ神がいつ生まれたのかも推測の域を出ていない。
どうして世界は神を創ったのか?
諸説ありますが、余計に混乱しかねないので今回は省くのですよ」
どうやら世界が神を創った理由は想像の域を出ていないようだ。
「確実に分かっていることは神が今から三○二三前に死んだということだけ。けれども世界にとっては数千年の時など瞬く間の出来事に過ぎないのです。
ここで一つ尋ねますですがオメェは千年という時を短く感じやがりますか? それとも長いと?」
「当然、長いだ」
そんなの悩むべくもない。ユーリ自身未だ十五年という時しか生きていない。
僅か十五年でこれだけの沢山の想いを懐くようになった。ユーリからしたら千年など途方も無さすぎて想像も付かなかった。
「自分もそうなのですよ。千年という時は途方もなく長い。世界はようやくそのことに気付いたのですよこんちくしょう。
だから後に生まれた全ての種族には寿命という概念を与えられ有限の命を育むことになったのですよ」
「いや、それは分かったけど答えになってないぞ。肝心の神の死因を聞いてない」
世界と神とで時間感覚にズレが存在するのは分かった。だがそれが何だという?
(違うそうじゃない。神が死んだ後に生まれた種族……? 寿命。有限の命――)
神には寿命という概念が存在しなかっということ。無限の命。終わりのない生。そうミグレットは言っていた。
(つまり神は不老不死だった? それでいて時間の感覚が俺たちと変わらないってことは――まさかッ!?)
世界の中に取り残された一人ぼっちの神様。異種族の紀元。悲しい悲しい悲劇のおとぎ話。
つまり、神の死因は。
「どうやら答えに行き着きやがりましたですねこんちくしょう。
そう、全知全能不老不死の存在たる神の死因は――"自殺"なのですよ」
ミグレットが語る異種族の歴史の真実。その衝撃的な史実を前にユーリは言葉を失った。
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