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第二章 集結、グランドクロス
第29話 結成、フォーウッド隊
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――翌日
無理な体制で寝ていたのか、身体の節々が痛みを訴えながらもユーリはなんとか集合時刻前に起床することができた。
一時頻繁に夢に出てきた名も知れぬ異種族の金髪の美少女の姿は見る影もない。もう一度くらいちゃんと話をしたかったんだけどな、と憂う気持ちをそっと仕舞い込み、ベットを見るとダニエルはいびきをかきながら眠っており、アリカもすやすやと安らかな寝息を立てている。
まだ時間まで余裕はあるしもう少しだけ寝かせてあげようと思いつつふと、一つのベットが空になっていることに気付く。
「あれ? オリヴァーはもう起きてるのか」
この場にいないことを疑問に思いながらオリヴァーが何処へ行ったのか考える。
「ひょっとしてアイツ……」
もしかしたらと当たりをつけ、ユーリはオリヴァーを探しに部屋を出ることにした。
結果として、訓練場にいるかもしれないというユーリの予想は正解だった。そこには汗だくになりながら、魔術武装を振るうオリヴァーの姿があった。
彼の表情からは鬼気迫るものを感じ、声をかけることすら躊躇われる。
一体いつから鍛錬に励んでいたのか、時間の感覚がないユーリにはわからないが、少なくとも一時間以上経過していることだけはわかる。
(アイツまさか……ずっとこんな朝早くから特訓してたのか? ただでさえ訓練とアリカの模擬戦を往復してるってのに)
まるで何かに取り憑かれたかのようにオリヴァーは鍛錬に打ち込んでいる。次々に現れる機械じみた縦横無尽に動く的を薔薇輝械が打ち抜いている。
(とはいえ、このままずっと見てるのもなぁ……)
さてどうしたものかと考えていると。
「――そんなところに突っ立って何をしているのですか?」
「うひゃいっ」
突然背後から声をかけられたユーリは猫のように飛び退き振り返る。
「ク、クレナ・フォーウッド……少佐」
そこにはいたのは先月トリオン基地に来訪したミアリーゼを護衛していたクレナ・フォーウッド少佐だった。
そして今任務でユーリたちの隊長を務める人物でもある。
「も、戻られていたんですね」
「えぇ、昨日の夜に帰還しました。安心してください、集合までは時間がありますので自由にしていただいて構いませんよ」
思えばこうして彼女と対面で話すのは初めてだ。クレナは基地内にいることが稀で、会話する機会が訪れることは殆どなかった。
こうして面と向かって相まみえると改めてクレナの美貌に目を奪われそうになる。女性にしては長身であり、スラリと伸びた手足はモデル顔負けのスタイルの良さを感じさせる。
長い金髪の髪を後ろに結っており、さらには鋭い刃物のような視線が知的かつクールな印象を与えている。
「なにか?」
「い、いえっ、なんでも」
どうやら見惚れていたことを彼女は不審に思ったらしい。ユーリは慌てて目を逸らした。
「そうですか。それならそこを通してくれると嬉しいのですが」
「は、はい! すみません」
非常にとっつきにくい冷血な眼差しを受け萎縮しつつ、入口を塞いでいたことに気付き慌てて道を開けるユーリ。
そして、訓練場の扉が開くとオリヴァーはようやくこちらに気付いた様子で。
「――ユーリ? それに……」
つかつかと歩み寄ってくるクレナ・フォーウッドの姿を捉えオリヴァーは意外そうに声を漏らす。
「あぁ、あなたもいたんですね。それなら丁度いい。あなた方の力も把握しておきたいですし、よかったら相手をしてくれませんか? 動く的相手では少々物足りないと思ってましたので」
クレナは表情を変えることなく淡々と告げオリヴァーとユーリに目を向ける。
(え、俺も?)
完全に巻き込まれた形だが、断るのも気まずいと思い大人しく訓練場へ足を踏み入れる。
「アーキマン司令からはあなた方が特化型魔術武装の使用者だと伺っています。
相手にとって不足はないので全力でかかってきてください」
そう言ってクレナは回転式拳銃型の魔術武装を展開させると銃口をこちらに向ける。
「えと、それって僕とユーリの二人がかりって意味ですか?」
「そうです。一人では運動にすらならないので二人で丁度いいかと」
その言い方にオリヴァーはムッと顔を歪める。男として嘗められているのが癇に障ったのだろう。
ユーリ自身もクレナの実力はトリオン基地内でもトップクラス――あのアリカですら一目置いていたため、彼女の力に興味があった。
「ま、成り行きでこうなったが仕方ない。やるか、オリヴァー」
そう言ってユーリは自身の魔術武装――変幻機装を展開させる。
「そうだね。フォーウッド隊長の実力がどれほどのものか知らないけど、目に物見せてやろうユーリ!」
オリヴァーも同時に薔薇輝械を構え臨戦態勢をとった。
こうして、ユーリたちは訓練場で模擬戦闘を行うこととなった。
◇
「すでに知っているとは思いますが、改めてもう一度名乗ります。今任務であなた方の隊の指揮を執ることになりました。クレナ・フォーウッド、階級は少佐です」
訓練場の中央でユーリ、オリヴァー、アリカ、ダニエルたちと対峙したクレナはそう名乗った。
凛とした佇まいに端正な顔立ち、クールな眼差しと鋭い目つきにアリカとダニエルは背筋を伸ばし答える。
「アリカ・リーズシュタットです」
「ダニエル・ゴーンです」
「…………ユーリ……ぜぇぜぇ、クロイスで、す」
「オ、オリヴァー……ぜぇぜぇ……カイ――うぇっ――スで、す」
「――ねぇ待って、何で二人は今にも死にそうな声で答えてるの?」
アリカはつい先程までユーリとオリヴァーがクレナと模擬戦闘を繰り広げていた事実を知らない。
大きく息を荒らげ膝を付きながら名乗るユーリとオリヴァーを訝しげに見下ろしていた。
「二人がかりだからって油断しすぎた……まさかあんなことになるなんて」
「く、クソッ、話には聞いてたけどここまで力の差があるなんて……」
そんな二人の反応を見て何かを察したようにアリカは小さく息を吐く。
どうやらつい先程までクレナと模擬戦闘を繰り広げていたらしい。集合場所が何故か訓練場に変更になったと聞いたときは不思議に思ったがユーリとオリヴァーの惨状を見れば納得だ。
「今回の任務についてですが、事前に通達があったように、我々フォーウッド隊はビーストの潜伏先と思われる居住区へ奇襲を仕掛けます」
もはや死に体のユーリとオリヴァーを無視してクレナは淡々と任務の内容を告げていく。
そんな彼女は汗一つかいておらず僅かにも息を乱していない様子だった。
「陽動は別働隊が引き受け、我々はビーストの特化部隊を誘い出し殲滅。最低一人は生け捕りとし、背後に潜む異種族の正体と潜伏先を特定します」
「あの、ビーストの居住区って集落なんじゃ……。殲滅って、それって」
「――今回の任務は我々フリーディア統合連盟軍にとって非常に重大な任務となります。故にどんな手を使ってでも成し遂げる必要があります」
ユーリの質問を無視して、必ず任務を遂行しろと念を押すクレナ。
「私はこの二ヶ月で奴らの拠点を二つ墜としましたが、ナギと呼称されるビーストは現れませんでした。得られた手掛かりも少なく、裏に潜む異種族がドワーフと呼称されているという点と、能力が鍛治製作に特化している点くらいです。
ただでさえこちらの武器を奪われ劣勢の状況……敵の心配をしているようでは足元を掬われますよ?」
相変わらず声は淡々としており、無表情だがユーリにはクレナが激怒していることが伝わった。お前のような新参者が口を挟むなと無言の圧を感じて二の句が告げなくなる。
「先程クロイス君、カイエス君と模擬戦闘を行いましたが正直失望しました」
そう告げるクレナの鋭い視線にビクリと肩を強張らせたユーリとオリヴァー。
「戦闘中お互いを気遣ってばかりで、他者を蹴落としてでも勝つという気概が見えませんでした。
これではせっかくの特化型が宝の持ち腐れです。任務中ではそのようなことにならないよう気をつけてください」
「ねぇ、それって暗に仲間を助けるなって言っているようにも聞こえるんだけど?」
今のクレナの言い方が気に入らなかったのか、これまで沈黙を保っていたアリカが一歩前に出て問い詰める。
「そう言いましたよ、リーズシュタットさん。足を引っ張り合うだけの関係なら切り捨てた方が早い。
重要なのは任務を達成することただ一つ。そのためならどれだけ犠牲が出ようとも構わないと思っています」
非情かつ冷酷なクレナの物言いにアリカは嫌悪感を募らせる。アリカだけじゃない。ユーリもオリヴァーもダニエルも皆一様に表情が固い。
だがクレナはさらに追い打ちをかけるように言い放つ。
「事実、私は幾人もの味方を犠牲にし任務を達成してきました。例え隊が崩壊しても代わりなどいくらでもいる。
あなたたちだってホーキン隊を犠牲にして任務を遂行したじゃありませんか」
クレナは淡々と事実だけを述べそこに一切の感情は介入しない。ただありのままの事実を伝えるだけ。
それが彼女――クレナ・フォーウッドのスタンスであり、任務達成のためならば味方であっても平気で切り捨てる非情さを持ち合わせている。
「……俺たちは、好きでホーキン隊長たちを犠牲にしたわけじゃない!」
ユーリは我慢の限界とばかりに吠える。初任務の件を話に出され頭に血が上ったのだ。
「過程はどうでもいい、全ては結果が物語っています。
そういえばクロイス君は以前、セリナ・クロイス准将とミアリーゼ様の前で戦争を終わらせると宣言していましたね」
「そうですけど、それが?」
思えばあの時、クレナから尋常ならざる殺意の念を感じた。心底理解できない、お前は気に入らないと視線が物語っている。
「その程度の実力で、私にすら勝てないのに一体どうやって終わらせるつもりですか? 具体的な策も無く、子供の夢物語のように理想を語るあなたの姿は酷く滑稽に映りましたよ」
「――あんたっ!」
我慢の限界とばかりにアリカがクレナへ掴み掛かろうとするのをユーリは手で制する。
「このやり取りも不毛かつ無駄。あなたが懐く怒りも悔しさも全てが無駄。任務遂行のために余計な感情は置いていくべきです」
彼女の言いたいことは分かる。ユーリ自身、自分の夢が子供じみた夢だということも理解している。
だがそれでも、それでも人は目標があるから戦えるのだ。頑張ろうと思うのだ。
「そんなの……そんなの機械と一緒じゃないですか」
クレナ・フォーウッドという女性はどんな人生を歩みそんな悲しい結論に至ったのだろうか?
「そうです。私は任務を遂行するための機械です。アーキマン司令の命令に従い、軍に貢献することこそが機械として果たすべき使命……そこに余計な感情は必要ありません」
そう語るクレナの瞳には何も映っていない。まるで無機物のような冷たさすら感じる。
クレナの言葉にユーリたちは言葉を失う。彼女は今までの人生で出会ってきた者たちとは決定的に異なる価値観を持っていた。
そんな相手にユーリは何を言っていいか分からず口を閉ざす。
「そろそろ時間ですし、行きましょう。付いてきてください」
まるで何事もなかったかのように言って歩みだすクレナに呆気に取られつつも、ユーリたちは後に続いた。
無理な体制で寝ていたのか、身体の節々が痛みを訴えながらもユーリはなんとか集合時刻前に起床することができた。
一時頻繁に夢に出てきた名も知れぬ異種族の金髪の美少女の姿は見る影もない。もう一度くらいちゃんと話をしたかったんだけどな、と憂う気持ちをそっと仕舞い込み、ベットを見るとダニエルはいびきをかきながら眠っており、アリカもすやすやと安らかな寝息を立てている。
まだ時間まで余裕はあるしもう少しだけ寝かせてあげようと思いつつふと、一つのベットが空になっていることに気付く。
「あれ? オリヴァーはもう起きてるのか」
この場にいないことを疑問に思いながらオリヴァーが何処へ行ったのか考える。
「ひょっとしてアイツ……」
もしかしたらと当たりをつけ、ユーリはオリヴァーを探しに部屋を出ることにした。
結果として、訓練場にいるかもしれないというユーリの予想は正解だった。そこには汗だくになりながら、魔術武装を振るうオリヴァーの姿があった。
彼の表情からは鬼気迫るものを感じ、声をかけることすら躊躇われる。
一体いつから鍛錬に励んでいたのか、時間の感覚がないユーリにはわからないが、少なくとも一時間以上経過していることだけはわかる。
(アイツまさか……ずっとこんな朝早くから特訓してたのか? ただでさえ訓練とアリカの模擬戦を往復してるってのに)
まるで何かに取り憑かれたかのようにオリヴァーは鍛錬に打ち込んでいる。次々に現れる機械じみた縦横無尽に動く的を薔薇輝械が打ち抜いている。
(とはいえ、このままずっと見てるのもなぁ……)
さてどうしたものかと考えていると。
「――そんなところに突っ立って何をしているのですか?」
「うひゃいっ」
突然背後から声をかけられたユーリは猫のように飛び退き振り返る。
「ク、クレナ・フォーウッド……少佐」
そこにはいたのは先月トリオン基地に来訪したミアリーゼを護衛していたクレナ・フォーウッド少佐だった。
そして今任務でユーリたちの隊長を務める人物でもある。
「も、戻られていたんですね」
「えぇ、昨日の夜に帰還しました。安心してください、集合までは時間がありますので自由にしていただいて構いませんよ」
思えばこうして彼女と対面で話すのは初めてだ。クレナは基地内にいることが稀で、会話する機会が訪れることは殆どなかった。
こうして面と向かって相まみえると改めてクレナの美貌に目を奪われそうになる。女性にしては長身であり、スラリと伸びた手足はモデル顔負けのスタイルの良さを感じさせる。
長い金髪の髪を後ろに結っており、さらには鋭い刃物のような視線が知的かつクールな印象を与えている。
「なにか?」
「い、いえっ、なんでも」
どうやら見惚れていたことを彼女は不審に思ったらしい。ユーリは慌てて目を逸らした。
「そうですか。それならそこを通してくれると嬉しいのですが」
「は、はい! すみません」
非常にとっつきにくい冷血な眼差しを受け萎縮しつつ、入口を塞いでいたことに気付き慌てて道を開けるユーリ。
そして、訓練場の扉が開くとオリヴァーはようやくこちらに気付いた様子で。
「――ユーリ? それに……」
つかつかと歩み寄ってくるクレナ・フォーウッドの姿を捉えオリヴァーは意外そうに声を漏らす。
「あぁ、あなたもいたんですね。それなら丁度いい。あなた方の力も把握しておきたいですし、よかったら相手をしてくれませんか? 動く的相手では少々物足りないと思ってましたので」
クレナは表情を変えることなく淡々と告げオリヴァーとユーリに目を向ける。
(え、俺も?)
完全に巻き込まれた形だが、断るのも気まずいと思い大人しく訓練場へ足を踏み入れる。
「アーキマン司令からはあなた方が特化型魔術武装の使用者だと伺っています。
相手にとって不足はないので全力でかかってきてください」
そう言ってクレナは回転式拳銃型の魔術武装を展開させると銃口をこちらに向ける。
「えと、それって僕とユーリの二人がかりって意味ですか?」
「そうです。一人では運動にすらならないので二人で丁度いいかと」
その言い方にオリヴァーはムッと顔を歪める。男として嘗められているのが癇に障ったのだろう。
ユーリ自身もクレナの実力はトリオン基地内でもトップクラス――あのアリカですら一目置いていたため、彼女の力に興味があった。
「ま、成り行きでこうなったが仕方ない。やるか、オリヴァー」
そう言ってユーリは自身の魔術武装――変幻機装を展開させる。
「そうだね。フォーウッド隊長の実力がどれほどのものか知らないけど、目に物見せてやろうユーリ!」
オリヴァーも同時に薔薇輝械を構え臨戦態勢をとった。
こうして、ユーリたちは訓練場で模擬戦闘を行うこととなった。
◇
「すでに知っているとは思いますが、改めてもう一度名乗ります。今任務であなた方の隊の指揮を執ることになりました。クレナ・フォーウッド、階級は少佐です」
訓練場の中央でユーリ、オリヴァー、アリカ、ダニエルたちと対峙したクレナはそう名乗った。
凛とした佇まいに端正な顔立ち、クールな眼差しと鋭い目つきにアリカとダニエルは背筋を伸ばし答える。
「アリカ・リーズシュタットです」
「ダニエル・ゴーンです」
「…………ユーリ……ぜぇぜぇ、クロイスで、す」
「オ、オリヴァー……ぜぇぜぇ……カイ――うぇっ――スで、す」
「――ねぇ待って、何で二人は今にも死にそうな声で答えてるの?」
アリカはつい先程までユーリとオリヴァーがクレナと模擬戦闘を繰り広げていた事実を知らない。
大きく息を荒らげ膝を付きながら名乗るユーリとオリヴァーを訝しげに見下ろしていた。
「二人がかりだからって油断しすぎた……まさかあんなことになるなんて」
「く、クソッ、話には聞いてたけどここまで力の差があるなんて……」
そんな二人の反応を見て何かを察したようにアリカは小さく息を吐く。
どうやらつい先程までクレナと模擬戦闘を繰り広げていたらしい。集合場所が何故か訓練場に変更になったと聞いたときは不思議に思ったがユーリとオリヴァーの惨状を見れば納得だ。
「今回の任務についてですが、事前に通達があったように、我々フォーウッド隊はビーストの潜伏先と思われる居住区へ奇襲を仕掛けます」
もはや死に体のユーリとオリヴァーを無視してクレナは淡々と任務の内容を告げていく。
そんな彼女は汗一つかいておらず僅かにも息を乱していない様子だった。
「陽動は別働隊が引き受け、我々はビーストの特化部隊を誘い出し殲滅。最低一人は生け捕りとし、背後に潜む異種族の正体と潜伏先を特定します」
「あの、ビーストの居住区って集落なんじゃ……。殲滅って、それって」
「――今回の任務は我々フリーディア統合連盟軍にとって非常に重大な任務となります。故にどんな手を使ってでも成し遂げる必要があります」
ユーリの質問を無視して、必ず任務を遂行しろと念を押すクレナ。
「私はこの二ヶ月で奴らの拠点を二つ墜としましたが、ナギと呼称されるビーストは現れませんでした。得られた手掛かりも少なく、裏に潜む異種族がドワーフと呼称されているという点と、能力が鍛治製作に特化している点くらいです。
ただでさえこちらの武器を奪われ劣勢の状況……敵の心配をしているようでは足元を掬われますよ?」
相変わらず声は淡々としており、無表情だがユーリにはクレナが激怒していることが伝わった。お前のような新参者が口を挟むなと無言の圧を感じて二の句が告げなくなる。
「先程クロイス君、カイエス君と模擬戦闘を行いましたが正直失望しました」
そう告げるクレナの鋭い視線にビクリと肩を強張らせたユーリとオリヴァー。
「戦闘中お互いを気遣ってばかりで、他者を蹴落としてでも勝つという気概が見えませんでした。
これではせっかくの特化型が宝の持ち腐れです。任務中ではそのようなことにならないよう気をつけてください」
「ねぇ、それって暗に仲間を助けるなって言っているようにも聞こえるんだけど?」
今のクレナの言い方が気に入らなかったのか、これまで沈黙を保っていたアリカが一歩前に出て問い詰める。
「そう言いましたよ、リーズシュタットさん。足を引っ張り合うだけの関係なら切り捨てた方が早い。
重要なのは任務を達成することただ一つ。そのためならどれだけ犠牲が出ようとも構わないと思っています」
非情かつ冷酷なクレナの物言いにアリカは嫌悪感を募らせる。アリカだけじゃない。ユーリもオリヴァーもダニエルも皆一様に表情が固い。
だがクレナはさらに追い打ちをかけるように言い放つ。
「事実、私は幾人もの味方を犠牲にし任務を達成してきました。例え隊が崩壊しても代わりなどいくらでもいる。
あなたたちだってホーキン隊を犠牲にして任務を遂行したじゃありませんか」
クレナは淡々と事実だけを述べそこに一切の感情は介入しない。ただありのままの事実を伝えるだけ。
それが彼女――クレナ・フォーウッドのスタンスであり、任務達成のためならば味方であっても平気で切り捨てる非情さを持ち合わせている。
「……俺たちは、好きでホーキン隊長たちを犠牲にしたわけじゃない!」
ユーリは我慢の限界とばかりに吠える。初任務の件を話に出され頭に血が上ったのだ。
「過程はどうでもいい、全ては結果が物語っています。
そういえばクロイス君は以前、セリナ・クロイス准将とミアリーゼ様の前で戦争を終わらせると宣言していましたね」
「そうですけど、それが?」
思えばあの時、クレナから尋常ならざる殺意の念を感じた。心底理解できない、お前は気に入らないと視線が物語っている。
「その程度の実力で、私にすら勝てないのに一体どうやって終わらせるつもりですか? 具体的な策も無く、子供の夢物語のように理想を語るあなたの姿は酷く滑稽に映りましたよ」
「――あんたっ!」
我慢の限界とばかりにアリカがクレナへ掴み掛かろうとするのをユーリは手で制する。
「このやり取りも不毛かつ無駄。あなたが懐く怒りも悔しさも全てが無駄。任務遂行のために余計な感情は置いていくべきです」
彼女の言いたいことは分かる。ユーリ自身、自分の夢が子供じみた夢だということも理解している。
だがそれでも、それでも人は目標があるから戦えるのだ。頑張ろうと思うのだ。
「そんなの……そんなの機械と一緒じゃないですか」
クレナ・フォーウッドという女性はどんな人生を歩みそんな悲しい結論に至ったのだろうか?
「そうです。私は任務を遂行するための機械です。アーキマン司令の命令に従い、軍に貢献することこそが機械として果たすべき使命……そこに余計な感情は必要ありません」
そう語るクレナの瞳には何も映っていない。まるで無機物のような冷たさすら感じる。
クレナの言葉にユーリたちは言葉を失う。彼女は今までの人生で出会ってきた者たちとは決定的に異なる価値観を持っていた。
そんな相手にユーリは何を言っていいか分からず口を閉ざす。
「そろそろ時間ですし、行きましょう。付いてきてください」
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