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第一章 始まりの物語
第15話 来客
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トリオン基地の敷地内を一台の御料車が走っていた。
その外装は華美な装飾で彩られており、まるでおとぎ話に出てくる王族が拵える馬車のような印象を受ける。
誰が見ても前線基地に似つかわしくない御料車が通る度にトリオン基地在中の統合軍兵士たちは頭を垂れ膝を折る。
一種異様ともいえる光景を誰も疑問に思うことなく口を挟まないのは、華美な装飾の御料車の来訪を事前に知っていたからに他ならない。
ゆったりと常人が走る程度の速度しか出ていない御料車の後部座席の窓がゆっくりと開く。
風に靡いた聖女のごとき美しき白光色の髪をその目に捉えた瞬間、統合軍兵士の一人が歓喜に震え、我慢できないとばかりに叫んだ。
「――ミアリーゼ・レーベンフォルン様!」
名を呼ばれた白光色の髪の少女は振り返り、声の主である兵士に目を向けると手を振って微笑んだ。
遠目からでも分かる透き通るような白い肌に腰まで伸びた白光色の髪、その美しく可憐なる容姿に統合軍兵士は虜となり夢見心地の様子でいた。
彼女が顔を見せただけで、トリオン基地がまるでライブ会場のような熱気に包まれる。至るところからミアリーゼ・レーベンフォルンの名が叫ばれ、一躍パレードの中心人物となる。
「皆さま、お勤めご苦労さまです」
熱狂に包まれる中でもミアリーゼの清涼たる声は、統合軍兵士たちの耳に届いた。彼女が労ってくれるだけで日頃の疲れや、前戦での緊張感が嘘のように消え失せる。
それだけの影響力を与える彼女は一体何者なのか?
異性どころか同姓すらも虜にしてしまうほどの美貌の持ち主であり、それに驕ることなく謙虚さも併せ持ち、気高く高潔な雰囲気を纏うミアリーゼ・レーベンフォルンはまさに聖女のごとき存在であった。
統合軍兵士たちの熱狂もかくや、彼女の乗る御料車を向かい入れるようにダリル・アーキマン司令含め、トリオン基地在住の士官たちが恭しく頭を下げていた。
停車した御料車から降りたミアリーゼをお拝まんと野次馬のごとく人だかりができる。
そんな彼らを不敬だとダリル・アーキマンは戒めようとするも、ミアリーゼは「構いません」と手で制する。
「お久しぶりです、ダリル・アーキマン大佐。あなたのご活躍は耳にしています。最後にお会いしたのはお父様主催の社交界以来でしょうか?」
「まさか、十年も前のことを覚えておられるとは光栄でございますミアリーゼ様」
「こちらこそ、厳しい情勢の中私を迎い入れてくださり感謝の言葉もありません」
「勿体なきお言葉です。しかしまさかミアリーゼ様自らトリオン基地にお越しになられるとは……。連絡を受けたときは耳を疑いました」
ダリル・アーキマンをからしても、あのミアリーゼ・レーベンフォルン自らが死地に足を運ぶなど予想もしていなかったため、初め連絡を受けたときは虚偽だと疑ったものだ。
実際彼の目にするミアリーゼは間違いなく本物で、非公式故に騒ぎにならないようたった一台でお越しになられるという配慮もしている。
護衛が少なく、前線基地において少々心許ないのは問題だと思うが、そこはトリオン基地司令が信頼されている証といっていいのかもしれない。
ダリル・アーキマンも虫の一匹すら彼女に触れさせないよう常に辺りを警戒していた。万が一にも目の前の御人を危険に晒すことだけはあってはならない。
何故なら、彼女の父親は――
「ダリル・アーキマン大佐。そう周囲を警戒なさらずとも結構ですよ? 私のことは気にせず職務を全うしてください」
「は……いや、しかし」
「私が今回トリオン基地に足を運んだ理由は、戦争の悲惨さを知るため……そして日々私たちのために命を賭して守ってくださっている兵士の皆さまに直接感謝をお伝えするためです。
これは私個人の我儘に過ぎませんので、お忙しい大佐の御手を煩わせるわけにはまいりません」
ミアリーゼ・レーベンフォルンが何故トリオン基地に足を運んだのか、その理由まではダリルも察していなかったがまさか兵士に直接お礼を言うために死地へ足を運ぶとは思わず放心している。
「このことはお父様もご承知の上、もし私が何らかの事故で命を落としたとしてもあなた方には何の責任もくだりませんのでご安心ください」
凛とした佇まいから放たれるミアリーゼの言葉からは有無を言わせない迫力があった。故にダリル・アーキマンは頭を垂れ頷くしかなく、またその光景を見ていた統合軍兵士たちも彼女の覚悟を尊重すべく頭を垂れた。
「ミアリーゼ様のお言葉、しかと承りました。私は職務に戻ります故、ミアリーゼ様はご自由にトリオン基地内部をご見学ください。
それと、案内についてはこちらのクレナ・フォーウッド少佐が務めますので、ご要望がございましたら何なりとお申し付けください」
ダリル・アーキマンの背後に控える真面目そうな印象を受ける金髪の若い女性が前に出る。
「無感情で無口ですが、腕だけは確かです。万が一の危機が訪れた際は彼女が命を賭しても貴女様をお守りすることでしょう。それにミアリーゼ様としても同姓の方が好ましいかと」
と、補足するダリル・アーキマン。
「ありがとうございます。クレナ・フォーウッド少佐、どうかよろしくお願いしますね」
クレナ・フォーウッドは差し出されたミアリーゼの手を無表情で見つめ、「よろしくお願いいたします」と機械的な返事をしてその手を取った。
彼女からは他のフリーディア隊員たちのようにミアリーゼに対して敬意や崇拝の念を感じない。むしろその方が変に気を使われるよりはやりやすいとミアリーゼは彼女に対し好感を持った。
「それではミアリーゼ様、御案内致しますので私の側を離れずついて来てください」
世間話や媚を売るといったこともなくクレナは淡々と告げる。
他の兵士と彼女は何故こうも違うのだろうか? クレナの心は伽藍堂となっている。ミアリーゼが何か告げようとするも。
「どうぞこちらへ」
自分に関する疑問は挟ませまいと機械のように応じるクレナは踵を返し、ミアリーゼを先導した。
その外装は華美な装飾で彩られており、まるでおとぎ話に出てくる王族が拵える馬車のような印象を受ける。
誰が見ても前線基地に似つかわしくない御料車が通る度にトリオン基地在中の統合軍兵士たちは頭を垂れ膝を折る。
一種異様ともいえる光景を誰も疑問に思うことなく口を挟まないのは、華美な装飾の御料車の来訪を事前に知っていたからに他ならない。
ゆったりと常人が走る程度の速度しか出ていない御料車の後部座席の窓がゆっくりと開く。
風に靡いた聖女のごとき美しき白光色の髪をその目に捉えた瞬間、統合軍兵士の一人が歓喜に震え、我慢できないとばかりに叫んだ。
「――ミアリーゼ・レーベンフォルン様!」
名を呼ばれた白光色の髪の少女は振り返り、声の主である兵士に目を向けると手を振って微笑んだ。
遠目からでも分かる透き通るような白い肌に腰まで伸びた白光色の髪、その美しく可憐なる容姿に統合軍兵士は虜となり夢見心地の様子でいた。
彼女が顔を見せただけで、トリオン基地がまるでライブ会場のような熱気に包まれる。至るところからミアリーゼ・レーベンフォルンの名が叫ばれ、一躍パレードの中心人物となる。
「皆さま、お勤めご苦労さまです」
熱狂に包まれる中でもミアリーゼの清涼たる声は、統合軍兵士たちの耳に届いた。彼女が労ってくれるだけで日頃の疲れや、前戦での緊張感が嘘のように消え失せる。
それだけの影響力を与える彼女は一体何者なのか?
異性どころか同姓すらも虜にしてしまうほどの美貌の持ち主であり、それに驕ることなく謙虚さも併せ持ち、気高く高潔な雰囲気を纏うミアリーゼ・レーベンフォルンはまさに聖女のごとき存在であった。
統合軍兵士たちの熱狂もかくや、彼女の乗る御料車を向かい入れるようにダリル・アーキマン司令含め、トリオン基地在住の士官たちが恭しく頭を下げていた。
停車した御料車から降りたミアリーゼをお拝まんと野次馬のごとく人だかりができる。
そんな彼らを不敬だとダリル・アーキマンは戒めようとするも、ミアリーゼは「構いません」と手で制する。
「お久しぶりです、ダリル・アーキマン大佐。あなたのご活躍は耳にしています。最後にお会いしたのはお父様主催の社交界以来でしょうか?」
「まさか、十年も前のことを覚えておられるとは光栄でございますミアリーゼ様」
「こちらこそ、厳しい情勢の中私を迎い入れてくださり感謝の言葉もありません」
「勿体なきお言葉です。しかしまさかミアリーゼ様自らトリオン基地にお越しになられるとは……。連絡を受けたときは耳を疑いました」
ダリル・アーキマンをからしても、あのミアリーゼ・レーベンフォルン自らが死地に足を運ぶなど予想もしていなかったため、初め連絡を受けたときは虚偽だと疑ったものだ。
実際彼の目にするミアリーゼは間違いなく本物で、非公式故に騒ぎにならないようたった一台でお越しになられるという配慮もしている。
護衛が少なく、前線基地において少々心許ないのは問題だと思うが、そこはトリオン基地司令が信頼されている証といっていいのかもしれない。
ダリル・アーキマンも虫の一匹すら彼女に触れさせないよう常に辺りを警戒していた。万が一にも目の前の御人を危険に晒すことだけはあってはならない。
何故なら、彼女の父親は――
「ダリル・アーキマン大佐。そう周囲を警戒なさらずとも結構ですよ? 私のことは気にせず職務を全うしてください」
「は……いや、しかし」
「私が今回トリオン基地に足を運んだ理由は、戦争の悲惨さを知るため……そして日々私たちのために命を賭して守ってくださっている兵士の皆さまに直接感謝をお伝えするためです。
これは私個人の我儘に過ぎませんので、お忙しい大佐の御手を煩わせるわけにはまいりません」
ミアリーゼ・レーベンフォルンが何故トリオン基地に足を運んだのか、その理由まではダリルも察していなかったがまさか兵士に直接お礼を言うために死地へ足を運ぶとは思わず放心している。
「このことはお父様もご承知の上、もし私が何らかの事故で命を落としたとしてもあなた方には何の責任もくだりませんのでご安心ください」
凛とした佇まいから放たれるミアリーゼの言葉からは有無を言わせない迫力があった。故にダリル・アーキマンは頭を垂れ頷くしかなく、またその光景を見ていた統合軍兵士たちも彼女の覚悟を尊重すべく頭を垂れた。
「ミアリーゼ様のお言葉、しかと承りました。私は職務に戻ります故、ミアリーゼ様はご自由にトリオン基地内部をご見学ください。
それと、案内についてはこちらのクレナ・フォーウッド少佐が務めますので、ご要望がございましたら何なりとお申し付けください」
ダリル・アーキマンの背後に控える真面目そうな印象を受ける金髪の若い女性が前に出る。
「無感情で無口ですが、腕だけは確かです。万が一の危機が訪れた際は彼女が命を賭しても貴女様をお守りすることでしょう。それにミアリーゼ様としても同姓の方が好ましいかと」
と、補足するダリル・アーキマン。
「ありがとうございます。クレナ・フォーウッド少佐、どうかよろしくお願いしますね」
クレナ・フォーウッドは差し出されたミアリーゼの手を無表情で見つめ、「よろしくお願いいたします」と機械的な返事をしてその手を取った。
彼女からは他のフリーディア隊員たちのようにミアリーゼに対して敬意や崇拝の念を感じない。むしろその方が変に気を使われるよりはやりやすいとミアリーゼは彼女に対し好感を持った。
「それではミアリーゼ様、御案内致しますので私の側を離れずついて来てください」
世間話や媚を売るといったこともなくクレナは淡々と告げる。
他の兵士と彼女は何故こうも違うのだろうか? クレナの心は伽藍堂となっている。ミアリーゼが何か告げようとするも。
「どうぞこちらへ」
自分に関する疑問は挟ませまいと機械のように応じるクレナは踵を返し、ミアリーゼを先導した。
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