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第1章:夜伽
♥第2話
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さて、宇宙ジンに抱かれたいと言っても、カリスマホストに「一目惚れしました♡抱いてください♡」なんて直接お願いすることは無理だろう。そもそもあいつのシフト(ホストってシフト制なのか?)も分からないし、ああいうタイプは頻繁に枕営業を吹っかけていて性欲なんて溜まっていないだろうし。まぁ最後のに関しては完全に俺の偏見なんだけど。
コンビニで買ったお茶を飲みながら、俺はひとまず今晩の相手を探すことにする。ジンのことは、男に抱かれてる間にゆっくりと考えればいい。キャッチや立ちんぼがたむろしている表通りを離れ、入り組んだ裏道を早足で進んでいく。すれ違う男たちのスーツや腕時計をじっくり観察していると、年齢の割に高価な腕時計を着けている奴を見つけた。
「…………みーっけ」
スマホを片手にキョロキョロと周りを見渡して、時折両手を上げたりジャンプしたりする不審な男。あれは多分、マッチングアプリで女と待ち合わせたけど、実はYouTuberのドッキリ企画かパパ活制裁系の配信者に騙されてしまっているパターンだろう。可哀想に。ネットで女を見つけるなんて博打しなくても、路上の立ちんぼに声をかければ一発なのに。
「……ねぇ、おにーさん」
「はい?」
でも夜の街に慣れていない男は、俺の演技にコロッと騙されてくれるから良い。少し雑に喘いでも「気持ちいいんだね」と嬉しそうに笑うし、αのくせに騙されているのが滑稽で仕方ない。染まりきっていないから、乱暴に挿入したりしないのも高得点だ。
俺より幾分か上にある顔を見上げて、にこにこと人好きのする笑みを浮かべたまま首を傾げる。でも瞳の奥ではじっと男を見据えて、視線を一切逸らさない。男は俺の顔や身体をじっくりと観察していて、夜の喧騒から突然現れた少年に、興奮や期待を隠しきれていない様子だった。
「誰かと待ち合わせですか?」
「あぁ、そうだよ。しばらく待っても来ないから、もう帰ろうと思ってたんだ」
「そうなんですね。じゃあさ、代わりに……」
___βの俺と、ナマでシてみない?
誘惑するように耳元で囁けば、男は何度も強く頷いた。お誘い、大成功。男の腕に自ら絡みついて軽く股間を揉んでやれば、荒く息を吐いたそいつが尻を揉みしだいてくる。子どもの戯れみたいな動きをそっと制して、俺たちはピンク色の豪華なお城の中へ消えていった。
♥♥
土曜日の夜ということもあって、ロビーのタッチパネルはほぼ満室を示していたが、奇跡的に一部屋だけ空いていたのですぐにボタンを押した。部屋に入った瞬間シャワーも浴びずに求められて、汗臭さに思わず顔を顰めてしまう。ヤマシタと名乗る男は電化製品で有名な企業に務めているらしい。個人情報をペラペラ喋るなんて余程そういう出会いに飢えていたのか、エレベーター内ではなぜか名刺まで貰ってしまった。あとで捨てておこう。
「はぁ、リクくん……かわいいね」
「ぁん……っ♡きもちぃ……ヤマシタさん、っ……♡♡」
「小さな乳首もかわいいよ」
「……は、ずかしぃ…………♡あんま、っん……言わないで、くださいっ♡♡」
親指でぐりぐりと乳首を擦られる。肌寒さで乳頭がぷっくりと露出していて、敏感なそこを押しつぶすように何度も強く擦られて腰が跳ねた。こいつ前戯長ぇな。昨日の奴は前戯もそこそこに下着を脱がせてきたし、一昨日の奴なんて部屋に入るなり玄関先で速攻でハメてきた。てっきりαは前戯なんてしないのかと思っていたが、やっぱり個人差はあるみたいだ。……ジンは、どうなんだろう?
昨日ホストクラブの前で見かけた、あの澄まし顔を思い出してみる。温和そうに垂れ下がった眉尻と、切れ長でクールな目元。カラコンを入れているのか、瞳は綺麗なセルリアンブルーだった。形のいい唇にはリップリングが開いていて、彼が口を開く度に光を反射していた。αの中でも桁違いに容姿が綺麗で、NO.1というのも納得のビジュアルだ。あの容姿ならホストクラブを辞めた後でも、顔採用でどうとでもなるんじゃないだろうか。
「入れるね」
「っあ゛……♡は、ぁ…………ヤマシタさんの、おっきい……♡」
「動いてもいい?」
「んっ、……はい…………♡はやく、うごいて……っ♡♡」
あぁ、腹立たしい。早くあいつを俺のテクで堕としてやりたい。ホストなんて女とは毎日ヤりまくってるだろうが、きっと男を抱くなんて初めてだろう。どんな表情で、どんな風に俺を抱くのか。考えただけで腹の奥が切なく疼く。抱かれたい。あいつに、めちゃくちゃにされたい。余裕のなさそうな顔を見て、鼻で笑ってやりたい。男は耳元で何かを囁いているが、そんな薄ら寒い言葉は右から左へと流れていった。ナカに出された体温を感じながら、俺はにやりと口角を吊り上げるのだった。
♥♥
貰ったお小遣いをしっかり財布にしまって、俺はぷらぷらと街を散策していた。良い子は寝静まっている時間だが、この街には悪い子しかいないのでむしろこの時間帯からが本番だ。路上で吐いているキャバ嬢や、援交中であろう若い女とくたびれたおっさん、そして退勤しているホスト。お目当ての惑星グループまで辿り着いた俺は、近くの電柱の影に隠れて様子を伺うことにした。長丁場になるかもしれない、と覚悟していたが……。
「今日はありがとう、さゆりちゃん。送りに選んでもらえて嬉しい」
「う、うん。ジンくんと話すの、すごく楽しかったから……。私の方こそ、ありがとう……!」
「俺も。さゆりちゃんと話してすごく癒された」
「あの、また会いに行くね。今度はシャンパンとか入れたいし……」
「無理しないで。俺はさゆりちゃんが来てくれて、一緒に過ごせるだけで充分」
「わっ……じゃ、じゃあまたね、ジンくんっ!」
ラッキー、まさか今日も会えるなんて。隣にいるのは昨日の地雷女ではなく、さゆりという女だった。この街には珍しい清楚系……と言えば聞こえはいいが、要するに野暮ったくてこの街から浮いている。恐らく初回の格安料金に釣られたクチだろう。
ふわりと優しげに微笑んだジンと、口元や耳に大量に開けられたゴツいピアスがアンバランスで、きっと女はこういうギャップにやられてるんだろう。
地味な女を見送ったジンは、踵を返すとそのまま店の中へと戻ってしまった。その後はジンが表に出てくることはなく、俺は電柱の影に屈みこんで適当に時間を潰していた。夜の街、しかもホストクラブの前で若い男がずっと座っているなんて、傍から見ればかなり怪しいだろう。一度職質もされたが、バイト先のおっさんから貰ったクロスワードが途中だったので、「カエルの別名って何か分かる?」とダメ元で尋ねてみた。正解はカワズだった。ありがとう警察官。
「ふあぁ……眠ぃ」
大きな欠伸をひとつ吐く。あいつ、何時になったら仕事終わるんだ。ヤマモト……ヤマシタだっけ?と別れた後速攻でここまでやって来たから、まだシャワーも浴びれていない。ねちっこく弄られた乳首はあいつの唾液でベトベトだし、奥で何度も出された精液が逆流して気持ち悪い。しかし今更ネカフェでシャワーを浴びるのも勿体ない気がするし、ここで掻き出す訳にも……いや、待てよ?
電柱の影から顔だけ覗かせて周囲を見渡すと、奇跡的に誰もいなかった。今の時間帯ならホスクラやキャバクラに行っている客が多いし、観光気分の一般人なんかはとっくに帰って眠りについている頃だろう。それに警察官はさっき見回りに来たきりだし、ひょっとして今ならバレないんじゃないか?
ダボッとしたパーカーを少し伸ばして、改めてその場に屈みこむ。これ幸いとジーンズと下着をずり下ろし、穴の入口に人差し指と中指を添えた。
「……っん」
そのまま指を挿入し、どろりとしたモノで満たされるナカから精液を掻き出していく。穴の周りから白濁液がとろとろと零れてきて、地面に小さく水溜まりを作っていった。自分の指がナカを擦る動きに思わず身悶えてしまう。先程まで散々触れられて敏感になっていた身体が、ぴくりと小さく跳ねた。
「ぁ、~~……ッ」
「___何してんの」
「…………え」
しかし、それは冷たい声に制されることとなった。
目の前に長い影ができる。ハッとして顔を上げると、吸い込まれそうな空色が広がっていた。衝撃で太ももを伝う白濁が垂れて、俺の下着を濡らす。
「……なに、酔っ払い?勘弁して…………、」
すらりと伸びた長い手足、毛穴ひとつ見えない色白の肌、口を開く度にきらりと光るリップリング。温和に垂れた眉尻は不機嫌そうに吊り上げられていたが、俺は「美形が怒ると怖いって本当だったんだ」なんてことを考えていた。
___宇宙、ジン。
俺の汚い金髪とは比べ物にならないくらい、サラサラと綺麗に流れる黒髪。きっと丁寧にお手入れされているんだろう。生粋のβの俺でも分かる。こいつは、αの頂点だ。彼の瞳にじっと見つめられると、身動きが取れなくなる。心臓が重く鼓動を打つ。彼以外の全ての情報がシャットアウトされる感覚だ。同性の俺でもこんなに心を掴まれるなら、異性なんてもっと容易く心を奪われるだろう。
「す、すみません……!あの、別に店に迷惑かけるつもりじゃ……」
「…………なんで、ここが」
「は?」
紅く艷めく唇が、震える。目を見開いて俺を凝視してくるジンを前に、俺の頭は正直「何言ってんだこいつ」というはてなマークで埋め尽くされていた。中途半端に下着を下ろしたまま固まる俺の姿がどう映ったのか、彼はふと我に返った様子で頭を振る。
「……謝罪はいいから帰って。姫の邪魔になる」
「あ……待ってください、ジン!……さん!」
「待たない。営業妨害で警察呼ぶよ」
「あのっ、明日も出勤しますか?」
「教えない」
「分かりました。じゃあ明日も来ますね」
「来るな」
「それじゃあまた明日!」
「話を聞け。来るな。来ても追い返す」
待ち伏せ作戦(?)大成功だ!ちゃっかり明日会う予定まで作っちゃったし、俺ってやっぱ男誑しの才能があるんじゃないか?今日はもう自宅に帰ろうと思っていたが、予定変更。コンビニの駐車場で祝賀会をしてから帰ろう。普段は買えないコンビニケーキやジュース、お酒……はまだ19歳だから買えないけど、とびきり豪勢に祝おうじゃないか。
上機嫌になって駆け出そうとしたが、ふと自分の状態を思い出して足を止める。ぶかぶかのパーカーで隠れているとは言え、下半身は丸出しの状態。しかも中途半端に精液が垂れているせいで、俺が路上で射精しながら走っている不審者と誤解されてしまうかもしれない。職質はまだしも署まで同行願われるのはさすがに嫌すぎる。
「……このまま帰るか」
どろどろの下着を履く。股間にべとりとした液体が付着して気持ち悪い。気分が急降下した俺は、大人しく帰路へつくことにした。ジンを堕とす方法は……まぁ、また明日考えればいいだろう。だってあのジンと直接会話ができたんだ、良い感じの関係を築いていけば「セックスしましょう♡」「いいよ♡」みたいになるかもしれない。ホストなんて大抵鬼枕のヤリチンなんだし、ちょっと誘惑すればホイホイ乗っかってきそうだ。
「それにしても、ホントに格好良かったな。さすがはカリスマホストのα様……って感じ」
俺を見下ろしていた表情を思い出す。吐き捨てられたガムでも見るような冷たい視線は、まさに絶対零度の瞳と言うべきか。ホス狂……姫?たちと話している時は、周囲に花が咲くような、「世界は俺のために回ってますけど?」とでも言いたげな自信満々の笑みを浮かべていたのに。
「……覚悟してろよ、ジン」
お前の余裕そうな表情、俺が壊してやる。
コンビニで買ったお茶を飲みながら、俺はひとまず今晩の相手を探すことにする。ジンのことは、男に抱かれてる間にゆっくりと考えればいい。キャッチや立ちんぼがたむろしている表通りを離れ、入り組んだ裏道を早足で進んでいく。すれ違う男たちのスーツや腕時計をじっくり観察していると、年齢の割に高価な腕時計を着けている奴を見つけた。
「…………みーっけ」
スマホを片手にキョロキョロと周りを見渡して、時折両手を上げたりジャンプしたりする不審な男。あれは多分、マッチングアプリで女と待ち合わせたけど、実はYouTuberのドッキリ企画かパパ活制裁系の配信者に騙されてしまっているパターンだろう。可哀想に。ネットで女を見つけるなんて博打しなくても、路上の立ちんぼに声をかければ一発なのに。
「……ねぇ、おにーさん」
「はい?」
でも夜の街に慣れていない男は、俺の演技にコロッと騙されてくれるから良い。少し雑に喘いでも「気持ちいいんだね」と嬉しそうに笑うし、αのくせに騙されているのが滑稽で仕方ない。染まりきっていないから、乱暴に挿入したりしないのも高得点だ。
俺より幾分か上にある顔を見上げて、にこにこと人好きのする笑みを浮かべたまま首を傾げる。でも瞳の奥ではじっと男を見据えて、視線を一切逸らさない。男は俺の顔や身体をじっくりと観察していて、夜の喧騒から突然現れた少年に、興奮や期待を隠しきれていない様子だった。
「誰かと待ち合わせですか?」
「あぁ、そうだよ。しばらく待っても来ないから、もう帰ろうと思ってたんだ」
「そうなんですね。じゃあさ、代わりに……」
___βの俺と、ナマでシてみない?
誘惑するように耳元で囁けば、男は何度も強く頷いた。お誘い、大成功。男の腕に自ら絡みついて軽く股間を揉んでやれば、荒く息を吐いたそいつが尻を揉みしだいてくる。子どもの戯れみたいな動きをそっと制して、俺たちはピンク色の豪華なお城の中へ消えていった。
♥♥
土曜日の夜ということもあって、ロビーのタッチパネルはほぼ満室を示していたが、奇跡的に一部屋だけ空いていたのですぐにボタンを押した。部屋に入った瞬間シャワーも浴びずに求められて、汗臭さに思わず顔を顰めてしまう。ヤマシタと名乗る男は電化製品で有名な企業に務めているらしい。個人情報をペラペラ喋るなんて余程そういう出会いに飢えていたのか、エレベーター内ではなぜか名刺まで貰ってしまった。あとで捨てておこう。
「はぁ、リクくん……かわいいね」
「ぁん……っ♡きもちぃ……ヤマシタさん、っ……♡♡」
「小さな乳首もかわいいよ」
「……は、ずかしぃ…………♡あんま、っん……言わないで、くださいっ♡♡」
親指でぐりぐりと乳首を擦られる。肌寒さで乳頭がぷっくりと露出していて、敏感なそこを押しつぶすように何度も強く擦られて腰が跳ねた。こいつ前戯長ぇな。昨日の奴は前戯もそこそこに下着を脱がせてきたし、一昨日の奴なんて部屋に入るなり玄関先で速攻でハメてきた。てっきりαは前戯なんてしないのかと思っていたが、やっぱり個人差はあるみたいだ。……ジンは、どうなんだろう?
昨日ホストクラブの前で見かけた、あの澄まし顔を思い出してみる。温和そうに垂れ下がった眉尻と、切れ長でクールな目元。カラコンを入れているのか、瞳は綺麗なセルリアンブルーだった。形のいい唇にはリップリングが開いていて、彼が口を開く度に光を反射していた。αの中でも桁違いに容姿が綺麗で、NO.1というのも納得のビジュアルだ。あの容姿ならホストクラブを辞めた後でも、顔採用でどうとでもなるんじゃないだろうか。
「入れるね」
「っあ゛……♡は、ぁ…………ヤマシタさんの、おっきい……♡」
「動いてもいい?」
「んっ、……はい…………♡はやく、うごいて……っ♡♡」
あぁ、腹立たしい。早くあいつを俺のテクで堕としてやりたい。ホストなんて女とは毎日ヤりまくってるだろうが、きっと男を抱くなんて初めてだろう。どんな表情で、どんな風に俺を抱くのか。考えただけで腹の奥が切なく疼く。抱かれたい。あいつに、めちゃくちゃにされたい。余裕のなさそうな顔を見て、鼻で笑ってやりたい。男は耳元で何かを囁いているが、そんな薄ら寒い言葉は右から左へと流れていった。ナカに出された体温を感じながら、俺はにやりと口角を吊り上げるのだった。
♥♥
貰ったお小遣いをしっかり財布にしまって、俺はぷらぷらと街を散策していた。良い子は寝静まっている時間だが、この街には悪い子しかいないのでむしろこの時間帯からが本番だ。路上で吐いているキャバ嬢や、援交中であろう若い女とくたびれたおっさん、そして退勤しているホスト。お目当ての惑星グループまで辿り着いた俺は、近くの電柱の影に隠れて様子を伺うことにした。長丁場になるかもしれない、と覚悟していたが……。
「今日はありがとう、さゆりちゃん。送りに選んでもらえて嬉しい」
「う、うん。ジンくんと話すの、すごく楽しかったから……。私の方こそ、ありがとう……!」
「俺も。さゆりちゃんと話してすごく癒された」
「あの、また会いに行くね。今度はシャンパンとか入れたいし……」
「無理しないで。俺はさゆりちゃんが来てくれて、一緒に過ごせるだけで充分」
「わっ……じゃ、じゃあまたね、ジンくんっ!」
ラッキー、まさか今日も会えるなんて。隣にいるのは昨日の地雷女ではなく、さゆりという女だった。この街には珍しい清楚系……と言えば聞こえはいいが、要するに野暮ったくてこの街から浮いている。恐らく初回の格安料金に釣られたクチだろう。
ふわりと優しげに微笑んだジンと、口元や耳に大量に開けられたゴツいピアスがアンバランスで、きっと女はこういうギャップにやられてるんだろう。
地味な女を見送ったジンは、踵を返すとそのまま店の中へと戻ってしまった。その後はジンが表に出てくることはなく、俺は電柱の影に屈みこんで適当に時間を潰していた。夜の街、しかもホストクラブの前で若い男がずっと座っているなんて、傍から見ればかなり怪しいだろう。一度職質もされたが、バイト先のおっさんから貰ったクロスワードが途中だったので、「カエルの別名って何か分かる?」とダメ元で尋ねてみた。正解はカワズだった。ありがとう警察官。
「ふあぁ……眠ぃ」
大きな欠伸をひとつ吐く。あいつ、何時になったら仕事終わるんだ。ヤマモト……ヤマシタだっけ?と別れた後速攻でここまでやって来たから、まだシャワーも浴びれていない。ねちっこく弄られた乳首はあいつの唾液でベトベトだし、奥で何度も出された精液が逆流して気持ち悪い。しかし今更ネカフェでシャワーを浴びるのも勿体ない気がするし、ここで掻き出す訳にも……いや、待てよ?
電柱の影から顔だけ覗かせて周囲を見渡すと、奇跡的に誰もいなかった。今の時間帯ならホスクラやキャバクラに行っている客が多いし、観光気分の一般人なんかはとっくに帰って眠りについている頃だろう。それに警察官はさっき見回りに来たきりだし、ひょっとして今ならバレないんじゃないか?
ダボッとしたパーカーを少し伸ばして、改めてその場に屈みこむ。これ幸いとジーンズと下着をずり下ろし、穴の入口に人差し指と中指を添えた。
「……っん」
そのまま指を挿入し、どろりとしたモノで満たされるナカから精液を掻き出していく。穴の周りから白濁液がとろとろと零れてきて、地面に小さく水溜まりを作っていった。自分の指がナカを擦る動きに思わず身悶えてしまう。先程まで散々触れられて敏感になっていた身体が、ぴくりと小さく跳ねた。
「ぁ、~~……ッ」
「___何してんの」
「…………え」
しかし、それは冷たい声に制されることとなった。
目の前に長い影ができる。ハッとして顔を上げると、吸い込まれそうな空色が広がっていた。衝撃で太ももを伝う白濁が垂れて、俺の下着を濡らす。
「……なに、酔っ払い?勘弁して…………、」
すらりと伸びた長い手足、毛穴ひとつ見えない色白の肌、口を開く度にきらりと光るリップリング。温和に垂れた眉尻は不機嫌そうに吊り上げられていたが、俺は「美形が怒ると怖いって本当だったんだ」なんてことを考えていた。
___宇宙、ジン。
俺の汚い金髪とは比べ物にならないくらい、サラサラと綺麗に流れる黒髪。きっと丁寧にお手入れされているんだろう。生粋のβの俺でも分かる。こいつは、αの頂点だ。彼の瞳にじっと見つめられると、身動きが取れなくなる。心臓が重く鼓動を打つ。彼以外の全ての情報がシャットアウトされる感覚だ。同性の俺でもこんなに心を掴まれるなら、異性なんてもっと容易く心を奪われるだろう。
「す、すみません……!あの、別に店に迷惑かけるつもりじゃ……」
「…………なんで、ここが」
「は?」
紅く艷めく唇が、震える。目を見開いて俺を凝視してくるジンを前に、俺の頭は正直「何言ってんだこいつ」というはてなマークで埋め尽くされていた。中途半端に下着を下ろしたまま固まる俺の姿がどう映ったのか、彼はふと我に返った様子で頭を振る。
「……謝罪はいいから帰って。姫の邪魔になる」
「あ……待ってください、ジン!……さん!」
「待たない。営業妨害で警察呼ぶよ」
「あのっ、明日も出勤しますか?」
「教えない」
「分かりました。じゃあ明日も来ますね」
「来るな」
「それじゃあまた明日!」
「話を聞け。来るな。来ても追い返す」
待ち伏せ作戦(?)大成功だ!ちゃっかり明日会う予定まで作っちゃったし、俺ってやっぱ男誑しの才能があるんじゃないか?今日はもう自宅に帰ろうと思っていたが、予定変更。コンビニの駐車場で祝賀会をしてから帰ろう。普段は買えないコンビニケーキやジュース、お酒……はまだ19歳だから買えないけど、とびきり豪勢に祝おうじゃないか。
上機嫌になって駆け出そうとしたが、ふと自分の状態を思い出して足を止める。ぶかぶかのパーカーで隠れているとは言え、下半身は丸出しの状態。しかも中途半端に精液が垂れているせいで、俺が路上で射精しながら走っている不審者と誤解されてしまうかもしれない。職質はまだしも署まで同行願われるのはさすがに嫌すぎる。
「……このまま帰るか」
どろどろの下着を履く。股間にべとりとした液体が付着して気持ち悪い。気分が急降下した俺は、大人しく帰路へつくことにした。ジンを堕とす方法は……まぁ、また明日考えればいいだろう。だってあのジンと直接会話ができたんだ、良い感じの関係を築いていけば「セックスしましょう♡」「いいよ♡」みたいになるかもしれない。ホストなんて大抵鬼枕のヤリチンなんだし、ちょっと誘惑すればホイホイ乗っかってきそうだ。
「それにしても、ホントに格好良かったな。さすがはカリスマホストのα様……って感じ」
俺を見下ろしていた表情を思い出す。吐き捨てられたガムでも見るような冷たい視線は、まさに絶対零度の瞳と言うべきか。ホス狂……姫?たちと話している時は、周囲に花が咲くような、「世界は俺のために回ってますけど?」とでも言いたげな自信満々の笑みを浮かべていたのに。
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