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第1章:夜伽
♥第1話
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この世界には、男女の他にバース性と呼ばれるものが存在する。バース性はα(アルファ)、β(ベータ)、Ω(オメガ)の三つに分かれていて、その体質や特徴からそれぞれ社会的地位が確立されている。
人口全体で二割ほどしかいないαは、同性でも見惚れるほど美しい容姿や高い身体能力、そして政府の期待を一身に背負っている立場ということもあり、エリート中のエリートとして知られる。
現在国を動かしている政治家や官僚も九割ほどαが占めており、αの社会的信頼はとても高い。それにもし政治分野に興味がなくても、その端麗な容姿を活かして芸能活動をしたり、スポーツ選手になって大会に出場したり、とにかく輝かしい将来が約束されている。
そんなαの優秀な遺伝子を残すのはΩの役目だ。Ωは男女問わずαの子を孕むことができるが、全体の一割ほどしかいないため、検査でΩと発覚した場合は政府に保護されるらしい。詳しくは知らないが、一ヶ月に一度ヒートという発情期がくるみたいで、その際に放出されるフェロモンがαを誘惑してしまうそうだ。バース性が広まった現在では教科書に載るくらい一般常識になっていて、Ωだからと言って無理やり襲われるようなことはなくなった。……というのが、現在政府が発表している情報だ。
「リクくん、よそ見したら駄目だよ」
「っん…………はぁ、……ぁ、ごめんなさ……っ♡」
でも残念ながら俺はそのどちらにも属さなかった。人口の七割を占めるβは、αやΩと違って孕んだり孕ませたりする心配はない。最も人口が多い多いバース性ということもあって、恋愛なんかはβ同士で結ばれることが多い。αやΩはその希少性から、極力βとは子どもを作らないよう訴える団体があるほどだ。中学校で初めてバース検査を受けた際、βと判を押された紙を見て『自分は誰かの運命の番にはなれないんだ』と絶望したのを覚えている。
早くに両親を亡くしてから、慣れ親しんだ土地を離れて遠縁の親戚に世話になってきた。しかし最初は優しかった親戚も、段々とその顔に厄介者を引き取ってしまったという表情を浮かべるようになる。だから高校卒業と同時に小さなリュックを一つだけ抱えて、慣れない電車を乗り継ぎ都会まで出てきたんだ。もう誰も頼らないし、誰からも愛されなくていい。そう強く決心して。
「リクくんは本当にセックスが大好きだね」
「あっ…………だいすき……ですっ♡」
「じゃあ問題。君のお腹の中には、何が入っているでしょうか?」
「は、ぁ…………ナオさんの、でけぇちんこが……はいってます…………♡」
でも現実は厳しかった。都会は想像していたよりもずっと冷たくて、十九歳のガキが一人で生きていくにはあまりにも夜が深い。幸い体力だけはあったから、日雇いのバイトを掛け持ちして生活していた。バイト先のおっさんたちは、両親を亡くしていることを告げて以降「妻が作りすぎた」「半額だからつい買いすぎた」と弁当箱やタッパーを差し入れてくれている。
都会に来て初めて食べた手作り弁当は、涙が出るくらい美味しかった。ポロポロと涙を零しながら弁当を食べる俺を見て、何故かおっさんたちまで号泣して午後の作業が進まなくなったっけ。食べる姿が息子の似てるって何回も言われて、この人たちの子に産まれてたら、βとして幸せな人生を送れただろうなって心から感じた。
「そうだね。君は見知らぬ男にセックスを強請るような淫乱だ」
「ぁん……っ♡んぅ、えっちで……ごめんなさいぃ…………♡♡」
「言葉で謝るだけじゃ駄目。リクくんも大人なんだから、もっと誠意を見せて」
「ひぁ……っ、♡…………せい、い……?」
だけど、ふと考えてしまうことがある。もしも俺がαやΩに産まれていたら、誰かに心の底から愛してもらえたんじゃないかって。俺がβなんて替えのきく存在じゃなくてΩだったら、運命の番と出会って家庭を持つ幸せを知れたのかもしれない。自身の平凡なβ性が憎かった。疎ましかった。それと同じくらい、αやΩに強烈なコンプレックスを感じた。
そんな劣等感を忘れたくて、俺は毎晩行きずりのαに抱かれている。
ここは繁華街にひっそりと佇むラブホテルの一室。地方銀行の支店長だという男は、仰向けに転がる俺の脚を大きく開かせて、怒張したソレをゆっくりと出し入れしている。αというだけあってカリ高極太の立派なサイズだが、長さだけなら先週の木曜日に身体を重ねた男が勝っている。名前は忘れたが、あいつのモノは確かここまで挿入って……と臍の上あたりをそっと撫でた。
「そう。じゃあ一旦、騎乗位の体制になろうか」
「んっ…………は、い……♡」
「次はこう言って。『俺はナオさん専用のメス穴です』って」
「ゃ……はずかしい、です…………」
そっと目を伏せて恥ずかしがるように両手で顔を覆えば、目の前の男が生唾を飲む音が聞こえた。単純な演技にすら欲情する姿が滑稽で、手の中でくすりと笑みをこぼした。エリート街道まっしぐらのα様のくせに、たかがβの猿芝居に騙されておっ勃ててやがる。地方銀行の支店長だか何だか知らないが、ベッドの上じゃ俺が支配者だ。
「ほら、言ってごらん」
「……っおれ、は…………♡ナオさ、ぁんっ♡……せんよう、の…………っメス穴、です……っ♡」
「よく言えたね。じゃあご褒美の時間だ」
「んぅう…………♡ぁ、おく、っきもちぃ……♡」
腹のあたりに力を込めて意図的に吸い付いてやると、眉根を寄せた男が小さく息を吐いた。激しく打ち付けていた腰の動きが止まり、ナカで太いソレが脈打つ感覚がした。奥で熱い液体が広がり、勢い余って逆流しそうになる。零さないように入口をキツく締め付けると、男のモノは再び硬度を増した。
その後も男はナカで何度も射精し、彼が満足そうな表情を浮かべる頃には窓の外が白く輝いていた。あぁ、夜明けだ。穴を塞いでいた栓が勢いよく抜かれて、白濁した液体が垂れる。指で掬ったソレを押し戻すように入口の近くを弄れば、男はすぐに俺のオナニーショーに夢中になっていた。
「……あ、あのさ、時間あるしもう一発…………」
「だぁめ。夜が明けるまで……って約束です」
穴の縁に引っ掛けた指で、入口を大きく広げてみせる。出されたばかりの精液が堰を切ったように溢れ出して、きっと散々奥に出されたナカは白濁に汚されているだろう。生殺しにされた男は辛そうに唇を噛んでいたが、それ以上俺の身体を蹂躙することはなかった。代わりに男の指先に柔く吸い付いて、俺との情事を紅く残してやった。
♥♥
これが俺の毎晩の日課。またの名をライフワーク、もしくはナイトルーティーン。毎晩下品なネオンで彩られた街を歩いては、αらしき人間に声をかけているのだ。「βをナマで抱いてみませんか?」って。この時間帯に繁華街を歩いてる奴なんて、ヤりたいだけに決まっている。それに孕ませる心配がないβを無料で生ハメできるなんて、ここで乗らなきゃ男が廃るってもんだ。幸い俺は中性的な容姿をしているらしいし、初めて男に抱かれた二ヶ月前から相手に困ったことはない。
俺の名前は桜井理久、十九歳。母親譲りで吊り目がちな大きな瞳と、市販の薬剤で染めた色ムラだらけの金髪、唇のすぐ下に開けたラブレットがトレードマークだ。親戚の顔色を伺う生活が長かったおかげで、人を喜ばせる言葉遣いや態度に詳しくなったと思う。
例えばさっきのナ……ナオヤだっけ?は、AVで観たような安っぽい言葉責めを好んでいた。女性経験が少ないであろうそいつには、あえてこちらも初心でいじらしい態度を取って、地銀の支店長のちっぽけなプライドを保ってやったのだ。何が「セックス恥ずかしい~♡」だ、こっちはドSの絶倫αから早漏の短小αまでハメてきたプロのβアナルだわ。舐めんな。
「あいつ、奥まで出しやがって……」
腹の奥で精液が揺れて気持ち悪い。さっきの男が「美味しいものでも食べて」と渡してくれた五万円があるし、近くのネカフェでシャワーでも入ろうか。パーカーのポケットに手を突っ込んでふらふら歩いていると、目の前で随分と身長差のある男女が揉めていた。ホストとホス狂いの痴話喧嘩か。この街ではよく見る光景だが、ホストの男に見覚えがある気がして、つい立ち止まってしまった。
「~ッホントに信じらんない!みぁならラスソン取れるって言ったじゃん、みぁに嘘ついたの!?」
「大切なみぁに嘘なんてつかないよ」
「はぁ!?お前はいっつも嘘ばっかり!どうせみぁが出稼ぎ行ってる時も女連れ込んでたんだろ!?」
「連れ込んでない。みぁはずーっと一緒に頑張ってきた俺より、あんな掲示板を信じるの?」
「っ……みぁだって信じたいよ!でも、ッジンが何考えてるか分かんないんだもん……!」
小柄な女が出した名前にピンとくる。あぁ、通りで見覚えがあると思った。この街でも有数の超人気ホストクラブ・惑星グループの宇宙ジン。確か年間売上も指名本数もNO.1という化け物みたいなカリスマホストで、先週も煌びやかなトラックがあの男の顔を載せて走っていたっけ。惑星グループはαだけが在籍を許される顔面国宝グループと噂で、そんな容姿端麗なホストしかいない空間でNO.1だなんて……誰もが羨む、絵に描いたような成功者だ。
「……俺は。みぁと一緒に思い出を作れたから、ホストやってて良かったって思うよ」
「みぁも、っそんなのみぁもだよ!嫌なこともいっぱいあったけど、ジンと出会えて良かったって心から思ってる!」
「嬉しい、ありがとう。じゃあこれからも、俺のために頑張ってくれる?」
「~っうん!」
女はご機嫌な様子で夜の喧騒に消えていった。単純すぎるだろ。ラスソンとやらはもういいのかよ、みぁ。その後ろ姿を見送った宇宙ジンは、瞳から光を失くして絢爛なホストクラブの中へ戻って行った。
生身の宇宙ジンは、トラックや看板の写真をそのまま現実世界に引っ張り出したように綺麗だった。街の灯りを反射する艶やかな黒髪に、耳や唇をビッシリと覆う銀色のピアス。すらりと伸びた長い手足は、シンプルなスーツすらモデルのように着こなしている。
童話の中の王子様みたいに綺麗なそいつを見ていると、汚れきった自分の身体が醜く思えた。行きずりのαに声をかけて、「抱いてください」と自分から強請って、β相手に必死に腰を振るそいつらを嘲笑って。俺、最低だ。最低だけど、αに抱かれることでしか孤独を満たせないんだ。都会に出て空の広さを知ったあの日から、胸の奥がずっと苦しい。
「……宇宙、ジン…………」
___あの男に、抱かれたい。カリスマホストのα様が、救いようがないビッチのβ相手にどこまで堕ちるのか。自分の仄暗い劣等感を忘れたくて始めた行為だが、俺の実力がどこまで通用するのかを試してみたくなった。だってここ二ヶ月、毎晩様々な男を喜ばせてきたんだ。俺の身体と観察眼があれば、あのホストだって虜にできるはず。
「…………ぜってぇ、お前に抱かれてやる」
人口全体で二割ほどしかいないαは、同性でも見惚れるほど美しい容姿や高い身体能力、そして政府の期待を一身に背負っている立場ということもあり、エリート中のエリートとして知られる。
現在国を動かしている政治家や官僚も九割ほどαが占めており、αの社会的信頼はとても高い。それにもし政治分野に興味がなくても、その端麗な容姿を活かして芸能活動をしたり、スポーツ選手になって大会に出場したり、とにかく輝かしい将来が約束されている。
そんなαの優秀な遺伝子を残すのはΩの役目だ。Ωは男女問わずαの子を孕むことができるが、全体の一割ほどしかいないため、検査でΩと発覚した場合は政府に保護されるらしい。詳しくは知らないが、一ヶ月に一度ヒートという発情期がくるみたいで、その際に放出されるフェロモンがαを誘惑してしまうそうだ。バース性が広まった現在では教科書に載るくらい一般常識になっていて、Ωだからと言って無理やり襲われるようなことはなくなった。……というのが、現在政府が発表している情報だ。
「リクくん、よそ見したら駄目だよ」
「っん…………はぁ、……ぁ、ごめんなさ……っ♡」
でも残念ながら俺はそのどちらにも属さなかった。人口の七割を占めるβは、αやΩと違って孕んだり孕ませたりする心配はない。最も人口が多い多いバース性ということもあって、恋愛なんかはβ同士で結ばれることが多い。αやΩはその希少性から、極力βとは子どもを作らないよう訴える団体があるほどだ。中学校で初めてバース検査を受けた際、βと判を押された紙を見て『自分は誰かの運命の番にはなれないんだ』と絶望したのを覚えている。
早くに両親を亡くしてから、慣れ親しんだ土地を離れて遠縁の親戚に世話になってきた。しかし最初は優しかった親戚も、段々とその顔に厄介者を引き取ってしまったという表情を浮かべるようになる。だから高校卒業と同時に小さなリュックを一つだけ抱えて、慣れない電車を乗り継ぎ都会まで出てきたんだ。もう誰も頼らないし、誰からも愛されなくていい。そう強く決心して。
「リクくんは本当にセックスが大好きだね」
「あっ…………だいすき……ですっ♡」
「じゃあ問題。君のお腹の中には、何が入っているでしょうか?」
「は、ぁ…………ナオさんの、でけぇちんこが……はいってます…………♡」
でも現実は厳しかった。都会は想像していたよりもずっと冷たくて、十九歳のガキが一人で生きていくにはあまりにも夜が深い。幸い体力だけはあったから、日雇いのバイトを掛け持ちして生活していた。バイト先のおっさんたちは、両親を亡くしていることを告げて以降「妻が作りすぎた」「半額だからつい買いすぎた」と弁当箱やタッパーを差し入れてくれている。
都会に来て初めて食べた手作り弁当は、涙が出るくらい美味しかった。ポロポロと涙を零しながら弁当を食べる俺を見て、何故かおっさんたちまで号泣して午後の作業が進まなくなったっけ。食べる姿が息子の似てるって何回も言われて、この人たちの子に産まれてたら、βとして幸せな人生を送れただろうなって心から感じた。
「そうだね。君は見知らぬ男にセックスを強請るような淫乱だ」
「ぁん……っ♡んぅ、えっちで……ごめんなさいぃ…………♡♡」
「言葉で謝るだけじゃ駄目。リクくんも大人なんだから、もっと誠意を見せて」
「ひぁ……っ、♡…………せい、い……?」
だけど、ふと考えてしまうことがある。もしも俺がαやΩに産まれていたら、誰かに心の底から愛してもらえたんじゃないかって。俺がβなんて替えのきく存在じゃなくてΩだったら、運命の番と出会って家庭を持つ幸せを知れたのかもしれない。自身の平凡なβ性が憎かった。疎ましかった。それと同じくらい、αやΩに強烈なコンプレックスを感じた。
そんな劣等感を忘れたくて、俺は毎晩行きずりのαに抱かれている。
ここは繁華街にひっそりと佇むラブホテルの一室。地方銀行の支店長だという男は、仰向けに転がる俺の脚を大きく開かせて、怒張したソレをゆっくりと出し入れしている。αというだけあってカリ高極太の立派なサイズだが、長さだけなら先週の木曜日に身体を重ねた男が勝っている。名前は忘れたが、あいつのモノは確かここまで挿入って……と臍の上あたりをそっと撫でた。
「そう。じゃあ一旦、騎乗位の体制になろうか」
「んっ…………は、い……♡」
「次はこう言って。『俺はナオさん専用のメス穴です』って」
「ゃ……はずかしい、です…………」
そっと目を伏せて恥ずかしがるように両手で顔を覆えば、目の前の男が生唾を飲む音が聞こえた。単純な演技にすら欲情する姿が滑稽で、手の中でくすりと笑みをこぼした。エリート街道まっしぐらのα様のくせに、たかがβの猿芝居に騙されておっ勃ててやがる。地方銀行の支店長だか何だか知らないが、ベッドの上じゃ俺が支配者だ。
「ほら、言ってごらん」
「……っおれ、は…………♡ナオさ、ぁんっ♡……せんよう、の…………っメス穴、です……っ♡」
「よく言えたね。じゃあご褒美の時間だ」
「んぅう…………♡ぁ、おく、っきもちぃ……♡」
腹のあたりに力を込めて意図的に吸い付いてやると、眉根を寄せた男が小さく息を吐いた。激しく打ち付けていた腰の動きが止まり、ナカで太いソレが脈打つ感覚がした。奥で熱い液体が広がり、勢い余って逆流しそうになる。零さないように入口をキツく締め付けると、男のモノは再び硬度を増した。
その後も男はナカで何度も射精し、彼が満足そうな表情を浮かべる頃には窓の外が白く輝いていた。あぁ、夜明けだ。穴を塞いでいた栓が勢いよく抜かれて、白濁した液体が垂れる。指で掬ったソレを押し戻すように入口の近くを弄れば、男はすぐに俺のオナニーショーに夢中になっていた。
「……あ、あのさ、時間あるしもう一発…………」
「だぁめ。夜が明けるまで……って約束です」
穴の縁に引っ掛けた指で、入口を大きく広げてみせる。出されたばかりの精液が堰を切ったように溢れ出して、きっと散々奥に出されたナカは白濁に汚されているだろう。生殺しにされた男は辛そうに唇を噛んでいたが、それ以上俺の身体を蹂躙することはなかった。代わりに男の指先に柔く吸い付いて、俺との情事を紅く残してやった。
♥♥
これが俺の毎晩の日課。またの名をライフワーク、もしくはナイトルーティーン。毎晩下品なネオンで彩られた街を歩いては、αらしき人間に声をかけているのだ。「βをナマで抱いてみませんか?」って。この時間帯に繁華街を歩いてる奴なんて、ヤりたいだけに決まっている。それに孕ませる心配がないβを無料で生ハメできるなんて、ここで乗らなきゃ男が廃るってもんだ。幸い俺は中性的な容姿をしているらしいし、初めて男に抱かれた二ヶ月前から相手に困ったことはない。
俺の名前は桜井理久、十九歳。母親譲りで吊り目がちな大きな瞳と、市販の薬剤で染めた色ムラだらけの金髪、唇のすぐ下に開けたラブレットがトレードマークだ。親戚の顔色を伺う生活が長かったおかげで、人を喜ばせる言葉遣いや態度に詳しくなったと思う。
例えばさっきのナ……ナオヤだっけ?は、AVで観たような安っぽい言葉責めを好んでいた。女性経験が少ないであろうそいつには、あえてこちらも初心でいじらしい態度を取って、地銀の支店長のちっぽけなプライドを保ってやったのだ。何が「セックス恥ずかしい~♡」だ、こっちはドSの絶倫αから早漏の短小αまでハメてきたプロのβアナルだわ。舐めんな。
「あいつ、奥まで出しやがって……」
腹の奥で精液が揺れて気持ち悪い。さっきの男が「美味しいものでも食べて」と渡してくれた五万円があるし、近くのネカフェでシャワーでも入ろうか。パーカーのポケットに手を突っ込んでふらふら歩いていると、目の前で随分と身長差のある男女が揉めていた。ホストとホス狂いの痴話喧嘩か。この街ではよく見る光景だが、ホストの男に見覚えがある気がして、つい立ち止まってしまった。
「~ッホントに信じらんない!みぁならラスソン取れるって言ったじゃん、みぁに嘘ついたの!?」
「大切なみぁに嘘なんてつかないよ」
「はぁ!?お前はいっつも嘘ばっかり!どうせみぁが出稼ぎ行ってる時も女連れ込んでたんだろ!?」
「連れ込んでない。みぁはずーっと一緒に頑張ってきた俺より、あんな掲示板を信じるの?」
「っ……みぁだって信じたいよ!でも、ッジンが何考えてるか分かんないんだもん……!」
小柄な女が出した名前にピンとくる。あぁ、通りで見覚えがあると思った。この街でも有数の超人気ホストクラブ・惑星グループの宇宙ジン。確か年間売上も指名本数もNO.1という化け物みたいなカリスマホストで、先週も煌びやかなトラックがあの男の顔を載せて走っていたっけ。惑星グループはαだけが在籍を許される顔面国宝グループと噂で、そんな容姿端麗なホストしかいない空間でNO.1だなんて……誰もが羨む、絵に描いたような成功者だ。
「……俺は。みぁと一緒に思い出を作れたから、ホストやってて良かったって思うよ」
「みぁも、っそんなのみぁもだよ!嫌なこともいっぱいあったけど、ジンと出会えて良かったって心から思ってる!」
「嬉しい、ありがとう。じゃあこれからも、俺のために頑張ってくれる?」
「~っうん!」
女はご機嫌な様子で夜の喧騒に消えていった。単純すぎるだろ。ラスソンとやらはもういいのかよ、みぁ。その後ろ姿を見送った宇宙ジンは、瞳から光を失くして絢爛なホストクラブの中へ戻って行った。
生身の宇宙ジンは、トラックや看板の写真をそのまま現実世界に引っ張り出したように綺麗だった。街の灯りを反射する艶やかな黒髪に、耳や唇をビッシリと覆う銀色のピアス。すらりと伸びた長い手足は、シンプルなスーツすらモデルのように着こなしている。
童話の中の王子様みたいに綺麗なそいつを見ていると、汚れきった自分の身体が醜く思えた。行きずりのαに声をかけて、「抱いてください」と自分から強請って、β相手に必死に腰を振るそいつらを嘲笑って。俺、最低だ。最低だけど、αに抱かれることでしか孤独を満たせないんだ。都会に出て空の広さを知ったあの日から、胸の奥がずっと苦しい。
「……宇宙、ジン…………」
___あの男に、抱かれたい。カリスマホストのα様が、救いようがないビッチのβ相手にどこまで堕ちるのか。自分の仄暗い劣等感を忘れたくて始めた行為だが、俺の実力がどこまで通用するのかを試してみたくなった。だってここ二ヶ月、毎晩様々な男を喜ばせてきたんだ。俺の身体と観察眼があれば、あのホストだって虜にできるはず。
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