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四十三話『心機一転衣替え』
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少し風が優しい土曜日。私は雪菜先輩に誘われて、少し遠くのショッピングモールに向かっていた。
普段この辺まで来ないから、スマホ頼りになっちゃうなあ。でも、大きな建物だから近づけばわかるはず。それに、迷っちゃうことも考慮して早めに家を出たから、時間も大丈夫なはず。
楽しいお出かけで気分が上がっているはずなのだが、胸のモヤモヤが拭えない。前に進む足が遅くなっていく。
先生、私を誰と間違えたんだろう。引き摺っちゃって、今週はうまくお話しできなかったし。寝ぼけてただけで、私のことを見てくれているって思いたいけれど。……って、ダメダメ! 悲観的な想像ばっかしない。
今日は雪菜先輩の可愛い服を選ぶんだから、勝手に想像して傷つかない。うん、プラスのことだけ考えよう。
暗い気持ちを振り払うように顔をブンブンと振る。少しくらっとした視界に、目的の建物が見えた。予定している時間よりも十五分ほど早く到着。雪菜先輩に連絡して、中で待とうか考えていると、壁に寄りかかって待っている雪菜先輩がいた。
青デニムコートに青デニムパンツ。白シャツに白シューズ。シャツの色に紛れて、一匹の猫がぶら下がっている。
「こんにちは、雪菜先輩。お待たせしちゃいましたか?」
「今さっき来たところだよ。中で待とうか考えてた」
声をかけると、漫画で読んだような気遣いのできる彼氏みたいな台詞を言って爽やかに笑った。生徒会長時代の演技というのは、そう簡単に抜けてくれるものではないらしい。
少し、血色が薄いような。指先も少し白くなってる。少なくとも十分以上は待ってそうだけれど。時間、間違えたかな。
不安になってスマホの履歴を確認すると、時間に間違いはなかった。雪菜先輩を見ても「ん?」と、とぼけた顔をしている。
「寒いですし、入りましょうか」
「そうだね。今日はよろしく」
聞いても仕方のないことのなので、その場は特に触れないことにした。気になったのは、風邪を引かないか心配というぐらいだ。
「あ、古町さん」
中に入ろうとすると、雪菜先輩に呼び止められた。振り向くと、顔を少し赤くして口元に手を当てていた。
「はい?」
「そのモコモコの上着、可愛いね。似合ってる」
勝手に雪菜先輩は人を褒めるの慣れていると思っていたけれど、結構苦手なのかな。でも確かに、学校以外ではなるべく生徒に会わないようにしてる風だったし、変な話ではないか。というか、私も褒められると照れちゃう。お世辞っぽくないと尚更。
「ありがとうございます。雪菜先輩もお似合いですよ。かっこいいです」
「ありがとう」
仕返しに褒め返すと、今度はあまり照れていない様子だった。「かっこいい」は、散々言われてきて慣れてしまったのだろうか。ちょっとだけ悔しいと感じる。
「でも、今日はたくさん可愛いもの探しましょうね?」
可愛いのが好きな雪菜先輩も、言われ慣れていなければ照れてくれると思って言ってみると、予想以上に恥ずかしそうにしていた。やっぱり、雪菜先輩は可愛いと思った。
照れている雪菜先輩と共に建物に入り、洋服店に向かった。焼き菓子の甘い匂いに釣られてしまいそうだったが、目的を忘れないようにと目線を真っ直ぐに固定する。休日ということもあり、中は多少混雑していた。通路が広いおかげでぶつかるようなことはなさそうだ。
「ここでひとまず探しましょうか」
選んだのはメンズもレディースも半々くらいの割合で置いてある、一般的な洋服店。最初から可愛い全開のレディースファッションにしようかとも思ったが、雪菜先輩の耐性のなさから、慣れるところからにした。
ここから可愛いのレベルを上げてお店を回りたいけれど、先輩しだいかな。
「似合ってる似合ってない云々は、いったん忘れましょう。慣れることが大事なので」
「ふーっ。よし、我慢しないぞ。我慢しない」
自分のイメージを優先して買い物していたマインドを切り替えようと、雪菜先輩は自分の意思を口にした。服を買いに来ただけとは思えない気合いを纏って、好みの服を探し始める。人目を気にしないようにと、私は少し離れて探すことにした。
今まで雪菜先輩が来ていた服は、どれもパンツスタイルで、ロングだった。ここはワンピースやスカートを試してもらおうかな。甘い系でも甘すぎないくらいのもの。あとは雪菜先輩が選んだ服を基準に次を選ぼう。あ、猫キャラのゆるいパーカーもいいかも。
十分弱個人的に漁り、雪菜先輩と合流することにした。もしかしたら、雪菜先輩が選べていないかもしれないと思ったからだ。
「これは、うーん。でもなぁ」
雪菜先輩は手に持って確認まではするのだが、踏ん切りがつかないのかすぐに戻してしまう。
隣にいない方が選びやすいと思ったけれど、これは隣にいないと選べずに終わっちゃうやつだ。どうしても人の目が気になっちゃうのかな。
「気になったのありますか?」
「うわ! ふ、古町さん。お、思ったより難しいかも。あはは」
とりあえず、私が選んだ服だけでも着てもらおう。そうしたら踏ん切りがつくかもしれないし。
「ひとまず、私が選んだ物、着てもらってもいいですか?」
「わかった。頑張る」
試着室に入ってもらい、上下セットで着替えてもらう。少しフリルがついたものや、チェック柄。明るい色。チャレンジ気味に花柄のワンピースも渡してみた。相当恥ずかしかったのか、カーテンが開かれるまで結構な間があった。
可愛いというより、綺麗方面に走っちゃうなぁ。それでも、今までのイメージから脱却できそうではあるから問題ない、のかな?
「さすがに、これは変じゃないかな?」
「可愛いですよ? 選んでおいてなんですが、完全に部屋着ですけれど」
猫キャラゆるパーカーを着ている時が一番恥ずかしそうだったが、気に入ったのか少し顔が明るかった。雪菜先輩の好みは、思ったより子供的な可愛いが好きなのかもしれない。
高身長で子供っぽい可愛さはどうしても少し浮いちゃうなあ。雪菜先輩が着てても恥ずかしくないラインの可愛さを探さないと。……それはそれとして、パーカー姿写真に撮っておきたいな。休日感強くて可愛い。
私が選んだ服を一通り試着し終わり、着てきた服に戻った雪菜先輩が出てきた。どうしても、似合うかどうかの話となると、クール系の方が似合っている言わざるをえない。雪菜先輩も着慣れているからか、表情が落ち着いてる。
「なかなか難しいね」
そう苦笑しながら、雪菜先輩は腕に猫キャラパーカーをかけている。部屋着向けでもお気に召したようだ。その後も服選びは続いたのだが、雪菜先輩はなかなか一歩を踏み出せなかった。似合うかどうかは、どうしても気になってしまうようだ。
当たり前か。好みも大事だけれど、似合うかどうかのが気になっちゃいますよね。志穂ちゃんは気にすることなく好みで買っていたけれど。あの思い切りの良さは特別だから、比較しないでおこう。
さらに少し服を探していると、気になるのを見つけた。雪菜先輩の好きな可愛いとは少し違うけれど、人の目が気にならなさそうな服。
「あの。これ、試着してみてください」
少し落ち込んだ様子の雪菜先輩に服を渡して、試着室に入ってもらった。
「これ、可愛い……」
カーテン越しに、雪菜先輩がそうもらした。気に入ってもらえたことが嬉しくて、ついガッツポーズをしてしまった。
「どうかな、古町さん?」
雪菜先輩は先ほどまでの煮え切らない様子とは違い、少し恥ずかしがりながらも明るい声色でカーテンを開けた。白いハイネックのニット。膝丈のボリュームスカート。甘すぎることなく、大人の可愛さを演出している。
「とっても可愛いですよ、雪菜先輩」
雪菜先輩はとても嬉しそうに笑うと、カーテンを閉め、着替えて出てきた。
「これ、買うことにする」
「気に入っていただけてよかったです」
「あと。猫ちゃんパーカーも……」
少し恥ずかしそうに雪菜先輩は付け加えた。一着だけ、部屋着枠を含めれば二着だが、雪菜先輩が着られる、先輩が可愛いと思える服が見つかってよかったと、胸を撫で下ろした。
「思ったより、疲れちゃった。いつもはもっと簡単なんだけどな」
「甘いものでも、食べに行きましょうか」
普段この辺まで来ないから、スマホ頼りになっちゃうなあ。でも、大きな建物だから近づけばわかるはず。それに、迷っちゃうことも考慮して早めに家を出たから、時間も大丈夫なはず。
楽しいお出かけで気分が上がっているはずなのだが、胸のモヤモヤが拭えない。前に進む足が遅くなっていく。
先生、私を誰と間違えたんだろう。引き摺っちゃって、今週はうまくお話しできなかったし。寝ぼけてただけで、私のことを見てくれているって思いたいけれど。……って、ダメダメ! 悲観的な想像ばっかしない。
今日は雪菜先輩の可愛い服を選ぶんだから、勝手に想像して傷つかない。うん、プラスのことだけ考えよう。
暗い気持ちを振り払うように顔をブンブンと振る。少しくらっとした視界に、目的の建物が見えた。予定している時間よりも十五分ほど早く到着。雪菜先輩に連絡して、中で待とうか考えていると、壁に寄りかかって待っている雪菜先輩がいた。
青デニムコートに青デニムパンツ。白シャツに白シューズ。シャツの色に紛れて、一匹の猫がぶら下がっている。
「こんにちは、雪菜先輩。お待たせしちゃいましたか?」
「今さっき来たところだよ。中で待とうか考えてた」
声をかけると、漫画で読んだような気遣いのできる彼氏みたいな台詞を言って爽やかに笑った。生徒会長時代の演技というのは、そう簡単に抜けてくれるものではないらしい。
少し、血色が薄いような。指先も少し白くなってる。少なくとも十分以上は待ってそうだけれど。時間、間違えたかな。
不安になってスマホの履歴を確認すると、時間に間違いはなかった。雪菜先輩を見ても「ん?」と、とぼけた顔をしている。
「寒いですし、入りましょうか」
「そうだね。今日はよろしく」
聞いても仕方のないことのなので、その場は特に触れないことにした。気になったのは、風邪を引かないか心配というぐらいだ。
「あ、古町さん」
中に入ろうとすると、雪菜先輩に呼び止められた。振り向くと、顔を少し赤くして口元に手を当てていた。
「はい?」
「そのモコモコの上着、可愛いね。似合ってる」
勝手に雪菜先輩は人を褒めるの慣れていると思っていたけれど、結構苦手なのかな。でも確かに、学校以外ではなるべく生徒に会わないようにしてる風だったし、変な話ではないか。というか、私も褒められると照れちゃう。お世辞っぽくないと尚更。
「ありがとうございます。雪菜先輩もお似合いですよ。かっこいいです」
「ありがとう」
仕返しに褒め返すと、今度はあまり照れていない様子だった。「かっこいい」は、散々言われてきて慣れてしまったのだろうか。ちょっとだけ悔しいと感じる。
「でも、今日はたくさん可愛いもの探しましょうね?」
可愛いのが好きな雪菜先輩も、言われ慣れていなければ照れてくれると思って言ってみると、予想以上に恥ずかしそうにしていた。やっぱり、雪菜先輩は可愛いと思った。
照れている雪菜先輩と共に建物に入り、洋服店に向かった。焼き菓子の甘い匂いに釣られてしまいそうだったが、目的を忘れないようにと目線を真っ直ぐに固定する。休日ということもあり、中は多少混雑していた。通路が広いおかげでぶつかるようなことはなさそうだ。
「ここでひとまず探しましょうか」
選んだのはメンズもレディースも半々くらいの割合で置いてある、一般的な洋服店。最初から可愛い全開のレディースファッションにしようかとも思ったが、雪菜先輩の耐性のなさから、慣れるところからにした。
ここから可愛いのレベルを上げてお店を回りたいけれど、先輩しだいかな。
「似合ってる似合ってない云々は、いったん忘れましょう。慣れることが大事なので」
「ふーっ。よし、我慢しないぞ。我慢しない」
自分のイメージを優先して買い物していたマインドを切り替えようと、雪菜先輩は自分の意思を口にした。服を買いに来ただけとは思えない気合いを纏って、好みの服を探し始める。人目を気にしないようにと、私は少し離れて探すことにした。
今まで雪菜先輩が来ていた服は、どれもパンツスタイルで、ロングだった。ここはワンピースやスカートを試してもらおうかな。甘い系でも甘すぎないくらいのもの。あとは雪菜先輩が選んだ服を基準に次を選ぼう。あ、猫キャラのゆるいパーカーもいいかも。
十分弱個人的に漁り、雪菜先輩と合流することにした。もしかしたら、雪菜先輩が選べていないかもしれないと思ったからだ。
「これは、うーん。でもなぁ」
雪菜先輩は手に持って確認まではするのだが、踏ん切りがつかないのかすぐに戻してしまう。
隣にいない方が選びやすいと思ったけれど、これは隣にいないと選べずに終わっちゃうやつだ。どうしても人の目が気になっちゃうのかな。
「気になったのありますか?」
「うわ! ふ、古町さん。お、思ったより難しいかも。あはは」
とりあえず、私が選んだ服だけでも着てもらおう。そうしたら踏ん切りがつくかもしれないし。
「ひとまず、私が選んだ物、着てもらってもいいですか?」
「わかった。頑張る」
試着室に入ってもらい、上下セットで着替えてもらう。少しフリルがついたものや、チェック柄。明るい色。チャレンジ気味に花柄のワンピースも渡してみた。相当恥ずかしかったのか、カーテンが開かれるまで結構な間があった。
可愛いというより、綺麗方面に走っちゃうなぁ。それでも、今までのイメージから脱却できそうではあるから問題ない、のかな?
「さすがに、これは変じゃないかな?」
「可愛いですよ? 選んでおいてなんですが、完全に部屋着ですけれど」
猫キャラゆるパーカーを着ている時が一番恥ずかしそうだったが、気に入ったのか少し顔が明るかった。雪菜先輩の好みは、思ったより子供的な可愛いが好きなのかもしれない。
高身長で子供っぽい可愛さはどうしても少し浮いちゃうなあ。雪菜先輩が着てても恥ずかしくないラインの可愛さを探さないと。……それはそれとして、パーカー姿写真に撮っておきたいな。休日感強くて可愛い。
私が選んだ服を一通り試着し終わり、着てきた服に戻った雪菜先輩が出てきた。どうしても、似合うかどうかの話となると、クール系の方が似合っている言わざるをえない。雪菜先輩も着慣れているからか、表情が落ち着いてる。
「なかなか難しいね」
そう苦笑しながら、雪菜先輩は腕に猫キャラパーカーをかけている。部屋着向けでもお気に召したようだ。その後も服選びは続いたのだが、雪菜先輩はなかなか一歩を踏み出せなかった。似合うかどうかは、どうしても気になってしまうようだ。
当たり前か。好みも大事だけれど、似合うかどうかのが気になっちゃいますよね。志穂ちゃんは気にすることなく好みで買っていたけれど。あの思い切りの良さは特別だから、比較しないでおこう。
さらに少し服を探していると、気になるのを見つけた。雪菜先輩の好きな可愛いとは少し違うけれど、人の目が気にならなさそうな服。
「あの。これ、試着してみてください」
少し落ち込んだ様子の雪菜先輩に服を渡して、試着室に入ってもらった。
「これ、可愛い……」
カーテン越しに、雪菜先輩がそうもらした。気に入ってもらえたことが嬉しくて、ついガッツポーズをしてしまった。
「どうかな、古町さん?」
雪菜先輩は先ほどまでの煮え切らない様子とは違い、少し恥ずかしがりながらも明るい声色でカーテンを開けた。白いハイネックのニット。膝丈のボリュームスカート。甘すぎることなく、大人の可愛さを演出している。
「とっても可愛いですよ、雪菜先輩」
雪菜先輩はとても嬉しそうに笑うと、カーテンを閉め、着替えて出てきた。
「これ、買うことにする」
「気に入っていただけてよかったです」
「あと。猫ちゃんパーカーも……」
少し恥ずかしそうに雪菜先輩は付け加えた。一着だけ、部屋着枠を含めれば二着だが、雪菜先輩が着られる、先輩が可愛いと思える服が見つかってよかったと、胸を撫で下ろした。
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