BloodyHeart

真代 衣織

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嵐の前の静けさ

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 羽月が帰宅すると、リリアが夕食の用意をし出した。白いワンピースの部屋着にエプロンを着けている。
「今日は和食か? 美味そうだな」
 リリアがテーブルに置いている料理を見て、羽月は口を開いた。片手でネクタイを外す。
「そうです」
 浮かれ笑顔でリリアは答える。
 実際には、鰆の甘酢餡掛けと味噌汁以外に、サーモンのマリネサラダがある。全て和食ではない。
 上着をリビングにあるクリーニングメイトに掛ける。シャツを着崩し、羽月はテーブルに着いた。
「美味いっ」
 食べ始め、羽月は感想を言う。
「ありがとうございますっ」
 御礼を言うリリアはとても嬉しそうだ。リリアも美味しそうに食べている。席は羽月に言われ、リリアが上座に座っている。だが、上座と言われてもサキュバス王国にはない礼儀作法だ。
「あっ、鰆の骨は取ってますよ」
 フォークを使おうとする羽月に、リリアは言葉を掛ける。
「面倒くさかったろ?」
「そんな事ないですよ。仲良くなったマダムから、楽な下処理と、電子レンジ調理を教えて頂きましたから」
「下処理あんだよな。やっぱ料理は手間暇あるから面倒だな」
 羽月は鰆にフォークを刺す。
「全部美味い」
「嬉しいぃっ」
 リリアも食べ進める。
 我ながら上出来だ。
「仲良くなったマダム、すっごく親切でした。今度、お料理教えてもらう約束したんです」
 楽しそうにリリアは言う。
「必要ねぇだろ。十分上手い」
 羽月は褒めてる訳ではない。冷静な分析だ。
 だが、リリアは頰を赤らめ照れている。笑みを浮かべてしまう。
「ありがとうございます」
 リリアは照れて小声になった。
 和やかな雰囲気に食卓は包まれる。
 一切の不穏なき穏やかさだ。
 それすら、一筋亀裂が入れば忽ちに瓦解する。
 運命は待ってはくれない。
 情けも容赦もしてはくれないのだ。
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