BloodyHeart

真代 衣織

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セクハラ

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 五人のテーブルには、分けられる料理が複数並べられている。だが、五人と初対面だった若林は緊張から、三宅豊が取り分けたサラダと手羽先にしか箸をつけずにいた。酒も飲まずにウーロン茶ばかりを飲んでいる。
「しっかし……純白天使いいよなぁ。ナース服でベッドに来て欲しいっ。寝たままご奉仕! 若林君も好きだろ?」
 下品に笑みを浮かべ、伊吹は質問する。
「そんな汚ねぇ食い方してたら好かれませんよ。骨出せよっ」
 旭が刺々しく言う。新しい手羽先を取って食べる。
 伊吹は骨を避けずにホッケをつまんでいた。
「お前の方こそ骨がバラバラだ」
 箸で伊吹は旭が食した骨を指す。可食部は綺麗に無くなり、骨はバラバラに置いてある。
「あの、三宅部長。防犯カメラで追えなかったんでしょうか?」
 伊吹の質問には答えず、体ごと三宅豊の方を向いて若林は質問した。
「骨、取りますね」
 伊吹がつまんでいたホッケから、那智は新しい箸で骨を綺麗に取り除く。自身の皿に一部を取って食べる。
「ここんとこ雨で、傘が遮って追えなかったんだ。梅雨だしね」
 苦笑いで三宅豊は答える。既に防犯カメラは調べ尽くしていた。
「もしかしたら、ドラキュラが闇で遮ったのかもしれませんね。配送トラックで逃走している可能性が高いです」
 那智が助言する。
「飲みの席なんだしよ、仕事の話しより女の話ししようぜっ。ご奉仕ならナース服とメイド、どっちが好き?」
「あっ、あの那智さん。僕等はどう動くのが適切でしょうか?」
 伊吹の質問を丸で無視し、若林は那智の方を向く。
「堅いって、若林君。パワハラでストレス溜まってるんでしょ? やっぱ酒飲む?」
 やはり若林は伊吹の質問に答えない。
「そういや、三田司令官のパワハラは何で問題になったんだろ? 縦社会だし、全員パワハラになんのに……」
 旭が新たに話題を作る。全員で伊吹を無視する。
「ねぇ、みんなぁ。コスプレなら何希望?」
「相手が悪かったのかもしれませんね」
 那智が旭の疑問に答える。
 伊吹の話題には誰も乗ってこない。
「若林君、真面目だし女医派? ドクターのエロい診察希望? ここは大丈夫とか? いいねぇ」
 手を股間に当て、下品に絡み出した。レモンサワーを飲み干す。
「えっ、いや、あの……そういえば相良中佐はどうしたんですか?」
 伊吹に困惑する。若林は那智を向き、新たな話題を振る。
「羽月君は、リリア様に胃袋を掴まれている為、帰宅しました」
 笑顔で那智は揶揄いを言う。
「ねぇって、もしかして人に言ったら引くぐらいドMだったぁ?」
 腕を伸ばし、伊吹は更に若林に絡み出す。
「伊吹君、同性でもセクハラは成立しますよ」
 穏和な笑顔で那智は注意する。
「訴える時は言って下さい。俺が証言します」
 旭がはっきりと宣言する。伊吹を睨んだ。
「何、言ってんだ? 俺は仲良くなろうとしてんのに……」
 伊吹は頭に疑問符を浮かべた。不快感を与えたとは丸で思っていない。
「伊吹、どう思うかは人それぞれだから」
 的確に三宅豊は指摘する。
「すみません」
 苦笑いで若林は謝罪を口にした。
 俺はアンタと違ってゲスじゃねぇよ!
 心で若林は叫ぶ。
 伊吹は打ち解けたかったが、当の若林には拒絶されてしまった。
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